研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


上野直昭資料をめぐって――第7回文化財情報資料部研究会の開催

上野直昭(左)と高裕燮(1930年代前半)
『高裕燮全集』3 (韓国美術史及美学論攷) (ソウル:東方文化社, 1993年)、口絵図版より引用
研究会の様子

 大阪市立美術館の館長や東京藝術大学の学長等、数々の要職を歴任した上野直昭(1882~1973)は、美学・美術史学者としての研究活動はもとより、大学での教育や美術館・博物館の運営、文化財の保護等、多方面にわたって美術界に貢献した人物です。当研究所の名誉研究員で直昭の次女である上野アキ(1922~2014)が亡くなった後、直昭関係の資料は東京藝術大学に寄贈され、現在は同大学美術学部の近現代美術史・大学史研究センターの所轄となっています。
 1月28日に開催された文化財情報資料部研究会では、この上野直昭資料の整理・調査にあたられた大西純子氏(神奈川大学国際日本学部非常勤講師)と田代裕一朗氏(五島美術館学芸員)にご発表いただきました。昨年度まで上記センターの前身である教育資料編纂室におられた大西氏による発表「上野直昭資料について 日本美術史との関係を中心として」では、同資料の全容や資料を通して浮かび上がる広範な人的ネットワークが示されました。また田代氏の発表「上野直昭資料から発見された高裕燮直筆原稿について」では、同資料のうち、現在韓国で美術史研究の父と称される高裕燮(コ・ユソプ 1905~44)の書簡や直筆原稿が紹介されました。上野直昭は大正末年から昭和初年にかけて京城帝国大学の教授を務めており、高裕燮は同大学在学時に上野に師事しています。紹介された資料からはその交流とともに、韓国での考古学・美術史学研究の草創期の様子がうかがえ、とりわけ高裕燮が力を注いだ石塔研究の発展過程を辿る上で貴重な資料であることが田代氏の発表で明らかにされました。
 今回の研究会は新型コロナウイルス感染拡大を受けての緊急事態宣言の発令中ということで、文化財情報資料部研究会としては初めてオンライン併用による開催を試みました。韓国をふくむ遠隔地在住の研究者にもご参加いただき、オンラインによるメリットを生かした研究会となりました。

「東文研 総合検索」上への「売立目録作品情報」の公開

売立目録作品情報データベースの入力画面

 東京文化財研究所では、平成27(2015)年から東京美術俱楽部と共同で、売立目録(オークションカタログ)のデジタル化事業をおこない(2015年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/
materials/katudo/120680.html
を参照)、その成果として、令和元(2019)年5月からは「売立目録デジタルアーカイブ」として資料閲覧室のみで公開してきたところです(2019年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/817096.html
を参照)。さらに、令和3(2021)年1月15日からは、「売立目録デジタルアーカイブ」の一部のテキストデータ(文字情報)を「東文研 総合検索」上の「売立目録作品情報」(https://www.tobunken.go.jp/archives/文化財関連情報の検索/売立目録作品情報/)というページで、広くウェブサイト上に公開することといたしました。
 この「売立目録作品情報」は、東文研が所蔵する2,565件の売立目録のうち、第二次世界大戦終結以前に発行された2,328件に掲載されている約337,000件の作品の情報をテキストデータで公開したもので、原則として写真が掲載された作品の文字情報を選択してデータ化したものです。画像を見ることはできませんが、売立目録に収載された豊富な文字情報が検索可能となり、さまざまな応用が可能になると期待されます。
 なお、東文研の資料閲覧室では、通常、月曜日・水曜日・金曜日の週3日設けていた開室日を、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、令和2(2020)年6月10日からは事前予約制で水曜日・金曜日のみとし、さらに、令和3(2021)年1月7日に再び緊急事態宣言が発令されたことにより、1月15日からは金曜日のみとなりました。こうした状況下では、資料閲覧室を利用できる人数も限られるため、資料のオープンアクセス化がますます求められます。今後は、画像が閲覧できる「売立目録デジタルアーカイブ」と、世界中どこからでも文字情報を検索できる「売立目録作品情報」をあわせ、両者を目的に応じて利用していただければ幸いです。

