研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
■東京文化財研究所 |
■保存科学研究センター |
■文化財情報資料部 |
■文化遺産国際協力センター |
■無形文化遺産部 |
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モンゴル人研修生ほか6名 12月1日に、ACCU((財)ユネスコ・アジア文化センター)文化遺産保護協力事務所の主催する「文化遺産保護に資する研修2009(個人研修・モンゴル)(文化庁・東京文化財研究所・奈良文化財研究所との共催)」により招へいされたモンゴル人研修生3名が、研修の一環として、研究所の事業および施設を見学に来訪、4階文化遺産国際協力センター、保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター金属アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。
発表する田中淳
ポスターセッション
12月4、5日、アート・ドキュメンテーション学会の創立20周年を記念した研究フォーラムが、開催されました(会場:発表は東京国立博物館平成館大講堂、展示等によるプレゼンテーションは同館小講堂)。同フォーラムの副題は、「M(useum)、L(ibrary)、A(rchives)連携の現状、課題、そして将来」とされ、美術だけではなく、ひろく文化財にかかわる9つの関係諸機関からの発表と展示が行われました。当研究所からは、企画情報部が参加し、田中が「『日本美術年鑑』デジタルアーカイブを中心に」と題して発表しました。1936年創刊から現在まで継続刊行されている『日本美術年鑑』の意義と、膨大な情報化の時代にあって同年鑑の編集にかかわる諸問題について述べ、さらにこれまでに蓄積されてきた情報の活用とさらなる積極的な公開について提言しました。同時に展示では、当研究所所蔵の資料である焼失以前の「名古屋城」内観写真の画像データベースと、国立情報学研究所との共同研究の成果のひとつとして、連想検索「想 Imagine」における旧所員であった尾高鮮之助撮影(1932年)のアジア各地の貴重な写真のデータベース(試作版)を紹介しました。発表と展示によって、当企画情報部が情報発信として取り組んでいる現状と、将来像の一端を紹介することができました。
2009年12月、東京文化財研究所のキッズページ(英語版)を新設しました。
英語版の構成も日本語版と同様に、「東文研しごとぜんぶ」「世界での活躍」「なぜなに東文研」「文化財のリンク」からなっています。
近年、研究所の活動は、海外における文化財の保存修復を目的とした国際協力を行ったり、海外の研究者と研究交流を進めたりするなど、海外とのつながりが強くなってきました。それらはキッズページ「東文研しごとぜんぶ」「世界での活躍」(日本語版)からもうかがわれます。
そこで海外の子どもたちにも研究所の活動を知ってほしいという想いからキッズページ(英語版)をつくりました。英語を母国語としない国のホームページの中で、英語のキッズページはたいへん珍しい存在ですが、また文化財をテーマとしたホームページとしても初めての試みです。
ぜひキッズページ(英語版)
http://www.tobunken.go.jp/english/kids/index.html
にアクセスしてみてください。
2009年12月、メールマガジンの登録を開始しました。
メールマガジンではホームページの新着情報を中心にお伝えする予定です。
ご登録は研究所のホームページ
http://www.tobunken.go.jp/info/mail/mail.html
にて行っております。
坂本清恵日本女子大学教授による講演
無形文化遺産部としては第4回目となる公開学術講座を、12月16日(水)に江戸東京博物館ホールで開催しました。
ここ数年来、公開学術講座では、文化財保護委員会(現在の文化庁)が無形文化財の保護事業の一環として作成してきた音声記録をテーマとしてきました。そこで、今年度は「義太夫節の伝承」と題して、昭和24年(1949)3月に収録された『平家女護島』二段目「鬼界が島の段」を取り上げました。
演奏者の豊竹山城少掾(1878-1967)と四世鶴沢清六(1889-1960)は、昭和30年に重要無形文化財保持者の制度が開始されたとき、人形浄瑠璃文楽太夫と人形浄瑠璃文楽三味線で、それぞれが各個認定を受けています。いわゆる「人間国宝」です。二人が残した数多くの録音は、今日でも優れて規範的な演奏と認められています。「鬼界が島の段(俊寛)」もそうした録音の一つです。
講座の前半では、録音の意義や現在の伝承との関わりについて考察し、後半では、録音全体の半分程ですが、この二人の至芸を鑑賞していただきました。
ラトゲン保存研究所ステファン・シモン氏の講演
2009年12月8日に、東京文化財研究所セミナー室で昨年に引き続き、「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」というテーマで研究会を開催しました。今年は、ドイツ、ラトゲン保存研究所のステファン・シモン氏に「欧州での博物館の省エネ化と展示、収蔵施設内の保存環境」、京都大学の鉾井修一教授に「温熱環境からみた博物館の省エネ化」の講演を頂き、さらに国土交通省の足永晴信氏からは「低炭素社会での持続可能な都市空間実現に向けた取り組み」という題で講演を頂きました。最後に、東京国立博物館の神庭信幸氏から「低炭素社会と共存する文化遺産の保存」という題で、東京国立博物館での取り組みについて紹介頂きました。参加者は、全部で75名であり、活発な意見交換が行われました。
側壁における取り外し作業
取り外した漆喰片
