研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
■東京文化財研究所 |
■保存科学研究センター |
■文化財情報資料部 |
■文化遺産国際協力センター |
■無形文化遺産部 |
|
研究会風景
羅漢図
令和3年(2021)2月25日、第8回文化財情報資料部研究会が開催され、米沢玲(文化財情報資料部)と安永拓世(同)が、光明寺(東京都港区)が所蔵する羅漢図についての調査報告をそれぞれ行いました。
報告を行った羅漢図は昨年の調査によって見出されたもので、明治28年の『國華』74号掲載の作品紹介の記事により、美術鑑定家・片野四郎(1867~1909)が旧蔵者であることが判明しました。米沢は「片野四郎旧蔵の羅漢図について―図様と表現の考察―」と題して城野誠治(文化財情報資料部)が撮影した高精細画像と赤外線写真を交えながら作品を紹介し、図様について、天部像を礼拝する羅漢とその従者であること、画面の上方には極楽浄土を象徴する迦陵頻伽と共命鳥が描かれていることを報告しました。また、表現については中国大陸で制作されたと考えられ、作品の様式的検討から元時代の作例である可能性を指摘しました。安永からは「片野四郎旧蔵「羅漢図」の近代における一理解」として、旧蔵者である片野四郎と父・片野邑平の事績、そして片野親子と交流した人々に関する詳細な報告がなされました。片野四郎は江戸青山の紀州藩邸で生まれ、帝国博物館美術部に勤務するなど我が国の黎明期における文化財行政に深く関わった人物で、古美術品の収集にも熱心でした。本羅漢図は、邑平の没後に売却され侯爵・井上馨が購入したことが売立目録や他の資料との照合から判明します。さらに安永は、本羅漢図がその構図によって平安時代の画家・巨勢相覧の作であることが伝承されていたことを指摘し、近世から継承された近代的な羅漢図の理解という側面についても考察を加えました。
当日の研究会はオンライン併用で開催され、コメンテーターとして梅沢恵氏(神奈川県立金沢文庫)・塚本麿充氏(東京大学)・西谷功氏(泉涌寺)をお招きし、それぞれの専門的見地から貴重なコメントをいただき、質疑応答の場では活発な意見交換がなされました。作品の保存状態や制作地・年代に関する諸問題は残されているものの、図様と表現の検討に加えて、伝来や近代的な羅漢図の理解という多方面からの報告がなされ、非常に充実した研究会となりました。
無形文化遺産部では、2月1日より「斎藤たま 民俗調査カード集成」の公開をはじめました。本データベースは、民俗学者 斎藤たま氏(1936~2017)が作成した調査カードをアーカイブしたものです。https://www.tobunken.go.jp/materials/saito-tama
たま氏は1970年代から日本全国の野辺歩きをはじめ、現在わかっているだけでも北海道から沖縄まで2500を超える地域を訪ねて民俗調査を行ってきました。その調査対象は植物、動物、まじない、遊び、言葉、年中行事、人生儀礼など多ジャンルに及び、聞き取り内容を整理した調査カードは総数およそ4万7千枚に及びます。いずれも暮らしに身近で、ややもすると見逃しがちな民俗を対象にしているのが特徴であり、現在では失われてしまった民俗事例も数多くあります。
これらのカードは、たま氏の書籍を数多く刊行している論創社に預けられていたもので、たま氏の研究をされてきた民俗学者・岩城こよみ氏の仲介により、2017年に東京文化財研究所でお預かりすることになりました(詳しい経緯については 狩野萌2018「〔資料紹介〕斎藤たまの調査カード」『無形文化遺産研究報告12』を参照)。
無形文化遺産部ではこの貴重な仕事を後世の私たちが十全に活用できるようにするため、カード画像の閲覧や、キーワードや分類、地名による検索ができるシステム作りを進めてきましたが、このたび、ご遺族のご厚意により、その成果の一部を公開することが叶いました。カードの整理作業は現在も続けており、毎月15日頃を目途に順次、内容を追加・更新していく予定です。
調査カードに記されたひとつひとつの情報は些細で小さなものにすぎません。しかし、それが集積された時に見えてくる世界はきわめて豊かです。このアーカイブの公開により、たま氏の功績にふたたび光があたるとともに、豊かな民俗世界の実態について、さらなる理解が深まることを期待したいと思います。
令和3(2021)年2月16日に東京文化財研究所と奈良文化財研究所による古墳壁画保存対策プロジェクトチーム会議を開催しました。古墳壁画保存対策プロジェクトは国宝高松塚古墳壁画と国宝キトラ古墳壁画の恒久保存を目的とした、二研究所が長年主軸となって推進してきたプロジェクトであり、現在は4つのチーム(保存活用班、修復班、材料調査班、生物環境班)に分かれて調査研究を行っています。今年度2回目であるこの会議は、新型コロナウイルス感染症拡大防止として発出された緊急事態宣言下での開催であったため、東京文化財研究所、奈良文化財研究所、文化庁をオンラインでつないで開催しました。
