研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


伊藤若冲筆「菜蟲譜」のデジタルコンテンツ作成と公開

「菜蟲譜」デジタルコンテンツ画面
カラー画像と近赤外線画像の比較閲覧画面
部分拡大図

 文化財情報資料部では、当研究所で行った美術作品の調査研究について、デジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開しています。このたび栃木県佐野市立吉澤記念美術館(https://www.city.sano.lg.jp/museum/)所蔵の伊藤若冲筆「菜蟲譜」(重要文化財)のデジタルコンテンツが完成しました。専用端末にて、高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光エックス線分析による彩色材料調査の結果などをご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。「菜蟲譜」は伊藤若冲による、現存唯一の絹本着色の画巻で、約100種の蔬菜・果実と50種余りの昆虫や両生類などが表され、繊細で情趣豊かな表現がよく知られています。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。ご利用に際しては下記をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html


NACSIS-CAT(CiNii Books)への加盟

CiNii Booksに表示された当研究所蔵書の書誌・所蔵情報

 東京文化財研究所ではこのたび、NACSIS-CAT(国立情報学研究所目録所在情報サービス)に加盟して、各研究部門(文化財情報資料部、無形文化遺産部、保存科学研究センター、文化遺産国際協力センター)の所蔵図書情報をCiNii Books(サイニイ・ブックス、https://ci.nii.ac.jp/books/)に搭載する体制を整備しました。
 NACSIS-CAT加盟の目的は、(1)所蔵図書情報のより広範な可視化、(2)図書情報の整備(標準化)にあります。(1)については、これまで公式サイト内総合検索(http://www.tobunken.go.jp/archives/)で公開してきた所蔵図書情報を、さらに、より多く研究者・学生等が利用するCiNii Booksにも掲載することで、その活用を促進するものです。また(2)については、外部機関(ゲッティ研究所やOCLCなど)とのデータ連携において、当研究所が提供する図書情報を標準化できれば、より実効性の高いものとなるとの期待も寄せられており、これに対応するためのものです。NACSIS-CATは、国内外の各種図書目録データを参照・利用することができるため、当研究所が標準化作業に効率的に取り組むことに適した基盤システムといえます。
 蔵書数30万件のCiNii Books搭載、また図書情報の標準化の作業は現在進行中で、完了までにはまだしばらく時間を要しますが、当研究所が永年にわたって収集・蓄積してきた蔵書やその情報を、より多くの研究活動に寄与できような体制を整備してまいります。


サハリンと千島列島の美術――文化財情報資料部研究会の開催

オレグ・ロシャコフ(1936-)《シコタン、マロクリリスク湾》(1989-95年作)。右遠景には白い雪をいただく国後島の爺爺岳が描かれています。

 近年、中国や韓国、台湾といった近隣諸国の近現代美術についての研究が進み、展覧会などを通して、日本でもその様子をうかがう機会が増えてきました。しかしながら日本の北方、現在はロシア領であるサハリンを中心とする地域でも、活発な美術活動がみられることはほとんど知られていません。平成31(2019)年3月26日に開催された文化財情報資料部研究会での、谷古宇尚氏(北海道大学文学研究科)による発表「サハリンと千島列島の美術」は、第二次大戦後の同地域における美術の動向を現地調査に基づき紹介した、大変興味深いものでした。
 第二次大戦以前の樺太(サハリン)は、日本領だったこともあり、その風土を描いたのは木村捷司(1905-91)や船崎光治郎(1900-87)といった日本人の画家でした。しかし大戦後はソビエト連邦領となり、ロシアの画家が同地に根ざしたモティーフを手がけるようになります。ジョージアから移住した画家ギヴィ・マントカヴァ(1930-2003)はモダニズム的手法を活かしながら極東の風土を描き、サハリン美術の礎を築きます。またモスクワやウラジオストクから多くの画家が国後島や色丹島にまで足を伸ばし、なかでも昭和41(1966)年から平成3(1991)年までほぼ毎年、夏の数ヶ月間を色丹で過ごした「シコタン・グループ」の活動は注目されます。とりわけ彼らの作品のなかでも、国後島の爺爺岳と海湾を描いた風景画は、たとえばナポリの眺めを題材とした伝統的な西洋絵画を彷彿とさせ、国境地帯のヨーロッパ化という点で、そこに政治的意図も見え隠れするのではないかという谷古宇氏の指摘は刺激的でした。


