研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


文化財を守る「バックヤード」

 NHK(Eテレ)で毎週水曜日、午後10時より放送されている「ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪」という番組をご存じでしょうか。普段見ることができない博物館や図書館、動物園、鉄道会社などの裏側に潜入するというコンセプトの番組で、この4月からは放送時間も繰り上がるなど、徐々にその人気は高まってきているそうです。
 そんな「ザ・バックヤード」で、この度、東京文化財研究所が取り上げられました。もともとは当研究所のことを色々な方に知っていただきたいとの思いから、昨年秋頃から準備を進めてきたのですが、今年の3月頃から話が具体化し、実際の撮影は6月初めに行われました。
 約30分という放送時間の制約もあり、今回の撮影では文化財情報資料部(文化財アーカイブズ研究室)、保存科学研究センター(分析科学研究室・修復材料研究室・生物科学研究室・修復技術研究室)しか紹介できませんでしたが、番組をご覧いただいた方には、文化財を守る重要なバックヤードとしての当研究所の取り組みをご理解いただけたのではないかと思います。
 それぞれの部署でご案内した内容は、以下に簡単にまとめました。関連する過去の活動報告等も一部掲載していますので、あわせてご覧ください。

【文化財情報資料部】
●文化財アーカイブズ研究室
 文化財情報資料部では資料閲覧室や写真原板庫にて、当研究所の所蔵する図書と写真の資料を中心にご案内しました。昭和初期に調査撮影した名古屋城障壁画のガラス乾板写真や、昭和40年代に不慮の事故により損傷を受けてしまった、与謝蕪村筆「寒山拾得図襖絵」(丸亀市・妙法寺)について、昭和30年代に研究所で撮影していたモノクロ写真の輪郭線のデータと現在のデジタル画像を合成して、事故前の状態に襖を復原したプロジェクトを紹介しました。当研究所が100年近くもの間、継続してきた調査研究の蓄積と最新の技術を応用した事例をご覧いただきました。
資料閲覧室 https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/library.html
古写真 名古屋城本丸御殿 https://www.tobunken.go.jp/image-gallery/nagoya/index.html
活動報告 香川・妙法寺への与謝蕪村筆「寒山拾得図」復原襖の奉安 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)
妙法寺(香川県丸亀市)所蔵 与謝蕪村作品デジタルアーカイブ
https://www.tobunken.go.jp/myohoji/

【保存科学研究センター】
●分析科学研究室
 分析科学研究室では、2次元的な元素マッピングを行うことができる蛍光X線分析装置をご覧いただきました。このような最先端の技術を適用することにより、キトラ古墳壁画のうち泥に覆われていて目視では確認をすることができない十二支像を鮮明に確認することができた成果につながったことを紹介しました。
活動報告 キトラ古墳壁画の泥に覆われた部分の調査 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)

●修復材料研究室
 修復材料研究室では、キトラ古墳壁画の漆喰取り外しに関する技術開発のご説明をしました。脆弱な壁画表面を取り外しの際には安定化させ、取り外し後には絵画に影響なく除去が可能な手法を用いたことについて、実際に使用した材料を用いて作成したモデルで示しつつ紹介しました。当研究所が開発した技術ではありますが、実際に施工に当たられた関係者の皆様のご協力によって安全に取り外し、再構成、展示ができたことを改めて感謝する機会となりました。
活動報告 キトラ古墳壁画展示のための作品搬送 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)

●生物科学研究室
 生物科学研究室では、文化財の生物被害に関する研究について紹介しました。東日本大震災に伴う津波で水損した資料で見られた赤色のカビについては、カビの性状調査を行う意義についてご説明しました。また、近年問題となっている新たな文化財害虫「ニュウハクシミ」についても生体をご覧いただきながら、防除対策に関する研究成果の一端を紹介しました。
活動報告 文化財害虫検索サイトの公開 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)
活動報告 文化財害虫の検出に役立つ新しい技術開発に向けた基礎研究 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)

●修復技術研究室
 修復技術研究室では、近代の科学技術に関する文化財および災害等で被災した文化財の修復に関する調査研究を行っています。番組では、前者の例としてアジア・太平洋戦争期の機銃(報国515資料館所蔵)の保存について、後者の例として東日本大震災で被災した紙製文化財の保存処置について紹介しました。特に紙製文化財の処置については、実験用に作成した冊子を用いて水損状態を再現し、風乾(自然乾燥)と真空凍結乾燥での処置による違いをお伝えしました。
活動報告 20世紀初頭の航空機保存修復のための調査 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)
活動報告 南九州市における近代文化遺産の調査 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp)
TOBUNKEN NEWS No.78 巻頭記事「災害により被災した文化財を検証するために」 TOBUNKEN NEWS(東文研ニュース)

