研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


美術雑誌『みづゑ』をめぐる知の発信と活用――第4回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 現在、文化財情報資料部では所蔵資料のデジタル化、オープンアクセス化を積極的に進めています。https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/822941.html

 なかでも他の資料に先駆けて2012(平成24)年にウェブ公開を行なったのが、1905(明治38)年創刊の美術雑誌『みづゑ』です。これは当研究所と国立情報学研究所が共同で開発したもので、明治期に刊行された同誌の創刊号から90号までの誌面がウェブ上で見られるようになっています。http://mizue.bookarchive.jp/
 2020(令和2)年10月8日に開催された文化財情報資料部研究会では、『みづゑ』ウェブサイト開発メンバーの一人である丸川雄三氏(国立民族学博物館准教授、当研究所文化財情報資料部客員研究員)に「近代美術研究における関係資料の発信と活用」の題でご発表いただきました。同サイトではすでに記事の執筆者ごとのインデックスが整備されていますが、丸川氏はさらに検索機能を拡張し、インデックスの充実を進めています。インデックスを充実させることで専門化と普遍化の両立を図り、専門の垣根を越えた情報の共有が可能となると丸川氏は指摘し、国内外のさまざまな地域の情報をもたらす『みづゑ』所載の画や文章を例に、美術史の専門家ではなかなか気づきにくいフィールドノートとしての魅力を提示されました。そうした無限の可能性を秘めた知の発信と活用は、おりしも丸川氏が国立民族学博物館で担当の展覧会「知的生産のフロンティア」(2020年9月3日~12月1日)で取り上げた民族学者・梅棹忠夫氏の提唱した“知的生産の技術”にも、時代を超えて通ずるものがある、というコメントも印象的でした。


大分県立埋蔵文化財センター企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」オープニング記念講演会での講演

大分市平和市民公園能楽堂における講演の様子

 豊後国(大分県中南部地域)は安土桃山時代にキリシタン大名として著名な大友宗麟が統治し、フランシスコ・ザビエルを始めとする多くのヨーロッパ人宣教師らが布教を行ったという歴史を持つ土地です。令和2年(2020)年10月10日(土)から12月13日(日)まで、大分県立埋蔵文化財センターにおいて、この地における南蛮文化やキリスト教とのかかわり、また近年大きな成果を上げつつあるさまざまな南蛮遺物の理化学的分析研究結果を紹介する令和2年度企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」が開催されました。
 この展覧会では大友氏の拠点都市であった豊後府内遺跡から出土した陶磁器類などの南蛮遺物、そして津久見市が長い年月をかけて収集してきた南蛮漆器や絵画などを中心に、国内各地に所蔵される関連作品によって展示が構成されましたが、文化財情報資料部広領域研究室長の小林公治は同センターからの依頼を受け、10月10日開催のオープニング記念講演会において「キリスト教の布教と南蛮漆器―理化学的分析の検討、メダイ研究との対比から―」と題して、この展覧会の展示内容と相関するキリスト教器物南蛮漆器への最新研究成果に焦点を当てた講演を行いました。
 新型コロナウイルスへの感染リスクを減らすため、当日は着席間隔を大きく空けての会場設営となりましたが、およそ200名もの参加者があり、南蛮文化とキリスト教布教史に対するこの地の深い関心をうかがい知ることができました。


第54回オープンレクチャーの開催

オープンレクチャー講演風景

 文化財情報資料部では、毎年秋に広く一般の聴衆を募って、研究者からその研究の成果を講演する「オープンレクチャー」を開催しています。今年は「かたちからの道、かたちへの道」のテーマのもとでの講演の5年目となります。例年2日間にわたって外部講師を交えて開催してきたところですが、本年の新型コロナ感染防止の情勢から、内部講師2名、1日のみとし、2020(令和2)年10月30日、聴衆の定員も抽選制による30名に限定したうえ、検温、マスク、手指の消毒を徹底して開催しました。
 本年は、文化財情報資料部長兼近・現代視覚芸術研究室長・塩谷純による「近代日本画の”新古典主義“-小林古径の作品を中心に-」、および文化財情報研究室長・二神葉子による「タイに輸出された日本の漆工品-王室第一級寺院ワット・ラーチャプラディットの漆扉を中心に-」の2講演が行われました。
 塩谷からは、昭和戦前期に小林古径に代表される日本画において、洗練された静謐な画風が興ったこと、これらが、日本あるいは中国の古い絵画作品からの影響を受け入れた側面があることを多数のスライドや資料とともに紹介されました。二神からは、1864年、タイ・バンコクにラーマ4世王の命により建立された、ワット・ラーチャプラディットに日本の漆製の扉絵が使用されていることを紹介し、その他日本から輸入された漆製品に関するものも交え、これらについて行われた光学調査の所見を交えつつ講演が行われました。
 聴衆へのアンケートの結果、参加者の9割以上から「満足した」、「おおむね満足した」との回答を得ることができました。


令和2年度保存担当学芸員研修の開催

生物被害対策に関する講義 
文化財の科学調査に関する講義

 令和2(2020)年10月5日から15日の日程で保存担当学芸員研修を開催しました。多くのご応募をいただきましたが、感染症対策のため例年の半数に絞って17名の学芸員等のみなさまに受講いただきました。 昨年度から引き続き独立行政法人国立文化財機構文化財活用センター(以下、ぶんかつ)との共催での研修となり、第一週をぶんかつが担当し、第二週を当所が担当しました。感染症対策として、検温、消毒、「3密」の回避を徹底し、実習は手袋や消毒の利用、受講生それぞれに教材を配布する等の工夫をした上で実施しました。
 ぶんかつが担当した第一週は保存環境の基礎知識について座学形式で講義を行い、文化庁、ぶんかつ、当所の3者が共同で対応している「博物館等でのウイルス除去・消毒作業」に関する指導・助言についての報告も行われました。第二週は保存科学研究センターの各研究室が半日単位で受け持ち、座学や実習を行いました。文化財を保存、修復するための理念や自然科学の基礎知識を応用して現場の課題へ取り組む方法等の幅広い内容についての講義を行い、受講者の方々からは有益であったとの意見をいただきました。最終日には今年10月に発足した文化財防災センターの高妻センター長をお招きして「博物館の防災」についてご講義いただき、ミュージアムが文化財防災に果たす役割について考える貴重な機会となりました。
 令和3(2021)年度も時代のニーズに合ったよりよい研修を提供できるよう努めてまいります。


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