研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


8月施設見学(1)

燻蒸室での説明(8月6日)

 韓国・ソウル大学奎章閣韓国学研究院 計8名
8月6日、文化財の保存・修復の現場を見学するために来訪。企画情報部資料閲覧室、保存修復科学センター生物実験室及び同修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


8月施設見学(2)

写場での説明(8月31日)

 ICCROM国際研修「紙の保存と修復」参加者 計13名
8月31日、ICCROM国際研修「紙の保存と修復」の一環として来訪。企画情報部写場、無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター修復アトリエ、同修復実験室、同分析科学研究室及び同生物実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


『美術研究作品資料 横山大観《山路》』刊行に向けての研究協議会開催

研究協議会の様子

 これまでたびたびお伝えしてきたように、当研究所では平成22年度より永青文庫との共同研究というかたちで、横山大観筆《山路》の調査研究を進めてきました。修理を機に行なった四度の作品調査を経て、いよいよその成果を一書にまとめるべく、調査研究に携わった方々を中心とする研究協議会を8月3日に当研究所で開きました。協議会では、塩谷も含め下記の方々(報告順、敬称略)が《山路》に関する各自の研究テーマについて報告を行い、企画情報部のスタッフも交えて互いに意見を交換しました。
竹上幸宏(国宝修理装こう師連盟)・荒井経(東京藝術大学)・平諭一郎(東京藝術大学)・小川絢子・三宅秀和(永青文庫)・林田龍太(熊本県立美術館)・佐藤志乃(横山大観記念館)・野地耕一郎(練馬区立美術館)
 報告の内容は修理報告や調査に基づく作品分析、発表時の批評の再検討など、多岐にわたるものでした。近代日本画の研究で、複数の研究者が一点の作品に絞って多角的に検証を行う試みは 先例がなく、画期的といえるでしょう。その成果は当研究所が逐次刊行してきた『美術研究作品資料』の第6冊としてまとめ、来春に刊行する予定です。


International Field School Alumni Seminar on Safeguarding Intangible Cultural Heritage in the Asia Pacific タイ王国ランプーン市

国際セミナー参加者

 この国際セミナーは、タイのthe Princess Maha Chakri Sirindhorn Anthropology Centreと日本のアジア太平洋無形文化遺産研究センターの共催で、2012年8月6日~10日に、タイ北部のランプーンで行われ、当研究所から無形文化遺産部の宮田がリソースパーソンとして招聘され参加しました。 セミナーには、タイをはじめ、カンボジア、ヴェトナム、中国、ブータンの各国から、若手の博物館関係者及び人類学研究者が集い、実践事例の発表と討議及び野外学習が実施されました。またリソースパーソンとしては、タイ、イギリス、アメリカ、日本から研究者が参加し、それぞれの発表を行うと共に、討議にも参加しました。参加者は、日頃の博物館等における調査・研究業務を通じて、各地域での無形文化遺産保護活動に具体的に関わっている人が多く、その具体的関心の高さを反映して、非常に活発で有意義な討議が行われました。また第一線の若手専門家の生の声を聞くことが出来たことは、リソースパーソンとして参加した者にも、大きな刺激となりました。このセミナーは、来年度以降も同様の形で継続する予定ですので、無形文化遺産部では、アジア太平洋無形文化遺産センターと連携しつつ積極的に参加し、日本の専門家として貢献していきたいと考えています。


“第36回文化財の保存および修復に関する国際研究集会 文化財の微生物劣化とその対策:屋外・屋内環境、および被災文化財の微生物劣化とその調査・対策に関する最近のトピック“について

Microbial Biodeterioration of Cultural Property

 文化財の微生物による劣化は、屋外・屋内環境を問わず、文化財の劣化要因として大きな影響を与えています。また、地震・津波などによって被災した文化財は水濡れの影響から、微生物劣化が短期間のうちにおきやすく、その状況をみきわめるための調査と対策はきわめて重要です。東京文化財研究所では、標記のシンポジウムを平成24年12月5日(水)~12月7日(金)、東京国立博物館 平成館 大講堂にて開催いたします。今回は招待講演のほかに、上記のテーマに関わる22件のポスター発表が行われます。国内外の研究者や文化財関係者と積極的な議論や情報交換をする機会ですので、文化財の保護に関わる方々、研究者、文化財の分野に興味をお持ちの学生の方を含め、多くの方々のご参加をお待ちいたしております。10月20日まで参加お申込みを受け付けております。
詳しくはhttp://www.tobunken.go.jp/~hozon/sympo2012/をご覧ください。お問い合わせは、sympo2012@tobunken.go.jpまで。 


キンベル美術館所蔵「二十五菩薩来迎図」修復中の調査撮影

撮影調査風景
「二十五菩薩来迎図」右幅、キンベル美術館(修理前)
(左)同部分
(中)同部分裏面カラー画像(左右反転)
(右)同部分裏面近赤外線画像(左右反転)

 在外日本古美術品保存修復事業として平成23年度より「二十五菩薩来迎図」(キンベル美術館、フォートワース、米国)の修復を行っています。この作品は絹本着色の二幅対で、14世紀頃の制作と見られます。諸菩薩は皆金色で精緻な切金文様が施されていますが、経年の汚れのために画面が暗く沈み、随所で糊浮きが生じて保存上の問題がありました。今回の修復では作品を解体して表装を改めることとし、現在、右幅の肌裏紙の除去が完了した状況です。画絹を裏側から見ると、下描きの墨線や裏彩色が確認でき、修復のために必要な調査と撮影を行いました。作品表面から見ると、諸菩薩は端正な顔貌で表現されていますが、近赤外線画像で確認すると、表面のやや硬い線描に較べてより柔和な線描による、おおらかな表情のすぐれた下描きが作品全体に存在していることがわかりました。また画絹の裏から白や緑の絵具を塗った裏彩色が正統的な仏画らしく施されていることが確認できました。このような画像は、解体修理の際にしか記録できません。作品の表面だけでなく、裏面も高精細画像で記録することによって、より安全に修復を進めることができ、今後の研究資料としても活用できます。所蔵館学芸員とも協議を重ねながら、今後の作業を進めていきたいと思います。


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