研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


寄附金の受入

東京美術商協同組合中村理事長(左)と亀井所長(右)
(株)東京美術倶楽部三谷社長(左)と亀井所長(右)

 東京美術商協同組合(中村純理事長)より東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を、また、株式会社東京美術倶楽部(三谷忠彦代表取締役社長)より東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附金のお申し出がありました。
 12月17日、東京美術倶楽部においてありがたく拝受し、ご寄附をいただいたことに対して、東京美術商協同組合中村純理事長並びに株式会社東京美術倶楽部三谷忠彦代表取締役社長にそれぞれ、亀井所長から感謝状を贈呈しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変ありがたいことであり、今後の研究所の事業に役立てたいと思っております。


12月施設見学

文化財アーカイブズ研究室長による説明を受ける様子

 袖ケ浦市郷土博物館 10名
 12月7日、地域の文化財等について調査・活用できる人材育成を目指して実施しているフィールドワーク入門講座の受講生が文化財と文化財保護についての正しい知識を学び今後の活動に活かすために来訪。無形文化遺産部飯島部長、保存科学研究室吉田室長、文化財アーカイブズ研究室津田室長による説明を受けました。


企画情報部研究会の開催―「「紅白芙蓉図」改装の可能性と受容について」

企画情報部研究会

 企画情報部では、2015年12月22日、研究会を開催し、保存修復科学センターの石井恭子が「「紅白芙蓉図」改装の可能性と受容について」と題して発表を行いました。中国・南宋時代の絵画で李迪の落款(1197年)がある東京国立博物館蔵の国宝・「紅白芙蓉図」に関するものです。発表では赤外線やX線などを含む各種光学調査による細部の描写や後世の補彩に関する知見が報告され、また、残された損傷の詳細な地図から考えられる改装の可能性が述べられました。両図にはそれぞれ大きな縦折れの痕跡があります。現在は白と赤の芙蓉図が掛幅装の対幅として伝えられていますが、この縦折れと補彩からは、はじめこの絵が画巻として作られたものであり、トリミングされた上で掛幅とされた可能性が考えられます。さらに江戸時代初めにはすでに各図が独立したものであったと考えられ、日本で独自の価値が付加されたことも言及されました。両図の大きな二本の縦折れは、各図等間隔で、通常の画巻に生じる縦折れと性質が異なっています。これが生じたことにはどのような可能性が考えられるか、画巻であったとすると現状の落款に疑問が生じないか、など興味深い問題点が明らかになり、このような諸点について活発な議論を行うことができました。


第10回無形民俗文化財研究協議会の開催

総合討議の様子

 12月4日(金)に第10回無形民俗文化財研究協議会が開催され、「ひらかれる無形文化遺産―魅力の発信と外からの力」をテーマに、4名の発表者と2名のコメンテーターによる報告・討議が行われました。
 東日本大震災以降の復興の過程においては、被災して甚大なダメージを受けた地域が「外の力」を取り込んでいくことで、結果的に文化継承が図られたという例が数多く報告されています。I・Uターン者や観光客、あるいはコミュニティの中でそれまで伝承に関わってこなかった層が新たに伝承を担うようになったり(伝承者の拡大)、新たな観客や支援者層に対して伝承を発信していったり(享受者の拡大)、様々なかたちで無形文化遺産を外に向かって「ひらく」際に、どのような仕組みや方法が必要になるのか、またそこにどのような課題や展望があるのか。今回は被災地域に限らず、過疎高齢化や都市化によって疲弊する全国各地に対象を広げ、「外からの力」と文化継承について議論を交わしました。
 青森、山形、広島、沖縄の四つの地域からの報告やその後の討議を通して、魅力を発信する方法や仕組みづくりといった具体的な話から、“伝統”と変容をどう捉えるか、文化を伝承していくということが地域にとってどのような意味を持っているのかといった話まで、多岐に及ぶテーマが出されました。その中で、四つの地域いずれも、最初から外の力に頼って伝承を繋げていこうとするのではなく、まずは伝承者やそれを取り巻く地域の方々が伝承の在り方についてきちんと議論し、葛藤する中で進むべき道を選択してきたという姿が印象的でした。今回の協議会は例年より多くの方にご参加いただき、なおかつ、保存団体の方など実際に伝承を担っている方の参加が目立ちました。無形文化遺産を「ひらく」ということへの問題関心の高さが浮き彫りになったと同時に、伝承の問題が当事者の方々にとっていかに切実なものになっているかということについても、認識を新たにさせられました。
 協議会の内容は2016年3月に報告書として刊行し、後日無形文化遺産部のホームページでも公開する予定です。