会議では、古墳発掘調査区の三次元復元モデルの作成や壁画の状態確認、非接触による壁画の光学分析、キトラ古墳壁画保存管理施設および国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設の温湿度や微生物のモニタリング結果について各班から報告があり、それらをもとに慎重な議論が進められました。会議で集約された報告内容は、令和3(2021)年3月23日に開催された第28回古墳壁画の保存活用に関する検討会で公表され、検討会委員から今後の研究や活動の方向性についてご指摘やご助言をいただきました。
検討会の配布資料や議事録につきましては、文化庁HPに掲載していますので、興味のある方は下記リンクよりご覧ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/takamatsu_kitora/hekigahozon_kentokai/index.html
高松塚古墳壁画の修理は令和元(2019)年度末で完了し、公開するのに適した新しい施設の設置が検討されています。仮設修理施設から新しい公開施設への移動に伴う、壁画への負荷や環境変化など検討する事項は数多くありますが、これまでの両壁画の恒久保存に関する調査研究と併せて、プロジェクトチームで検証していく予定です。
上野直昭(左)と高裕燮(1930年代前半)
『高裕燮全集』3 (韓国美術史及美学論攷) (ソウル:東方文化社, 1993年)、口絵図版より引用
研究会の様子
大阪市立美術館の館長や東京藝術大学の学長等、数々の要職を歴任した上野直昭(1882~1973)は、美学・美術史学者としての研究活動はもとより、大学での教育や美術館・博物館の運営、文化財の保護等、多方面にわたって美術界に貢献した人物です。当研究所の名誉研究員で直昭の次女である上野アキ(1922~2014)が亡くなった後、直昭関係の資料は東京藝術大学に寄贈され、現在は同大学美術学部の近現代美術史・大学史研究センターの所轄となっています。
1月28日に開催された文化財情報資料部研究会では、この上野直昭資料の整理・調査にあたられた大西純子氏(神奈川大学国際日本学部非常勤講師)と田代裕一朗氏(五島美術館学芸員)にご発表いただきました。昨年度まで上記センターの前身である教育資料編纂室におられた大西氏による発表「上野直昭資料について 日本美術史との関係を中心として」では、同資料の全容や資料を通して浮かび上がる広範な人的ネットワークが示されました。また田代氏の発表「上野直昭資料から発見された高裕燮直筆原稿について」では、同資料のうち、現在韓国で美術史研究の父と称される高裕燮(コ・ユソプ 1905~44)の書簡や直筆原稿が紹介されました。上野直昭は大正末年から昭和初年にかけて京城帝国大学の教授を務めており、高裕燮は同大学在学時に上野に師事しています。紹介された資料からはその交流とともに、韓国での考古学・美術史学研究の草創期の様子がうかがえ、とりわけ高裕燮が力を注いだ石塔研究の発展過程を辿る上で貴重な資料であることが田代氏の発表で明らかにされました。
今回の研究会は新型コロナウイルス感染拡大を受けての緊急事態宣言の発令中ということで、文化財情報資料部研究会としては初めてオンライン併用による開催を試みました。韓国をふくむ遠隔地在住の研究者にもご参加いただき、オンラインによるメリットを生かした研究会となりました。
売立目録作品情報データベースの入力画面
東京文化財研究所では、平成27(2015)年から東京美術俱楽部と共同で、売立目録(オークションカタログ)のデジタル化事業をおこない(2015年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/
materials/katudo/120680.htmlを参照)、その成果として、令和元(2019)年5月からは「売立目録デジタルアーカイブ」として資料閲覧室のみで公開してきたところです(2019年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/817096.htmlを参照)。さらに、令和3(2021)年1月15日からは、「売立目録デジタルアーカイブ」の一部のテキストデータ(文字情報)を「東文研 総合検索」上の「売立目録作品情報」(https://www.tobunken.go.jp/archives/文化財関連情報の検索/売立目録作品情報/)というページで、広くウェブサイト上に公開することといたしました。