「文化財の記録作成とデータベース化に関するセミナー シリーズ「ディジタル画像の圧縮~画像の基本から動画像まで~」その1 ディジタル画像の基礎」の開催

会場の様子

 文化財の記録作成(ドキュメンテーション)は、文化財の素材や形状、色などの情報を把握し、得られた情報を調査研究や保存修復の計画策定、活用に役立てるために不可欠な過程です。文化財情報資料部文化財情報研究室では、このような文化財の記録作成のための写真撮影や、記録を整理・活用するためのデータベース化に関する情報発信を行っています。その一環として令和2(2020)年12月23日、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じたうえで、標記のセミナーを東京文化財研究所セミナー室で開催しました。
 シリーズ「ディジタル画像の圧縮~画像の基本から動画像まで~」は全部で3回を予定しており、第1回目の今回は、画像圧縮についてよりよく知るための基本的な内容としました。最初に今泉祥子氏(千葉大学大学院工学研究院准教授)が、アナログ画像との違いや各ファイル形式の特徴、解像度による情報量の変化など、ディジタル画像の性質について解説しました。次に、城野誠治(文化財情報資料部専門職員)が、光源ごとのスペクトルの特徴の違い、文化財写真に適した光源やその配置など、ディジタル写真撮影の際の光や色の扱いを中心に解説を行いました。
 現在、JPEG、MPEG4など、圧縮された画像や映像はとても身近な存在です。しかし、文化財の写真撮影や画像保存の計画を立てようとしたとき、圧縮によってどのような情報が失われるのか、TIFFやRAWで保存しさえすれば適切と言えるのかなど、疑問を持つこともあるのではないでしょうか。私たちは今後も一連のセミナーを通じて、文化財の画像による記録の作成や保存・発信にあたって参考となるような情報を発信する予定です。

屋外彫刻の保存における問題を考える―第6回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 令和2(2020)年12月21日、文化財情報資料部では、野城今日子(文化財情報資料部アソシエイトフェロー)が、「屋外彫刻を中心とした「文化財」ならざるモノの保存状況についての報告と検討―シンポジウム開催を見据えて―」と題した研究発表をおこないました。
 日本には、全国各地の公共空間に屋外彫刻が設置されています。それらは、地域にとって重要な意味を持つ、かけがえのない存在です。しかし、多くの屋外彫刻はメンテナンスがされず、放置された状態にあり、さらに近年では安全性の問題から作品が撤去された例があります。そもそも、屋外彫刻は一般的に「文化財」として認識されておらず、ゆえに適切な保護体制の整備が進んでいません。
 本研究会では、このような屋外彫刻の問題を解決すべく、発表者から事例紹介と問題点が提示され、参加者とのディスカッションがおこなわれました。また、今回は、長年にわたり地域での屋外彫刻のメンテナンス活動に携わっている大分大学の田中修二氏と東海大学の篠原聰氏を招き、保存活動の現場が抱えている課題などについてコメントしていただきました。
 屋外彫刻の保存に関しての問題は、行政、教育、歴史など多岐にわたる問題が複雑に絡み合っており、簡単には解決できません。この問題の情報共有と解決方法を探るために、今後、シンポジウム開催を検討しています。

アート・ドキュメンテーション学会第13回秋季研究集会での発表

オンライン会議システムでの発表
発表スライドの一部「発展性:GRPへの日本のコンテンツ拡充」

 アート・ドキュメンテーション学会第13回秋季研究集会が令和2(2020)年11月28日に開催され、橘川英規・田村彩子・阿部朋絵・江村知子(以上、文化財情報資料部)・山梨絵美子(副所長)の連名で「葛飾北斎絵入り版本群・織田一磨文庫のオープンアクセス事業-ゲッティ研究所との協同による書誌情報国際発信の実践(古典籍書誌整備と資料保全)」と題して発表を行いました。当日は、研究所庁舎から5名がオンライン会議システムで参加、そのうち橘川・田村の2名が口頭で、この事業で実施した書誌整備とデジタル化に際しての資料保全について報告し、さらにその発展性を提示しました。発展性としては、この事業で構築したゲッティ・リサーチ・ポータル(GRP、http://portal.getty.edu/)への日本美術資料デジタルコンテンツの提供ルートを関連機関にも利用してもらうことで、GRP内に日本美術に関するコンテンツを増やし、その国際的なプレゼンスを高められる可能性について言及しました。同学会は、博物館・美術館資料担当の方が多く所属しており、具体的な資料保全、書誌整備の実践に焦点をあてたこの発表は、資料を取り扱う実務において参考になるということでも好評を得ました。
 新型コロナウイルス感染症拡大防止のために行動制限が設けられるなか、インターネット上における研究環境整備は急務だと認識しております。今後は各機関との連携を拡充していきつつ、日本美術の国際情報発信と、広範な文化財研究に有益な資料提供と環境整備に努めてまいります。
 なお、この発表の要旨はこちら(同研究集会予稿集、http://www.jads.org/news/2020/jads_autumn2020.pdf#page=9)からご覧いただけます。

