研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


平成19年度自己点検評価の結果

 5月19日に自己点検評価に関わる外部評価委員会が開催されました。当日は、独立行政法人国立文化財機構として平成19年度に実施した事業全般について、その実施状況や成果を委員に提示して説明し、意見をいただきました。後日、各委員の評価や意見を参照しつつ、自己点検評価をまとめました。以下に、東京文化財研究所の事業に対する自己点検評価の結果の概略をお伝えします。
 東京文化財研究所が中期目標の実現のために平成19年度に設定した事業は、調査・研究、国際協力の推進、調査・研究成果の公開や情報の発信、国や地方公共団体等に対する協力・助言など多岐にわたります。外部評価委員から最も高い評価をいただいたのは、高松塚古墳・キトラ古墳の壁画保存関連事業への協力でした。国民が注目する中で、東京・奈良の両文化財研究所は困難な事業を計画以上に達成したと評価されました。国際協力事業では、中国・韓国との間に成熟した協力関係を発展させつつあること、カンボジアやアフガンなどにおいて、困難な状況下で支援を発展させたことが注目されました。また、研修の実施や積極的な助言等によって、各種の文化財に関わる人びとの知識や技術のレベルアップに寄与し、人材育成に貢献したことも高く評価されています。しかし、それら事業の成果が国民に充分に伝わっているとは言いがたい面があり、情報の発信機能をより高める努力が期待されています。自己点検評価を行った結果、平成19年度のすべての事業は順調に実施され、充分な成果があがっていると判定しました。自己点検評価の結果は、今後の事業計画の策定や法人運営の改善に反映させます。


国立韓国伝統文化学校との文化交流に関する協定の締結

握手を交わす鈴木規夫所長(左)と李鐘哲総長(右)
国立韓国伝統文化学校一行との記念撮影
東京文化財研究所職員との記念撮影

 平成20年5月13日、東京文化財研究所と国立韓国伝統文化学校の間で、文化交流に関する協定が結ばれました。協定は包括的な交流の推進に関するもので、韓国伝統文化学校と当研究所が、学術研究、教育の分野における文化交流を実施することにより、文化遺産保護の促進に資することを目的としています。
 国立韓国伝統文化学校からは李鐘哲総長をはじめとする4名の方々を迎えて、当研究所において調印式が行われ、大勢の研究所職員が見守る中、総長と鈴木規夫所長により文化交流協定書に署名が交わされました。
 国立韓国伝統文化学校は、大統領府に基づいて伝統文化の保護・伝承を目的とする大学として設置され、文化財管理、造園、建築、美術工芸、考古、保存科学の6学科から成っています。今後、幅広い分野に渡っての総合的な交流が期待できます。


“オリジナル”研究通信(4)―加藤哲弘氏を囲んで

 企画情報部では今年12月に開催する国際シンポジウム「オリジナルの行方―文化財アーカイブ構築のために」に向けて準備を進めています。5月9日には、加藤哲弘氏(関西学院大学)をお招きして研究会を行いました。山梨絵美子の「美術研究所とサー・ロバート・ウィット・ライブラリー」と題する当所の成立と1920年代の西欧社会における美術史資料環境に関する発表、西洋美学の分野で「オリジナル」の問題がどのように語られてきたかについて加藤氏の「『オリジナル』であることをめぐって―美術研究に対するその意義」という発表の後、“オリジナル”をめぐってディスカッションがなされました。“オリジナル”であることが希求されるのは西洋でも19世紀以降であること、そうした時代を背景としながら19世紀末に活躍した美術史家アロイス・リーグルは必ずしも文化財の当初の姿のみに価値を見出さず経年的価値を認め、アーウィン・パノフスキーは複製が真正性(アウラ)を欠くことを指摘して文化財そのもの(オリジナル)と複製を区別したことなどが加藤氏によって指摘され、”オリジナル”の記録と記憶の質の違い、“オリジナル”を残す行為は何を伝えていくことか、などについて議論が交わされました。様々な角度から考え、議論を深めることにより、シンポジウムの充実を図るとともに、文化財に関する調査研究、資料の蓄積と公開という日常業務のあり方についても考える機会としたいと思います。


五姓田派としての満谷国四郎―美術研究所旧蔵デッサンより

満谷国四郎《人物》 東京国立博物館蔵

 満谷国四郎(1874~1936年)は明治・大正・昭和の三代にわたり、文展や帝展を舞台に活躍した洋画家として知られています。その没後の昭和13(1938)年に、当研究所の前身である美術研究所は満谷が残した素描類の寄贈を受けました。それらは明治期の“道路山水”とよばれる風景写生や、大正期に制作された展覧会出品作の下絵が多数を占めているのですが、その中で一点、鉛筆で入念に仕上げられた人物デッサンが異彩を放っています。細かな線描を交差させながらモティーフの肉付けを行うクロス・ハッチングの手法を用い、片目をすがめてこちらを見つめる表情は自意識にあふれています。満谷のみならず明治洋画史の上でも類例をみないものであったため、これまで紹介されることもなかったのですが、このたび神奈川県立歴史博物館の角田拓朗氏と岡山県立美術館の廣瀬就久氏が、明治初期洋画に多大な足跡を残した五姓田芳柳・義松一派の調査研究を進める中で、その流れに位置する可能性を指摘され、5月7日の企画情報部研究会で発表を行いました。デッサンの左下隅に記された明治25年2月21日という日付は、満谷が五姓田門下で学んでいたわずか一年ばかりの時期に当たります。このデッサンが五姓田派と満谷をつなぐ作として、さらには明治洋画史に一石を投じる作として位置づけられることになるかもしれません。本作品は、同じくクロス・ハッチングによる描写で満たされた写生帖とあわせて、「五姓田のすべて―近代絵画への架け橋」展(神奈川県立歴史博物館2008年8月9~31日、9月6~28日、岡山県立美術館2008年10月7日~11月9日)に出品される予定です。