「デジタルアーカイブ学会第3回研究大会への参加」

システム構成図

 デジタルアーカイブ学会第3回研究大会が、平成31年(2019)年3月15日から16日にかけて、京都大学吉田キャンパスにおいて開催されました。当研究所からは3名の職員が参加し、当研究所の文化財情報データベースシステムに関するポスター発表を行うとともに、近年のデジタルアーカイブの動向について情報収集を行いました。
 ポスター発表では、当研究所の所蔵資料や刊行物を中心としたデータベースシステムである刊行物アーカイブシステムと、そのシステムを利用して刊行及び公開している『日本美術年鑑』及び「東文研 総合検索」(www.tobunken.go.jp/archives/)について、そのシステムの構築と運用に焦点をあてて紹介しました。本発表を通して、デジタルアーカイブ関係者と意見交換をすることができ、当研究所に求められている文化財情報データベースを知る貴重な機会となるとともに、当研究所が文化財研究に資する基礎的情報の提供機関であることを再認識しました。
 また、研究発表セッションに参加し、文化財に限定せず、デジタルアーカイブ全般に関して広く情報収集を行いました。デジタルアーカイブの技術的課題や制度的課題、地域研究やコミュニティでの利活用などの知見を得ることができました。近年、デジタルアーカイブが連携を求められる傾向の中、当研究所も文化財情報を単に発信するだけでなく、外部への提供や外部情報源との連携を考えるよい機会となりました。
 なお、デジタルアーカイブ学会第3回研究大会のプログラムについては、次のウェブサイトに掲載されています。
 http://digitalarchivejapan.org/kenkyutaikai/3rd/3rd_program

/ 三島大暉)

アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査V

レーザースキャナーを用いた東門の測量
トータルステーションを用いた地形測量

 東京文化財研究所は、カンボジアにおいてアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ寺院遺跡の保存整備事業に技術協力しています。平成31(2019)年3月8日~17日の間、通算で第5次となる現地調査を同遺跡において行いました。
 今回は、同遺跡東門に対する3D測量および遺跡周辺における地形測量を、東京大学生産技術研究所・大石岳史研究室や、測量専門家の内田賢二氏らの協力のもと、APSARA機構のスタッフと共同で実施しました。
 東門は同寺院の本来の正門ですが、今日では通常の見学動線から外れており、構成する建材の多くが不安定な状態で、公開・活用の観点からも適切な修復を行うことが望まれます。今回実施した測量では、レーザースキャナーおよびカメラを搭載した無人航空機(ドローン)を用い、門本体だけでなく、その周囲に散乱する石材の位置や形状も含めた現状を三次元で詳細に記録しました。今回得られた情報を基に変形や損傷の様相を総合的に把握し、今後の具体的な修復計画の検討に反映していく予定です。
 また、地形測量は、これまで未調査であった遺跡南東部を主な対象区域として、トータルステーションを用いて実施しました。収集したデータから遺跡全体の詳細な地形図を作成することで、寺域内の整備にとどまらず、周辺の諸遺跡とも関連づけた広域的な活用にも資することが期待されます。


「ネパールの被災文化遺産保護に関する技術的支援事業」による現地派遣(その12)

市長会議の様子

 文化庁より受託した標記事業の一環として、東京文化財研究所では、ネパールにおける歴史的集落保全に関する行政ネットワークの構築支援を継続しています。平成31(2019)年3月12日、ラリトプル市において「カトマンズ盆地内の歴史的集落保全に関する第2回市長会議」を市と共催し、8名の派遣を行いました。
 歴史的集落の保全に関する現状や課題を、市長レベルで共有および議論する場として、平成29(2017)年にパナウティ市で第1回市長会議が開催されました。2回目となる今回は、「歴史的集落における有形および無形文化遺産の保全」をテーマとし、ネパールと日本の専門家による発表および会場の参加者も交えた議論の場が設けられました。当日は、11市長および8副市長、行政所属のエンジニアを含めると、計14市から合計約80人の参加がありました。
 ネパール側からは、4市における祭礼や工芸品などの無形文化遺産の紹介およびその継承への取り組みや、平成27(2015)年に発生したゴルカ地震後の歴史的集落調査および保全に対する取り組み等について講演がありました。日本側からは、札幌市立大学 森朋子准教授がコカナ集落における集落調査成果等について講演し、弊所無形民俗文化財研究室 久保田裕道室長がコカナ集落における無形文化遺産の調査成果や日本の無形文化遺産保全における現状等について講演を行いました。
 地域の文化遺産の保全については、人材や資金不足など、両国で共通する課題を抱えています。ネパールにおいては、特に、伝統的な地域社会の変容が加速していく中、地域社会における持続的な保全の仕組みが求められるとともに、市長のリーダーシップの下、行政側からの適切な支援が必要とされています。
 ネパールと日本両国間で、今後も相互に情報共有および議論を深めながら、支援を継続していきたいと思います。


to page top