研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


和泉市久保惣記念美術館での講演とリートベルク美術館のシンポジウムでの発表

2つの展覧会図録
和泉市久保惣記念美術館での講演会
リートベルク美術館でのシンポジウム(YouTubeでの配信画面)

 すぐれた日本東洋の古美術コレクションで知られる和泉市久保惣記念美術館で「土佐派と住吉派 其の二―やまと絵の展開と流派の個性―」展(令和3(2021)年9月12日〜11月7日)が開催されました。この展覧会では桃山時代の土佐光吉から近代に至るまでの、土佐派・住吉派の作品が一堂に会され、それぞれの絵師が守り継いだものと、革新していったものが、浮かび上がる企画となっていました。本展にあわせて10月16日に行われた講演会にて、同館の館長河田昌之氏とともに、文化財情報資料部・江村知子が「海を渡った住吉派絵画—ライプツィヒ民族学博物館蔵「酒呑童子絵巻」を中心に」と題して発表しました。当研究所ですすめている在外日本古美術品保存修復協力事業や、海外に所蔵される日本美術作品について紹介し、天明6(1786)年に制作されたと考えられる住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」について解説しました。この展覧会には住吉廣行の長男の弘尚が、父の作品に倣って制作したと考えられる「酒呑童子絵巻」(根津美術館蔵)が出陳されており、その対照性についても明らかにしました。
 またスイスのリートベルク美術館ではヨーロッパの美術館に所蔵される物語絵画を集めた《Love, Fight, Feast – the World of Japanese Narrative Art》展(令和3(2021)年9月10日〜12月5日)にあわせて10月23日に国際シンポジウムが開催され、江村は《A Great Tale of Exterminating Ogres: Shuten-dōji Handscrolls of GRASSI Museum für Völkerkunde zu Leipzig》と題して基調講演を行いました。この展覧会で住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」が初公開されたこともあり、絵巻全体の内容と作品の特色について明らかにしました。シンポジウムはチューリッヒの会場と、東京、ダブリン(アイルランド)、ニューヨーク(米国)をつないで、オンライン形式で行われ、インターネットで配信されました。
https://www.youtube.com/watch?v=36FC6IOS_o0&t=1160s
 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、参加者全員が同じ場所に集まることはできませんでしたが、多くの研究者と意見交換する貴重な機会となりました。発表で取り上げた住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」については、研究資料として『美術研究』435号に掲載する予定です。


国宝・特別史跡臼杵磨崖仏の保存修復に向けた基礎研究

曝露試験用の接着サンプルの設置
岩壁の水分量を計測するための含水率計の設置

 国宝・特別史跡臼杵磨崖仏は平安時代後期から鎌倉時代にかけて、熔結凝灰岩を掘りくぼめた龕(がん)内に彫刻された磨崖仏群であり、ホキ石仏第1群、ホキ石仏第2群、山王山石仏、古園石仏の四群から構成されています。
 これらの磨崖仏は、龕によって風雨の直接の影響を受けづらい環境ではあるものの、冬期における磨崖仏表面での地下水や雨水の凍結融解を繰り返すことで生じる凍結破砕や、乾燥期の水分の蒸発に伴い析出する塩類による磨崖仏表面の剥離・粒状化によって、一部で磨崖仏の風化が進行していました。風化を防ぐ取り組みとして、覆屋の設置と磨崖仏背面に流れる伏流水の制御のための工事や、風化により生じた剥落片も元の位置に貼り戻す作業が過去に行われ、東京文化財研究所も長らく関わってきた経緯があります。
 このような保存修復を経た臼杵磨崖仏ですが、現在、ホキ石仏第2群の阿弥陀如来坐像の膝付近における表面剥落が再び発生していることから、臼杵市と磨崖仏の保存修復を目的とした共同研究を行うこととなりました。具体的には、新設された覆屋内の温湿度変化および岩壁の含水率を継続して確認する環境調査と、剥落片の強化処置と再接着するための材料の検討を行う予定であり、令和3(2021)年10月18日~19日には計測器と曝露試験用の接着サンプルを設置しました。
 今後は、定期的に計測データの確認と接着サンプルの対候性を観察し、臼杵磨崖仏の適切な保存修復に向けて文化庁、大分県、臼杵市と協議していきます。


to page top