アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査X‐今後の保存整備に向けた調査

東門再構築後の現場確認
中央伽藍の危険箇所調査

 東京文化財研究所では、カンボジアにおいてアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ寺院遺跡の保存整備事業に技術協力しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響により現地渡航が困難となっていましたが、APSARA側の要請に応えて、十分な感染防止対策のもと、2年弱ぶりに令和4(2022)年1月9日から1月24日にかけて職員計3名の派遣を行いました。今回は、修復工事中の東門関係のほか、中心伽藍の危険箇所への対応など、現地での速やかな検討が必要な事項に関して現地調査および協議を行いました。
 令和元(2019)年に着手した東門修復工事については、令和2(2020)年4月以降はオンラインで具体的な修復方針を協議しながらAPSARA側が工事を継続し、令和3(2021)年1月には頂部まで再構築が完了しました。今回は、リモートでは把握しきれなかった施工精度や仕上げの詳細等を現場で確認し、改善のための助言を行いました。今後さらに協議のうえ、手直しや追加工事が進められる予定です。
 一方、中心伽藍においては、不安定な石材の崩落や、木造の応急補強材の老朽化、樹木による影響など、複数のリスク要因があり、見学者の安全確保と遺跡の更なる損壊防止のため、早急な対策が求められています。このため、APSARAのリスクマップチームと合同で調査を行い、対策の基本方針や応急措置の優先順位を検討しました。ドローンを用いて塔の上部などの高所も確認し、撮影した写真から3Dモデルを作成して塔の現状を記録しました。
 さらに、以前に正面参道での考古調査で採取した土試料の分析も、同じくアンコール遺跡群で修復支援を継続中の韓国文化財財団(KCHF)の協力により実施しました。同国の援助で整備中の実験施設でKCHFの専門家の指導のもと、粒度分布や測色等の調査を行い、参道の基盤を構成する土層に関するデータを取得しました。この場を借りて、KCHFの寛大な協力に感謝を申し上げます。
 このほかにも、遺跡の修復に携わる各国チームと現場や研究会で交流するなど、現地での協力活動の意義を再認識する機会となりました。同時に行った、外周壁の発掘調査、およびタネイ関連彫刻類遺物調査については、それぞれ別稿にて報告します。

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