セインズベリー日本藝術研究所とのオンライン協議

オンライン協議の様子

 東京文化財研究所では平成25年(2013)よりイギリスのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)との共同研究を推進しています。SISJACは欧州における日本の芸術文化研究の拠点の一つとして活動し、海外で発表された英文による日本の芸術に関する文献や展覧会などの情報を収集し、東京文化財研究所の「総合検索」http://www.tobunken.go.jp/archives/にデータを提供していただいています。SISJACとの連携により「総合検索」から日本国内だけでなく、海外における日本の芸術に関する研究や動向も知ることができます。令和元(2019)年度までは毎年一回、当研究所の職員がノリッジのSISJACを訪問し、データベースについて協議し、講演をおこなってきましたが、今年は新型コロナ感染症感染拡大の影響により、渡航を取り止め、インターネット通信を用いた協議を令和2(2020)年11月26日におこないました。世界的に新型コロナ感染症感染拡大の影響が長期化するなか、いつでもどこでも利用が可能な公開データベースやオープンアクセス資料が、これまで以上に重要性を増しており、より広範な利用者層に提供するための取り組みについて協議しました。東京は午後5時、イギリスは午前8時と、9時間の時差があるなかでのオンライン協議でしたが、参加者が互いに顔を見ながら話し合い、情報共有ができたことは、今後の共同事業を進める上でも有意義な機会になりました。令和3(2021)年度以降の次期中期計画でも、SISJACとの共同研究を継続していく予定です。

初期洋風画と幕末洋風画、形を変えた継承-第5回文化財情報資料部研究会の開催

研究会発表の様子

 令和2(2020)年11月24日に開催された第5回文化財情報資料部研究会では、東洋美術学校非常勤講師の武田恵理氏が「初期洋風画と幕末洋風画、形を変えた継承―日本における油彩技術の変遷と歴史的評価の検証―」という題目で発表されました。
 武田氏は長年、日本における油絵の歴史研究と修復に携わっておいでですが、本報告はこれまで行なってこられた作品調査と再現実験による多くの実際的経験をもとに、日本の油彩画を技術的な観点で総括したうえ、近年発見された江戸時代中期の油彩画に注目して歴史的な評価を試みたものです。
 洋画ともよばれる油彩画の存在は、明治初期前後に始まった西洋画研究によって初めて認識されたため、それ以前の油彩画に対するこれまでの歴史的位置付けや評価は適切なものだとは言い難い側面があります。こうした現状を鑑み、武田氏は日本の油彩画史を、飛鳥時代の漆工技法、桃山時代の初期洋風画、オランダの影響による幕末洋風画の3期に分類したうえで、近年確認された漆地に乾性油絵具で描く日光東照宮陽明門の江戸時代中期油彩壁画がキリスト教フランシスコ会の絵師に由来し、技術的に初期洋風画と幕末洋風画とをつなぐものではないかという説を提示されました。
 この研究会では、美術史家として初期洋風画を中心とした研究を長年行ってこられた坂本満氏、また日光の江戸時代社寺における漆装飾修復事業を進められてきた日光社寺文化財保存会の佐藤則武氏にコメンテータとして御参席いただいたほか、この日光東照宮陽明門油彩壁画の実態や日本油彩画史への位置付けをめぐって、参加者からもさまざまな意見が提出され活発な議論が行われました。

