研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


一乗寺蔵・国宝天台高僧像の画像調査

調査風景

 企画情報部では2015年8月24・26日に、兵庫県・一乗寺の所有する国宝・聖徳太子及天台高僧像(全10幅)のうち奈良国立博物館に寄託されている高僧像7幅について、東京文化財研究所のもつデジタル画像技術を用いて高精細カラーおよび近赤外線画像調査を同館で行い、城野誠治、皿井舞、小林達朗が参加しました。これらの作品については、当研究所と奈良国立博物館が共同研究の対象として調査を重ねてきたところですが、今回の調査はこれを補足するものです。既に得られた各種画像とあわせ、これらは作品の今までにない詳細な情報を含むものであり、これまでの成果を出版によって公開する準備を進めています。


企画情報部研究会の開催―黒田清輝宛の岡田三郎助書簡をめぐって

岡田三郎助直筆の葉書 明治29年12月5日付
岡田八千代代筆による書簡(部分) 明治44年6月30日付

 当研究所は創設に深く関わった洋画家、黒田清輝(1866~1924年)宛の書簡を多数所蔵しています。黒田をめぐる人的ネットワークをうかがう重要な資料として、企画情報部では所外の研究者のご協力をあおぎながら、その翻刻と研究を進めていますが、その一環として8月31日に、黒田とともに日本近代洋画のアカデミズムを築いた岡田三郎助の書簡についての部内研究会を行ないました。発表者とタイトルは以下の通りです。

  • 高山百合氏(福岡県立美術館学芸課学芸員)
    「黒田清輝宛岡田三郎助書簡 翻刻と解題」
  • 松本誠一氏(佐賀県立博物館・佐賀県立美術館副館長)
    「岡田八千代の小説から見た岡田三郎助像」

 岡田三郎助直筆の書簡は「将来国宝にする値打ちがある」と黒田清輝が語るほど、岡田は自分で手紙を書くことが稀であったといいます。今回の高山氏の発表でも、黒田宛の岡田名による書簡群に筆跡のばらつきがあることが示され、代筆者の検討が行われました。そうした代筆者の一人である妻の八千代は、小説家・劇評家としても活躍しています。松本氏の発表では、八千代代筆による黒田宛書簡とともに、自身の夫婦観を投影した新出の小説原稿も紹介しながら、画家に嫁いだ妻の目線による岡田三郎助像が浮き彫りにされました。概して差出人直筆の一次資料として重視される近代の書簡ですが、今回の研究会では代筆というケースを通して書簡資料の難しさ、そして代筆者との関係をも読み解くことで、差出人をめぐる新たな人間模様を映し出す面白さを再認識する機会となりました。


2015東アジア文化遺産保存国際シンポジウム in 奈良 ―ポスター展示

ポスター会場風景
iPadを使いながらの説明

 8月26日から29日まで、「2015東アジア文化遺産保存国際シンポジウム in 奈良」が、奈良春日野国際フォーラム甍~I・RA・KA~で開催され、27日と28日の2日間の専門家会議プログラムにおいてポスター発表を行いました。「文化財研究情報アーカイブの構築―東京文化財研究所の取り組み」と題して、(1)情報資源の活用とシステム構築(2)ホームページで公開中の所蔵資料データベース検索システムのリニューアル(Wordpressを利用して個々のデータベース毎の検索からデータベースを横断的に検索し一括で結果を表示するように変更)(3)研究資料データベースの公開(既存の各種画像やテキストコンテンツを、Wordpressを利用することで検索を容易にし、また、未公開だった画像などを順次公開しコンテンツを追加)(4)国内外との連携(英国セインズベリー日本藝術研究所との連携やアメリカ・ゲッティ研究所との共同研究の予定)(5)今後の展開、などの発表でした。
 発表は、ポスター掲示に加えて、iPadやタブレットPCを利用したデモンストレーションも行い、また聴講者にも試用いただくことで、リニューアルした総合検索と所蔵資料データベースの取り組みを、より具体的に、分かりやすく理解いただくような方法で行いました。
 聴講者からは、そのコンテンツが増えていることや検索がしやすくなったことを把握でき活用の幅が広がったという感想をいただくとともに、大規模なポータルサイトへの情報提供や、類似する資料を扱った他機関とのさらなる連携を期待する意見を伺うことができました。いずれも東アジア文化遺産あるいは文化遺産保存、情報システムの専門家ならではの示唆に富んだもので、当研究所の資料群の国内外への発信の取り組みにおける有効な情報交換となりました。


