研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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アルメニア共和国文化省との調印式-アレヴ・サミュエルヤン文化省副大臣(左)と筆者(右)
このたび、アルメニア共和国文化省からの招聘を受けて5月25日から6月2日まで、文化遺産国際協力センター山内地域環境研究室長、研究支援推進部平出総務係長と共に同国を訪問しました。今回の招聘は、昨年度、文化庁の事業で日本の文化財保護の現状を紹介すべくアレヴ・サミュエルヤン文化省副大臣を招いたことに対する返礼といえます。そして、平成23年度から実施してきた文化庁の拠点交流事業による青銅器の保存修復ワークショップの終了を受けて、今後5年間に行う「アルメニア共和国文化省と東京文化財研究所の間の文化遺産保護のための協力に関する合意書」の調印を行い、併せてワークショップ修了式及び保存修復処置を終えた資料の展示開会式へ出席しました。
26日の文化省での新協定書の調印式及び歴史博物館での展示開会式では、多くの報道陣等を前に挨拶に立ったアレヴ副大臣は、日本の技術移転への協力に深い敬意と感謝の意を表しました。27日には、「日本の文化財保護の現状と課題」と題した講演を行い、各種文化財の保護に必要な、技術を伝承する後継者の育成、資材や用具の確保が課題であること、特に、縮小化傾向にある日本社会の中での文化財保護に強い危機感を持っていることを伝えました。28日からは、アルメニアを代表する修道院や教会堂、博物館の修理施設等の視察を行い、アルメニアの素晴らしい文化に触れながら更なる技術交流の必要性を感じました。
研究資料データベース検索システム トップページ
「研究資料データベース検索システム」
(http://www.tobunken.go.jp/archives/)をリニューアルしました。これは、昨年度、当所アーカイブズ運営委員会のもとに組織されたアーカイブズ・ワーキング・グループで取り組んでいる全所横断的な研究資料アーカイブズ構築の成果の一端が反映されたものです。今回のリニューアルでは、検索システムの操作性、コンテンツの両面で大幅な改定がありました。
当所の研究資料データベースは、2002年に和漢書と売立目録の所在情報をインターネット上に公開して以来、各部署の蔵書情報や、関連分野の文献 情報・展覧会開催情報・伝統楽器情報などを公開し、文化財研究機関ならではの有効なコンテンツを発信する役割を担ってきました。その一方で、サイト利用者からは「システム内の複数データベースの横断検索」、「複数のキーワードによる掛け合わせ検索」、「検索結果の並び替え」などができるようにしてほしいなど、操作性の改善を望む声が寄せられていました。これまでのサイトは、データベース言語「SQL」とWebアプリケーションフレームワーク「Microsoft aspx」で構築してものでしたが、それを「MySQL」と「WORDPRESS(PHP)」の組み合わせに改め、それらの問題を解決し、操作性を向上させました。
さらにコンテンツ面では、当所刊行物の掲載論文や記事の情報の収録件数を53万件に増やしました。これまでの収録対象は研究誌『美術研究』、『芸能の科学』、『保存科学』に掲載された論文のみでしたが、さらに各種研究成果報告書、『日本美術年鑑』、『東文研ニュース』、『年報』などを含め、また論文以外の彙報記事も収録したためです。これによって当研究所の研究成果に加えて、研究プロジェクトの進捗状況を伝える記事などへのアクセスも改善されました。
引き続き、専門性の高い情報にアクセスしやすい環境を整え、効率よく活用できる方向を検討しております。ご利用いただき、お気づきの点がございましたら、本システムの「ご意見・お問い合わせ」フォーム(http://www.tobunken.go.jp/archives/ご意見・お問い合わせ)からご一報いただけますと幸いです。
ふるさとセンターでの講座風景
