研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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酒呑童子絵巻(根津美術館所蔵)デジタルコンテンツ
伝狩野山楽筆「酒呑童子絵巻」トップページ
住吉弘尚筆「酒呑童子絵巻」第3巻第3段部分
令和7(2025)年5月に東京文化財研究所資料閲覧室内での画像閲覧専用端末で、住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」(6巻、ライプツィヒ・グラッシー民族博物館蔵、以下ライプツィヒ本)のデジタルコンテンツの公開を開始したのに続き[令和7(2025)年5月活動報告:https://www.tobunken.go.jp/
materials/katudo/2391511.html]、根津美術館所蔵の伝狩野山楽筆(3巻、以下伝山楽本)と住吉弘尚筆(8巻、以下弘尚本)の酒呑童子絵巻のデジタルコンテンツを限定公開しました。伝山楽本は謹直な描線と濃密な彩色によって絵巻という画面形式を最大限活かして酒呑童子の物語が躍動的に表されています。また弘尚本は他に例のない8巻からなる酒呑童子絵巻として根津美術館での展覧会などでも注目され、ライプツィヒ本を継承する作品です。絵巻という横に長く続く画面形式から、伝山楽本も弘尚本も、絵巻全体の画像を概観することのできる紙の書籍などは存在していません。コピーやプリントアウトなどはできない閲覧限定コンテンツですが、豊富な描写内容を持つ絵巻の各場面を自由に拡大して見ることができます。研究資料としてご活用いただければ幸いです。
https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/
library/library_collection/index.html
このデジタルコンテンツは科研費・基盤研究B「酒呑童子絵巻の研究」(22H00623)の成果の一部です。
今年のヨシ原焼き(2026.2.15)
無形文化遺産部では、無形文化財を支える原材料の調査・研究も行っています。雅楽に用いられる篳篥の蘆舌(リード)の適材として知られる、大阪府高槻市の淀川河川敷、上牧・鵜殿地区のヨシ。毎年2月に行われてきた恒例のヨシ原焼きが、荒天とコロナ禍で2年続けて中止されてから5年が過ぎました。ヨシ原焼きが2年途絶えたことで、ツルクサが繁茂してヨシに巻き付いて枯死が進んでしまったことが課題でしたが、今年にかけてヨシ原の保全に向けた動きに変化がありました。
ツルクサの除草は、これまで雅楽協議会内のヨシ対策室が中心になって寄付やボランティアを募り、ウェブサイト上で情報発信しながら対応してきましたが、一方で安定的で継続性のある枠組みも模索されてきました。令和5(2023)年、雅楽演奏に欠かせない上牧・鵜殿のヨシの安定的な入手が一つの発端となって、一般社団法人雅楽協会が設立されました。ここに国の重要無形文化財「雅楽」の保持者である宮内庁式部職楽部部員が設立準備段階からかかわり、協会に加盟したことは、国の重要無形文化財と上牧・鵜殿のヨシを繋ぐ一つの道筋ができたことを意味します。
さらに、雅楽の継承と当該地のヨシ原保全に連携して継続的に取り組むべく、令和7(2025)年6月、一般社団法人雅楽協会、地域の鵜殿のヨシ原保存会、上牧実行組合と高槻市が連携する「雅楽の楽器『篳篥』用ヨシ保全コンソーシアム1」が設立され、オブザーバーとして文化財行政を司る文化庁と当該地を管轄する国土交通省が名を連ねました。連動して、無形文化財(雅楽)とその原材料(ヨシ)の関係の重要性を広く知ってもらうための普及事業も活発化しています。
またこれらの体制が整ったことを受けて、令和7年度(2025)9月1日付で、文化庁の文化財保存事業費の国宝重要文化財等保存・活用事業費補助金(篳篥用ヨシ保全事業の補助金)が補助事業者・ヨシ保全コンソーシアムに対して交付決定されました(事業区分「文化財保存技術」)。また高槻市も「雅楽の楽器『篳篥』用ヨシ保全事業補助金」を交付決定し、篳篥用ヨシの安定的な確保に向けた調査を行い、次年度からの本格的な除草作業に備えています。
まさにヨシ原保全のためのスキームが実働し始めている当該地で、令和8(2026)年2月15日、恒例のヨシ原焼きが実施されました。当日は高槻市長はじめ、市役所関係者や一般社団法人雅楽協会関係者も立ち合い、また一般のヨシ原焼き見学者からは「ここのヨシは雅楽の楽器に使われているらしい」という会話も聞こえていました。
無形文化遺産部では、無形文化遺産を支える原材料保全の動向についても、引き続き調査研究を継続していきます。また、令和8(2026)年3月末には、無形文化遺産部より『篳篥蘆舌の原材料・ヨシに関する報告書―淀川河川敷 上牧・鵜殿を中心に―』が刊行されます。ご一読いただければ幸いです。
1以下本稿では「ヨシ保全コンソーシアム」と略す。
無形文化遺産部では、継承者がわずかとなり伝承が危ぶまれている「平家」(「平家琵琶」とも)の実演記録を、平成30(2018)年より「平家語り研究会」(主宰:武蔵野音楽大学教授薦田治子氏、メンバー:菊央雄司氏、田中奈央一氏、日吉章吾氏)の協力を得て実施しています。第八回は、令和8(2026)年2月19日、東京文化財研究所 実演記録室で《紅葉》(前半)と《横笛》(全曲)を収録しました。