 なお、番組は6月26日に放送され、SNSを中心に予想以上の反響をいただきました。これを一つのきっかけにして、今後もより多くの皆様に、当研究所の活動に対する興味関心を持っていただければ幸いです。


ストライプハウス美術館 / ストライプハウスギャラリー旧蔵資料の目録公開

ストライプハウス美術館 / ストライプハウスギャラリー旧蔵資料の一部:アパルトヘイト否!国際美術展(1990年)、世紀末大学(1993-2000年)に関する資料(請求記号ス162、ス261)
ストライプハウスビル

 このたび、研究プロジェクト「近・現代美術に関する調査研究と資料集成」の一環で、「ストライプハウス美術館 / ストライプハウスギャラリー旧蔵資料」の目録をウェブサイトに公開しました。

 ストライプハウス美術館は、昭和56(1981)年5月、写真家塚原琢哉(1937- )が、東京都港区六本木5丁目に設立した私設美術館で、現代美術を中心とする物故作家の全貌展や若手作家の個展を多く開催しました。また、作家の発掘に定評があり、美術作品の展覧会だけでなく、ミニライブ、一人芝居、落語会、朗読会などを定期的に開催したことでも知られています。平成12(2000)年に美術館が閉鎖したのち、平成13(2001)年12月からは、ストライプハウスビル3階でギャラリーを運営しています。今回、目録を公開した資料群は、平成22(2010)年ころに笹木繁男(1931-2024)の仲介で同ギャラリーから東京文化財研究所に寄贈されたもので、各イベントごと、あるいは各作家ごとにまとめた、およそ300通の封筒で構成されています。そのなかには記録写真やプレスリリースなども納められており、当時の新聞・雑誌などのメディアによる報道には記録されない、重要な事実を見出すこともできるでしょう。

 研究プロジェクト「近・現代美術に関する調査研究と資料集成」では、日本の近・現代美術の作品や資料の調査研究を行い、これに基づき研究交流を推進し、併せて、現代美術に関する資料の効率的な収集と公開体制の構築も目指しております。この資料群は資料閲覧室で閲覧できますので、現代美術をはじめとする幅広い分野の研究課題の解決の糸口として、また新たな研究を創出する契機として、ご活用いただければ幸いです。

◆資料閲覧室利用案内
https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/library.html
アーカイブズ(文書)情報は、このページの下方に掲載されています。実際の資料は資料閲覧室でご覧いただけます(事前予約制)。

◆ストライプハウス美術館 / ストライプハウスギャラリー旧蔵資料
https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/pdf/archives_StripedHouseMuseumofArt.pdf


聖ミカエル教会(ケシュリク修道院)保存修復共同研究に係る協議

ネヴシェヒル保存修復研究センターでの打合せ
ネヴシェヒル県副知事表敬訪問

 文化遺産国際協力センターでは、トルコ共和国のカッパドキアに位置する聖ミカエル教会(ケシュリク修道院内)を対象に、現地専門機関や大学と協力しながら内壁に描かれた壁画の保存修復に関する共同研究事業を進めています。昨年度は、現地調査を通じて研究計画書を作成し、その内容についてトルコ共和国文化・観光省ならびに専門委員会で審議された結果、実施に関して正式な認可を受けました。(聖ミカエル教会(ケシュリク修道院)での保存修復研究計画立案に向けた調査の実施 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp))
 これを受けて、令和6(2024)年6月25日~29日にかけて現地を訪問し、今後、安全に研究活動を進めるうえで大切となる環境整備について協議しました。協議は、ネヴシェヒル保存修復研究センター長のHatice Temur YILDIZ氏やウルギュップ市議会議員でカッパドキア観光地域インフラサービス協会理事を務めるLevent Ak氏協力のもと進められ、ネヴシェヒル県副知事やユルギュップ市長とも意見交換を行う機会を設けていただくなど、大変有意義なものとなりました。その結果、教会内に建設予定の足場や水道・電気の設置工事等についてご協力いただけることとなり、カッパドキア地域における公共団体との連携体制を築くことができました。
 今後は、現地の方々の期待に応えるためにも研究活動に取り組み、トルコ共和国における文化財の保存修復に広く貢献できるよう、活動を続けていきます。


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