この「売立目録作品情報」は、東文研が所蔵する2,565件の売立目録のうち、第二次世界大戦終結以前に発行された2,328件に掲載されている約337,000件の作品の情報をテキストデータで公開したもので、原則として写真が掲載された作品の文字情報を選択してデータ化したものです。画像を見ることはできませんが、売立目録に収載された豊富な文字情報が検索可能となり、さまざまな応用が可能になると期待されます。
なお、東文研の資料閲覧室では、通常、月曜日・水曜日・金曜日の週3日設けていた開室日を、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、令和2(2020)年6月10日からは事前予約制で水曜日・金曜日のみとし、さらに、令和3(2021)年1月7日に再び緊急事態宣言が発令されたことにより、1月15日からは金曜日のみとなりました。こうした状況下では、資料閲覧室を利用できる人数も限られるため、資料のオープンアクセス化がますます求められます。今後は、画像が閲覧できる「売立目録デジタルアーカイブ」と、世界中どこからでも文字情報を検索できる「売立目録作品情報」をあわせ、両者を目的に応じて利用していただければ幸いです。
常磐津節演奏の様子(左から常磐津秀三太夫、常磐津菊美太夫、常磐津兼太夫、常磐津文字兵衛、岸澤式松、岸澤式明)
囃子方演奏の様子(右から堅田喜代、堅田喜代実、梅屋巴)
囃子方演奏の様子(左から堅田昌宏、堅田崇)
囃子方演奏の様子(鳳聲千晴)
無形文化遺産部では、令和3(2021)年1月29日、東京文化財研究所の実演記録室で「踊地(おどりじ)(常磐津節)」の実演記録(録音)を行いました。この記録は「常磐津《日高川三つ面》《唐人》録音実行委員会」と東京文化財研究所の共同事業として、稀曲《日高川三つ面》《唐人》の音声録音記録を作成し、保存することを目的としています。
今回録音した作品は、ともに舞踊伴奏として演奏される「踊地」で、舞踊公演で取り上げられる機会が非常に少なくなったため、演奏の機会もほぼなくなっていた作品です。作品の成立について詳しいことはわかっていませんが、かろうじて幕末から明治にかけて刊行されたと思われる稽古本(いずれも玉沢屋新七本)と「菊寿郎の会」(師籍30周年)の公演映像(個人蔵)が残っています。また稽古本から、舞踊の振付は初代西川鯉三郎(名古屋西川流の家元)とわかります。今回はこれらの資料をもとに復元して演奏しました。
《日高川三つ面》は、蝶々売が僧・安珍、清姫、所化(しょけ)の三役を、三つの面を掛け替えながら演じる趣向になっています。作品名の「日高川」から連想されるように、能楽、人形浄瑠璃、歌舞伎にも取り上げられた「道成寺物」をもとにしていますが、この作品は、一人三役をユーモアを交えて演じることで、軽妙さを兼ね備えた物売りの舞踊作品になっています。また、ドイツの童謡に日本語の歌詞を付けた唱歌《ちょうちょう》の「蝶々 蝶々 菜の葉に止れ 菜の葉に飽たら 桜に遊べ」の部分が詞章として用いられているのも興味深いところです。
《唐人》は、作品全体が異国情緒溢れる中国風の音楽と舞踊から成っています。幕開は「唐楽」(雅楽の「唐楽」とは直接関係ない)と称される太鼓と鉦(かね)を伴う音楽で始まり、舞踊は辮髪(べんぱつ)の男性と中国風に髪を結い上げた婦人の二人立ちで、ともに衣装も中国風です。詞章にも呪文のような不思議な言葉が並び、大筋としては二人の廓話なのですが、どこかコミカルな雰囲気が漂います。
今回の演奏は、常磐津兼太夫(七代目、タテ語り)、常磐津菊美太夫(ワキ語り)、常磐津秀三(ひでみ)太夫(三枚目)、常磐津文字兵衛(五代目、タテ三味線)、岸澤式松(ワキ三味線)、岸澤式明(しきはる)(上調子(うわぢょうし))、鳳聲千晴(笛)、堅田喜代(小鼓)、堅田喜代実(大鼓)、梅屋巴(太鼓)、堅田昌宏(大太鼓)、堅田崇(鉦)の各氏です。
無形文化遺産部では、今後も演奏機会の少ない作品や、貴重な全曲演奏の実演記録を継続し、機会があれば今回のような共同事業も実施していく予定です。今回の録音記録は、今後、実行委員会を通じて日本舞踊公演等で用いられるほか、研究資料として当研究所で試聴することができます。
なお収録は、新型コロナウイルス感染症対策のため、歌舞伎の舞台でも使われているマスクを着用して行いました。
会場の様子
文化財の記録作成(ドキュメンテーション)は、文化財の素材や形状、色などの情報を把握し、得られた情報を調査研究や保存修復の計画策定、活用に役立てるために不可欠な過程です。文化財情報資料部文化財情報研究室では、このような文化財の記録作成のための写真撮影や、記録を整理・活用するためのデータベース化に関する情報発信を行っています。その一環として令和2(2020)年12月23日、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じたうえで、標記のセミナーを東京文化財研究所セミナー室で開催しました。