《紅葉》の前半は、題名にもなっている紅葉をめぐる高倉天皇のエピソードが中心です。高倉天皇即位当初のこと、紅葉する木を植えて愛でるほど紅葉を好んでいた高倉天皇ですが、ある日役人が、こともあろうに紅葉が風で散っていたものを集めて焚き火をし、その火で燗酒を楽しんでしまいました。その不始末を、高倉天皇は咎めないばかりか笑みをたたえ、風流だと感じ入ったというのです。役人の不始末に気を揉む蔵人の描写は、平家の物語としてはおかしみも感じるやや珍しい部分です。このエピソードの最後は「林間に酒を煖めて紅葉を焼く」という白居易の詩を引き合いに、役人の行動に感じ入る高倉天皇の柔和さを象徴するようにして、ゆっくりと締めくくられます。
《横笛》は、滝口入道と横笛の悲恋がテーマです。滝口入道は、恋人である横笛との仲を許されないことから出家を決心して旅立ちます。後を追ってきた横笛にも、滝口入道は心が揺らぐのを恐れて会いません。この心の葛藤を描く場面が《横笛》のクライマックスですが、平家ではここを「白声」という曲節で語ります。白声は、節(旋律)があまりなく平坦で、淡々とした語り口で語られます。このように劇的な場面を、どちらかというと平坦な表現で語ることによって、かえって悲劇性が際立ちます。非常に情緒的な場面を表現する際に、逆に粛々と詞章や音を運ぶような表現手法は、三味線音楽でも時折みられます。
無形文化遺産部では、現在伝わっている平家の前田流のうち、当道の流れを汲む名古屋の伝承曲の習得、その上で行われている復元に注目して実演記録「平家」を実施してきましたが、いよいよこの事業も最終盤です。次年度の第9回をもって実演記録「平家」の一区切りとし、令和8(2026)年12月8日(火)に、この収録を含めた公開研究会を企画しています。どうぞご注目ください。
専門家会議の様子(於:東京文化財研究所)
文化庁でのミーティングの様子
東京文化財研究所は令和7(2025)年度文化庁緊急的文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)を受託し、「スーダンの被災博物館の保存・修復方針の策定に係る事業」を実施しています。このたび本事業の一環としてスーダン共和国から4名の専門家を日本に招へいし、令和8(2026)年2月24日から27日にかけて専門家会議およびコンサルテーション・ミーティングを開催しました。この事業は、当研究所が令和7(2025)年度文化庁文化遺産国際協力拠点事業「スーダンの文化遺産専門家等の能力強化ワークショップ事業」を受託し、令和8(2026)年8月にワークショップと関連シンポジウムを東京で開催した成果
(https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/2398816.html)を受けて実施されました。
スーダン共和国では令和5(2023)年4月に武力紛争が勃発し、今なお多くの文化遺産や博物館が危機的な状況にさらされています。本事業は、武力紛争によって被災した博物館を復興するための専門的な助言を行うことを目的としています。
2月24日には東京文化財研究所で専門家会議を開催しました。続く25日から27日にかけては、文化庁、外務省、国際協力機構(JICA)および国立民族学博物館を訪問し、それぞれ専門的な助言を受けるコンサルテーション・ミーティングを開催しました。
今回、日本に招へいした4名の専門家は以下の通りです。
・ Abdelrahman Ali氏(ユネスコ・ハルツーム文化部門長/前スーダン国立古物博物館機構局長)
・ Khalid Fathalrahman氏(イスラム世界教育科学文化機関(イセスコ)文明対話センター所長)
・ Shadia Abdrabo氏(スーダン国立古物博物館機構副局長(博物館部門))
・ Elnzeer Tirab氏(スーダン国立民族学博物館館長)
来日した4名の専門家はいずれもスーダン共和国の博物館および文化遺産の保護に責任のある人物であり、そうした方々を招いた専門家会議を日本で開催出来たことは、スーダンの文化遺産を取り巻く現状を認識し、今後の文化遺産の復興の手法について考えるうえで有意義なことでした。
なお本事業の開催に際し、駐日スーダン共和国大使館のElrayih Mohamed Elawad Hydoub大使およびAli Mohamed参事官の全面的な協力を得ました。感謝して記します。
岩窟内のシート養生と計測器設置の様子
2月の現地調査時の那谷寺本堂
保存科学研究センターでは、那谷寺からの依頼を受けて岩窟内に建てられた木造建造物の保存環境整備に関する調査研究を行っています。石川県小松市の那谷寺は、土着の白山信仰と仏教が融合した寺院であり、重要文化財である木造の本殿は自然の浸食によって形成された岩窟内に建てられています。このような環境では、地盤からの水分供給や岩盤の高い熱容量の影響により高湿度状態となりやすく、結露や木材腐朽といった湿害リスクが生じます。
これまで、岩窟内の温湿度の長期計測により高湿度の要因を分析し、その結果に基づいて季節に応じた換気対策を実施してきました。その成果は「保存科学」第65号にまとめています。これらの対策により、岩窟内の湿気環境の改善に一定の効果を確認しています。特に冬季には、気密性を上げて冷たい外気の侵入を抑制することで、木造本殿での結露抑制と岩窟内の湿度低下に効果があることが分かりました。一方で、地盤からの水分蒸発の影響が相対的に大きくなる点が課題として残されています。
