伊藤延男氏関係資料の受贈

文化財保護委員会時代の伊藤氏(左から3人目、周りは建造物課職員及び修理技術者の各氏とその家族:右端は伊藤氏の前に建造物課長(1966-1971)を務めた日名子元雄氏、その左隣は当研究所の修復技術部長(1988-1990)を務めた伊原恵司氏)

 去る令和3(2021)年9月13日、昭和53(1978)年4月から同62(1987)年3月までの9年間にわたって東京国立文化財研究所の所長を務めた故伊藤延男氏が所蔵されていた文化財保護行政業務等に関する資料一式が、ご子息である伊藤晶男氏から当研究所に寄贈されました。伊藤延男氏は、戦後の文化財保護の発展を牽引した行政技官・建築史研究者で、特に昭和50(1975)年の文化財保護法の改正で新設された伝統的建造物群保存地区の制度設計では文化庁の建造物課長(1971-1977)として中心的な役割を果たしました。また、我が国の文化財建造物の保存理念と修理方法を積極的に海外に向けて発信し、西欧由来の保存概念であるオーセンティシティが国際的に展開するきっかけとなった平成6(1994)年11月の「オーセンティシティに関する奈良会議」を主導するなど文化財保護の国際分野にも大きな足跡を残しています(詳しくは末尾に掲載した記事をご参照ください)。
 今回、受贈した資料は、伊藤氏が業務として携わった文化財保護の行政実務及び国際協力の一次資料を中心に、建築史及び文化財に関する研究活動や民間活動の諸資料、執筆原稿など多岐にわたります。これらは生涯を通じて旺盛であった同氏の活動を通じて蓄積されてきたもので、体系的に収集、整理されたものではないため、現段階では詳細な情報が明らかではないものが多く含まれていることも確かです。しかし、できるだけ早く資料そのものを必要とする研究者等の閲覧に供することが重要との考えから、資料全体を活動内容で大きく分類し、個々の資料の機械的な整理を終えた段階で公開していく予定です。
 受贈資料の中から、若かりし日の伊藤氏が文化財保護委員会事務局建造物課の同僚らとともに写った写真を紹介します。左から3人目が伊藤氏で、同氏の風貌や同封されていた他の写真との関係から、同氏が文化財調査官として現場で活躍していた昭和40(1965)年頃の撮影と思われます。年報や報告書に載るようなかしこまった写真からはなかなか感じ取ることができない、この写真に写る面々の生き生きとした屈託のない笑顔からは、文化財保護行政もまた高度経済成長の右肩上りの時代の空気とともにあったことが伝わってくるようです。

・斎藤英俊:伊藤延男先生のご逝去を悼む,建築史学 66巻,pp.148-159, 2016:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsahj/66/0/66_148/_article/-char/ja/
・伊藤延男,日本美術年鑑 平成28年版,pp.557-558, 2018:https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/809181.html

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