シリーズ「ディジタル画像の圧縮~画像の基本から動画像まで~」は全部で3回を予定しており、第1回目の今回は、画像圧縮についてよりよく知るための基本的な内容としました。最初に今泉祥子氏(千葉大学大学院工学研究院准教授)が、アナログ画像との違いや各ファイル形式の特徴、解像度による情報量の変化など、ディジタル画像の性質について解説しました。次に、城野誠治(文化財情報資料部専門職員)が、光源ごとのスペクトルの特徴の違い、文化財写真に適した光源やその配置など、ディジタル写真撮影の際の光や色の扱いを中心に解説を行いました。
現在、JPEG、MPEG4など、圧縮された画像や映像はとても身近な存在です。しかし、文化財の写真撮影や画像保存の計画を立てようとしたとき、圧縮によってどのような情報が失われるのか、TIFFやRAWで保存しさえすれば適切と言えるのかなど、疑問を持つこともあるのではないでしょうか。私たちは今後も一連のセミナーを通じて、文化財の画像による記録の作成や保存・発信にあたって参考となるような情報を発信する予定です。
研究会の様子
令和2(2020)年12月21日、文化財情報資料部では、野城今日子(文化財情報資料部アソシエイトフェロー)が、「屋外彫刻を中心とした「文化財」ならざるモノの保存状況についての報告と検討―シンポジウム開催を見据えて―」と題した研究発表をおこないました。
日本には、全国各地の公共空間に屋外彫刻が設置されています。それらは、地域にとって重要な意味を持つ、かけがえのない存在です。しかし、多くの屋外彫刻はメンテナンスがされず、放置された状態にあり、さらに近年では安全性の問題から作品が撤去された例があります。そもそも、屋外彫刻は一般的に「文化財」として認識されておらず、ゆえに適切な保護体制の整備が進んでいません。
本研究会では、このような屋外彫刻の問題を解決すべく、発表者から事例紹介と問題点が提示され、参加者とのディスカッションがおこなわれました。また、今回は、長年にわたり地域での屋外彫刻のメンテナンス活動に携わっている大分大学の田中修二氏と東海大学の篠原聰氏を招き、保存活動の現場が抱えている課題などについてコメントしていただきました。
屋外彫刻の保存に関しての問題は、行政、教育、歴史など多岐にわたる問題が複雑に絡み合っており、簡単には解決できません。この問題の情報共有と解決方法を探るために、今後、シンポジウム開催を検討しています。
展示の様子
西宮神社の十日えびすの福箕(兵庫県)
無形文化遺産部では、2020(令和2)年12月2日から2021(令和3)年1月28日まで、「箕(み)のかたち―自然と生きる日本のわざ」展を、共同通信社本社ビル汐留メディアタワー3Fのギャラリーウオークにて開催しています(共催:千葉大学工学研究院、公益財団法人元興寺文化財研究所/監修:箕の研究会)。
箕は脱穀した穀類の殻やごみだけを風で飛ばし、実を取りだす作業に使われる道具です。米などの食べ物を口にするために不可欠な基本の道具であると同時に、手近な容器としても日々の暮らしのなかで当たり前に用いられてきました。高度経済成長期以降、その使い手・作り手ともに減少の一途をたどっていますが、国では3件の箕づくり技術を重要無形民俗文化財(民俗技術)に指定するなど、保護をはかってきました。
箕は樹木や竹などの自然素材を使って作られます。同じ編み組み細工であるカゴなどが、通常1~2種類の自然素材で作られるのに対し、箕は4~5種類の異なる素材を編み組んで作るのが一般的です。このため、箕づくりの技術は編み組み技術の集大成と言われるほど複雑・高度であるとともに、地域ごとの植生を反映した多様なかたちが生み出されてきました。
本展では、箕というかたちに凝縮されてきた自然利用の高度なわざ・知恵に焦点をあて、14枚のパネルでその素材や製作技術を紹介しています。また、企画展に合わせ、ウェブページ「箕のかたち 資料集成」も公開しており、箕の製作技術の記録映像を多数公開しています(https://www.tobunken.go.jp/ich/mi)。このウェブページは会期終了後も引き続き公開しておりますので、ぜひご覧ください。
(入場無料、平日9~19時、土日祝10~18時、12/20のみ臨時休館)
協議会の動画視聴ページ
第15回無形民俗文化財研究協議会が「新型コロナ禍における無形民俗文化財」をテーマにして、オンライン配信で開催されています。動画視聴ページは、令和2(2020)年12月25日~令和3(2021)年1月31日まで公開予定です。
(リンク:https://tobunken.spinner2.tokyo/
frontend/login.html)
現在、新型コロナウイルス感染症(covid-19)の影響が続いています。多くの人が密集する可能性がある祭礼や行事は、中止や規模縮小を余儀なくされました。こうした制限を受け、無形民俗文化財の伝承者は従来通りの活動が出来ない状況にあります。