そこで令和7(2025)年秋より、冬季限定の新たな対策として、地盤からの水分蒸発を抑えるための簡易的なシート養生を開始しました。令和8(2026)年2月には設置後の状況確認を行い、現時点では問題が生じていないことを確認しています。今後は測定データの分析を進め、その効果の検証と適切な運用方法の提案を行う予定です。
2月の現地調査は積雪下での実施となりましたが、岩窟内は屋外に比べて暖かく、自然のシェルターとしての特性を体感する機会ともなりました。文化財の保存環境整備は、気候や立地など多様な要因と向き合う必要があります。今後も環境との調和を図りながら、最適な環境制御手法の検討を進めていきます。
ワークショップでのグループディスカッションの様子
棟飾りの一部
東京文化財研究所とアンコール・シェムリアップ地域保存整備機構(APSARA国立機構)は、タネイ寺院遺跡における協力事業の一環として、タネイ遺跡中央伽藍の正面に位置する十字テラスの保存修復に向けた予備調査を継続しています。 これまでの調査から、シェムリアップ市内にあるアンコール保存事務所に保管されている彫像や欄干部材の中にタネイの十字テラスの構成部材が存在することが明らかとなっていました。そこで、アンコール保存事務所に保管されているタネイ由来の欄干部材と、十字テラスの周囲に散乱していた欄干部材を、それぞれデジタル3次元計測で記録し、デジタル空間上で部材の仮組みを試みることにしました。この作業は、令和8(2026)年1月21~22日に「十字テラスの修復に向けた実践ワークショップ」として実施し、APSARA国立機構、アンコール保存事務所、アンコール国立博物館、シェムリアップ州文化財課から計約20名が参加しました。2日間のワークショップでは、参加者が各自のスマートフォンにダウンロードした無料の3次元計測アプリを使ってアンコール保存事務所とタネイ遺跡現地にある部材をそれぞれ記録し、さらに、グループディスカッションとして、記録した3次元モデルを確認しながら、別々の場所にある部材がどのように接合できるかの検討を行いました。その結果、複数の部材を接合できる可能性がみえてきたことは、今回のワークショップの大きな成果となりました。 このほか1月末に現場で行った作業としては、十字テラス周囲の発掘区に残していた2か所のベルトを掘り下げました。十字テラスが接続する矩形テラスの東側前面付近では表層から屋根瓦の散布が確認されており、今回も多くの瓦片が出土しました。併せて、これまでの調査で出土した考古遺物の整理作業にも着手し、棟飾りや軒丸瓦などの屋根材を同定したほか、クメール陶器に典型的なバラスター壺や波状沈線文の施された黒釉陶器、複数の輸入陶磁器など、遺物のバリエーションが確認されました。今後さらに精査し、タネイ寺院遺跡における出土遺物の特徴を明らかにしていきます。
セインズベリー日本藝術研究所での協議
SOASでの講演
イギリス・ノリッチに所在するセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures、以下SISJAC)は、ヨーロッパにおける日本芸術文化研究の主要拠点の一つです。東京文化財研究所では、平成25(2013)年より、同研究所との共同事業を継続的に実施しています。
文化財情報資料部では、この共同事業の一環として、毎年研究員をイギリスに派遣し、関係者との協議や講演を行っています。令和7(2025)年度は、田代裕一朗および吉田暁子の2名が訪英しました。
今回の訪英では、まず12月4日、イースト・アングリア大学のアーラム・ホールにて、田代が「Japanese Residents of Colonial Korea and Their Relationship with Ceramics(植民地朝鮮の日本人と陶磁器)」と題した講演を行いました。本講演は、SISJAC所長のサイモン・ケイナー氏、ならびにイースト・アングリア大学教授のラー・メイソン氏による講演とあわせて開催され、講演後には三氏によるディスカッションも行われました。
講演後、田代と吉田は、准教授ユージニア・ボグダノヴァ=クマー氏をはじめとするSISJACのメンバーと、今後の共同事業について協議を行いました。ここでは、次年度に講演を予定している吉田がプレゼンテーションを行い、意見交換を通じて、次年度以降のより建設的な研究交流の在り方について話し合いました。
翌12月5日には、ノリッチからロンドンへ移動し、ユージニア氏の司会のもと、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)にて、田代が「Japanese “Kottō” Culture and Korean Ceramics(日本の骨董文化と韓国の陶磁器)」と題した講演を行いました。講演後には、同学院で学ぶ学生たちとのディスカッションも行われました。
文化財情報資料部では、このような研究交流に加え、欧米圏で開催された日本美術展覧会に関する情報を集積するデータベース事業も、SISJACと共同で進めています(※)。今後も「研究」と「アーカイブ」という二つの柱を軸に、SISJACとの連携を一層強化し、日英両国の学術研究に寄与していければ幸いです。
(※) 美術展覧会・映画祭開催情報(日本国外)
