研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


上海博物館情報センター主任以下4名の来訪

上海博物館情報センター主任以下4名が来訪しました。

 6月22日(金)、上海博物館に新設される実験室のための調査を目的に、上海博物館情報センター主任以下4名が来日し、東京国立博物館国際交流室の案内により、東京文化財研究所を来訪しました。来訪者の方々は、所長との懇談の後、所長の案内のもと所内各実験室等の視察を行いました。


平成18年度自己点検評価

 文化財研究所は、中期計画や年度計画に基づいて、自己点検評価を適切に実施し、その結果を法人運営の改善に反映させています。過日、平成18年度の自己点検評価を終え、目下、その報告書を印刷中です。
 18年度の研究・事業件数は、業務運営の効率化1件、東京文化財研究所関連40件、奈良文化財研究所関連48件、計89件でした。今期の中期計画では、17年度までのそれを点検し直し、整理、統合しましたので、かなり件数が少なくなっています。例年通り、3月から4月にかけて、各部局が業務実績書と自己点検評価調書を作成し、5月17、24日に外部評価委員から評価と意見をいただきました。今期からは、奈良と東京の各部局が、外部評価委員にすべての事業を報告する形式に改め、かつ、事業毎の評価ではなく、あらかじめ設定した評価項目に沿って、研究所の活動の総体を総合的に評価していただくことにしました。後日、外部評価委員の評価と意見を参照しつつ、自己点検評価をまとめました結果、すべての事業が順調に進行し、目標通りの実績を上げたことを確認しました。今後の課題として、外部資金の積極的な導入、大型研究機器の更新や施設の改善への取り組みなどが必要であることがわかりました。
 自己点検評価の結果は、文部科学省独立行政法人評価委員会文化分科会国立文化財機構部会が行う「独立行政法人文化財研究所の平成18年度に係る業務の実績に関する評価」のための調書作成にも活用されました。


今年度の総合研究会

今後50年間に震度5強以上の内陸直下型地震を被る確率が20%以上の国宝文化財
(○:建造物、△:美術工芸品のうち赤色で示したもの。赤色や緑色の線は内陸活断層の位置)
(二神葉子「文化財のGISデータベース化と地震危険度評価」の発表資料より)

 東京文化財研究所では総合研究会を開催しています。総合研究会とは各部・センターの研究員が各自、テーマを設定し、研究プロジェクトの成果を発表し、それに対して所内の研究者が自由に討論する研究会です。
 今年度は平成19年6月5日(火)に第1回総合研究会を開催し、文化遺産国際協力センターの二神葉子が「文化財のGISデータベース化と地震危険度評価」と題する発表を行いました。文化財の防災対策にとってGISの活用がいかに有効であるかを論じました。
 今後は下記の通り開催する予定です。

  • 第2回  平成19年7月10日
  • 「宗湛の研究」
  • (企画情報部・綿田稔)
  • 第3回  平成19年10月2日
  • (仮題)「文化財の調査のための新しいX線検出器の開発」
  • (保存修復科学センター・犬塚将英)
  • 第4回  平成19年12月4日
  • (仮題)「磨崖仏の保存施設としての覆屋の評価」
  • (保存修復科学センター・森井順之)
  • 第5回  平成20年1月8日
  • (仮題)「仏教図像の研究」
  • (企画情報部・勝木言一郎)
  • 第6回  平成20年2月12日
  • (仮題)「人形浄瑠璃文楽」
  • (無形文化遺産部・鎌倉恵子)
  • 第7回  平成20年3月4日
  • (未定)
  • (副所長・三浦定俊)

 講師等の都合により、日程や内容を変更することがあります。


脱活乾漆造の菩薩立像の調査

菩薩立像 個人蔵

 企画情報部のプロジェクト研究「美術の技法と材料に関する広領域的研究」の一環として、都内在住の個人が所有する脱活乾漆造の菩薩立像(像高77.1㎝)の調査を6月21日(木)に行いました。この脱活乾漆造とは、粘土で原型をつくり、その表面に麻布を貼り固めたのちに、像内の粘土を除去して中空にするとともに、麻布の表面に漆木屎を盛り付けて塑形する仏像制作技法であります。周知の通り、わが国におけるこの技法による仏像制作は天平時代(8世紀)に盛行しましたが、現存の作例数は極めて限られています。そのような現状にあって今回調査対象となった菩薩立像は、これまで存在が知られなかった作例であります。像は表面に後補の漆箔が認められるとともに、破損部には補修が存在するのも事実でありますが、保存状況は比較的良好であり、ほぼ完全な姿で今日に伝わっていることは特筆されてよいでしょう。渦を巻くように纏められた「螺髻(らけい)」の表現や、面部の肉取りの様子等から制作時期は8世紀の最末もしくは9世紀に入ってからのようにも思われました。ただし、脱活乾漆造の調査の常として、目視による表面観察からだけでは、ことに技法面において何層にわたって麻布貼りが行われているのか、また、どの程度、補修・後補部が像に及んでいるのかなどが、いまひとつ判然としないもどかしさが残るのも事実です。今後、所蔵者の了解を得て、X線透過撮影を行い、構造を中心に材料・技法の研究を進めて、この菩薩立像の解明を進めてゆきたいと考えます。