第10回無形文化遺産部公開学術講座の開催

公開講座の実演風景

 12月18日、「邦楽の旋律とアクセント ― 中世から近世へ ― 」というタイトルで、公開講座を行いました(於平成館大講堂)。中世芸能の能(謡)と近世芸能の長唄を取り上げ、国語学者の坂本清恵日本女子大学教授と共同で、日本語のアクセントが歌の旋律にどの程度影響を与えているのか対応関係を考察したあと、桃山時代の旋律を復元した謡「松風」と、長唄「鶴亀」の実演を楽しみました。ジャンルによって影響関係が異なり、時代の推移とともに変化もしたこと、等が判明しました。入場者は285名。講演と能楽師・長唄演奏家の実演がクロスした内容に、興味深かったとの感想が多く寄せられました。


「無形文化遺産と防災―伝統技術における記録の意義」研究会開催

箕の工程作業実演の様子

 12月22日、「無形文化遺産と防災―伝統技術における記録の意義」と題した研究会を行いました。本研究会は、文化遺産防災ネットワーク推進事業の一貫として東京文化財研究所が担っている「文化財保護のための動態記録作成」事業において行いました。無形文化遺産は「かたち」をもたない文化遺産なので、防災・減災を考えていくのに、記録を活用するのが重要な要素の一つとして考えられています。
 今回は東日本大震災で被災した地域のうち、福島県の放射能被害のあった地域における伝統技術を取り上げて、被災前の記録と、被災後の記録から、防災・復興にむけてどのようなことが行われているのか、2つの事例が紹介されました。
 紹介された事例は福島県浪江町の「大堀相馬焼」と南相馬市の「小高の箕作り」です。「大堀相馬焼」の事例では、災害後に浪江町から工房を移転して新たに復興を目指している現状が紹介されました。また「小高の箕作り」の事例では、災害前の映像記録から技術の復元を試みられており、映像記録から判別できた技術の習得について、実際に工程作業の一部を披露されながら無形文化遺産における記録の意義について議論が交わされました。
 無形文化遺産の防災は、さまざまなケースが考えられるため、必ずしもこれで良いのだと言い切れないことも多くあります。今後も議論を重ね、文化遺産の防災や、減災への貢献を目指していきたいと思います。


ネパールにおける文化遺産被災状況調査(その2)

カトマンズ・ハヌマンドカ王宮アガムチェンでの被災状況調査
被災建物回収部材の管理と記録に関するワークショップ
コカナでの被災状況調査

 文化庁委託による標記「文化遺産保護国際貢献事業」の一環として、11月21日から12月8日まで、ネパールでの現地調査を実施しました。
 今回の調査では、9月におこなった世界遺産「カトマンズ盆地」周辺における被災文化遺産の概況調査の結果を踏まえて、構成資産であるカトマンズ・ダルバール広場と、暫定リスト記載で古い街並が残るコカナ集落を対象としました。
 カトマンズ・ダルバール広場では、建築班による「被災状況調査」、構造班による「3D計測」「常時微動計測」を実施しました。また、緊急的保護対策として、倒壊した建造物から回収された部材の適切な管理と記録について、部材の整理・格納を試行するとともに、記録手法の検討をおこない、この課題に取り組む現地の職員へのワークショップを通じてタイミングよく参考例を示すことができました。
 一方、コカナでは、沿道の建造物の「被災状況」「形態変容」「構造」のほか、「無形文化遺産」「水質」等の多角的な調査を実施しました。被災した歴史的都市における「迅速な住居の再建」と「歴史的な街並の継承」という二つの課題は、被災住民からは相反するものとして捉えられがちです。しかし、この難題に立ち向かって歴史継承に意欲的な現地住民組織『コカナ再生・再建委員会』と連携し、文化遺産の視点からの情報を的確に収集することで、再建計画の立案に寄与すべく調査をおこないました。
 今後も継続的な調査を予定しており、その成果を現地側へ迅速に還元できるよう努めていきたいと思います。


カレンダー2016「文化財を守る日本の伝統技術」の作成

2016年 卓上版カレンダー表紙
2016年 壁掛け版カレンダー1月「錺金具」

 文化遺産国際協力センターでは、文化財の保存のために必要不可欠な選定保存技術に関する調査を進めています。選定保存技術保持者および選定保存技術保持団体の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。この調査の成果公開・情報発信の一環として、2016年の海外向けのカレンダーを2種類(卓上型・壁掛け型)作成しました。このカレンダーは「文化財を守る日本の伝統技術」と題し、2014、15年度に実施した調査の中から、錺金具・たたら製鉄・日本刀・鬼瓦・檜皮葺・苧麻糸手績み・邦楽器原糸・昭和村からむし・粗苧・漆掻き・漆掻き用具・琉球藍・杼の製作技術を取り上げました。全ての写真は当所企画情報部専門職員・城野誠治の撮影によるもので、それぞれの材料や技術の持つ特性を明確に示す一瞬をとらえる視覚的効果の高い画像で構成し、各図の解説は英語と日本語で掲載しています。このカレンダーは諸外国の文化財関係の省庁・組織などに配付し、広く海外の人々に日本の文化財を守り伝える技術や日本文化に対する理解の促進につなげていきたいと思います。


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