令和7(2025)年12月18日、韓国の国立現代美術館の一行が、東京文化財研究所を来訪しました。同館は昭和44(1969)年に開館した文化体育観光部傘下の国立美術館で、現在、果川館、ソウル館、徳寿宮館、清州館の4館を運営しています。日本の多くの現代美術館とは異なり、近代美術も収集・研究の対象に含めている点に特色があり、韓国の近現代美術を代表する美術館として知られています。
文化財情報資料部では、6月にプロジェクト「文化財に関する調査研究成果および研究情報の共有に関する総合的研究」(シ01)の一環として、「韓国における美術アーカイブの現況調査」(※)を実施し、その際に国立現代美術館のアーカイブを見学調査しました。今回はその逆に、韓国から日本を訪問する形となり、アーキビストのイ・ジヒ学芸研究士をはじめ、パク・ヘソン学芸士、パク・スジン所蔵品管理課長の計3名が東文研を来訪しました。
今回の来訪に先立ち、6月に韓国を訪問した橘川英規(近現代視覚芸術研究室長)と田代裕一朗(文化財アーカイブズ研究室 研究員)は、10月15日に国立現代美術館のアーカイブ関係者とオンラインミーティングを行い、東京文化財研究所の沿革や、コレクション(所蔵資料)の形成過程およびその特質についてプレゼンテーションを行いました。こうした事前の交流を踏まえ、今回は「実際に資料を見る」ことに主眼を置いた案内が行われました。
一行は、橘川および田代の案内のもと、資料閲覧室から書庫へと順に見学を行い、数多くの資料の中から、とくに「日本に居住した韓国人(朝鮮人)美術作家」に関する画廊資料や展覧会資料を中心に閲覧しました。昭和5(1930)年に創設された帝国美術院附属美術研究所以来、東京文化財研究所では同時代的に資料を蓄積してきた経緯があり、コレクションの中でも近現代美術に関する資料がとくに充実しています。これらには、韓国の美術史研究においても重要な意義を持つ資料が数多く含まれています。一方、国立現代美術館も近現代美術を中心に資料収集を行っており、両機関のコレクションには共通点が多いといえます。
見学後の協議では、東京文化財研究所と国立現代美術館のコレクションが相互に補完し合う関係にあること、また、今後研究協力を進めていくことで、日韓両国の美術史学に寄与し得る可能性が確認されました。一過性の交流にとどまることなく、継続的に情報を共有し、交流を重ねていくことで、より実りある協力関係へと発展させていければと考えています。
※令和7(2025)年6月活動報告「韓国における美術アーカイブの現況調査」(https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/2396756.html)
【写真1】インドが提案した「ディーパヴァリ」の代表一覧表記載の瞬間
【写真2】武力紛争下における文化遺産の状況についてスピーチを行うスーダンの代表団
【写真3】政府間委員会会合の閉会後の様子
令和7(2025)年12月8日から13日にかけて、ユネスコの無形文化遺産保護条約第20回政府間委員会会合がインドのニューデリーで開催されました。会場はユネスコ世界文化遺産でもある「赤い城(ラール・キラー)」でした。東京文化財研究所からは3名の研究員がオブザーバーとして会合の様子を傍聴しました。
今回、日本から新しい案件の提案はありませんでしたが、3件の案件(「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」「和紙:日本の手漉和紙技術」「山・鉾・屋台行事」)について要素の拡張が認められました。これは既存の案件に新しい要素を加えるというもので、令和6(2024)年のサイクルから新しく始まった手続きです。例えば「和紙:日本の手漉和紙技術」はこれまで「石州半紙」「本美濃紙」「細川紙」の3つの要素によって構成されていましたが、今回新たに「越前鳥の子紙(えちぜんとりのこし)」が加わりました。
日本は現在、新しい案件の提案をするタイミングは事実上2年に一度と限られていますが、要素の拡張はその制限を受けることがありません。無形文化遺産の代表一覧表に記載された日本の案件の数は23件と変わりませんが、複数の無形文化財、無形民俗文化財、選定保存技術がその要素として加えられることとなりました。
なおこの要素の拡張は多国籍提案による案件にも適用されてきました。今回は例えば、「キルギスとカザフのユルト(チュルク民族の移動住居)製作の伝統的な知識と技能」にウズベキスタンの要素が追加され、その名称も「キルギスとカザフとカラカルパクのユルト(チュルク民族の移動住居)製作の伝統的な知識と技能」に変更されました。ユネスコは国と国との対話や相互理解を深めるという観点から多国籍提案を行うことを推奨していますので、今後こうした動きはより広がっていく可能性があります。
今回の会合では武力紛争下にあるウクライナやスーダンといった国の代表から、無形文化遺産が危機にさらされている状況への懸念とともに、文化遺産が平和構築に果たす役割の意義についても意見が表明されたのは印象的なことでした。
今回の開催国であるインドは多様な文化を有する国であることから、会合の節目やサイドイベントで伝統芸能をはじめとする様々な文化的パフォーマンスが披露されました。会合の閉会直後には会場内に楽団が現れ、参加者も事務局スタッフも分け隔てなく、その場はダンスフロアのような様相となりました。