『美術研究』pdf版総目次のインターネット公開

東京文化財研究所刊行物リポジトリの画面

 文化財情報資料部では、研究誌『美術研究』を通じて日ごろの調査研究の成果を公表しています。本誌は昭和7(1932)年に創刊され、現在に至るまで431号が刊行されてきましたが、令和2(2020)年11月から、東京文化財研究所ホームページ内(http://www.tobunken.go.jp/~joho/index.html)および「東京文化財研究所刊行物リポジトリ」(http://id.nii.ac.jp/1440/00008980/)でpdf版「『美術研究』総目次」を公開しました。
 この総目次は、昭和40年(1965)に発行された『美術研究総目録』(230号まで掲載)の続編として作成され、これまで『美術研究』に掲載された論説・図版解説等の2400件以上にのぼる文献を一覧することができます。また日本語版とあわせて英語版を作成したほか、文書内での検索にも対応しており、文献の探索にも幅広くお使いいただけます。
 なお、総目次は今後も新しい号が発刊される都度、随時更新していく予定です。

美術雑誌『みづゑ』をめぐる知の発信と活用――第4回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 現在、文化財情報資料部では所蔵資料のデジタル化、オープンアクセス化を積極的に進めています。https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/822941.html

 なかでも他の資料に先駆けて2012(平成24)年にウェブ公開を行なったのが、1905(明治38)年創刊の美術雑誌『みづゑ』です。これは当研究所と国立情報学研究所が共同で開発したもので、明治期に刊行された同誌の創刊号から90号までの誌面がウェブ上で見られるようになっています。http://mizue.bookarchive.jp/
 2020(令和2)年10月8日に開催された文化財情報資料部研究会では、『みづゑ』ウェブサイト開発メンバーの一人である丸川雄三氏(国立民族学博物館准教授、当研究所文化財情報資料部客員研究員)に「近代美術研究における関係資料の発信と活用」の題でご発表いただきました。同サイトではすでに記事の執筆者ごとのインデックスが整備されていますが、丸川氏はさらに検索機能を拡張し、インデックスの充実を進めています。インデックスを充実させることで専門化と普遍化の両立を図り、専門の垣根を越えた情報の共有が可能となると丸川氏は指摘し、国内外のさまざまな地域の情報をもたらす『みづゑ』所載の画や文章を例に、美術史の専門家ではなかなか気づきにくいフィールドノートとしての魅力を提示されました。そうした無限の可能性を秘めた知の発信と活用は、おりしも丸川氏が国立民族学博物館で担当の展覧会「知的生産のフロンティア」(2020年9月3日~12月1日)で取り上げた民族学者・梅棹忠夫氏の提唱した“知的生産の技術”にも、時代を超えて通ずるものがある、というコメントも印象的でした。

大分県立埋蔵文化財センター企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」オープニング記念講演会での講演

大分市平和市民公園能楽堂における講演の様子

 豊後国(大分県中南部地域)は安土桃山時代にキリシタン大名として著名な大友宗麟が統治し、フランシスコ・ザビエルを始めとする多くのヨーロッパ人宣教師らが布教を行ったという歴史を持つ土地です。令和2年(2020)年10月10日(土)から12月13日(日)まで、大分県立埋蔵文化財センターにおいて、この地における南蛮文化やキリスト教とのかかわり、また近年大きな成果を上げつつあるさまざまな南蛮遺物の理化学的分析研究結果を紹介する令和2年度企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」が開催されました。
 この展覧会では大友氏の拠点都市であった豊後府内遺跡から出土した陶磁器類などの南蛮遺物、そして津久見市が長い年月をかけて収集してきた南蛮漆器や絵画などを中心に、国内各地に所蔵される関連作品によって展示が構成されましたが、文化財情報資料部広領域研究室長の小林公治は同センターからの依頼を受け、10月10日開催のオープニング記念講演会において「キリスト教の布教と南蛮漆器―理化学的分析の検討、メダイ研究との対比から―」と題して、この展覧会の展示内容と相関するキリスト教器物南蛮漆器への最新研究成果に焦点を当てた講演を行いました。
 新型コロナウイルスへの感染リスクを減らすため、当日は着席間隔を大きく空けての会場設営となりましたが、およそ200名もの参加者があり、南蛮文化とキリスト教布教史に対するこの地の深い関心をうかがい知ることができました。

