研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


寄附金の受入れ

左から高栁管理室長、田中企画情報部長、亀井所長、浅木代表取締役社長、下條理事長、(株)水戸幸商会 吉田代表取締役

 東京美術商協同組合から東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を目的として、また(株)東京美術倶楽部から東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附金のお申し出がありました。
 3月4日、港区新橋の東京美術商協同組合で会談し、昨今の文化財に関する話題から画材に関する話題まで、多岐にわたるご質問、期待の言葉などをいただき、当研究所の調査・研究に対する期待の大きさが感じられました。会談後、今回ご寄付いただいたことに対して、東京美術商協同組合下條啓一理事長並びに(株)東京美術倶楽部浅木正勝代表取締役社長にそれぞれ亀井所長から感謝状を贈呈しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変有難いことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

/ 高栁明)

日韓共同シンポジウム「視線の「力学」―美術史における「評価」」の開催

田中淳による基調講演「創作と評価―萬鉄五郎《風船を持つ女》を中心に」
ディスカッションの様子

 前月2月27日の当研究所での開催に引き続き、『美術史論壇』30号および『美術研究』400号を記念する日韓共同シンポジウム「視線の「力学」―美術史における「評価」」が、3月12日にソウルの梨花女子大学校博物館の視聴覚室を会場として行なわれました。
 当研究所企画情報部長の田中淳による基調講演「創作と評価―萬鉄五郎《風船を持つ女》を中心に」に始まり、東京会場と同じく綿田稔(当研究所企画情報部)「山水長巻考―雪舟の再評価にむけて」、張辰城氏(ソウル大学校)「愛情の誤謬―鄭敾への評価と叙述」、江村知子(当研究所企画情報部)「江戸時代初期風俗画の表現世界」、文貞姬氏(韓国美術研究所)「石濤、近代の個性という評価の視線」の発表が続きました。
 折りしも前日に起こった東北地方太平洋沖地震の被害を海外で案じながらの開催となりましたが、会場は立ち席が出るほどで東京会場をしのぐ盛況ぶりでした。鄭干澤氏(東国大学校)の司会によるディスカッションでは、個々の発表への質疑応答にくわえ、日韓の美術史研究のスタンスの差異にも話題が及び、国境を超えた国際シンポジウムに相応しい討議となりました。


『日本絵画史年紀資料集成 十五世紀』の刊行

『日本絵画史年紀資料集成 十五世紀』

 企画情報部では、五年にわたった研究プロジェクト「東アジアの美術に関する資料学的研究」の成果報告として『日本絵画史年紀資料集成 十五世紀』(A5判、720頁)を刊行しました。本書は室町時代の盛期にあたる15世紀の100年間に、主として日本で制作された絵画に記された銘記類のうち、年銘をともなうもの833件を翻刻し、年代順に集成したものです。また昭和59年(1984)刊行の『日本絵画史年紀資料集成 十世紀〜十四世紀』の続篇となります。
 文化財に直接書き込まれている銘記類は、文化財の鑑識や制作年代の決定などについての基礎となるだけでなく、銘記を欠く多くの作例の位置づけについての指標となるものです。これを集成することは文化財保護や文化財研究の基礎基盤となると同時に、とかく細分化されがちな研究の再統合を促し、新たな視野を提供するものであることは疑いありません。このような事業は、当研究所が継続的に担うべき重要な責務のひとつであると言うことができると思います。
 なお、本書は中央公論美術出版より市販されています。詳細は下記ホームページ等をご覧ください。
http://www.chukobi.co.jp/products/detail.php?product_id=582


『研究資料 脱活乾漆像の技法』の刊行

『研究資料 脱活乾漆像の技法』

 平成18年度から5か年計画の企画情報部研究プロジェクト「美術の技法・材料に関する広領域的研究」の一環として、天平時代の脱活乾漆造の仏像の技法解明を目的に調査研究を行ってきました。その成果報告として『研究資料 脱活乾漆像の技法』を刊行いたしました。本書では表面観察からだけでは窺うことのできない像内の様子や構造を知るために行ったX線透過画像を含む図版(モノクロ)とともに、各作例の基礎データを収載しています。あわせて、この研究プロジェクトの一環として同時進行でおこなってきた「奈良時代史料にみえる彩色関係語彙データベース」をCD版で作成し添附いたしました。


『大徳寺伝来五百羅漢図 銘文調査報告書』

 企画情報部の研究プロジェクト「高精細デジタル画像の応用に関する調査研究」の一環として、平成22年より奈良国立博物館と「仏教美術等の光学的調査および高精細デジタルコンテンツ作成に関する協定」を結び、奈良国立博物館と共同で行った大徳寺伝来の「五百羅漢図」の調査・研究の成果として、『大徳寺伝来五百羅漢図 銘文調査報告書』を刊行しました。本書では、これまで肉眼では判読が難しかった画中の銘文の可視画像化をすすめたものを収載しています。本書の刊行により銘文のほぼ全貌が明らかとなり、大徳寺伝来の五百羅漢図の制作事情の解明に向けて、大きな成果をあげることができました。