無形文化遺産部で昨年度に作成した『ごいし民俗誌』は、東日本大震災で大きな津波被害を受けた岩手県大船渡市末崎町碁石地区の祭礼や暮らしの様子を綴った報告書です。この報告書を現地の方々と一緒に読み、活用する試みが始まりました。今回は末崎地区で活動を続ける霞が関ナレッジスクエアの「デジタル公民館」活動の中で、「まっさきに学ぶ!ふるさとの記憶をたどる…ごいし民俗誌から」と題して講座形式で開催。無形文化遺産部から久保田裕道が参加しました。末崎地区ふるさとセンターを会場に、参加者は約30名。レクチャー後には、様々な情報交換が行われました。今後も地域の方々が主体となってより身近な民俗誌を作ってゆき、またそれを子どもたちに伝えてゆくといった活動の方向性が見えてきました。地区の解散や高台移転によって地域アイデンティティの継承が問題とされる現在、こうした活動が一つのモデルケースとなり得るよう活動を継続してゆきたいと考えています。なお『ごいし民俗誌』は無形文化遺産部のウェブサイトにてPDF版を公開中です。
2014年度研究報告会(大韓民国・国立文化財研究所)
保存修復科学センターは大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と覚書を交わし、「日韓共同研究―文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を共同で進めています。詳細には、屋外にある石造文化財を対象にお互いの国のフィールドで共同調査を行うとともに、年1回の研究報告会を相互に開催し、それぞれの成果の共有に努めています。
今年度は韓国側が担当であったため、5月27日に保存科学センター講堂にて研究報告会が開催され、保存修復科学センターからは岡田、朽津、森井が参加しました。会場が満席になるほど関心を集めたなか、研究報告会では日韓共同研究の担当者および協力関係にある大学教授から石造文化財に関する発表をそれぞれ行い、会場から多くの質問およびコメントをいただくなど、活発な議論が行われました。なお、今年度は横穴墓を対象に、今後共同調査を行う予定です。
アルメニア歴史博物館におけるワークショップ成果の展示
展示オープニングセレモニーの様子(右端が亀井所長)
文化遺産国際協力センターでは、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、アルメニア歴史博物館にて、平成26年5月20日~27日に第6回国内ワークショップを開催しました。本事業は、4カ年計画であり、これまでに考古金属資料の保存修復に関する一連の人材育成・技術移転を実施してきました。最終年度である本年のワークショップのテーマは「博物館における展示」です。
アルメニア国内専門家6名、グルジア、ロシアからの2名の専門家を対象に、日本人専門家が、日本の博物館における展示事例紹介、展示の際に考慮すべき光や温湿度の影響、展示解説の有り方、展示に使用する材料などについて講義を実施しました。引き続いて、これまでのワークショップにおいて保存修復処置を終えた資料の展示作業をワークショップ参加者が主体となって行いました。展示では、アルメニアと日本の共同事業の成果を公開するだけでなく、博物館における保存修復活動を多くの人々に知ってもらえるよう、ワークショップ参加者が意見を出し合い工夫しました。具体的には、保存修復処置を行った資料とともに処置前の資料の写真を展示し、保存修復処置の一連の流れを映像にて上映しました。また、より詳細な調査研究の内容については、パンフレットを作成し配布しました。展示作業を終えたワークショップの最終日には、展示オープニングセレモニーを開催し、多くの外部関係者の方にもご参加いただきました。
ワークショップ開催は今回が最後になりますが、今後は報告書の発刊を行う予定です。
シリアの文化遺産被災状況を報告するシリア古物博物館総局長
2011年4月シリアにおいて大規模な民主化要求運動が発生し、そのうねりはとどまることを知らず、現在では、事実上の内戦状態となっています。シリア国内での死者はすでに14万人を超え、400万以上が難民となって国外へ逃れています。
内戦が繰り広げられる中、文化遺産に対する被害も、大きなニュースとして取り上げられています。アレッポ、パルミラ、クラック・デ・シャバリエなど、シリアを代表する世界遺産が戦場となり、多くの遺跡が盗掘にあい、博物館が略奪され、シリア国内からの文化財の不法輸出が国際的な問題となっています。