芸北神楽の調査

神楽ドームでの定期公演の一場面

 無形文化遺産部では、我が国における無形民俗文化財の保存・活用に関する調査研究をすすめています。この一環である民俗芸能の伝承の実態や公開のあり方に関する調査の一例として、広島県安芸高田市美土里町の神楽門前湯治村の活動の実地調査を行いました。安芸高田市美土里町(旧広島県高田郡美土里町)は、広島県北西部に伝承され、芸北神楽と総称される神楽が盛んな土地で、現在も13の神楽団が町内で活動しており、いくつかの演目や団体は、広島県の無形民俗文化財に指定されています。しかし現在この神楽がよく知られているのは、新舞と呼ばれる、戦後に創作され新たな趣向を取り入れた演目が定着し、地域の人々にひろく娯楽として親しまれるようになっているからです。そして、この新しい神楽現象のシンボル的な存在が、平成10年に美土里町にオープンした療養娯楽施設「神楽門前湯治村」と、その中にある3,000人収容の神楽専用常設舞台である「神楽ドーム」です。
 神楽ドームでは、毎週末の日曜日および国民の祝日に、美土里町の神楽団出演による定期公演を行っているほか、土曜日には付属施設の屋内舞台であるかむくら座劇場での公開練習、さらに「神楽の甲子園」とも呼ばれる「ひろしま神楽グランプリ」をはじめとする各種競演大会などが催されます。こうした公演は県内外から多くの観客を集めています。また、定期的な練習の場として開放されており、上演機会が通年的に確保されることから、美土里町の神楽団の伝承拠点としての役割も果たしています。実際に、定期公演の観客も多くは近隣の住民であるとのことであり、地域に根ざした施設であると言えます。
 こうした観賞のための上演を目的とした神楽は、きわめて新しいあり方であると思われるかもしれませんが、実際には広島県を中心とした地域では、戦前から神楽や盆踊りの競演大会が行われていたという報告もあります。現在も開催されている競演大会の最古のものでも昭和22年より続けられており、すでに50年以上の歴史を持っています。また、多くの競演大会では人気のある新舞と同時に、伝統的な演目である旧舞のわざを競う部門も設けられており、このようなイベントが伝統的な演目の伝承を支え、活性化してきたという面を見逃すこともできません。現在このような「見せる神楽」の隆盛は、島根県や岡山県にも広がってきています。
 経営面の安定や、神楽の変質への危惧、主な出演団体を美土里町の神楽団に限るべきか否かなどの問題も指摘されていますが、このように文化の伝承や地域のアイデンティティの形成に一定の効果を挙げていることが認められています。民俗芸能の現代における伝承実態の興味深い例であると言えるでしょう。


国宝 高松塚古墳壁画の保存修復

東第一石(男子群像)の表打ち作業
東第二石(青龍)の表打ち除去

 2007年4月から開始した高松塚古墳の石室解体も、6月26日に西第一石(男子群像)が解体され仮設修理施設へ移動したことで、残すは床石のみとなりました。東京文化財研究所では、高松塚古墳壁画の保存に関して、壁画養生・修復、環境・生物調査の分野で寄与しています。
 6月には、7日:東第二石(青龍)、14日:西第二石(白虎)、15日:南壁石、22日:東第一石(東男子群像)、26日:西第一石(西男子群像)の順に解体・移動が行なわれました。壁画養生・修復班では、安全に壁画を移動できるように、石間に被っている漆喰を取り外し、化繊紙を用いた画面の表打ちを行ないました。表打ちは、カビ発生のリスクを低減するように、材料や作業時期を考慮して行いました。また石が搬出される都度、古墳内では、環境・生物調査班が微生物の調査を行ない、壁画周囲の湿度を一定に保つための囲いをとりつけるなどの作業を行ないました。
 仮設修理施設にて受け入れた石材は、写真撮影・サンプリング・クリーニングを行なったうえで修理作業室に移動します。その後、画面表打ちの除去を行ったうえで、壁画面の状態を観察・記録し、これから長い期間をかけて行なう壁画修理に必要な情報収集を行なっています。


インドネシア・プランバナン遺跡復興専門家会合

プランバナン寺院ガルーダ祠堂

 2006年5月27日に発生したジャワ島中部地震により被災した世界遺産プランバナン遺跡群については、昨年度に派遣した調査団により被害状況、修理履歴、地盤、構造体の振動特性などの基礎的調査を行っています。2007年6月29日、30日の2日間にわたり現地で開催された専門家会合では、インドネシア側が行った地盤や構造体の調査も含めてこれまでに実施した調査結果についての総合的な検討を行いました。これに基づいて一部解体を含む修理の方針や手順などについて基本的な方向付けが出来ました。また、具体的に修理設計を進めていくためにさらに必要な調査事項について協議しました。
 日本からの技術協力の内容としては、遺跡群の中枢をなし早期公開が望まれているプランバナン寺院について、本年度中に修理設計を取りまとめるために必要な支援を行うことです。具体的には、地震計を設置して構造体の振動特性をさらに明らかにした上で必要な構造補強方法を提示すること、オルソ画像を作成した上で、これに各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整えることです。このため、9月以降に再度の現地調査を予定しています。


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