1月施設見学
エジプト・アラブ共和国考古庁大臣モハメド・イブラヒム・アリ・サイード閣下 駐日エジプト・アラブ共和国大使ヒシャム・エルジメイティー閣下 ほか 計9名
1月20日、所長の表敬訪問及び各研究室の見学のために来訪。保存修復科学センター第2修復実験室、同第7修復実験室、同電子顕微鏡室及び文化遺産国際協力センター修復アトリエ(紙)を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
■東京文化財研究所 | ■保存科学研究センター |
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■無形文化遺産部 |
エジプト・アラブ共和国考古庁大臣モハメド・イブラヒム・アリ・サイード閣下 駐日エジプト・アラブ共和国大使ヒシャム・エルジメイティー閣下 ほか 計9名
1月20日、所長の表敬訪問及び各研究室の見学のために来訪。保存修復科学センター第2修復実験室、同第7修復実験室、同電子顕微鏡室及び文化遺産国際協力センター修復アトリエ(紙)を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
昨年の東日本大震災では、数多の文化財もまた甚大な被害を受けました。当研究所に事務局を置く東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会では、津波の被害にあった沿岸部をはじめとする地域の文化財の救出活動に当たってきましたが、この1月より仙台城(青葉城)本丸跡に建つ昭忠碑(宮城縣護國神社)のレスキューに着手しました。 明治35年(1902)、仙台にある第二師団関係の戦没者を弔慰する目的で建立された昭忠碑は、20m余りの石塔の上に両翼をひろげたブロンズの鵄(とび)を設置したものですが、今回の地震で鵄の部分が石塔下に落下、左翼部が断裂するなど大きく破損し、無残な姿をさらしていました。1月22・23日に行ったレスキューでは、護國神社の方々とともに、人力で移動可能なブロンズの破片を回収し、あわせてブロンズ本体の移動等、今後の処置について話し合いました。
この昭忠碑は東京美術学校(現在の東京藝術大学)が制作依嘱を受けたもので、図案を河辺正夫、ブロンズの原型製作を沼田一雅、鋳造を桜岡三四郎と津田信夫が担当したとされています。いわば当時の美術学校の粋を集めたモニュメントであり、小松宮彰仁親王の揮毫による「昭忠」の銘板を石塔中央に掲げた本碑は、戦時中の金属供出も免れてその雄々しい姿を伝えてきました。被災した本碑を今後どのように救出し、後世に伝えていくのか――資金の調達等、多くの困難が予想されますが、その文化財としての価値に思いを致すなら、本碑があらたに復興のシンボルとして蘇ることを切に願ってやみません。
2012年1月、アルメニア共和国において無形の文化に関わる調査を行ないました。文化遺産国際協力センターでは、これまでもコーカサスや西アジア諸国において、主に有形の文化遺産に関わる国際協力事業を行なってきましたが、今回は無形文化遺産部の今石がこれらの地域における無形の文化遺産に関する基礎調査を行ない、今後、無形の文化に関わる国際的な研究交流や協力の可能性について探りました。
滞在中にはアルメニア歴史博物館や国立民族博物館等を訪問し資料調査を行なうと共に、民族学研究者とも懇談し、研究や文化伝承の現状について調査しました。アルメニアでは旧ソ連時代に多くの“伝統的文化”が失われたと認識されていますが、その断片は今日まで伝承されていたり体験として記憶されており、特にキリスト教と融合・併存しながら生き延びてきた土着的な信仰や慣習には興味深いものがあります。食に関する風俗・慣習や民俗技術はそのひとつで、例えば塩には、関連する様々な慣習や、特徴的な塩入れ容器(女性か鳥を象る)が伝承されており、その文化的重要性が窺われます。また食器のひとつである木製スプーンは、日本における箸と同じく個人所有となっており、家族の一人一人を象徴するほか、ここに家の精霊が宿るという考え方もあったと報告されています。主婦権の象徴ともなり、その他、様々な呪術的な用途にも使われたことは、日本におけるシャモジや箸とも共通します。本格的な調査はこれからですが、現地の研究者とも連携を取りながら、どういった形で調査研究や研究交流を進めていくことが可能なのか、これからも模索していく必要があります。