第54回オープンレクチャーの開催

オープンレクチャー講演風景

 文化財情報資料部では、毎年秋に広く一般の聴衆を募って、研究者からその研究の成果を講演する「オープンレクチャー」を開催しています。今年は「かたちからの道、かたちへの道」のテーマのもとでの講演の5年目となります。例年2日間にわたって外部講師を交えて開催してきたところですが、本年の新型コロナ感染防止の情勢から、内部講師2名、1日のみとし、2020(令和2)年10月30日、聴衆の定員も抽選制による30名に限定したうえ、検温、マスク、手指の消毒を徹底して開催しました。
 本年は、文化財情報資料部長兼近・現代視覚芸術研究室長・塩谷純による「近代日本画の”新古典主義“-小林古径の作品を中心に-」、および文化財情報研究室長・二神葉子による「タイに輸出された日本の漆工品-王室第一級寺院ワット・ラーチャプラディットの漆扉を中心に-」の2講演が行われました。
 塩谷からは、昭和戦前期に小林古径に代表される日本画において、洗練された静謐な画風が興ったこと、これらが、日本あるいは中国の古い絵画作品からの影響を受け入れた側面があることを多数のスライドや資料とともに紹介されました。二神からは、1864年、タイ・バンコクにラーマ4世王の命により建立された、ワット・ラーチャプラディットに日本の漆製の扉絵が使用されていることを紹介し、その他日本から輸入された漆製品に関するものも交え、これらについて行われた光学調査の所見を交えつつ講演が行われました。
 聴衆へのアンケートの結果、参加者の9割以上から「満足した」、「おおむね満足した」との回答を得ることができました。

文化財の記録作成とデータベース化に関するハンズオン・セミナー「文化財写真入門―文化財の記録としての写真撮影実践講座」の開催

カメラの持ち方を示す城野専門職員
撮影の手法に関する講義
絵画作品の撮影実習

 文化財を調査し、その記録を作成することは対象への理解を深める手段であり、記録した情報の公開は、多くの方にその文化財を知る機会を提供します。また、その文化財が損傷を受けた際には修理の根拠となるなど、記録作成は文化財の保存や活用に不可欠といえます。このような文化財の記録作成手法の一つである写真撮影に関して、東京文化財研究所は令和2(2020)年8月24日、標記のセミナーを静岡県下田市の上原美術館で開催しました。セミナーには静岡県博物館協会の後援、上原美術館の協力を得て、静岡県内の博物館・美術館、自治体の文化財担当の職員など、11名の方にご参加いただきました。開催にあたり上原美術館では、会場の座席の間隔や換気の確保、関係者への検温など、新型コロナウイルス感染拡大防止に十分な配慮を行っています。
 セミナーは午前・午後の二部構成で、午前は、上原美術館主任学芸員の田島整氏による、寺院の調査での写真撮影の経験についての報告に続き、参加者全員に、日常業務で感じる撮影の課題をお話しいただきました。当研究所からは、文化財情報資料部専門職員の城野誠治が、参加者の質問にお答えしつつ、対象の記録すべき特徴を意識した撮影が重要であることなど、実例を交えて紹介しました。
 午後は、上原美術館所蔵の3点の作品を、各参加者が持参のカメラで撮影しました。その際に城野は、作品の性質を引き出すためのライトの位置や、ホワイトバランスの手動設定による適切な色の記録など、撮影方法について機器を操作しながら説明し、田島氏をはじめとした上原美術館の学芸員の皆様も、作品調査の手法に関する解説を行うなど、実践的な実習となりました。
 このセミナーに対しては、有意義であったとの感想を参加者の皆様からいただきましたが、当研究所にとっても、写真撮影に関する課題を直接伺う貴重な機会となりました。また、上原美術館の皆様には、企画・運営に関して多大なご支援を賜りました。関係の皆様に深く感謝するとともに、今回の経験を踏まえ、ハンズオン・セミナーをよりよいものにしていきたいと思います。

