11月施設見学
韓国伝統文化大学校 5名
11月18日、当研究所の保存修復現場の視察及び国際協力活動の事例を学ぶため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室及び文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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韓国伝統文化大学校 5名
11月18日、当研究所の保存修復現場の視察及び国際協力活動の事例を学ぶため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室及び文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
新海竹太郎(1868~1927年)はヨーロッパで彫刻を学び、《ゆあみ》(1907年作 重要文化財)をはじめとする作品を発表、日本彫刻の近代化に大きく貢献した彫刻家として知られています。このたび竹太郎の孫にあたられる新海堯氏より、田中修二氏(大分大学教育福祉科学部准教授)を介して、竹太郎の作品および竹太郎が郷里の山形で師事した細谷風翁・米山父子の南画を撮影したガラス乾板一式をご寄贈いただくことになりました。それらの写真は竹太郎本人がカメラマンに依頼して撮影させたもので、明治40(1907)年開催の東京勧業博覧会で一等賞を受賞した《決心》等、現存しない作品の画像も含まれ、竹太郎の制作活動は勿論、日本近代彫刻史を語る上でも貴重な資料といえます。当研究所は、戦前に竹太郎の甥の新海竹蔵氏が作製した遺作写真集を所蔵していますが(資料閲覧室で閲覧可能)、その作製の折にも今回ご寄贈いただいた乾板が用いられたものと思われます。このたびの受贈を機に乾板の全画像をデジタル化し、当研究所ホームページのデジタルアーカイブで公開する予定です。
11月15日、第8回無形民俗文化財研究協議会が開催されました。今回の協議会では「わざを伝える―伝統とその活用―」として、2005年度から指定制度のはじまった民俗技術を中心的なテーマに据えました。
1975年から指定制度が運用されている民俗芸能や風俗慣習の保護についてはこれまでにも議論の蓄積があるのに対し、民俗技術については、その概念や制度について認知すら十分になされていないのが現状です。加えて、芸能や祭礼が本質的に非日常に属するのに対し、民俗技術は基本的に日常に属するものが多く、それによって生活している人が少なくないことから、社会や環境の変化による影響をより受けやすいという特徴があります。
こうした現状を踏まえ、民俗技術の保護の現場でいま何が課題とされているのか、またどのような保護が可能なのかといった点について報告・討議が行われました。会では国指定の民俗技術保護の現場から2名、また民俗技術の指定制度に先行して職人技術の保護に取り組んできた東京都内の現場から3名の方をお招きし、発表いただいた後、2名のコメンテーターを交えて討議を行いました。
報告・討議では、技術(製品)の需要の低下、分業体制の崩壊、原材料の不足、後継者不足など様々な問題が提示されました。技術の継承に向けた特効薬はありませんが、様々な立場の関係者の間で課題や情報を共有すること、産地や縦割り行政を越えて連携することの重要性が確認されました。無形文化遺産部では、今後も各地の取り組みについて事例を収集していくことで、情報共有・発信の役割を担っていきたいと考えています。
なお、協議会の内容は2014年3月に報告書として刊行する予定です。
保存修復科学センターでは、「文化財における伝統技術及び材料に関する調査研究」プロジェクトの一環として、現在、東照宮陽明門の塗装彩色修理に伴う調査を行っています。陽明門の東西側壁板には、現在、寛政8年(1796)に作成された「大羽目板牡丹浮彫」が取り付けられていますが、文献史料によると、元禄元年(1688)や宝暦3年(1753)など、それより古い年代に「唐油蒔絵」と呼ばれる技法で描かれた絵画が存在していました。昭和46年の塗装彩色修理では、このうちの東側壁が取り外され、宝暦3年(1753)作成と思われる「岩笹梅の立木 錦花鳥三羽」の絵画が見つかり、当時の保存科学部が調査を行いました。また西側壁板の下にも「大和松岩笹 巣籠鶴」の絵画が描かれていたことが当時のX線透過写真撮影でわかりましたが、上の壁板を取り外さなかったため、実物を見ることはできませんでした。今回、上の西側壁板を塗装修理するために取り外したところ、218年ぶりにこの絵画の存在が確認されました。しかし、変色や剥落などの劣化が著しいため、当センターでは日光東照宮と日光社寺文化財保存会に協力して、これを防止するための材質や劣化の調査、さらには絵画史研究者も参加してこの絵の下にあるとされる古い年代の絵画痕跡を確認するためのX線透過写真撮影などを実施しています(写真1,2)。この成果を、寛永13年(1636)の造営以来、日光東照宮陽明門を荘厳してきた塗装彩色の実態の解明や、今後、これらを少しでも良い状態で保守管理するために役立てたいと考えています。
ICCROMのLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、当研究所、ICCROM、INAH(国立人類学歴史学研究所、メキシコ)の3者協同で国際研修を開催しました。研修はINAHを会場として11月6日から11月22日にかけて行われ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、スペイン、ブラジル、プエルトリコ、ペルー、メキシコの8カ国から、文化財修復の専門家9名の参加がありました。
本研修では、日本の伝統的な紙、接着剤、道具についての基本的な知識を得るとともに、実際にそれらを使用して補強や補修、裏打ちの実習を行うことで、日本の装潢修理技術への理解を深めることを目的としています。研修の前半は、装潢修理技術に用いる材料、道具、技術をテーマに、日本人講師が講義、実習を行いました。研修後半では、装潢修理技術の研修経験のあるメキシコ、スペイン、アルゼンチンの講師によって、日本の材料、道具、技術が欧米の文化財修復に実際にどのように活用されているかが紹介され、実習を行いました。日本の装潢修理技術が、各国の文化遺産の保存修復に応用されることを期待して、今後も同様の研修を継続してゆく予定です。
文化遺産国際協力センターは中央アジアのシルクロード沿い世界遺産登録に向けた支援を目的にUNESCOの受託を受け、2012年度より中央アジア・タジキスタン共和国において、文化遺産のドキュメンテーションをテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
2012年度に引き続き、今年度も11月7日から11月14日までの8日間、タジキスタン共和国文化情報省と共同で第2回目の人材育成ワークショップを実施しました。今回の研修では世界遺産にノミネートしている中世の都城址「フルブック遺跡」を対象に実習を行いました。実習の内容として、講師として日本から専門家を招聘し、機材(トータルステーション)を使用した測量、CADを使ったドキュメンテーション、GPSとGISを用いた分析に関する研修を行っています。
今回のワークショップには国立古代博物館から2名、歴史・考古・民族学研究所から2名、歴史文化遺産保護活用局から1名、現地フルブック博物館から3名、クローブ博物館から1名、計9名の若手専門家が研修生として参加しました。参加者は約1週間にわたる集中講義・実習を経て、ドキュメンテーションのための測量計画と実施、その分析に関わる専門的プロセスを学習し、また、本事業に伴って寄贈された測量機材やGPS機材などの使い方を習得することが出来ました。研修修了者はこの経験と提供機材を当該国における文化財の調査や保護、そのドキュメンテーションに役立てることになります。文化遺産国際協力センターは今後も引き続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な人材育成ワークショップを実施していく予定です。
2013年11月27日から29日にかけてイタリア・ローマで開催されたICCROM(International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Properties)の第28回総会に本研究所より所長の亀井伸雄、川野邊渉、境野の3名が参加しました。ICCROMは、1956年のUNESCO第9回総会で創設が決議され、1959年以降ローマに本部を置いている政府間組織です。ICCROMは動産、不動産を問わず、広く文化遺産の保存に取り組んでいますが、本研究所では特に紙や漆の保存修復の研修を通じてその活動に貢献してきました。
総会は2年に1度開催されており、今回の総会では、13名の理事が任期満了に伴い、改選されました。その結果、任期が継続する12カ国(アラブ首長国連邦、アルジェリア、カナダ、韓国、ギリシア、グアテマラ、スウェーデン、中国、チュニジア、日本、ブラジル、フランス)に加え、アメリカ、インド、エジプト、スイス、スーダン、スペイン、タンザニア、チリ、ドイツ、バーレーン、フィリピン、ベルギー、メキシコから新たな理事が選出されました。また、総会ではICCROMの財政状況を改善させる必要があるとの認識が加盟国間で改めて共有されました。日本はアメリカに次ぐ額の拠出金を負担しており、この問題を深刻に受け止めています。今後もICCROMの活動を継続できるよう、新しい理事会を中心に具体的な検討がなされることを期待しています。