「西スマトラ・パダン歴史地区の再生に関するワークショップ」開催

ワークショップの様子
リノベーション工事中の歴史的建造物

 東京文化財研究所では、2009年9月に発生したスマトラ島沖地震の直後に被災状況調査をユネスコ及びインドネシア政府の要請に基づいて実施して以来、パダン市の歴史的街区における復興を、都市計画や建築学、社会学といった各分野での学術的な調査や現地ワークショップの開催等を通じて、継続的に支援してきました。
 本年度は、8月26日に、西スマトラ州観光・創造経済局主催による「西スマトラ・パダン歴史地区の再生に関するワークショップ」をインドネシア政府文化教育省、パダン市政府、ブンハッタ大学他と共催しました。今回は、インドネシアと日本の専門家に加えて、マレーシアのペナン市ジョージタウンにおいて歴史的街区の世界遺産登録・保全運動を推進してきた地元建築家とNGO関係者にも参加してもらい、住民参加による文化遺産を活かしたまちづくりの進め方について考えることを主なテーマとしました。パダン市内のホテルで行われた本ワークショップには、国・州・市の各レベルの関係当局代表だけでなく、歴史地区内に居住する住民の代表も含めて50名以上が参加して会場に収まりきらないほどの盛況となり、質疑の中では制度的な枠組みや地元コミュニティの参画及び行政や大学との連携のあり方などに、特に高い関心が示されました。
 パダン市政府では、歴史地区再生の担当部局とまちづくり協議組織の立ち上げに向けて目下準備が進められています。今後もこのような地元主導による活動の推移を見守りつつ、必要な支援を行っていきたいと考えています。


歴史的木造建造物保存に関するミャンマー文化省職員招聘研修

大工道具の違いについての意見交換(竹中大工道具館)
檜皮葺体験の様子(京都市建造物保存技術研修センター)

 文化庁委託「ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業」の一環として、7月29日から8月6日までの日程で、ミャンマー文化省考古・国立博物館局より4名の専門家を本邦に招聘し、歴史的木造建造物保存に関する研修を実施しました。このプログラムは、一昨年度よりミャンマー国内において継続中の現地研修と一連をなすもので、わが国における文化財建造物保存修理の実践を具に理解してもらうことを目的としています。保存修理制度の歴史や調査記録の手法、虫害対策、耐震対策、大工道具といったテーマの座学に加え、修理工事現場における見学や痕跡調査等の実習、修理技術者との意見交換等を通じて、木造建造物保存修理に関する知見を広めてもらうとともに、ミャンマーでも応用可能な手法等についても共に検討する機会となりました。
 短い滞在期間中に、幾つもの修理工事現場に加えて、博物館や史跡公園、伝建地区といった文化遺産を訪問し、最終日には一人ひとりに成果発表を行ってもらうというハードなスケジュールでしたが、研修生たちは熱心に学び、多くのことを吸収していました。両国の気候風土や建築文化の違いを感じつつも、通底する文化の共通性を意識させられる場面も多かったようです。自国の文化遺産保護の今後に活かすべく、それぞれの現場で様々な疑問・質問を熱心に投げかけていたことは、日本側の技術者・専門家にも強い印象を与えたようでした。最後に、今回の研修にご協力いただいた、(公財)文化財建造物保存技術協会、京都府教育庁文化財保護課、竹中大工道具館ほか、各機関・関係者の皆様に、この場を借りて心からお礼申し上げます。


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