展覧会「日本美術の記録と評価―調査ノートにみる美術史研究のあゆみ―」の開催

東京国立博物館本館14室での展示
展覧会の特設サイト

 東京文化財研究所が所蔵する今泉雄作(1850∼1931)、平子鐸嶺(1877∼1911)および田中一松(1895∼1983)による調査ノートと、 京都工芸繊維大学が所蔵する土居次義(1906〜1991)による調査ノートを中心とした展覧会を、令和2(2020)年7月14日から8月23日まで、東京国立博物館にて開催しました。 田中一松資料・土居次義資料については、平成30(2018年)に開催した「記録された日本美術史―相見香雨・田中一松・土居次義の調査ノート展」(実践女子大学香雪記念美術館・京都工芸繊維大学美術工芸資料館)でも公開しましたが、今回は東京国立博物館に所蔵される実際の絵画作品2点とともに、調査ノートを展示しました。写真を気軽に撮ることができなかった時代、調査の基本は自分の目で作品を見て、情報を手で書き写すことでした。 これらの調査ノートを見ると、研究者がどのように作品に向き合い、記録し、評価に至っているのか、その過程をたどることができます。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、事前予約制での開館でしたが、特別展「きもの」が同時に開催されており、多くの方々にご覧いただきました。展覧会に合わせて特設サイトも制作しました。https://www.tobunken.go.jp/exhibition/202007/
 このウェブサイトは会期終了後も、引き続き公開しています。展示していた箇所の次のページや、調書の書き下し文も見ることができますので、ぜひご覧ください。

第3回文化財情報資料部研究会の開催

研究会風景
矢代幸雄著『サンドロ・ボッティチェリ』中のデュヴィーン所蔵「男性肖像」図版ページ

 文化財情報資料部の令和2年度第3回目の研究会が令和2(2020)年8月25日に行われ、「ゲッティ研究所が所蔵する矢代幸雄と画商ジョセフ・デュヴィーンの往復書簡」と題して、山梨絵美子が発表しました。
 東京文化財研究所の前身である帝国美術院付属美術研究所の設立に深くかかわった矢代幸雄(1890-1975)は、1921年から25年までヨーロッパに留学し、ルネサンス美術研究者バーナード・ベレンソン(1865-1959)に師事して英文の大著『Sandro Botticelli』(メディチ・ソサエティー 1925年)を刊行しました。ベレンソンはルネサンス絵画研究の大家としてフィレンツェ郊外にある広い庭園付きのヴィラ・イタッティに住んでいましたが、その経済的成功は画商ジョセフ・デュヴィーン(英国籍 1869-1939)との契約によるものであったとされています。デュヴィーンはニューヨーク、パリ、ロンドンに店舗を持って、ヘンリー・クレイ・フリック(1849-1919)、ジョン・ロックフェラー(1839-1937)など、アメリカの富豪のヨーロッパの古典絵画コレクション形成に寄与したほか、英国ではテート・ギャラリーにデュヴィーン・ウィングを設立しています。
 本発表では、ゲッティ研究所が所蔵するデュヴィーンと矢代の往復書簡を読み解き、ベレンソンの弟子としてボッティチェリに関する著作を為すに当たり、矢代がデュヴィーン画廊を訪れて作品を調査し、それらについての意見を書き送っていることや、デュヴィーンが1920年代半ばにヨーロッパの古典絵画市場として日本に興味を持ち、矢代に仲介を期待したことなどを明らかにしました。美術史家矢代に関する新資料紹介の場となっただけでなく、日本における西洋絵画蒐集の歴史についても考える機会となりました。

資料閲覧室の開室再開

飛沫防止フィルムを設置したカウンターでの資料の受け渡し

 当研究所資料閲覧室は新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)拡大防止のため、令和2(2020)年2月28日から臨時閉室しておりましたが、6月10日より閲覧業務を再開いたしました。感染症対策のため、通常よりも時間を短縮、開室日数を減らしています。事前予約制で、利用者の皆様にはマスクとニトリル手袋を着用の上で、ご利用頂いております。利用者の皆様にはご不便をお掛け致しますが、いまだ感染状況も沈静化していない中、それでも利用者の皆様と職員の安全を確保しつつ、必要なサービスを提供するよう、職員一同、日々努力を重ねております。ご理解・ご協力のほど、よろしくお願い致します。
利用予約については下記をご覧下さい。
https://www.tobunken.go.jp/info/info200605/index.html
また遠隔複写サービスもおこなっております。通常よりも少ない職員で対応しているため、多少時間がかかる場合もありますが、ご自宅からでも必要な資料を取り寄せられます。ぜひご利用下さい。