そこで今回は、コロナ禍における無形民俗文化財の保存・活用のあり方を探ることを目的として、協議会を開催することにいたしました。当研究所から3名、行政・博物館の立場から3名、各地の伝承者5名が動画で発表を行いました。そこでは、各分野・各地域の現状や課題が報告されるとともに、感染対策の実例、オンライン配信やクラウドファンディングといったIT技術の活用など、コロナ禍における新たな実践の紹介がなされました。そして、当研究所久保田とご発表いただいた伝承者5名で総合討議を行い、コロナ禍あるいはポストコロナで祭りを継続・再開できるのか、開催するためにはどうしたらよいのかについて、活発な議論が交わされました。
協議会のすべての内容は令和3(2021)年3月に報告書として刊行し、後日、無形文化遺産部のホームページでも公開する予定です。
令和2(2020)年12月14日から19日にかけてユネスコの無形文化遺産保護条約第15回政府間委員会が開催されました。本来はジャマイカで開催される予定でしたが、世界的な新型コロナウイルス禍の影響を受けて、今回は完全オンラインで開催されることとなりました。事務局はパリのユネスコ本部に置かれましたが、議長国のジャマイカをはじめ、委員国や締約国はそれぞれの場所からオンラインで会議に参加しました。また会議の様子はユネスコのウェブサイトからリアルタイムで中継され、その模様を本研究所の2名の研究員が傍聴しました。
今回の委員会はこうした変則的な形での開催であったため、審議される議題の数も最小限とし、また一日の会議時間もパリの現地時間で13時30分から16時30分(日本時間で21時30分から翌日0時30分)となりました。こうした制約のある中での開催となりましたが、「緊急に保護する必要のある無形文化遺産の一覧表(緊急保護一覧表)」に3件、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」に29件の案件が記載され、「保護活動の模範例の登録簿(グッド・プラクティス)」に3件の案件が登録されました。また、緊急保護一覧表に記載された案件のうち1件では、無形文化遺産基金からの国際的援助の要請も承認されています。
このうち日本からは「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が代表一覧表に記載されました。この案件には、国の選定保存技術に選定された17の技術(「建造物修理」「建造物木工」「檜皮葺・杮葺」「茅葺」「檜皮採取」「屋根板製作」「茅採取」「建造物装飾」「建造物彩色」「建造物漆塗」「屋根瓦葺(本瓦葺)」「左官(日本壁)」「建具製作」「畳製作」「装潢修理技術」「日本産漆生産・精製」「縁付金箔製造」)が含まれています。これまで日本から提案された案件で一覧表に記載されたものは、国の重要無形文化財および重要無形民俗文化財がほとんどですが、今回初めて国の選定保存技術からの記載が実現しました。日本には世界に誇るべき歴史的な木造建造物が数多くありますが、それらが今日まで伝えられてきたのは、それを修理したりメンテナンスしたりしてきた多くの職人や技術者がいたからです。今回の記載は、そうしたいわば「裏方」のわざに光を当てることになったという意味においても意義深いことといえます。また、有形と無形の文化遺産の関連を示す事例としても、国際的に評価する声がありました。
他の締約国から提案された案件については、例えば大衆的な屋台文化に関連した「シンガポールのホーカーの文化:多文化都市の状況における食事の料理と実践」(シンガポール)や、日本でも愛好家の多い「太極拳」(中国)などが代表一覧表に記載されました。こうした生活文化に関連した案件の提案が多いのも、国際的な動向の一つといえます。また「ヨーロッパの大聖堂の工房もしくはバウヒュッテンの製造技術と消費の実践:ノウハウ、伝承、知識の発展と革新」(ドイツ・オーストリア・フランス・ノルウェー・スイス)がグッド・プラクティスに登録されましたが、これは大聖堂の建設・修理に携わる芸術家と職人の共同組合「バウヒュッテン」に関連したものです。これは日本の「伝統建築工匠の技」と内容的に似ていますが、日本ではこれを代表一覧表に提案したのに対し、「ヨーロッパの大聖堂の工房もしくはバウヒュッテンの製造技術と消費の実践」は遺産の保護活動の例として提案したという点で、アプローチが異なるのも興味深いところでした。
なお今回の委員会の議長国がジャマイカということもあって、2018年に代表一覧表に記載されたレゲエ音楽のBGMが随所に盛り込まれたオンライン中継となりました。本来であれば多くの人が現地で生のレゲエ音楽に触れるはずであっただけに、残念ではありましたが、それでも初のオンライン委員会を成功裏に終わらせた議長国ジャマイカと事務局であるユネスコのスタッフの方々に敬意を表したいと思います。
