研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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国立西洋美術館ウェブサイト「林忠正関連書簡・資料集」トップページ
「林忠正関連書簡・資料集」林忠正宛エドモン・ド・ゴンクール書簡(1895年8月2日付)
エドモン・ド・ゴンクール(1822-1902)はフランスの美術批評家。『北斎』(1896年刊行)執筆にあたり、林忠正の協力を仰いでいます。
林忠正(1853~1906)は19世紀末のパリで日本の絵画や浮世絵、工芸品等を販売する美術商として活動し、ジャポニスムの流行を牽引したことで知られています。当研究所では、林がパリに店を構えた1884年から1905年に帰国し翌年に亡くなるまでの間に、美術批評家や収集家、画商等から受け取った書簡群を所蔵しており、2001年にはそれらを翻刻した東京文化財研究所編『林忠正宛書簡集』(欧文、国書刊行会)を刊行しています。
この書簡群は2016年より国立西洋美術館に寄託されていますが、2023年3月に同館のウェブサイトにて「林忠正関連書簡・資料集」が公開の運びとなりました。
林忠正関連書簡・資料集 | 国立西洋美術館 (nmwa.go.jp)
このウェブサイトは国立アートリサーチセンターの事業の一環として構築・開設されたもので、書簡の画像や翻刻文を発信年月・発信者・書簡一覧表から検索することができます。フランス近代美術史や日仏美術交流史の研究に資するサイトとして、多くの方々にご利用いただくことを願っています。
研究会の様子
令和5(2023)年4月28日に、「酒呑童子絵巻の研究−調査中間報告」と題して江村知子(文化財情報資料部)が発表を行いました。本研究は、住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」(6巻、ライプツィヒ民族学博物館蔵、以下ライプツィヒ本)を中心に科学研究費助成事業基盤研究Bの課題として令和4(2022)年から実施しているもので、今回の発表はその調査中間報告という形で行いました。令和4年度に調査を実施した作品を紹介し、各本の特徴や系統について考察しました。また宮崎もも氏(大和文華館)のご教示により、ともに調査を行うことができた「酒呑童子絵巻下絵」6巻(大阪青山歴史文学博物館)がライプツィヒ本の完全な形の下絵である可能性を提示しました。さらにこの下絵を収納する箱の蓋裏書きにより、ライプツィヒ本の詞書筆者が幕臣であった成島忠八郎(竜洲)、成島仙蔵(衡山)父子であることが明らかになりました。さらに科研の研究分担者である小林健二氏(国文学研究資料館)から、「「伊吹童子」絵巻(個人蔵)の調査報告」と題して、ご発表いただきました。この作品は奈良絵本を絵巻に改装したもので、ライプツィヒ本の前半3巻分の内容と共通点が多く、詞書の内容も含めて今後の考察を深めていく必要があります。研究分担者の並木誠士氏(京都工芸繊維大学)からはコメンテーターとしてご参加いただいたほか、オンラインでも所内外の研究者の方々にご参加いただきました。研究討議でいただいたご意見も参考にしながら今年度の調査を進めてまいります。
研究会室での概要説明
文化財調査写真の説明
令和5(2023)年4月12日、青山学院大学大学院生4名(引率:津田徹英教授)を迎えて、当研究所の資料閲覧室利用ガイダンスを開催しました。今回の利用ガイダンスでは、まず2階研究会室で橘川が資料閲覧室の利用方法や蔵書構成について説明、その後、資料閲覧室と書庫に移動し、職員が売立目録デジタルアーカイブや文化財調査写真、売立目録をはじめ各種資料を紹介しました。参加者は蔵書・写真を手にとり、それぞれ自身の研究に、これらをどのように活用できるのかという視点から、熱心に職員の説明を聞き、また活発な質問が寄せられました。