近現代の大礼にみる“伝統”――第1回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 昨年(2019年)、平成から令和への代替わりの一大行事(大礼)として行なわれた即位礼・大嘗祭は記憶に新しいところです。その折に用いられた雅な装束に目を奪われた方も多かったことでしょう。そんな古式を彷彿とさせる一連の行事が、明治・大正・昭和・平成、そして令和と五代にわたっていかに伝えられたのか——―令和2(2020)年6月23日に開催された文化財情報資料部研究会での田中潤氏(客員研究員)による発表「近代の大礼と有職故実」は、近現代の皇室における“伝統”のあり方をうかがう内容となりました。
 明治時代以降、皇室においても洋装が日常的なものとなり、従来の有職装束は着用が祭祀儀礼の際に限られるようになります。用いられる機会が減少した装束の途絶を回避するために有職故実研究の重要性が増し、大礼の都度、その成果が活かされました。一方で各時代の大礼で用いられた装束を比較すると、視覚的な効果や経費の問題等、さまざまな理由により変更も少なからず認められます。田中氏の発表を拝聴して、時代の要請に柔軟に対応しながら、“伝統”のイメージを伝えていく大礼のあり方は、まさに有形無形の文化財を守り伝える姿勢にも通じるものがあるように思いました。
 なお今回の研究会は、新型コロナウイルス感染拡大による休止をはさんで、およそ4ヶ月ぶりの開催となりました。会場も2階の研究会室から密集、密接を避けて地階のセミナー室へと移すなど、感染対策をとった上で行ないました。

資料閲覧室の臨時閉室とオープンアクセス資料拡充の推進

東文研OPACの画面
PDFでダウンロードできる明治期の美術展覧会図録

 新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)拡大防止のため、同じ独立行政法人国立文化財機構の他施設と同様に、資料閲覧室は令和2(2020)年2月28日から臨時閉室させて頂いており、ご利用の皆様には多大なご迷惑・ご不便をお掛けしております。政府の緊急事態宣言発令後は、当研究所の多くの職員も自宅待機となっておりますが、学校や職場で研究ができなくなってしまっている方が世界中におられます。
 こうした状況下で、有効に活用できるのが、インターネット公開のデータベースやオープンアクセス資料です。これまでも当研究所では、所蔵資料のデジタル化と広範な利用促進に向けた取り組みを進めて参りましたが、ゲッティ研究所との共同事業により、昨年10月には明治〜昭和初期の美術展覧会カタログ900冊余りをインターネット公開しており、現在は当研究所所蔵の江戸時代の版本およそ730タイトル(1,700冊)のデジタル化、オープンアクセス化を鋭意進めております。江戸時代の版本は今年中にゲッティ・リサーチ・ポータルから検索・閲覧できるようになる予定です。
 ゲッティ研究所との共同事業でデジタル化した資料は、こちらからご覧になれます。
https://opac.tobunken.go.jp/gate?module=top&path=corner/corner.do&method=open&no=1
また『美術研究』、『保存科学』、『無形文化遺産研究報告』、『日本美術年鑑』などは機関リポジトリからご覧頂けます。
https://tobunken.repo.nii.ac.jp
さらに当研究所の多種多様の研究資料は、「東文研総合検索」から検索できます。
http://www.tobunken.go.jp/archives/
より多くの皆様に、いつでもどこからでも無料でご利用頂ける研究資料の提供をこれから推進して参りますので、どうぞご利用下さい。