なお次回の政府間委員会会合は中国の厦門(アモイ)で令和8(2026)年11月30日から12月5日までの日程で開催される予定です。
総合討議の様子
令和7(2025)年12月5日、東京文化財研究所において、第20回無形民俗文化財研究協議会「民俗文化財をネットワークで守り、活かす」を開催しました。
平成31年(2019)の文化財保護法改正により、文化財の「活用」が謳われるようになってすでに6年が経過しました。しかし、予算や人手が恒常的に削減されるなか、文化財を実際どのように活用していけばよいのか、暗中模索している自治体も多いのではないでしょうか。とりわけ民俗文化財の分野では、活用以前に、保存・継承そのものが大きな課題となっているのが現状です。
今回の協議会では、こうした状況に対処するひとつの方法として「ネットワーク化」に焦点を当て、民俗芸能や民俗技術といった無形民俗文化財に加え、これらと不可分の関係にある有形の民俗文化財も含めたネットワークの実践事例を取り上げ、各地の取り組みを報告いただきました。
発表と議論を通じ、ネットワークの意義や果たすべき役割が、具体的な事例をもとに再確認されました。例えば、他者の視点や比較の視点が加わることで文化財の価値が再発見されたり、前向きな意識が醸成されたりすること、あるいは課題や解決策を共有することで、岐路に立った際の検討材料や選択肢が広がること、さらには、「仲間」の存在が日常的な相談や相互の励みに繋がり、保存・継承を支える重要な要素となりうる点なども共有されました。あわせて、ネットワークを持続させるための体制づくりや、人材・財源の確保といった具体的な方策についても意見交換が行われました。
参加者からは「この協議会自体がひとつのネットワークである」という声も寄せられました。無形文化遺産部では、今後も協議会等を通じて情報の集約や発信を行い、ネットワークのハブとしての役割を果たしていきたいと考えています。
協議会の全内容は、年度内に報告書にまとめ、PDF版を無形文化遺産部のホームページでも公開する予定です。ぜひご参照ください。
案内チラシ(表面)
研究協議会風景
文化遺産国際協力センターでは例年、世界遺産を有する国内の自治体関係者を主な対象とした情報発信や意見交換を目的とした「世界遺産研究協議会」を開催しています。令和7(2025)年度は「越境する〈遺産〉-世界遺産とつながる人々の生活、信仰、環境-」と題して、私たちが文化財保護を通じて守り伝えようとしている「遺産」とはいったい何か、という根本的な問いをテーマに掲げました。12月22日に東京文化財研究所で対面開催し、全国から111名の参加を得た盛会となりました。
冒頭、鈴木地平氏(文化庁)から「世界遺産の最新動向」と題して、昨年7月にパリのユネスコ本部で開催された第47回世界遺産委員会における議論や決議等の概略を報告いただいた後、当センター国際情報研究室長・金井健が趣旨説明を行い、本会の幕を開けました。その後、伊藤文彦氏(三重県斎宮歴史博物館)が、有形・無形・景観・史跡といった様々な価値が集合した遺産の代表格である「道」をテーマに「複雑な文化遺産における〈遺産〉の捉え方」、続いて文化遺産国際協力センターアソシエイトフェロー・松浦一之介が景観との関係における遺跡保護の観点から海外先進地の比較事例として「世界遺産〈アグリジェントの考古地区〉とシチリア州考古公園システム」と題した講演を行いました。また、胡光氏(愛媛大学)が四国4県の合同で世界遺産登録を目指している「四国遍路」、土屋みづほ氏(大阪府教育庁)が皇室ゆかりの現役の墓地(陵墓)であり、かつ近年は熱心な古墳ファンも多い世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を取り上げ、遺産としての価値づけや保存活用の具体的な取り組みについて、それぞれ事例報告を行いました。後半は、登壇者の全員参加によるパネルディスカッションを行い、遺産の価値の源泉は何か、その価値を守り、強化するための方法、そして世界遺産における「遺産」の意味づけについて活発な議論が交わされました。
これらの講演、事例報告、パネルディスカッションの内容は、年度末に報告書にまとめて公開する予定です。また、過年に開催した世界遺産研究協議会についても報告書として刊行し、一部は既に当センターのウェブサイトで公開しています。ぜひご覧ください。
ナーガ欄干材の移動の様子
移動後のナーガ欄干材仮置き場の様子
アンコール・シェムリアップ地域保存整備機構(APSARA国立機構)とのタネイ遺跡における協力事業では、中央伽藍の正面に位置して寺院景観上も重要な構成要素である、十字テラスの保存修復に向けた予備調査を令和6(2024)年より継続しています。このテラスは、樹木の生育やテラス内部を構成する盛土の流失等により、多くの箇所で変形・崩壊が進行した状態にあります。さらに、テラス側壁の中間層を中心に、構成材の一部が人為的に持ち去られていることがここまでの調査で判明しており、このことも荒廃の一因と考えられます。
テラス周辺に散乱していた石材の発掘調査では、これまでに計152材を発見してきました。形状や装飾を手掛かりに材の種別を同定したところ、テラス上面の外周を縁取るナーガ(蛇)を象った欄干の構成材がその約半数を占めていました。令和7(2025)年11月16日~12月4日に職員2名を派遣し、これらのナーガ欄干材を回収して一時保管場所に移動、整理する作業をAPSARA国立機構のスタッフとともに行いました。各部材の記録と並行して、材同士の接合関係や技法に関する調査を行った結果、計4材の欄干材を複数の破片から再構成できたほか、材同士を接続する技術などの発見にもつながりました。
