1月施設見学
牧園大學校微生物ナノ素材学科大学3年生 8名
文化財保存のための微生物管理技術習得ため来訪。生物科学実験室、実演記録室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。
研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
■東京文化財研究所 | ■保存科学研究センター |
■文化財情報資料部 | ■文化遺産国際協力センター |
■無形文化遺産部 |
牧園大學校微生物ナノ素材学科大学3年生 8名
文化財保存のための微生物管理技術習得ため来訪。生物科学実験室、実演記録室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。
1月31日、文化財情報資料部研究会にて、「赤瀬川原平による《模型千円札》理論の形成に関する予備的研究」と題し、客員研究員の河合大介氏による発表が行われました。
赤瀬川原平(1937-2014)は、前衛美術、漫画・イラスト、小説・エッセイ、写真といった多彩な活動を展開した芸術家です。河合氏の発表では、1963年に千円札の図様を印刷した作品を制作したことに端を発する一連の「千円札裁判」が結審するまでの期間に発表された、赤瀬川自身による著述の分析を中心に、赤瀬川の「模型」という概念がどのように形成されていったかに迫るものでした。河合氏は、起訴容疑の「通貨及証券模造取締法」違反にみられる「模造」に対して、「模型」という概念を赤瀬川が持ち出すことで、自らの制作物を芸術作品として歴史的・理論的に正当化しようとする試みがなされたことを示し、後年の執筆・制作活動においても「模型」概念に含意されている特徴を見て取れると指摘しました。
研究会にはコメンテーターとして、水沼啓和氏(千葉市美術館)にご参加いただき、「千円札裁判」に関わる作家などの「芸術」という概念の相違、あるいはリレーショナル・アートとしてみる「千円札裁判」などの観点から所見をいただき、活発な意見交換が行われました。
1月12日に文化財情報資料部月例の研究会が、下記の発表者とタイトルにより開催されました。
小山田の発表は、当研究所ウェブサイトの改良実績に関する報告でした。当研究所では日本での美術界の動向をまとめたデータブックである『日本美術年鑑』を昭和11(1936)年より刊行してきましたが、一方で編集にあたり蓄積された展覧会や文献等のデータをウェブ上でも利用できるよう公開しています。なかでも、その年の美術界の出来事をまとめた「美術界年史(彙報)」と、亡くなった美術関係者の略歴を記した「物故者記事」について、平成26(2014)年4月よりソフトウェアWordPressを利用したデータベースとしてリニューアル公開することで、アクセス件数が大幅に増加しました。本発表では、そのリニューアル前後の公開形式を比較しつつ、新たな機能がもたらした効果について具体的な解析結果に基づき報告されました。
田所は、大正期に東京で女性画家として活躍した栗原玉葉(1883~1922年)の画業に関する発表を行ないました。玉葉は大正7(1918)年から9年にかけて、集中的にキリスト教画題の作品を描いています。なかでも大正7年の第12回文展へ出品し、玉葉の代表作とされる《朝妻桜》は、禁教令下の江戸時代、吉原の遊女・朝妻がキリスト教を信仰した廉で捕らえられ、その最期の願いにより満開の桜花の下で刑に処されたという話を絵画化した作品です。発表では、《朝妻桜》の制作意図や玉葉の画業における位置づけについて検討し、さらに玉葉にとってキリスト教画題がどのような意義をもつものであったのか考察を深めました。なお栗原玉葉の画業全体については、すでに田所による論考「栗原玉葉に関する基礎研究」が『美術研究』420号(2016年12月刊)に掲載されていますので、そちらをご参照ください。
平成29(2017)年1月18日(水)に文化学園服飾博物館との共催で第11回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座「麻のきもの・絹のきもの」を開催しました。本講座では、我が国の染織を語る上では欠くことのできない「麻」と「絹」に焦点を当て、現在における麻と絹を取り巻く社会的環境の変化や技術伝承の試み、そして、受け継ぐ意義について、各産地で活動をされている方などから報告いただきました。
麻については、昭和村からむし生産技術保存協会の舟木由貴子氏より「からむしの技術伝承―昭和村での取り組み―」、そして東吾妻町教育委員会の吉田智哉より「大麻の技術伝承 ―岩島での取り組み―」を報告いただき、植物としての麻を栽培する技術や植物から繊維を取り出す技術の重要性と伝承の難しさについて産地からの声を届けました。一方、絹に関しては岡谷蚕糸博物館の林久美子氏より近代化を支えた絹の技術革新と、その活動を残す意義についてご報告いただきました。
その後、無形文化遺産部の客員研究員である菊池健策氏による講演「民俗における 麻のきもの・絹のきもの」、文化学園服飾博物館の吉村紅花学芸員による展覧会解説「展覧会 『麻のきもの・絹のきもの』の企画を通じてみた麻と絹の現状」の後、文化学園服飾博物館で開催されている「麻のきもの・絹のきもの」の見学会を行いました。
麻のきものや絹のきものを取り巻く文化の継承には、その原材料である麻や絹そのものの技術が欠かせません。本講座を通じて、現在、麻も絹も伝承に多くの課題を持っていることを知っていただき、着物を作る技術だけでなく、その原材料である糸を作る技術の保護の重要性についての関心が高まればと思います。
今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。
東京文化財研究所ではこれまで15年以上にわたり、アンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)との間で、共同研究や人材育成研修の実施等、様々な協力活動を行ってきました。この間、一貫してそのフィールドとなってきたのがアンコール遺跡群のタネイ寺院遺跡です。平成29(2017)年1月26‐28日の3日間にわたり、同遺跡に関する保存管理整備計画作りを支援するため、現地ワークショップを開催しました。
本ワークショップには、APSARA機構のRos Borath副総裁をはじめ、遺跡保存、観光、森林、水利の各課から計約20名のスタッフが参加しました。初日はAPSARA本部にて遺跡保存管理の基本的な考え方や計画策定の手順等に関するレクチャーを行い、2日目はタネイ遺跡および周辺における現況確認調査、3日目は再び室内に戻って計画の基本方針と保存整備事業の方向性に関する検討作業を行いました。
タネイ遺跡は、観光客で賑わう世界遺産アンコールのコアゾーン内にある主要遺跡の一つでありながら、鬱蒼とした密林に囲まれた廃墟の様相を今日も色濃く留めています。ワークショップでの議論の結果、このような景観をできるだけ維持しながら安全に遺跡を見学できるようにすること、遺跡へのアクセスを本来の経路に復するとともに来訪者が周辺遺跡との関係性を体感的に理解できるようにすること、など大きな方針について合意し、今後も関係各課が連携しながら、考古発掘等の調査も含めた具体的な事業内容の検討を着実に進めていくことで一致しました。本事業はカンボジア側主体で行われる遺跡保存整備のパイロットモデルとしても位置付けられており、このような作業が適切かつ円滑に進められるよう、本研究所としても必要な技術的支援を継続していきます。