常磐津節実演記録の様子(左から常磐津秀三太夫、常磐津菊美太夫、常磐津兼太夫、常磐津文字兵衛、岸澤式松、岸澤式明)
無形文化遺産部では、令和2(2020)年12月25日、東京文化財研究所の実演記録室で常磐津節の音声記録(第一回)を行いました。
国の重要無形文化財・常磐津節は、1747年に初代常磐津文字太夫(ときわづもじたゆう)が江戸で創始。リズムやテンポが極端に変化せず、ほどよい重厚感を併せ持つため、歌舞伎舞踊や日本舞踊と結びついて今日まで伝承されています。浄瑠璃(声のパート)はセリフと節(旋律のある部分)のバランスがよく、三味線は中棹三味線をヒラキ(撥先の広がり)の大きな撥で演奏するので、音に適度な重みがあります。また、段物(義太夫節(ぎだゆうぶし)に由来する作品)から能狂言に取材したもの、心中道行もの、滑稽味のある作品まで、多彩なレパートリーを持つことも常磐津節の特徴です。
今回は、古典曲《忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)》―将門―」の全曲収録を行いました。この作品は常磐津節の代表曲でありながら、近年は全曲演奏されることが少なくなりました。全曲通すと約40分かかる大曲で、「オキ」(登場人物が現れる前の部分)→「道行」(登場)→「クドキ」→「物語」(合戦の様子を語る)→「廓話」→「踊り地」(踊りの見せ場)→「見現し」(正体の露見)→「段切れ」という明確な構成と各部分の曲趣が際立ちます。演奏は、常磐津兼太夫(七代目、タテ語り)、常磐津菊美太夫(ワキ語り)、常磐津秀三(ひでみ)太夫(三枚目)、常磐津文字兵衛(五代目、タテ三味線)、岸澤式松(ワキ三味線)、岸澤式明(しきはる)(上調子(うわぢょうし))の各氏です。
無形文化遺産部では、今後も演奏機会の少ない作品や、貴重な全曲演奏の実演記録を継続していく予定です。
なお収録は、新型コロナウイルス感染症対策のため、歌舞伎の舞台でも使われているマスクを着用して行いました。
研究会の様子
保存科学研究センターの研究プロジェクトである「文化財の材質・構造・状態調査に関する研究」では、様々な科学的分析手法によって文化財の材質・構造を調査し、劣化状態を含む文化財の文化財の物理的・化学的な特徴を明らかにするための研究を行っています。そして分析科学研究室では、近年全国で顕在化している鉛の腐食に関する問題にも取り組んできました。
そこで本研究の総括を目的として、美術史(長谷川祥子氏(静嘉堂文庫美術館)、伊東哲夫氏(文化庁))、保存科学(古田嶋智子氏(国立アイヌ民族博物館))、保存修復(室瀬祐氏(目白漆芸文化財研究所))の専門家をお招きし、令和2(2020)年12月14日に研究会「文化財に用いられている鉛の腐食と空気環境」を開催しました。研究会では、鉛を使用した美術品の紹介、鉛の腐食の問題に関する現状と課題、鉛の腐食に関する材料工学的な基礎知識についてのご講演をいただきました。さらに、空気環境と鉛の腐食に関する調査事例、鉛の腐食と修復に関する事例等の報告を通じて、最新情報の共有とディスカッションを行いました(参加者:20名)。
新宮市役所での墨入れ風景
展示されたレプリカ
令和2(2020)年12月5日に、九重の土砂災害記念碑レプリカ墨入れ式が新宮市役所で開催されました。新宮市九重地区は、平成23(2011)年に起きた紀伊半島豪雨で被害を受けた地域ですが、この地には江戸時代に起きた同じような土砂災害を記念した石碑が残されています。文政4(1821)年に建てられたこの九重土砂災害記念碑は、かつては藪に覆われていて、碑の表面には様々な汚れが沈着して銘文が読みにくい状態でしたが、東京文化財研究所では、この記念碑を詳細に計測して三次元印刷することで、実際の碑では確認しにくかった文字を読み出すことに貢献していました。今回この三次元印刷された記念碑のレプリカを使って、新宮市役所で住民への防災意識の啓蒙を目的としたイベントが開催されました。イベントでは、色情報のない凹凸情報だけで打ち出されていたレプリカの文字に、九重区の区長、新宮市教育長、碑文の読み出しに関係した研究者、そして一般市民らが順番に墨入れを行っていき、最終的には記念碑の内容が素人目にもわかりやすい状態でレプリカが展示されることになりました。このイベントを通じて、江戸時代に起きていた土砂災害に対して市民が思いを馳せることに貢献し、地域の防災意識を高めることに寄与することができました。
東京文化財研究所刊行物リポジトリの画面
文化財情報資料部では、研究誌『美術研究』を通じて日ごろの調査研究の成果を公表しています。本誌は昭和7(1932)年に創刊され、現在に至るまで431号が刊行されてきましたが、令和2(2020)年11月から、東京文化財研究所ホームページ内(http://www.tobunken.go.jp/~joho/index.html)および「東京文化財研究所刊行物リポジトリ」(http://id.nii.ac.jp/1440/00008980/)でpdf版「『美術研究』総目次」を公開しました。