平成20年度の在外日本古美術品保存修復協力事業

 東京文化財研究所では、海外の美術館・博物館が所蔵する日本美術品の保存修復に協力するとともに対象作品を所蔵館と共同で保存修復に関する研究を行っています。
 平成20年度は、絵画4件『松に孔雀図屏風』(6曲1隻、カナダ、グレーター・ビクトリア美術館)、『星曼荼羅図』(1幅、カナダ、バンクーバー博物館)、『虫歌合絵巻』(1巻、イタリア、ローマ国立東洋美術館)、『遊女立姿図(宮川長春筆)』(1面、イタリア、キョッソーネ東洋美術館)、工芸4件『住吉蒔絵文台』(1基、イギリス、ヴィクトリア&アルバート美術館)、『花鳥紋章蒔絵盾』(1基、イギリス、アシュモリアン美術館)、『近江八景蒔絵香棚』(1対、チェコ、市立ヴェルケ・メディジ博物館)、『楼閣山水蒔絵箱』(1合、オーストリア、ウィーン国立工芸美術館、昨年度からの継続分)を対象にして日本国内で保存修復が行われます。また、ドイツ・ケルン東洋美術館に開設した海外修復工房においては『花樹鳥獣蒔絵螺鈿洋櫃』(3年継続の3年目)の保存修復が進行中です。さらに、本年度からベルリン・ドイツ技術博物館・紙の修復工房において、絵画1件『達磨図』(ケルン東洋美術館、2年継続)を対象として保存修復が行われます。この海外における修復工房では海外の修復関係者を対象にワークショップを併行して開催する予定です。


第30回国際研究集会「無形文化遺産の保護」報告書の英語版

グウェン・キム・ズン氏「近年のベトナムにおける無形文化遺産の保護」より

 2007年2月14から16日まで開催された第30回国際研究集会「無形文化遺産の保護 国際的協力と日本の役割」の報告書の英語版を、ホームページにアップしました。「無形文化遺産の保護に関する条約」が2006年4月に発効したことを受けて行われたシンポジウムです。ご覧になりたい方は、
http://www.tobunken.go.jp/~geino/e/kokusai/06ICHsympo.html
まで。  なお、日本語版は
http://www.tobunken.go.jp/~geino/kokusai/06ICHsympo.html
でご覧になれます。


「保存担当学芸員研修」開催に向けて

 全国の文化財保存施設において、資料保存を担当する職員を対象に、必要かつ基礎的な知識や技術を学んでいただくために毎年7月に開催している「保存担当学芸員研修」は今年度で一つの節目となる25回目を迎えます(7月14日から2週間の予定)。例年2月初旬までに開催要項を全国に配布しており、今年度は定員(25名)を大きく超える応募があったため、選考を行いました。選考にあたっては、この研修が初心者向けであるという観点から、ある程度保存施設における実務経験があり、受講後は勤務館のみではなく、長期にわたり地域における資料保存の核となっていただけるような人を重視しました。
 現在私たちは、7月の開催に向けて、プログラム作りや、外部講師の依頼、実習の内容精査、また実習機器のチェックなどを行っています。研修内容は、毎年の研修後に参加者からいただいたアンケート結果などを参考に毎年少しずつ改善しています。参加者は2週間もの間、職場を離れることになります。これは、参加者および勤務館の両者にとって大きな負担ですので、私たちにはこの研修が実践的に意義あるものであったと実感していただけるよう万全の準備を行い、開催に備えるよう心がけています。


平成19年度在外日本古美術品保存修復協力事業における修復作品の展示会について

東京国立博物館平成館特別展示室の展示

 保存修復科学センターでは、5月13日(火)から25日(日)まで、東京国立博物館平成館企画展示室において平成19年度在外日本古美術品保存修復協力事業において修復が終了した、屏風(6曲1双)2組、掛幅3幅及び漆工品2作品を展示しました。また、会場内には、絵画及び漆工品の修復過程を紹介したパネルも展示し修復作業の様子が分かるようにしました。いずれの作品も、所蔵館において展示可能な状態に修復されており、当研究所の国際貢献・協力を皆さんにご理解いただく良い機会となりました。今後もより一層の国際貢献・協力に寄与すべくこの在外日本古美術品保存修復協力事業を推し進めてまいります。


「中央アジアの岩絵遺跡の世界遺産への一括登録のためのユネスコ地域ワークショップ」への参加

 標記ワークショップは、平成20年5月26日から5月31日にかけて、中央アジアの一つであるキルギスタン共和国の首都ビシュケクで開催されたものです。トルクメニスタンを除く、キルギスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンの4ヶ国、及びユネスコ、イコモスが参加しており、当研究所の山内がオブザーバーとして参加しました。岩絵(もしくは岩画)は中央アジアのみならず、ユーラシア大陸に広く分布していますが、同ワークショップは中央アジアに地域を限定し、世界遺産として一括登録することを目的としています。会議では、多くの事例が紹介されるとともに、調査研究、登録作業、管理保存の問題点等が議論されました。また、国境を越えた遺産の一括登録の場合、各国での作業の進捗状況が異なり、世界遺産の申請書類の作成までには今後、さらに時間を要するものと思われます。同ワークショップでは2012年の世界遺産登録を目標に、今後も同種のワークショップを継続していくことが確認されました。文化遺産国際協力センターは、西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業の一環として、将来的な保存修復協力事業を念頭に、このようなワークショップに参加し、情報収集に努めるとともに、中央アジア諸国の関係者・関係当局との連携を図っていく予定です。


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