11月施設見学(1)
大韓民国・国立中央博物館 計2名
11月5日、東京文化財研究所が所有している機器を見学し、購入予定の機器の参考とするために来訪。保存修復科学センターを見学し、担当研究員による説明を受けました。
研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
■東京文化財研究所 | ■保存科学研究センター |
■文化財情報資料部 | ■文化遺産国際協力センター |
■無形文化遺産部 |
大韓民国・国立中央博物館 計2名
11月5日、東京文化財研究所が所有している機器を見学し、購入予定の機器の参考とするために来訪。保存修復科学センターを見学し、担当研究員による説明を受けました。
日本空気清浄協会 21名
11月16日、文化財全般について幅広く知見を習得し、空気環境と関係の深文化財の保存修復科学について学ぶために来訪。保存修復科学センター佐野副センター長による講演を聴講した後、企画情報部の資料閲覧室及び無形文化遺産部の実演記録室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。
韓国伝統文化大学校4名
11月17日、韓国伝統文化大学校が行っている日本製の屏風の状態調査及び修復方針決定の参考とするため、東京文化財研究所の日本絵画修復専門家に屏風絵の技法等について話を聞くことを目的に来訪。文化遺産国際協力センターを見学し、研究員による説明を受けました。
JALプロジェクト(実行委員長:加茂川幸夫東京国立近代美術館館長)は、海外で日本美術資料を扱う専門家(図書館員、アーキビストなど)を日本に招へいして、日本の美術情報資料や関連情報提供サービスのあり方を再考することなどを目的とし、昨年度からスタートした事業です。本プロジェクトに、当研究所から山梨企画情報部長、橘川研究員が実行委員を委嘱され、橘川は招へい者への事前現地ヒアリング、研修ガイダンス、国内関連機関視察への随行を行いました。
事前ヒアリングは、水谷長志氏(本プロジェクト実行委員、東京国立近代美術館)とともにベルリン国立アジア美術館図書館のコルデゥラ・トライマ氏、プラハ国立美術館のヤナ・リンドヴァー氏を担当し、10月3日、5日に現地での日本美術情報の状況に関してヒアリング、視察を実施しました。
日本にお越しいただいた資料専門家9名は、11月16日から23日まで、東京・京都・奈良・福岡にある関連機関を視察いただきました。当研究所には同月18日にご訪問いただき、資料閲覧室などで図書資料、作品調査写真、近現代美術家ファイル、売立目録に関する資料・プロジェクトを紹介したのち、当研究所研究員らとディスカッションを行いました。さらに、今年度は「海外における日本美術関係資料担当者との交流会」を実施し、国内関連機関関係者との面会の機会を提供いたしました。これは昨年の招へい者からの要望に応えたもので、28名の参加を得て、和やかな雰囲気のなか、専門家ならではの活発な情報交換が行われました。
研修最終日となった同月27日に、東京国立近代美術館講堂で公開ワークショップが開催され、昨年度に引き続き、招へい者から日本美術情報発信に対する提言が行われ、文化財情報の国際的な発信のあり方について再検討する良い契機となりました。
11月24日(火)、企画情報部では、加藤弘子氏(日本学術振興会特別研究員)を招いて「徳川吉宗が先導した視覚と図像の更新について―岡本善悦豊久の役割を中心に―」と題した研究発表がおこなわれました。
江戸幕府の第8代将軍である徳川吉宗(1684~1751)は、革新と復古の両面を兼ね備えた政治家として著名ですが、美術の分野でも、中国の宋・元・明の名画の模写やオランダ絵画を輸入させ、また、諸大名が所蔵する古画の模写や珍獣の写生を命じたことが確認されます。そうした古画の模写や写生をおこなった画家として挙げられるのが、同朋格として吉宗に仕えた岡本善悦豊久(1689~1767)です。加藤氏は、東京国立博物館が所蔵する「板谷家絵画資料」の中に、善悦の末裔にあたる彦根家旧蔵の約270点の粉本類が含まれることを紹介し、それらの存在から、善悦が吉宗の意向を狩野家や住吉家に伝え、視覚と図像を指導していく役割を果たした可能性を指摘されました。こうした問題は、吉宗の絵画観を解明するとともに、善悦を通して吉宗の絵画観が粉本として蓄積され、その後の狩野派の画風などに影響を与えたことを示唆するものでもあります。発表後は、善悦の役割とともに、善悦と同じく吉宗の側近であった成島道筑との関係などについても活発な意見が交わされました。今後は、実際の絵画作品が少ない善悦の、さらなる作品紹介などが待たれます。
この活動報告でもたびたびお伝えしたように、平成23年(2011)3月の東日本大震災で被害を受けた多くの文化財に対し、当研究所に事務局を置く東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会はレスキュー活動を各所で行なってきました。仙台城(青葉城)本丸跡に建つ昭忠碑もそのひとつで、明治35年(1902)、仙台にある第二師団関係の戦没者を弔慰する目的で建立された同碑は、震災により高さおよそ15メートルの石塔上部に設置されたブロンズ製の鵄が落下する被害を蒙り、救援委員会による文化財レスキュー事業の対象として、ブロンズ破片の回収や鵄本体の移設作業が行なわれました。平成26年の同事業終了後は宮城県被災ミュージアム再興事業として修復が実施され、今年度は破損した鵄の部分を東京、箱根ヶ崎にあるブロンズスタジオへ移動して接合する作業が進められています。ここでは、11月7日に同スタジオで行なった見学にもとづき、その修復の様子をレポートしたいと思います。