この総目次は、昭和40年(1965)に発行された『美術研究総目録』(230号まで掲載)の続編として作成され、これまで『美術研究』に掲載された論説・図版解説等の2400件以上にのぼる文献を一覧することができます。また日本語版とあわせて英語版を作成したほか、文書内での検索にも対応しており、文献の探索にも幅広くお使いいただけます。
なお、総目次は今後も新しい号が発刊される都度、随時更新していく予定です。
研究会発表の様子
令和2(2020)年11月24日に開催された第5回文化財情報資料部研究会では、東洋美術学校非常勤講師の武田恵理氏が「初期洋風画と幕末洋風画、形を変えた継承―日本における油彩技術の変遷と歴史的評価の検証―」という題目で発表されました。
武田氏は長年、日本における油絵の歴史研究と修復に携わっておいでですが、本報告はこれまで行なってこられた作品調査と再現実験による多くの実際的経験をもとに、日本の油彩画を技術的な観点で総括したうえ、近年発見された江戸時代中期の油彩画に注目して歴史的な評価を試みたものです。
洋画ともよばれる油彩画の存在は、明治初期前後に始まった西洋画研究によって初めて認識されたため、それ以前の油彩画に対するこれまでの歴史的位置付けや評価は適切なものだとは言い難い側面があります。こうした現状を鑑み、武田氏は日本の油彩画史を、飛鳥時代の漆工技法、桃山時代の初期洋風画、オランダの影響による幕末洋風画の3期に分類したうえで、近年確認された漆地に乾性油絵具で描く日光東照宮陽明門の江戸時代中期油彩壁画がキリスト教フランシスコ会の絵師に由来し、技術的に初期洋風画と幕末洋風画とをつなぐものではないかという説を提示されました。
この研究会では、美術史家として初期洋風画を中心とした研究を長年行ってこられた坂本満氏、また日光の江戸時代社寺における漆装飾修復事業を進められてきた日光社寺文化財保存会の佐藤則武氏にコメンテータとして御参席いただいたほか、この日光東照宮陽明門油彩壁画の実態や日本油彩画史への位置付けをめぐって、参加者からもさまざまな意見が提出され活発な議論が行われました。
オンライン協議の様子
東京文化財研究所では平成25年(2013)よりイギリスのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)との共同研究を推進しています。SISJACは欧州における日本の芸術文化研究の拠点の一つとして活動し、海外で発表された英文による日本の芸術に関する文献や展覧会などの情報を収集し、東京文化財研究所の「総合検索」http://www.tobunken.go.jp/archives/にデータを提供していただいています。SISJACとの連携により「総合検索」から日本国内だけでなく、海外における日本の芸術に関する研究や動向も知ることができます。令和元(2019)年度までは毎年一回、当研究所の職員がノリッジのSISJACを訪問し、データベースについて協議し、講演をおこなってきましたが、今年は新型コロナ感染症感染拡大の影響により、渡航を取り止め、インターネット通信を用いた協議を令和2(2020)年11月26日におこないました。世界的に新型コロナ感染症感染拡大の影響が長期化するなか、いつでもどこでも利用が可能な公開データベースやオープンアクセス資料が、これまで以上に重要性を増しており、より広範な利用者層に提供するための取り組みについて協議しました。東京は午後5時、イギリスは午前8時と、9時間の時差があるなかでのオンライン協議でしたが、参加者が互いに顔を見ながら話し合い、情報共有ができたことは、今後の共同事業を進める上でも有意義な機会になりました。令和3(2021)年度以降の次期中期計画でも、SISJACとの共同研究を継続していく予定です。
オンライン会議システムでの発表
発表スライドの一部「発展性:GRPへの日本のコンテンツ拡充」
アート・ドキュメンテーション学会第13回秋季研究集会が令和2(2020)年11月28日に開催され、橘川英規・田村彩子・阿部朋絵・江村知子(以上、文化財情報資料部)・山梨絵美子(副所長)の連名で「葛飾北斎絵入り版本群・織田一磨文庫のオープンアクセス事業-ゲッティ研究所との協同による書誌情報国際発信の実践(古典籍書誌整備と資料保全)」と題して発表を行いました。当日は、研究所庁舎から5名がオンライン会議システムで参加、そのうち橘川・田村の2名が口頭で、この事業で実施した書誌整備とデジタル化に際しての資料保全について報告し、さらにその発展性を提示しました。発展性としては、この事業で構築したゲッティ・リサーチ・ポータル(GRP、http://portal.getty.edu/)への日本美術資料デジタルコンテンツの提供ルートを関連機関にも利用してもらうことで、GRP内に日本美術に関するコンテンツを増やし、その国際的なプレゼンスを高められる可能性について言及しました。