研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


メラニー・トレーデ氏講演会の開催

ディスカッションの様子

 日本の美術品が欧米でも所蔵され、高い評価を得ていることはよく知られていますが、日本美術史の研究もまた海外の専門家によって活発に行われています。そうした研究拠点のひとつであるドイツ、ハイデルベルク大学教授のメラニー・トレーデ氏をお招きし、3月5日に当研究所セミナー室にて「『文化的記憶』としての八幡縁起の絵画化―その古為今用」と題して講演会を行いました。
 「文化的記憶」とは、ある作品から多くの人々が想起し、共有する政治的・社会的・宗教的な背景のことです。日本美術史をご専門とするトレーデ氏ですが、欧米における他分野の研究も広く援用しながら、中世の絵巻から近代の紙幣までも視野に入れて八幡縁起の政治性を検証する内容は大変刺激的なものでした。
 講演は高松麻里氏(明治大学非常勤講師)の逐次通訳で二時間余り行われ、引き続いて津田徹英(企画情報部)の司会で、土屋貴裕氏(東京国立博物館研究員)・塩谷純(企画情報部)をコメンテーターとしてディスカッションを行いました。会場からは歴史学や国文学の研究者からの積極的な発言もあり、八幡縁起をテーマに、時代や分野といった専門領域を越えて意見を交換する貴重な機会となりました。


『無形文化遺産研究報告』の刊行

『無形文化遺産研究報告』第6号

 『無形文化遺産研究報告』第6号が2012年3月に刊行されました。本号には、無形文化遺産に関わる調査・研究に加え、2011年10月22日に開催した無形文化遺産部主催の公開学術講座『東大寺修二会(お水取り)の記録』、そこで企画されていた対談(東大寺長老の橋本聖圓師と東京文化財研究所名誉研究員の佐藤道子氏によるもの)が載録されています。公開講座当日、会場にお出でいただけた方だけではなく、東大寺修二会、ひいては日本の伝統行事・伝統芸能一般に関心を持たれている方にとっても、興味深い対談内容となっています。
 5月中に、全頁のPDF版を前号までと同様にホームページ上で公開する予定です。


『保存科学』第51号の発行

 東京文化財研究所保存修復科学センター・文化遺産国際協力センターの研究紀要『保存科学』の最新号である第51号が、平成21年3月31日付けで発行されました。我々が行った、様々な文化財を対象とした調査研究や修理などに関する報文7報、および報告20報を掲載しています。製本版は関係機関などへの配布に限られていますが、近日中にPDF版を当研究所WEBページ(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/51/MOKUZI51.html)にアップロードしますので、ぜひご利用ください。


アルメニア人招聘に伴うアルメニア保存修復研究会の開催

研究会でのアルメニア人招聘者の発表の様子

 文化庁「アジアの博物館・美術館交流事業」において、平成24年2月26日から3月3日まで、アルメニア歴史博物館保存修復部長のイェレナ・アトヤンツ女史を日本に招聘しました。
 それに伴い、平成24年2月27日に東文研にて「アルメニア歴史博物館における文化財保存修復に関する交流事業」研究会を開催しました。本研究会では、アルメニア歴史博物館における東文研による事業説明、アルメニア歴史博物館の紹介、再び東文研から1月末から2月上旬に現地にて行った第1回考古金属資料保存修復ワークショップで得られた成果の報告、および、染織品保存修復専門家より国際交流基金事業による同アルメニア歴史博物館における染織品保存修復の交流に関する発表を行いました。
 アルメニア共和国にはまだ日本大使館が存在せず、このような協力・交流活動を広く世間に知っていただく機会が殆どありません。我々は、今事業を通じ、文化財保護だけにとどまらず、日本とアルメニア共和国との様々な分野における協力・交流事業の促進に寄与することを願っています。


研究会「キルギス共和国の文化遺産」の開催

講演中のテンティエヴァ女史

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の委託を受け、「キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業」を2011年度より実施しています。この事業は、中央アジアの文化遺産保護を目的に、中央アジアの若手専門家育成を目指すものです。
 今回、この事業の一環として、キルギス共和国よりバキット・アマンバエヴァ女史、アイダイ・スレイマノヴァ女史、アイヌラ・テンティエヴァ女史の3名の専門家を日本に招聘し、「キルギス共和国の文化遺産」と題する研究会を3月15日に開催しました。アマンバエヴァ女史とスレイマノヴァ女史は、キルギス共和国における考古学新発見に関して発表を行ない、またテンティエヴァ女史はキルギス共和国の無形文化遺産に関する講演を行ないました。


文化遺産国際協力コンソーシアム平成23年度総会および第10回研究会「文化遺産保護の国際動向」の開催

 2011年3月16日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成23年度事業報告と次年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、世界銀行のマーク・ウッドワード氏による「世界銀行の文化遺産へのアプローチ~保護から地域経済発展における遺産価値と歴史都市の包括へ~」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年の主だった国際会議を中心に、3名の方からご報告いただきました。
 二神葉子東文研室長には、40周年を迎えた世界遺産条約に関して、登録をめぐる審議の傾向や、昨今の国境紛争問題を中心にお話しいただきました。続いて、南新平文化庁室長から、無形文化遺産の登録プロセスや基準とともに、昨年設立されたアジア太平洋無形文化遺産研究センターについてご報告いただきました。最後に、前田耕作東文研客員研究員より、東西大仏の爆破から10年を迎えたバーミヤーン遺跡の保存に関する専門家会議を例に、最近の平和構築と文化遺産保護活動に関するご発表がありました。
 文化遺産保護の国際動向は研究会で例年取り上げているテーマですが、毎回50名を越える参加者があり、最新動向に関する情報が強く求められていることを感じます。コンソーシアムでは今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。


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