破損した鵄は今年の6月3日と7月10日の二度に分けて、東京へ搬送されました。まず行われたのは、ブロンズ接合の前段階として、破損した鵄の最も大きな部分(約5.1トン)の内側に充填されていたコンクリートや鉛を取り除く作業でした。それらは鵄と石塔をつなぐ鉄心として入れられたレールを固定し、また鵄部分の重量のバランスを取るために満たされていたものです。これを約3カ月かけて取り除いた後、破砕したブロンズの本格的な接合作業に入ることになりました。震災前の調査で撮影された画像をもとに元の形を復元していくのですが、鵄の頭部や羽先などは粉砕した状態にあり、ジグソーパズルのような作業が進められています。
高さ15メートルの塔の上に総重量5トン以上もある巨大な鵄の彫刻を据え付けた昭忠碑の建設は文字通り力技というべきものでしたが、ブロンズスタジオの高橋裕二氏によれば、修復作業を進めていく中で、現在は機械で製造されるような細かな部品を手技でひとつひとつ加工し作り出すなど、当時の丹念な仕事の様子がうかがえるとのことです。修復を通して、同碑の建設に携わった明治の人々のいとなみが改めて浮かび上がってきたといえましょう。この接合作業は次年度にかけて進められ、完了後は再び仙台に戻ることになりますが、一方で石塔部分について雨水の侵入による劣化が問題となっています。震災から5年が経とうとしていますが、同碑の保存修復をめぐって未だ課題は多く、長期的な取り組みが必要とされています。
彫刻家の畑正吉(1882‐1966)は、東京美術学校(現、東京芸術大学)や東京高等工芸学校(現、千葉大学)の教授を務め、造幣局賞勲局の嘱託として記念メダルやレリーフなどを制作した人物です。明治40(1907)年から43年にかけて農商務省海外実業練習生として渡仏、パリのエコール・デ・ボザールに日本人彫刻家として初めて合格し、彫刻を学びました。その留学の折の原板12点が畑正吉のご遺族のもとに伝えられており、このたび正吉の孫にあたる畑文夫氏よりご寄贈いただくことになりました。原板には畑正吉のセルフ・ポートレートをはじめ、安井曾太郎や藤川勇造といった、当時パリに滞在していた日本人美術家と撮影した写真が残され、異国での交友のあとをしのばせる大変貴重な資料といえましょう。これらの原板資料についてはあらためてデジタル撮影を行ない、ウェブ上にて画像を公開する予定です。(「畑正吉フランス留学期写真資料」として2017年4月21日公開)
無形文化遺産部では平成27年11月11日、12日にかけて熊谷市と共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅱ「染織技術の伝承と地域の関わり」を開催しました。本研究会では第1回目の同研究会(平成27年2月3日開催)のテーマ「染織技術をささえる人と道具」を引き継ぎ、染織技術に必要な「道具」の保存と活用について積極的な支援を行っている埼玉県熊谷市と京都府京都市の担当者を招き、染織技術に欠かせない要素である「道具」の保存と活用に関して行政がどのように関わっていく事ができるのかについて考えました。
11日は当研究所保存修復科学センターの中山俊介近代文化遺産研究室長より文化財という視点から「道具保護と活用」について報告があった後、熊谷市立熊谷図書館の大井教寛氏に「熊谷染関連道具の保護と行政の関わり」、京都市伝統産業課の小谷直子氏に「京都市における染織技術を支える事業について」を報告いただきました。その後の総合討議では、行政でできることや、様々な立場の人々の連携の重要性等について活発に議論が交わされました。フロアからは、技術を伝承するためにはその技術の根ざす「地域」を大切にしながら他の「地域」と連携していくことも視野に入れていくことが必要との意見もでました。
12日は遠山記念館の水上嘉代子氏による講演「埼玉県の染織の近代化小史―熊谷染を中心に―」の後、熊谷伝統産業伝承室(熊谷スポーツ・文化村「くまぴあ」内)の見学を実施しました。同室内に展示されている長板回転台や水洗機、蒸し箱はポーラ伝統文化振興財団の助成により移設されたものです。
今回の研究会は、染織技術やそれをささえる道具との関わりについて具体的な事例をもとに議論を展開し、染織技術の伝承を考えていく上で、道具を保存していく大切さを改めて認識することができる機会となりました。
今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。
2015年8月の調査に引き続き、11月10日から12日までの期間にサントリー美術館にて、重要文化財「四季花鳥図屏風」の調査を実施しました。「四季花鳥図屏風」の制作技法や材料について調べるために、光学調査、蛍光X線分析、可視分光分析、エックス線透過撮影等の手法を用いた調査を行いました。
エックス線透過撮影では、イメージングプレートを用いてX線透過画像を得ます。今回の調査では、11月に東京文化財研究所に導入したイメージングプレート現像装置をサントリー美術館に持ち込んで実施しました。このため、それぞれの撮影後にX線透過画像をその場で確認しながら調査を進めることができました。このようにして得られたエックス線透過画像から、彩色材料の種類や厚さや製作技法に関する様々な情報を得ることができました。