同学会は、博物館・美術館資料担当の方が多く所属しており、具体的な資料保全、書誌整備の実践に焦点をあてたこの発表は、資料を取り扱う実務において参考になるということでも好評を得ました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のために行動制限が設けられるなか、インターネット上における研究環境整備は急務だと認識しております。今後は各機関との連携を拡充していきつつ、日本美術の国際情報発信と、広範な文化財研究に有益な資料提供と環境整備に努めてまいります。
なお、この発表の要旨はこちら(同研究集会予稿集、http://www.jads.org/news/2020/jads_autumn2020.pdf#page=9)からご覧いただけます。
楮の生産状況調査(茨城・大子町)
稲藁で編んだ表皮台(楮の皮剝ぎに用いる台)
楮の皮を剝ぐ小包丁
美術工芸品の修理は、伝統的な材料や用具によって支えられています。近年、それらの用具・材料の確保が困難になってきています。天然材料であるため、気候変動や環境の変化により以前と同じようには資源が確保できないこと、また、材料が確保できても高齢化や社会の変化により後継者が途絶えてしまうことなど様々な問題が起きています。例えば手漉き和紙のネリ剤(分散剤・増粘剤)のノリウツギ・トロロアオイ、漉き簀を編む絹糸、木工品などに用いられる砥の粉・地の粉、在来技法で作製した絹などが確保の難しいものとして挙げられます。
このような状況を危惧して、文化庁では令和2(2020)年度から「美術工芸品保存修理用具・原材料管理等支援事業」を開始しています。美術工芸品の保存修理に必要な用具・原材料を製作・生産する方への経済的な支援事業です。その一方で、その用具・材料がなぜ必要不可欠であるのかを科学的に明らかにすることや、製作工程に関する映像記録、文化財修理における使用記録などが求められます。東京文化財研究所では、平成30(2018)年度から文化庁の依頼により、このような観点から、今後の生産が危惧される用具・材料について調査と協力を行ってきました。令和2年度は茨城のトロロアオイと楮(9月)、長野の在来技法絹(9月)、高知の楮と和紙製作用具(10月)、京都の砥の粉(11月)、をそれぞれ生産されている方々のもとで調査しています。調査の過程で科学的な裏付けが必要とされる場合には適宜、分析などを行い、伝統的な用具・材料の合理性と貴重性を明らかにして、今後の文化財に関する施策に協力しています。
オンライン国際研修の様子
文化遺産国際協力センターでは、ポストコロナ社会における文化遺産国際協力の一手法として、デジタルデータの活用を積極的に取り入れることを念頭におき、令和2(2020)年11月12日および25日に、NPO法人南アジア文化遺産センター(以下、JCSACH)との共催でオンライン国際研修「3次元写真測量による文化遺産の記録」を実施しました。3次元写真測量とは、対象物をデジタルカメラ等で様々な角度から撮影した写真から、対象物の正確な形状の3次元モデルをコンピューター上で作成する技術です。コンパクトデジタルカメラやスマートフォンなど、身近な機材で3次元モデルを作成できるため、文化遺産の現場で実用性の高い記録手法として普及し始めています。今回の研修では、当研究所が協力事業を行っているカンボジア、ネパール、イランの3か国に、JCSACHの協力国であるパキスタンを加えた計4か国を対象として、各国で文化遺産の保護を担う研究者や実務者を研修生に迎えました。
考古学分野における3次元写真測量の第一人者であるJCSACHの野口淳事務局長が講師を務め、研修生は、第1回目の講義で、3次元写真測量の原理や撮影の方法、ソフトウェアの基礎的な操作を学び、その後、約1週間の自主練習期間中に各自で3次元モデルの作成に取り組みました。第2回目の講義では、研修生がそれぞれ作成したモデルを発表し、さらに、モデルから断面図を作成する方法など、より発展的な内容を学びました。
ZOOM接続の問題によりイランからの研修生はオンライン参加が叶わず教材提供のみとなりましたが、カンボジア、ネパール、パキスタンの3か国から計24名の研修生が参加しました。3次元写真測量を初めて経験する研修生がほとんどでしたが、講師に熱心に質問する姿が見られ、終了後のアンケートでは、修復現場における遺構の記録あるいは博物館の展示に利用したいといった、それぞれの立場から3次元写真測量データの活用へのアイデアが寄せられました。
3次元写真測量が各国共通の記録手法として定着し、遠隔でも文化遺産の3次元情報を共有することが可能になれば、今後の国際協力事業にも新たな展開が見えてくるのではないかと考えています。