これまでの調査経過は以下の活動報告からご覧いただけます。
– 予備調査(1) https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/2385236.html
– 予備調査(2) https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/2398781.html
講演風景(藤岡奈緒美氏)
名古屋城本丸御殿障壁画の帝鑑図(ガラス乾板)
文化財情報資料部では、研究の成果を一般の方に向けて発表する機会として、毎年秋に「オープンレクチャー」を企画しています。このたびの「第59回オープンレクチャー かたちを見る、かたちを読む」は、令和7(2025)年11月13日、14日の2日間にわたって、東京文化財研究所セミナー室で開催し、4名の研究者が講演をおこないました。
1日目の講演のうち、「「銘文」を考える」(文化財情報資料部研究員・月村紀乃)では、作品研究において重要な手がかりとなる「銘文」に注目し、文字の形状や字種ごとの出現頻度という観点から、刀剣の銘文を捉え直す研究手法を提案しました。また、「画僧 風外本高(ふうがいほんこう)の絵画制作」(島根県立美術館学芸員・藤岡奈緒美氏)では、出雲国(現在の島根県)に多くの絵画作品を残した風外本高を取り上げ、その主題選択や描画技法に、版本や池大雅の存在が強く影響を与えていることが示されました。
2日目の講演では、「タイに渡った蒔絵工―鶴原善三郎と三木栄―」(文化財情報資料部文化財情報研究室長・二神葉子)で、20世紀初頭にタイに招かれた二人の日本人蒔絵工を題材に、従来知られていなかったタイ王室での待遇や漆工品制作などについて紹介しました。また「「帝鑑図」とは何か」(文化財情報資料部客員研究員・薬師寺君子)では、東京文化財研究所で所蔵するガラス乾板等の資料を使い、中国で出版された『帝鑑図説』の挿絵が、日本で帝鑑図として受容されていく過程を読み解きました。
講演には両日合わせて126名の参加者がありました。アンケートでは、回答者のおよそ9割から「たいへん満足した」、「おおむね満足だった」との評価が得られ、自由記述欄からも、講演内容への満足度の高さがうかがわれました。
『日本美術年鑑』のデータ入力作業の様子
『日本美術年鑑』採録文献データベース
『日本美術年鑑』(以下『年鑑』)は、日本国内の美術界における一年間の動向をまとめたデータブックで、昭和11(1936)年に東京文化財研究所の前身である帝国美術院附属美術研究所で刊行され、現在も刊行が継続されています。令和4年版(2025年1月刊行)より、『年鑑』を構成していた項目のうち「美術文献目録(定期刊行物所載文献)」の冊子掲載を終了し、これに代わって、同目録を収録した「『日本美術年鑑』採録文献データベース」をウェブサイト上で公開しています。(https://www.tobunken.go.jp/yearbook/articles_from_periodicals)
本データベースは、冊子版と同様に、内容に即した分類ごとに文献を掲載することに主眼を置いています。特定の作家や美術館などに関する文献を調べたい場合は、一般的なデータベースと同様にキーワードによる検索が可能です。しかし、『年鑑』において「保存修復」や「文化財行政」などに分類される文献のなかには、適切なキーワードの設定が難しいものも含まれています。そのため、分類ごとに文献群を参照できる本データベースは、従来の冊子版のように、キーワード検索では把握しにくい各分野の動向を把握するうえで有効です。
現在は、冊子での掲載を終了した令和3(2021)年1月1日から令和4(2022)年12月31日までに刊行された雑誌や新聞の文献目録を公開しています。今後は、令和2(2020) 年以前に発表された最新の文献情報を公開していくことを計画しています。こうした取り組みによって、冊子版『年鑑』が長年にわたり果たしてきた日本国内の美術界の動向を体系的に把握する役割を、今後も維持し、発展させてまいります。なお、データベースは現状、起動に10秒ほど時間がかかる状態となっており、表示速度改善に向けた検証と調整を進めております。
セッションの様子
報告スライド(一部)
東京文化財研究所文化財情報資料部では、Claris International Inc.が提供するローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を用いて、およそ100の様々なデータベースを共有しており、文化庁「美術工芸品修理のための用具・原材料と生産技術の保護・育成等促進事業」の成果である「文化財(美術工芸品)の修理記録データベース」もその一つです。令和7(2025)年11月7日、東京文化財研究所は同社主催の「Clarisカンファレンス2025」において、本データベースに関する報告を行いました。