これらの調査結果を整理し、今年度中に調査報告書を刊行する予定です。
東南アジア5カ国より考古・建築遺産の保存修復に携わる専門家をお招きして、11月13日に東文研セミナー室にて標記研究会を開催しました。各国における遺跡保存をめぐる様々な技術的課題について発表いただくとともに、新たな協力の可能性をめぐって意見交換を行いました。これまでに遺跡整備の実践例を多数有するインドネシアとタイ、また特に近年、新技術の導入が目覚ましいカンボジア、ベトナム、ミャンマーからの具体的事例紹介をもとに、考古遺跡や歴史的建造物、博物館等における文化遺産保護状況を広く俯瞰する機会となりました。
インドネシアからはHubertus Sadirin 氏(ジャカルタ首都特別州文化財諮問専門委員会技術指導官)、タイからはVasu Poshyanandana 氏(文化省芸術局建造物課主任建築家・ICOMOSタイ事務局長)、カンボジアからはAn Sopheap氏(APSARA機構アンコール公園内遺跡保存予防考古学局・考古室長)、ベトナムからはLe Thi Lien女史 (ベトナム社会科学院考古学研究所・上席研究員)、ミャンマーからはThein Lwin氏(文化省考古・国立博物館局・副局長)にお越しいただきました。
総合討議においては、出土遺構の保存方法、修復における新旧材の整合性、建造物の耐震対策、有形的価値と無形的価値との保存のバランス、管理体制・人材育成の問題等について活発な議論が行われました。これらの国々は、いずれも熱帯あるいは亜熱帯地域に属するという気候環境的な類似性にとどまらず、材料の劣化要因や対策面でも共通する課題を抱えています。域内外でのさらなる連携を視野に入れて情報共有、協力を継続していくことを確認しあう機会となりました。今後も各国との対話を深めながら支援のニーズを見定め、より有効な協力のあり方を考えていきたいと思います。
2015年11月4日から11月20日にかけて、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)のLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、INAH(国立人類学歴史機構、メキシコ)、ICCROM、当研究所の3者で国際研修を共催しました。本研修は、INAHを会場にして、今年で4回目の開催です。
研修前半は当研究所が担当し、ポルトガル、ベリーズ、チリ、コロンビア、キューバ、メキシコ、ウルグアイ、ベネズエラの8カ国から、9名の文化財修復の専門家が参加しました。本研修では、日本の紙文化財の保存修復技術を海外の文化財へ応用することを目的に、日本の文化財保護制度の紹介から始まり、修復に関連する和紙や接着剤等の材料、国の選定保存技術のひとつである装こう修理技術の基本的な知識等を講義した上で、実習を行いました。実習は、プログラムの一環で当研究所において数ヶ月間装こう修理技術を学んだINAH職員が共に遂行しました。日本人講師の実演を踏まえて、糊炊き、作品のクリーニング、補修、裏打ち、張り込み等の和紙の特性を活かした装こう修理技術の基礎を体験してもらいました。研修後半は、メキシコとスペイン、アルゼンチンの文化財修復の専門家によって、欧米の保存修復における和紙の応用等についての研修が行われました。この様な技術交流を経て、日本の保存修復技術への理解の深化と海外の文化財保護への貢献ができるよう、同様の研修を継続する予定です。
2015年11月18日から20日にかけてイタリア・ローマで開催されたICCROM(International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Properties)の第29回総会に参加しました。ICCROMは、1956年のUNESCO第9回総会で創設が決議され、1959年以降ローマに本部を置いている政府間組織です。ICCROMは世界遺産委員会の諮問機関としても知られていますが、動産、不動産を問わず、広く文化遺産の保存に取り組んでいます。当研究所では特に紙や漆を用いた文化財の保存修復研修を通じてその活動に貢献してきました。
総会は2年に1度開催されており、例年通り、約半数の理事の任期が満了するのに伴い選挙が行われました。選挙の結果、当研究所の川野邊渉が理事に再任されました。そのほか、UAE、フランスの理事も再任され、アイルランド、アルゼンチン、イラン、オランダ、カナダ、韓国、チュニジア、ノルウェー、ヨルダンからは新たな理事が選出されました。
また、今年の総会からテーマ別討論が行われることになり、「Climate Change and Natural Disasters: Culture cannot wait!」というテーマの下、各国の災害対策や復興事例が紹介されました。その中で、今年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議で「仙台防災枠組2015-2030」及び「仙台宣言」が採択されたことも大きく取り上げられ、各国の日本に対する期待の高さを実感しました。
当研究所では、今後もこうした国際会議に参加し、文化財保護に関する国際的動向について情報を収集するとともに、日本の活動について広く発信していきたいと考えています。