『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』の刊行

 平成16年から17年にかけて平等院と共同で行った鳳凰堂仏後壁の調査成果の報告書として、『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』を刊行いたしました。これは平成20年度に刊行した『同―カラー画像編―』、平成21年度に刊行した『同―近赤外画像編―』に続く、第三冊目にあたります。この三冊の刊行によって今後、鳳凰堂仏後壁の研究を行ううえでの基礎資料となることが期待されます。


『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』の刊行

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』

 企画情報部の研究プロジェクト「専門的アーカイブの拡充(資料閲覧室運営)」の一環として2002年3月に『東京文化財研究所蔵書目録1 西洋美術関係 欧文編・和文編』を刊行して以来、順次刊行を進めてきた蔵書目録の第八冊目にあたる『同目録8 漢籍編』を刊行いたしました。これは東京文化財研究所が所蔵する約12,000冊の漢籍を収録した目録で、この目録の刊行により研究所所蔵の漢籍の全容が明らかとなり、広く活用されることが期待されます。


NEACHセミナー“DOCUMENTATION AND SAFEGUARDING OF INTANGIBLE CULTURAL HERITAGE” マレーシア クアラルンプール

会議の樣子

 この国際セミナーは、ASEAN10カ国+日・中・韓3カ国で構成される、”NETWORKING OF EAST ASIAN CULTURAL HERITAGE(NEACH)”の枠組みで定期的に行われているもので、今回はマレーシアがホスト国となり、2011年3月5日から8日にかけてクアラルンプールで開催されました。今回は無形文化遺産がテーマであり、日本からは無形文化遺産部の宮田が招聘され、“Documentation and Archiving of Japanese Intangible Cultural Heritage”というテーマで発表を行いました。参加した各国は、無形文化遺産保護条約に関しては締約国・非締約国の別はあったものの、総じて無形文化遺産保護の必要性に関する意識は高く、活発な意見交換がなされました。無形文化遺産部では、今後もこうした機会には積極的に参加し、日本の経験を広く発信したいと考えています。


無形文化遺産部プロジェクト報告書『無形文化財の伝承に関する資料集』の刊行

図版頁(『横笛細工試律便覧』)より

 平成18年度から始まったプロジェクト「無形文化財の保存・継承に関する調査研究」の成果報告書を刊行しました。
 本書では、江戸時代の笛製作に関する技法書『横笛細工試律便覧』、文楽義太夫節の曲節を分類整理した実演集『義太夫節の種類と曲節』、江戸小紋の歴史と製作工程を記した『江戸小紋技術記録』、以上3点の無形文化財の保存・継承に関する資料を紹介しています(ホームページ上でも全頁のPDFを公開する予定)。


「博物館資料保存論対策講座」の開催

講義の様子

 平成24年度より、大学の学芸員養成課程において「博物館資料保存論」が2単位の必修科目になります。これは、学芸員を目指す学生に、自然科学的基礎をベースとした資料保存に関する知識を求めることを意味します。しかし、同課程を持つ大学や短大は、現在300を超える一方、この科目に即応出来るだけの専門性を有する人材は限られているのが現状です。そのため、専門外の教員が担当することになり、講義の構成や内容づくりに戸惑うケースが続出するのではと我々は考えました。そこで、開講に向けた準備に役立てていただくことを目的とし、3月8日から3日間、表題の講座を開催し、同科目の担当ことが決定した方を対象に、特に保存環境に関連する15コマの講義を行い、必須となる内容についての情報を提供しました。講座には、大学教員や非常勤での担当を行う学芸員など、全国から81名が参加しました。今回はじめて、このような講座を開いたことで、参加者からは好評をいただいた一方、多くの方が持っている戸惑いを我々は強く感じました。これまで、このような方々との関係は決して密なものではありませんでしたが、これからは保存環境を研究する部門として、積極的に関わっていかなくてはならないと実感しました。


フランス、スイス及びドイツの近代文化遺産の保存状態に関する現地調査について

大戦中、レジスタンスの破壊工作により脱線したという状態を再現した展示(フランス・ミュールーズ国立鉄道博物館)
修復作業中の観光潜水船(スイス・ルツェルン交通博物館)
整然と並んだ自動車(フランス・ミュールーズ国立自動車博物館)
道路標識を外壁のアクセサリーとしている(スイス・ルツェルン交通博物館)

