研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


箏の構造調査を多角的に―邦楽器製作技術保存会、九州国立博物館と連携―

撮影したX線CT画像を確認する様子
170cm超の箏は設置も一苦労

 無形文化遺産部では、伝統芸能の「用具」である楽器の調査研究も行っています。このたび、国の選定保存技術「箏製作 三味線棹・胴製作」の保存団体である邦楽器製作技術保存会、東京文化財研究所と同じ国立文化財機構の九州国立博物館と連携して、江戸時代後期から大正期にかけて製作されたと考えられる箏(個人所蔵)の構造調査を開始しました。楽器製作によって演奏者と観客を繋いできた知見と視点、博物館科学の文化財内部を非破壊調査する技術と視点、無形文化財の楽器学や音楽史研究の視点を総合し、箏の構造を多角的に明らかにしようとしています。
 8月29日に九州国立博物館で箏のX線CT撮影を行いましたが、撮影直後に画像を確認しているところから、さっそくこの連携ならではの気づきもいくつかありました。例えば、箏の内側の底に切り込みが見つかると、それがかつてその工程に使われていた鋸の刃が入りすぎた跡と推測されたり、その跡を一部だけ埋木で補っているように見える点について意見を交わしたり。
 この調査はまだ始まったばかりですが、異なる立場からの見解を持ち寄ることで、箏の製作技術や意図、その集大成としての箏の構造について、新たな側面が見えてくるのではないかと期待が膨らみます。今後は、撮影した画像の詳細な検討を進めるとともに、この箏の出自を精査し、製作者が同じ可能性のある他機関所蔵の箏と比較することで、構造や製作技術の特徴を明らかにしたいと考えています。


シンポジウム「大エジプト博物館のいま ファラオの至宝をまもる2023」の開催

ツタンカーメン王の副葬品修復に関するパネルトーク
シンポジウムの登壇者一同

 東京文化財研究所は平成20(2008)年から平成28(2016)年まで、カイロに新設される大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)に対する開館支援事業を独立行政法人国際協力機構(JICA)から受託し、収蔵品の保存修復のための人材育成と技術移転の研修を実施しました。
 同博物館の開館をいよいよ間近に控え、上記の当研究所受託事業を含む日本からの支援について広く周知することを目的として、シンポジウム「大エジプト博物館のいま ファラオの至宝をまもる2023」を開催しました。大エジプト博物館と独立行政法人国際協力機構(JICA)、当研究所の三者共催により、令和5(2023)年8月6日に東京国立博物館平成館大講堂で行われた本シンポジウムには、エジプトからアーテフ・ムフターフ博物館総責任者とアイーサ・ジダン保存修復執行部門長の両氏も招聘しました。
 大エジプト博物館は、単一文明を扱った博物館としては世界最大規模となる予定で、三大ピラミッドが所在するエリアに隣接する巨大な施設は開館前から注目を集めています。シンポジウムでは、まずアーテフ・ムフターフ氏より、博物館の全体像やツタンカーメン王の副葬品展示室が紹介されました。続いて、別館に展示するため日本隊が復元を進めているクフ王第2の船について、吉村作治教授(東日本国際大学総長)とエジプト側担当者のアイーサ・ジダン氏によって最新の成果が発表されました。さらに、ツタンカーメン王の副葬品を実際に保存修復した研究者らによる成果発表、そして、大エジプト博物館への期待をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。
 本シンポジウムは、開館前の博物館の様子だけでなく、これまでの日本による開館支援活動の全体像をまとめて紹介する好機となりました。当日の講演内容は、近く、当研究所ホームページ等で公開される予定です。


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