ゲッティ・センターの国際語彙協議会(ITWG)での発表

国際語彙協議会の会場

 令和2(2020)年2月6、7日にアメリカのロサンゼルスにあるゲッティ・センターで開催された国際語彙協議会(ITWG: International Terminology Working Group Meeting) において、「日本人の美術家たち:東京文化財研究所(Japanese artists, TNRICP)」と題して、現在、当研究所とゲッティ研究所との共同事業の一環として取り組んでいるゲッティ・ボキャブラリーズ(Getty Vocabularies)への日本美術家人名情報の提供、その途中経過を発表しました。 ゲッティ研究所が主導するITWGは、美術・建築シソーラス(AAT: Art & Architecture Thesaurus)、地理的名称シソーラス(TGN: Thesaurus of Geographic Names)、美術家人名総合名鑑(ULAN: Union List of Artist Names)、文化財名称典拠(CONA: Cultural Objects Name Authority)、図像典拠(IA: Iconography Authority)などのプログラムで構成される統制語彙集ゲッティ・ボキャブラリーズ(getty.edu/research/tools/vocabularies/)に関する共通のトピックを議論するグループで、おおむね2年に1度招集されています。今回の協議会には、アメリカ合衆国、台湾、ベルギー、ドイツ、ブラジル、イスラエル、クロアチア、アラブ首長国連邦、スイス、オランダなどから35名ほどの参加者が参集し、ゲッティ・ボキャブラリーズ各プログラム担当者から、その現状と機能拡張の進展等について報告があり、また参加機関から、ゲッティ・ボキャブラリーズへのデータ提供の先駆的な実践などについて発表が行われました。さらに、これらの報告・発表をうけ、ゲッティ研究所担当者や参加機関において共通する問題を挙げて議論を行うなかで、他国の参加者からも助言を得ることができました。
 日本の文化財を海外に外国語で紹介する際には、国際的な専門用語・人名辞典が不可欠ですが、ゲッティ・ボキャブラリーズは今日の技術と関係機関の連携によって実現しようとする取り組みです。これに当研究所が永年蓄積してきた日本美術家人名情報を提供することで、日本の文化財の発信、あるいは国際的な日本文化財研究の支援となることを目指しています。

売立目録デジタルアーカイブの公開と今後の展望―売立目録の新たな活用を目指して――第10回文化財情報資料部研究会の開催

発表の様子

 東京文化財研究所では、明治から昭和に発行された2565件の売立目録(オークションカタログ)を所蔵しており、長年、閲覧に供してきましたが、売立目録の原本の保存状態が悪いため、平成27(2015)年から東京美術倶楽部と共同で、売立目録のデジタル化をおこない(2015年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/120680.htmlを参照)、令和元(2019)年5月から「売立目録デジタルアーカイブ」として公開を開始したところです(2019年4月の活動報告https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/817096.htmlを参照)。
 令和2(2020)年2月25日に開催された第10回文化財情報資料部研究会では、「売立目録デジタルアーカイブの公開と今後の展望―売立目録の新たな活用を目指して―」と題して、所外から3名の発表者を招き、さまざまな分野における売立目録デジタルアーカイブの活用事例を紹介していただきました。発表内容は、山口隆介氏(奈良国立博物館主任研究員)が「仏像研究における売立目録の活用と公開の意義」、山下真由美氏(細見美術館学芸員)が「土方稲嶺展(於鳥取県立博物館)での売立目録の活用と展開」、月村紀乃氏(ふくやま美術館学芸員)が「工芸研究における売立目録デジタルアーカイブの活用方法とその事例」、安永が「売立目録デジタルアーカイブから浮かび上がる近世絵画の諸問題」についてでした。会場には、各地の学芸員や研究者など50名近くが参加しており、4名の発表後は、発表者間でディスカッションをおこなったほか、会場からの質問などにも答え、デジタルアーカイブの利点や注意点、今後の課題や問題点などに関して、活発な議論が交わされました。なお、当日のアンケート結果では、この研究会について、87%の方から「たいへん満足した」との回答を得ています。

永青文庫所蔵 重要文化財「洋人奏楽図屏風」デジタルコンテンツの公開

資料閲覧室の専用端末
右隻部分の拡大画像と蛍光エックス線分析結果

 文化財情報資料部では、当研究所で行った美術作品の調査研究について、デジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開しています。このたび永青文庫所蔵の重要文化財「洋人奏楽図屏風」のデジタルコンテンツの公開を開始致しました。永青文庫所蔵「洋人奏楽図屏風」は初期洋風画と呼ばれる日本絵画の一作例で、西洋の人物・風俗・景色などが西洋風の表現技法によって描かれています。この作品は屏風という日本絵画の典型的な画面形式に、通常の日本絵画とは異なる、独特な表現技法が用いられています。このデジタルコンテンツは、平成27(2015)年に東京文化財研究所が刊行した報告書に基づいて作成しました。専用端末で高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光エックス線分析による彩色材料調査の結果などがご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。ご利用に際しては下記をご参照下さい。http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

to page top