 保存修復科学センターでは、3月8日(火)から14日(月)まで、フランス及びスイスにおいて鉄道、自動車、及び航空機等の保存、修復に関する現地調査を、またドイツにおいて、溶鉱炉の保存現場の調査を実施しました。フランスにおいては、ミュールーズにて国立鉄道博物館及び国立自動車博物館の調査を実施しました。ともに収蔵している鉄道車両及び自動車の数は相当数に及びその多さは目を見張るものが有ります。鉄道車両に関しては、展示環境も余裕を持った配置になっており、鉄道関連博物館によく見られる狭苦しさが感じられませんでした。各鉄道車両に関しては、屋内に保存されている事もあり、保存状態は良好でした。塗装については、やはり来館者の目を意識してかきれいに塗り直されており、その点は多少残念では有りました。しかしながら展示の仕方にも種々の工夫が見受けられ、リピーターを呼べる施設だと感じました。自動車博物館については、元々個人所蔵の自動車がベースになっているせいか、どれもきれいで自動車好きの人にはたまらない博物館という感じです。もちろん保存状態もかなり良いのですが一点だけ、タイヤの保存状態に関して、かなりの車が直接タイヤで支持している状態が見受けられタイヤの傷みが気になりました。スイスでは、ルツェルン湖のほとりに立地する交通博物館の調査を実施しました。2000平米を超える敷地の中央に子供達が遊べる広場を配し、周りに展示館を廻らせた博物館で、交通に関する事物を収蔵しており、かなり見応えのある博物館です。ただ、全体としては、やや雑多な感じは否めませんが、一カ所でこれだけのものを見る事が出来るのは幸せな事だと思います。展示物に関しては、やはり鉄製のものが多く、来館者が触る部分の防錆に苦労しているようです。最後にドイツにおいて製鉄所を調査しました。ヨーロッパでよく見るスタイルですが、ほとんど操業を終えたそのままの状態なので、ある意味非常に興味深い施設ではあります。唯一手を入れているのは観覧者の安全の為の施設(手すり、エレベーター、歩廊)であり、その他は手つかずの状態で見る事が出来るのは非常に興味深いし、面白いものだと感じます。日本ではやはり、火災等の避難経路等、法律上の制約が多く難しい部分が多々有ります。その辺、保存の仕方や法制度などなお、検討の余地が多いと感じました。


厳島神社における修理材料の選定試験

平舞台下に曝露中の試験体

 保存修復科学センターでは、厳島神社大鳥居の修復材料について研究を行っています。高温・高湿、水への浸漬、塩類の存在など過酷な条件のそろう臨海環境下で用いることのできる材料を選定し、現在、室内での強制劣化試験と現地での曝露試験を行っています。2010年の6月に現地曝露を開始し、現在、2ヶ月おきに試験体の含水率測定と劣化状態観察を行っています。今後も同じように試験を続行し、2011年度には強度試験等により劣化状況の確認を行う予定です。併せて、室内での強制劣化試験では紫外線照射試験と冷熱繰り返し試験を行っており、2011年度には塩水噴霧試験も行う予定です。


アジア文化遺産国際会議「西アジアの文化遺産―その保護の現状と課題」

 3月3日から5日までの3日間の日程で、イラク、シリア、レバノン、ヨルダン、バハレーンのアラブ5カ国の専門家を東京文化財研究所へ招き、日本の専門家と共に各国の文化遺産、その保護の現状について情報を交換し、今後の日本を含む各国間の連携による国際協力による保護活動の可能性について討論する会議を開催しました。文化遺産国際協力センターは、アジアの各地域について、文化遺産保護のための地域内ネットワークの構築と、日本の貢献を促進することを目ざし、中央アジア(2007年度)、東南アジア(2008年度)、東アジア(2009年度)の各地域の国々による国際会議を開催してきました。今回の会議は、これまで主に考古学や歴史研究での交流が盛んだった西アジア地域について、今後文化遺産保護という視点から新たなネットワークを構築していくための貴重な一歩となりました。


文化遺産国際協力コンソーシアム平成22年度総会および講演会「欧州における遺産:非政府的視点から」の開催

講演会の模様

 2011年3月11日(金)に標記総会および講演会を開催しました。総会では、コンソーシアムの平成22年度事業報告と、次年度事業計画が報告されました。これに続いて開催した講演会では、欧州の文化遺産保護のために活動するNGOであるヨーロッパ・ノストラの副会長ジョン・セル氏にご講演いただきました。はじめに、多言語や複雑な政治体制などヨーロッパの多様な文化が育まれた背景と、今日の文化遺産保護に係る条約や政策についての説明がありました。続いて、震災を受けたイタリアのラクイラなどにおける危機遺産保全キャンペーンや、優れた保存活動等を顕彰するヨーロッパ・ノストラ・アワードなど、ヨーロッパ・ノストラの活動についてご紹介いただきました。長年に亘って、文化遺産保護に関する連携・協力を推進してきたヨーロッパ・ノストラの経験は、文化遺産国際協力コンソーシアムの今後の活動の在り方を考える上でも大いに参考となりました。


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