データベースの「作る」「貯める」「取り出す」「見せる」という各作業段階に対して、本データベースはこれらを一つの統合システム上で行うのではなく、複数のソフトウェアを利用し、データのみを共有する形でシステムを運用している点に特徴があります。具体的には、Microsoft Excel で作成したデータをClaris FileMaker に取り込み、公開に際してはWordPressを用いるという運用です。
報告「基準なき文化財修理記録のデータベース化を支えた Claris FileMaker の高い柔軟性」(発表者:小山田智寛・山永尚美・田良島哲・江村知子(文化財情報資料部))では、こうした運用が各作業段階に自由度の高さをもたらし、柔軟なレイアウト設計とスピーディーな要件定義を可能にしたことを述べました。こうした「作りながら考える」という開発プロセスのもと、今後も試行錯誤を繰り返しながら、多くの方のお役に立てる修理記録データベースの設計と構築を目指してまいります。
*今年度の事業成果は「2025年度 美術工芸品修理のための用具・原材料と生産技術の保護・育成等促進事業 報告会」(令和8(2026)年2月6日開催、https://www.tobunken.go.jp/info/event/2026/0206/)にて報告予定です。
令和7(2025)年11月15日、東京国立博物館・平成館大講堂にて開催された月例講演会に、文化財情報資料部研究員の田代裕一朗(東京国立博物館学芸研究部調査研究課東洋室 研究員 併任)が登壇し、「韓国のやきもの、その美を探る」と題した講演を行いました。本講演は、東洋館で開催されていた「博物館でアジアの旅 日韓国交正常化60周年 てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち―」展(9月23日~11月16日)の関連企画として実施されたものです。
講演では、まず展示作品を中心に、高麗時代の青磁から朝鮮時代の粉青沙器・白磁に至るまで、時代ごとの美的特徴を概観しました。そのうえで鑑賞史をひもときながら、やきものに向けられた日本人と韓国人のまなざしの違いについて、講師の韓国での体験談を交えた解説が行われました。
今回の講演は、単なる知識の伝達にとどまらず、展示を通して実物を見て確かめることのできる機会であったことから、韓国のやきものについて考えていただくうえで、有意義な場となったのではないかと思います。今後も、論文や研究発表などの学術研究活動と並行しながら、そうした活動を通して得られた成果や知見を、広く社会に還元していければと考えています。
参考:東京国立博物館 講演会・講座
https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=list&cid=1
データベースの画面
赤松調書
京都府文化財保護課には、戦前から今日に至るまでの京都府内の文化財調査に関わる膨大な資料群が所蔵されています。この資料群の重要性と、また将来に渡って保存すべき公共性を鑑みて、東京文化財研究所と京都府教育委員会は平成30(2018)年に資料のデジタル化に関する共同事業の覚書を取り交わし、京都府から寄託された資料の整理とアーカイブの構築に取り組んでまいりました。
このたび、その資料群のうち「赤松調書」と通称される京都府寺院重宝調査記録の目録とデジタル化した調書のデータベースを公開いたしました。京都府文化財保護課長を務めた赤松俊秀(1907~1979)が中心となって昭和16(1941)年から京都府内で網羅的に実施した宝物調査の記録文書で、一部に欠本があるものの現存する簿冊92冊、調書21,871点、調査対象となった寺院は1,581件にのぼります。これまで京都府の内部資料として保管されてきた赤松調書をすべてデジタル化し、記載された宝物の情報を可能な限り目録として登録した唯一無二のデータベースです。調査された宝物の中には、すでに災害や盗難によって失われたものも含まれており、80年以上を経た記録としてとても貴重な資料です。調書のデジタル画像は資料閲覧室で公開しており、目録の一部は東京文化財研究所のウェブサイトからもアクセスが可能です。なお、京都府から寄託されている他の資料についても漸次整理を進めており、今後公開してまいります。
赤松調書のデジタル化と整理には約5年を要し、その間に5名の学生アシスタントの方々が入力作業に尽力してくださいました。本データベースが今後の文化財研究の一助となることを願うと同時に、ご協力いただいた皆様に心より御礼を申し上げます。
東京文化財研究所では、平成26年(2014)年にウェブコンテンツ管理システム WordPress を利用した文化財情報データベースを開発し、現在まで運用を継続しています。 およそ10年におよぶ運用を通じて得られた知見について、折に触れて学会等で報告してきましたが、令和7年(2025)年11月2日にはWordPressの地域コミュニティが主催するカンファレンス WordCamp Kansai 2025(https://kansai.wordcamp.org/2025/) において、「データベース構造から改めてWordPressを考える」と題し、文化財情報資料部の小山田智寛、石灰秀行、二神葉子が報告を行いました。