保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。5月に行った今年度第一回の集中取り外しをふまえ、秋の集中取り外しは10月19日〜11月6日までと11月16日〜12月4日の日程で、間に1週間をはさみ、3週間ずつ二度に分けて行いました。前回よりも長期にわたったものの、3週間ずつ行ったことで、取り外しを効率よく進捗させることができました。今回の作業で天井のすべての漆喰が取り外され、2年ぶりに周囲の側壁の漆喰取り外し作業を再開することができました。今後は、紫外線照射による微生物の制御を行いつつ、定期的に点検を行い、来年度に再び集中取り外しを行う予定です。
講演を行うアミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史
12月2日、東京文化財研究所地下一階会議室において、イラク国立博物館事務局長アミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史による講演会を開催しました。 2003年、イラク戦争終戦後の混乱のさなか、イラク国立博物館が略奪の対象となったというニュースは、世界に衝撃を与えました。その後、日本やイタリアをはじめとする国際社会の支援を受け、イラク国立博物館は2009年2月にようやく再開されました。
今回、アミーラ女史は、外務省の「21世紀パートナーシップ促進招聘」事業により来日し、この機会を利用して講演会を開催することができました。アミーラ女史は、多くの写真を示しながら、博物館の略奪から再開にいたる長い道程とその苦労について報告しました。また、文化遺産国際協力センターがユネスコ文化遺産保存日本信託基金および運営費交付金で行っているイラク人の保存修復家の人材育成事業にも触れ、イラクの文化遺産の復興には、今後とも日本からの支援が必要不可欠であることを繰り返し訴えました。
第2窟における三次元測量
コウモリの排せつ物を起因とする付着物の洗浄作業
東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」および運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の枠組みにおいて、アジャンター壁画の保存にむけた共同研究を行っています。
平成21年11月~12月に派遣された第3次ミッションでは、コウモリの排せつ物による害、過去に用いられたニスの黄化による色調変化や彩色層の亀裂、浮き上がりといった問題の解決に取り組み、インド考古局の専門家とともに壁画の試験的な洗浄を行いました。
また、壁画の保存にむけたデジタルドキュメンテーションとして、同志社大学と共同研究契約を結び、第2窟、第9窟の現状図面作成を目的とした三次元測量を共同で行いました。
このような保存修復・計測作業をインド人専門家と共同で行うことで、文化財保存に関する知識の共有、技術交換を行い、人材育成と技術移転を目指しています。
会場
総合討議の様子
文化庁委託事業文化遺産国際協力コンソーシアム事業の一環として、12月14日東京国立博物館平成館大講堂において、シンポジウム「観光は文化遺産を救えるか―国際協力の新たな展開」を開催いたしました。基調講演としてユネスコによる世界遺産保護と観光開発の両立への取り組みについての講演があり、また、2名の専門家から文化遺産と観光を捉えるうえでのリビングヘリテージという視点の重要性を指摘した報告(西山徳明氏)と、地域社会の力で文化遺産の保護と博物館建設が進められたペルーの事例について(関雄二氏)の報告が続きました。国際協力機構からは観光開発への取り組みをヨルダンでの事例を含めて報告があり、さらに、テレビ番組のレポーターとして世界各地を訪れる浜島直子さんからは、文化遺産を楽しむ観光の方法が提案されました。
専門の方々以外にも多く出席いただき、会場からは質問も寄せられ、文化遺産保護と対立しない観光に注目が集まるなか、国際協力を通してどのように地域社会に貢献するのか、また、観光を活かした文化遺産保護の具体的方法と課題などが議論されました。
紙製収納容器制作実習を終えて
(木部徹講師、島田要講師とともに)
展示照明についての授業(木下史青講師)
平成18年度から5カ年の計画で進められているシルクロード人材育成プログラムは、第4年目となり、春から夏に実施した古建築保存修復研修コースに引き続き、今年度の二つめのプログラムとして、9月14日から12月11日までの3カ月間の日程で博物館技術研修コースを実施しました。中国のシルクロード沿線に位置する新疆、甘粛、寧夏、陝西、河南の各省・自治区から集まった計14名の研修生は、2カ月間北京での理論コースに参加した後、11月中旬から1カ月間、寧夏回族自治区銀川の寧夏博物館で、実践コースに参加しました。期間中、日本からは当研究所、東京、九州の両国立博物館、大学、さらには文化財保護材料制作の工房から合計15名の講師が参加し、中国側講師とともに授業を行いました。
寧夏博物館での実習授業は、収蔵・展示環境の測定と分析、実際の博物館の収蔵品と展示室の情況をもとにしたテーマ展示設計案作成を行いました。研修生たちは、それまで日中双方の講師による長時間の授業を通して膨大な量の理念や技術論を学んできましたが、この実習を通してそれを確実な知識として身につけることができたはずです。今回のような体系的で理論と実践の両方を具えた博物館学研修コースは、中国において初めて実現したものです。また、2007年に完成し現在の中国において設備面では最先端の内容をもつ寧夏博物館ですが、実際の日常の作業をどのように行うかということが未だ十分な状態になっていないというのが課題であり、今回の研修コースを受け入れたことにより、館員にとっても強い刺激になったとして、感謝をしていただくことができました。12月11日の修了式は、館員の皆さんが50名以上も参加するという盛大なものとなりました。
シルクロード人材育成プログラムは来年度に染織品と壁画の保護修復研修コースを実施して終了となります。