このような中、今年3月、シリアの文化遺産を保護するため、欧州連合の支援を受け、ユネスコは、新たに「シリア文化遺産緊急保護プロジェクト」を開始しました。
今回、このプロジェクトの一環として、5月26日から28日にかけて、パリのユネスコ本部において、ユネスコ主催専門家会議「シリアの文化遺産を保護するための国際社会への呼びかけ」が開催されました。この会議には、22カ国から120名以上の専門家が参加し、東京文化財研究所からは山内、安倍の2名が参加しました。同会議では、シリアの文化遺産の被災状況が報告され、シリアの文化遺産を保護していくための今後の方針が活発に議論されました。
ジャフナ考古博物館での調査
考古局トリンコマリー事務所での意見交換
文化遺産国際協力コンソーシアムは、2月と5月の2度にわたり、国際交流基金の文化協力プログラム「スリランカにおける内戦後の博物館および文化遺産の現状調査」(事業参加者:東京国立博物館学芸企画部企画課長・小泉惠英氏、龍谷大学国際文化学部准教授・福山泰子氏)の調査支援を行ないました。本事業は2012年度の当コンソーシアムによる協力相手国調査にもとづき実施されたもので、スリランカ考古局協力のもと、1983年から2009年まで26年にわたる内戦の影響を受けた北部(ジャフナ地区)と東北部(トリンコマリー地区)の博物館を中心に、展示品、収蔵品の調査や文化財保存に関する情報収集を行ない、内戦終結後の文化財保存と活用の今後の方針について協議しました。
スリランカではここ数年、考古局が中心となり、内戦の影響を受けた地域の復興に向け、その地域の特性を考慮した文化施設の設置や文化財を活用した地域開発の動きがみられます。ジャフナは仏教、ヒンドゥー教、キリスト教の信仰の足跡をたどることができるというスリランカ国内でもユニークな地であるばかりでなく、各植民地時代の建造物が残るなど多様な文化遺産が現存しています。トリンコマリーは数多い仏教遺跡のほか、海事や対外貿易の拠点としての歴史も有しています。これらを国内外にアピールするため、いずれの地区においても歴史的建造物を再利用した博物館や文化複合施設の設立計画がすすめられています。一方、現存する博物館では文化財の管理、展示の方法や人材の面などで多くの課題を抱えており、参加者は現地の職員と意見交換をしながら展示プランや管理方法について指導・助言を行ないました。
内戦終結地域の文化財を活かした地域開発は、まだ始まったばかりで考古局は専門家の派遣、人材育成や資金の面で外国の支援を必要としています。今後も継続して各地域の復興の手助けになるような協力の可能性を探っていければと考えています。
ファッションショーの様子
集合写真
2014年4月22日から5月18日まで東京国立博物館で開催された特別展「キトラ古墳壁画展」の関連イベントとして、5月8日に同館講堂にて「飛鳥&天平衣装ファッションショー『平城宮ことはじめ』」が開催されました(主催:明日香村、文化庁、東京国立博物館、東京文化財研究所、奈良文化財研究所、朝日新聞社、協力:早稲田大学創造理工学部中川研究室)。東京文化財研究所からも13名のスタッフがモデルとして参加し、手作りの古代衣装に身を包むという、初めての貴重な体験をさせていただきました。これらの衣装はすべて古代衣装研究家、山口千代子先生(天平衣装企画)の手になるもので、和銅3年(710年)の平城宮内裏を舞台とした歴史の一幕が、奈良文化財研究所の杉山洋企画調整部長の企画演出により、きらびやかに再現されました。
私自身もモデルの一人として参加させていただき、関係者一同が一丸となって一つの舞台を創り上げるという、楽しい緊張感と高揚感を味わいながら、古代世界に想いを馳せました。美しい衣装を身に付け、髪を結い上げ、沢山の装飾品をまといながら、往時の宮中の人々がどのように振る舞っていたのかと想像しようとしましたが、自分の想像力では全く追いつくことができず、歴史を学ぶことの難しさを改めて、身を以て実感するに至ったという体験でした。関係者の方々のご尽力に心から敬意を表するとともに、これからも更に興味を持って、歴史と向き合っていきたいと思っています。