文化財情報資料部文化財アーカイブズ研究室は、研究プロジェクト「専門的アーカイブと総合的レファレンスの拡充」において、文化財研究に関する資料の収集・整理・保存を行うとともに、文化財に関する専門家や学生らがこのような資料にアクセスしやすく、より有効に活用できる環境を整備することをひとつの任務としております。その一環として、積極的に利用ガイダンスを実施しています。希望される方は、「利用ガイダンス」(対象:大学・大学院生、博物館・美術館職員、https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/guidance.html
をご参照の上、お申込みください。
真剣に話を聞く子どもたち
壁画のポーズを真似て、身体を動かしリフレッシュ
原寸大のピラミッドの通路模型を通る様子
VRゴーグルを付け、遺跡探訪体験を楽しむ様子
東京文化財研究所では、今後を担う次世代にも文化遺産への興味関心を持ってもらうための試みとして、「こども文化遺産ワークショップ」を開催しました。
文化遺産国際協力センターアソシエイトフェロー・山田綾乃が企画、運営を担当した初回のワークショップは、令和5(2023)年4月30日午前、小学生を対象に「ピラミッド」をテーマとして開催しました。当日は33組、小学生36名、総勢90名を集めました。
プログラムの前半では、エジプト現地で発掘経験のある2名の講師(福田莉紗氏・早稲田大学大学院博士後期課程/山田綾乃)が、ピラミッドの歴史と、ピラミッドを作った人々の暮らしについての授業を行いました。教科書には書かれていない、考古学や歴史学の研究で明らかになった事柄を盛り込み、子どもたちが日常や学校生活と比較して古代文明をより身近に想像できるよう工夫しました。
後半では座学を離れ、体験・体感型の2つのプログラムを用意しました。1つは、ゴーグルを付けて遺跡のVR映像を楽しむ体験。もう1つは、ピラミッド内部のバーチャルツアーを見ながら、原寸大で再現されたピラミッドの通路を通ったり、棺に入ったりしてみるというものです。使用したアプリケーションやウェブサイトは、自宅でも閲覧、体験が可能です。ワークショップの限られた時間だけでなく、自宅でも体験を継続し、何度も復習する機会を与えることで、学習の効果的な定着に結び付くことを目指しました。
今回のような次世代に向けた取り組みも調査研究の延長線上に位置づけ、こども文化遺産ワークショップの第2弾も企画したいと考えています。
ご発表されるスザンヌ・ビッケル教授
東京文化財研究所は、金沢大学古代文明・文化資源学研究所と共催で、令和5(2023)年4月30日、東京国立博物館平成館大講堂にて、特別講演会「ツタンカーメン王墓発掘100周年 エジプト王家の谷発掘調査の現在」を開催しました。本講演会は、ツタンカーメン王墓発掘100周年を記念し、王家の谷と呼ばれる古代エジプトのネクロポリスにおける発掘調査の最新成果を広く一般の方に知っていただくことを目的に企画しました。
基調講演には、スイス・バーゼル大学で王家の谷プロジェクトを率いるスザンヌ・ビッケル氏・バーゼル大学教授をお招きしました。ビッケル氏は、平成23(2011)年~平成24(2012)年に王家の谷で第64番目となる墓を発見された、当該分野の研究を牽引する研究者のおひとりです。講演会では、同大学のプロジェクトが近年発掘調査を行った古代エジプト新王国時代第18王朝アメンヘテプ3世の家族や王宮の女性たちが埋葬された墓(王家の谷第40号墓)について、考古学的および人類学的研究成果を発表されました。また、この墓と同時期に造営されたアメンヘテプ3世の王墓を発掘調査した近藤二郎氏・早稲田大学名誉教授、ならびに第18王朝の謎の女王ネフェルネフェルウアテンについて研究されている河合望氏・金沢大学教授からもご講演をいただきました。
当日は275名の来場者を迎え、発掘調査成果に基づく考古学的専門性の高い内容を多くの方にお届けすることができました。今後も、調査研究成果の還元のため、同様の会を積極的に開催していく予定です。