保存修復科学センターでは、受託研究『霧島神宮における彩色剥落止めの手法開発及び施工管理』の一環として、霧島神宮での伝統的塗装部位の生物劣化に関する調査研究を実施しています。膠などの有機物が用いられる伝統的な塗装方法は、一般的にカビなどの生物劣化を受けやすくカビが発生した場合、著しく美観が損なわれます。そればかりでなく、カビが接着材として機能している膠の蛋白質を分解することで塗装面から顔料が剥離したり、代謝産物によって顔料が着色したり溶解したりと、塗装部の物理的な劣化も促進します。
霧島神宮では、渡廊下、登廊下、拝殿の壁面に胡粉塗や黄土塗といった伝統的な塗装が施された場所でカビが広範囲に渡り増殖するといった被害が起きました。今年度は、その原因となったカビとそのカビが塗装部位に与える影響を明らかにするため、微生物学的な調査研究と、最適な防除策を提案するため現地での温湿度環境のモニタリング・防カビ剤の曝露試験を行っています。
環境計測の結果から、気温は平地より低く、相対湿度は年平均で約70%と比較的高いことが把握でき、常在菌であれば容易に増殖しやすい環境であることが明らかとなりました。防カビ剤を塗布した現地曝露試験では、いくつかの薬剤で防カビ効果が認められましたが、防カビ剤の中には胡粉と化学反応を起こし劣化要因となるものも存在しました。また、カビの解析では、これまでに133株のカビを被害部位から分離して、菌集落の形態からグループ分け行い、分類学・生理学的解析を行ないました。その結果、分離菌株数の出現頻度が高い3つのグループがあり、霧島神宮の伝統的な塗装部位の微生物劣化に関して特に重要であると考えられました。今後、分離菌株のより詳細な解析を行い、曝露試験の結果と併せながら伝統的な胡粉および黄土塗装における微生物劣化の予防や防除対策の検討を進める予定です。
2009年9月に発生した西スマトラ沖地震により被災した西スマトラ州パダン市歴史地区における文化遺産復興に向け、東京文化財研究所は同年11月以来、支援活動を継続してきました。本年度は文化庁委託による緊急支援事業として、昨年3月11日の東日本大震災の経験も踏まえて、建造物耐震及び防災対策、危機管理に重点を置いた現地ワークショップ開催を含む調査を2012年1月4日から13日にかけて行い、またこれに引き続き、インドネシア人専門家招へいを1月19日から25日にかけて実施しました。
ワークショップでは被災文化遺産復興に関する日本の取り組みを紹介するとともに、市内歴史地区の複数の現場において、耐震対策や町並み保存に向けた意見交換を行いました。また、現地調査では、歴史的町並み及び建造物の復興状況調査に加え、基礎的な構造調査による耐震補強の提案、町家の形式調査等を行いました。他方、日本への招へいにおいては、東北をはじめとした被災地域での復興過程と防災対策の実情について、現地で活動する方々から様々なお話を伺うことができました。こうした一連のプログラムを通じて、震災から2年が経過したパダンにおける文化遺産復興に向けた課題も、より明確になってきたところです。震災が引き金となって貴重な歴史的遺産が失われてしまうことのないよう、今後の具体的行動計画策定に向け、引き続き協力を続けていく必要があります。
モンゴルにおける文化庁委託・拠点交流事業の一環として、2012年1月21日~27日の日程で東京文化財研究所から4名の専門家を派遣しました。
1月24日、25日には、東京文化財研究所、名古屋大学法政国際教育協力研究センター、モンゴル国の教育・文化・科学省の共催により、アマルバヤスガラント寺院の保存管理計画の策定に向けたワークショップを開催しました。ワークショップでは、文化遺産の保護のみならず、モンゴル国の土地法および行政裁判制度を考慮した議論を行い、これを踏まえてモンゴル教育・文化・科学省と寺院が所在するセレンゲ県庁に対する提言書をまとめました。提言書では、アマルバヤスガラント寺院の世界遺産登録と保存管理計画の策定のためのワーキング・グループを設立すること、現在の保護区域の規制に関する課題点を明確にすること、地域住民の理解を得るよう努めること等が明記されました。今後も関係各機関との連携を密にし、提言内容の実現に向けて、協力していくことが望まれます。
また、1月26日には、東京文化財研究所、名古屋大学法政国際教育協力研究センター、モンゴル国警察庁の間で、文化財の不法な輸出入に関する意見交換を行いました。モンゴル国警察庁からは、この問題に関する国内の施策や体制、犯罪事例等が説明されました。東京文化財研究所からは、同国ヘンティ県所在のセルベン・ハールガ遺跡およびアラシャーン・ハダ遺跡における文化財の盗掘や落書きの事例について情報提供をしました。