WordPressの画面デザインやデータの入力方法に関しては、多くの情報が公開されています。しかし、データベース構造に関する情報はそれほど多くはありません。東京文化財研究所では、WordPressを文化財情報データベースの公開システムとして利用しているため、WordPressのデータベース構造と文化財情報をどう組み合わせるか、という課題に運用開始以来取り組んでいます。 セッションでは、この観点から、 WordPressのデータ保存の仕組みについて、東京文化財研究所でこれまでに公開してきた文化財情報データベースの実例を取り上げて解説しました。また、WordPress上で大きな画像ファイルをBase64エンコードでテキスト化して取り扱う検証や、文化財情報の公開のために作られたCMS(コンテンツ管理システム)であるOmeka S (https://omeka.org/s/)とWordPressの比較等についても報告いたしました。
質疑応答では、東京文化財研究所で行っている検証について、表示速度が落ちるのではないか、との指摘がありました。一般的なウェブサイトでは表示速度は重要な指標です。しかし東京文化財研究所にとっては、テキストをプリントアウトすることによるバックアップの可能性の検証にもなることを説明いたしました。
このようにセッションを通して、一般的なブログや企業ウェブサイト構築とは、技術的な優先度が異なる点が明らかになるなど、カンファレンス参加者の関心を引くことができました。今後も文化財情報の発信に加えて、その管理や保存についても最適な方法を研究して参ります。
【写真1】長唄の演奏(左:杵屋勝志寿氏、右:杵屋勝司郎氏)
【写真2】琉球古典音楽の演奏(棚原健太氏)
【写真3】座談会の様子(右から小塩さとみ氏、飯田勉氏、杵屋勝四寿氏、杵屋勝司郎氏、棚原健太氏)
令和7(2025)年11月7日、東京文化財研究所地下セミナー室で第19回無形文化遺産部公開学術講座「普及から考える伝統芸能の継承」を開催しました。
まず前半では、無形文化遺産部無形文化財研究室長・前原恵美より趣旨説明を行い、その後、文部科学省初等中等教育局教科書調査官の飯田勉氏に「学習指導要領と教科書の中の伝統芸能」として、学校教育での伝統芸能普及の柱となる指導要領と、その具体的な指針ともなる教科書における伝統芸能の扱いについてご講演いただきました。続いて、無形文化遺産部研究員・鎌田紗弓より報告①として「東京都の学校における伝統芸能体験の取り組み」、前原より報告②として「沖縄県における学校内外での伝統芸能普及の取り組み」について発表を行い、それぞれの伝統芸能普及への取り組みの現状や課題について整理しました。
後半は、演奏・対談①として杵屋勝四寿(かつしず)氏と杵屋勝司郎(かつじろう)氏にご登壇いただき、長唄『鞍馬山』の演奏後、それぞれが伝統芸能にかかわるようになったきっかけや、その後の修練の過程についてお話を伺いました(【写真1】、聞き手は鎌田)。さらに演奏・対談②では、琉球古典音楽・歌三線の棚原健太氏をお迎えし、『本花風節(むとぅはなふうぶし)』、『下出し述懐節(さぎんじゃしすっくぇーぶし)』の演奏に続いて、琉球古典音楽との出会いや、その魅力、演奏家として活動し続ける上での課題等についてお話を伺いました(【写真2】、聞き手は前原)。
最後の座談会では、ご登壇頂いた皆様に加えて、教員養成を通して伝統芸能の普及に取り組んでいる宮城教育大学教授の小塩さとみ氏に加わっていただき、学校教育内外における伝統芸能教授・普及の現状や課題について、それぞれの地域や立場からの意見交換を行いました(【写真3】)。
今後も無形文化遺産部では、無形文化財の普及・継承について、様々な立場の方々と連携しながら情報を共有し、課題解決の糸口を模索していきたいと思います。なお、本講座の報告書は次年度刊行、PDF公開予定です。
文化遺産国際協力センターとサウジアラビア文化遺産庁は、令和7(2025)年11月2日から4日にかけて、サウジアラビア国立博物館で3Dデジタル・ドキュメンテーションに関するワークショップを共催しました。サウジアラビアにおいても文化遺産分野でのデジタル技術の活用は注目を集めています。同国で初めての開催となる今回のワークショップは「考古資料の3次元計測」をテーマとし、遺跡や博物館の調査や管理業務に携わる専門職員ら計25名が参加しました。
ワークショップでは、考古資料の3次元写真測量の基礎的な手法に加えて、対象物の種類や大きさ、あるいは場面に応じた様々な計測手法やデータの活用方法について、日本から派遣した専門家が講義を行いました。さらに、参加者が各班に分かれて実際にサンプル資料の3次元写真測量を行ったほか、スマートフォンのLidar機能、3次元レーザースキャナーを用いた3次元計測の手法を学ぶ実習も行いました。
4日には、国立博物館を会場としてXRミートアップ in リヤドを開催しました。公立小松大学からは「ホンジュラスのコパン遺跡VR体験」、奈良文化財研究所からは「XR平城京」、産業技術総合研究所・奈良文化財研究所からは「3DDB Viewerプロジェクト」、株式会社ホロラボからは「京都VR」、株式会社Nianticからは「Scaniverse」体験、東京文化財研究所からは「バーレーンのアアリ王墓のVR体験」と「カンボジアのタネイ寺院遺跡のVR体験」などを出展しました。ワークショップの参加者だけではなく、一般の来館者の参加も得て、文化遺産の3次元計測の様々な活用の事例を広く体験してもらう場となりました。
本ワークショップは文化庁委託「デジタル技術を用いたバーレーンおよび湾岸諸国における文化遺産の記録・活用に関する拠点交流事業」の一環として行いました。