研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


文化財情報の発信と連携についての研究協議会開催

美術図書館の横断検索サイト
“ALC(Art Libraries’ Consortium)”
連想検索サイト「想(Imagine)」

 企画情報部では、4月22日に、水谷長志(東京国立近代美術館)、丸川雄三(国立情報学研究所)の二氏を講師に招いて、上記のような研究協議会を開催しました。両氏は、現在それぞれ美術図書館の横断検索サイト“ALC(Art Libraries’ Consortium)”及び連想検索サイト「想(Imagine)」をWEB上で立ち上げて運営管理にあたられています。研究所全体、ならびにより質の高い文化財情報の発信を担当する当部では、将来的な展望にもとづいて討議しました。今後は、これまでの研究成果の蓄積のより効果的な発信にむけて事業活動を具体化していく予定です。


黒田記念館研究室の公開

新たに公開をはじめた1階の旧研究室

 これまで黒田記念館では、2階の記念室、展示室の2室において黒田清輝作品を公開してきました。4月24日からは、2階、1階の旧研究室も一般公開をはじめました。2階の旧研究室では、「黒田清輝の生涯と芸術」(上映時間約12分)と題したスライドショーを上映し、来館者に黒田の芸術への理解を深めていただくようにしました。さらに1階の旧研究室2室では、美術研究所時代当時の木製机、キャビネット、写真カード等を展示し、あわせて東京文化財研究所の最新の成果刊行物を自由にご覧いただけるようにしました。これによって、黒田作品の鑑賞に加えて当研究所の歴史と現在を紹介できるようにしました。


梅村豊撮影歌舞伎写真の整理

 梅村豊(1923・6・15―2007・6・5)氏は、雑誌『演劇界』のグラビア頁を長く担当されていた写真家です。昨年12月、無形文化遺産部は、故人の遺されたネガや写真の一部を、未亡人にあたられる宣子氏からご寄贈いただくことになりました。現在、凡その点数を把握するための整理をしています。今年度中には、正式に東京文化財研究所への寄贈手続きを完了したいと考えています。
 故人の写真が最初に『演劇界』に掲載されたのは昭和22年だったそうです。ご寄贈いただいたネガ・写真は、昭和37年頃に撮影されたものが最も古いようですが、それでも研究所に搬入する時点で、ダンボール箱で10数個に上る膨大なものでした。20世紀後半の歌舞伎を撮り続けてきた写真家の貴重な記録です。


『保存科学』掲載記事のインターネット公開

 『保存科学』は、当研究所の研究員が行う文化財の保存と修復に関する自然科学的な研究成果や受託研究、また館内環境調査などの報告を掲載した雑誌です。1964年3月、当時の保存科学部長・関野克氏による「文化財保存科学研究概説」に始まる第1号の創刊以来約40年間、我々は先人の遺した貴重な文化財を将来の世代に伝えるという使命感を持って研究に携わり、その成果を公表し続けてきました。最新の第47号では、高松塚古墳や敦煌莫高窟壁画の保存・調査に関するものを始め、25本の報文・報告を掲載しています。
 冊子体の『保存科学』は非売品で、関係機関や大学などでの閲覧に限られていますが、どなたにも自由に触れていただくために、これまでのすべての記事を電子ファイル化(PDF版)して、インターネット(http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/cosery_s/consery_s.html)からダウンロードできるようにしています。我々が一体どのような仕事をしているのか知っていただくためにも、多くの方にアクセスしていただければ幸いです。


建造物などに使用する漆塗装の耐候性向上に向けた屋外の暴露実験

暴露実験用の漆塗装手板試料の点検作業
大樹町航空公園内に据え付けた漆塗装の暴露試験台(左側)

 保存修復科学センターでは、「伝統的修復材料および合成樹脂に関する調査研究」プロジェクト研究の一つとして、建造物などに使用する漆塗装の耐候性向上に向けた基礎実験を昨年度より継続しています。4月17日から4月18日にかけて、北海道大樹町内航空公園内の屋外暴露実験台に据え付けた朱漆と黒漆の各種手板試料の劣化状態の経過観察を行ないました。今回の現地調査は8ヶ月目の点検であり、漆塗装の種類による劣化状態の違いがしだいに明確になってきました。暴露実験台をこの地点に設置した理由は、北海道大樹町内は全国でも晴天率が高いこと、気象データの入手がし易いこと、さらには寒暖の年較差が高いこと、などが理由です。なお、この屋外暴露実験による紫外線劣化の経過観察は、第一期として本年8月までの一年間を予定しています。


タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト

調査によって明らかになったストゥーパのある中庭に面した南東の壁
タジク人専門家との共同作業の様子

 文化遺産国際協力センターは、4月16日から5月9日にかけて、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」の第3次ミッションを派遣しました。本プロジェクトの目的は、日干しレンガや練り土といった土構造物で構築された仏教寺院を保存することであり、文化遺産国際協力センターでは、過去の発掘調査以後に堆積した土砂や雑草を除去し、あわせて寺院本来の壁の位置や構造を明らかにする考古学的清掃や試掘調査を2006年より実施してきました。
 今回の調査では、ストゥーパ(仏塔)のある中庭に面した南東の壁を精査し、涅槃仏のあった部屋へとつづく入口を確認しました。また、遺跡の縁辺部2カ所で試掘調査をおこなったところ、それぞれで仏教寺院の外壁を検出することができ、仏教寺院本来の範囲を確認することができました。こうした成果は、遺跡を保存する際に重要な情報になります。なお、現地で実施されたすべての考古学調査は、タジク人の若手考古学者と共同で行われ、私たちが調査を実施する上で大きな助けとなりました。同時に、現地専門家の育成という点においても、意義のあるものになったと思われます。


シルクロード沿線人材育成プログラム

岡田文男講師(京都造形芸術大学)による授業
中内康雄講師(文化財建造物保存技術協会)による授業

 中国文化遺産研究院(2008年2月に中国文物研究所を改組して名称変更)と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」は3年目を迎えました。今年は、春から3ヶ月間半、古建築保護修復班(2年改革の第1年目)を実施し、秋から2ヶ月間、土遺跡保存修復班(3年計画の第3年目)を実施する予定です。折しも今年は8月8日からの北京オリンピックを控え、その日程を避けるため、例年よりも早めの4月3日に春のコースがスタートしました。古建築コースは、新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省から合計12名の研修生が参加し、1年目に理論講座と各種調査の実習、保護修復計画の作成を研修し、2年目に参加する修復実習作業のための基礎を身につけることを目的にしています。その1年目の現場実習の場所には、故宮博物院の支援を得て、故宮内部の頤和軒東側の一角が提供されています。3カ月半の期間中、日本側講師10名が参加し、中国側講師とともに指導にあたります。


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