8月施設見学
ICCROM国際研修「紙の保存と修復」研修生 計13名
8月30日、ICCROM国際研修「紙の保存と修復」の一環として来訪。無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター修復アトリエ、同修復実験室、同分析科学研究室及び同X線撮影室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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ICCROM国際研修「紙の保存と修復」研修生 計13名
8月30日、ICCROM国際研修「紙の保存と修復」の一環として来訪。無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター修復アトリエ、同修復実験室、同分析科学研究室及び同X線撮影室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。
当研究所が例年主催する国際研究集会は今年度「『かたち』再考―開かれた語りのために」をテーマに行います。「群れとしての『かたち』」「個としての『かたち』」「『かたち』を支えるもの」の3セッション構成で、美術、考古遺物、建築をはじめ伝統芸能や古典文学などかたちあるものを対象とする様々な分野の研究を集め、各分野の方法を持ち寄って新たな語りの方向を探ろうとするものです。対象が多岐にわたるため、議論の基礎作業として、ご登壇者を招いての研究会を開催していくこととし、皮切りに第3セッションでご発表いただく桑木野幸司氏(大阪大学)を当研究所にお迎えし、8月2日15時より研究会を開催しました。桑木野氏は「初期近代イタリアの庭園と記憶術」と題してお話になり、16世紀にフィレンツェ郊外に造られたカステッロ荘庭園を例に、15世紀から17世紀の西欧で盛んになった記憶術によるかたちの読み解きを紹介されました。
大航海時代が始まり、印刷技術が発明されて情報量が急速に増加した15世紀には、それらを整理・蓄積するための記憶術が発達し、情報と特定のかたちを結びつける考え方が流布して、建築物や庭園にもそれが反映されたとのことです。かたちの背景となっているものの一端がうかがえる刺激的な研究会となりました。
奈良県生駒市の宝山寺には、現在では上演されなくなった作品を含めて世阿弥自筆の能のテキストが数点残されています。テキストの中には、部分的ですが歌詞の横にゴマ点を付した箇所があります。ゴマ点の向きで旋律を表しているのですが、ゴマについて詳細に調査を行い、世阿弥の作曲法について、手がかりを得ました。調査の結果は、今年度末に公開する予定です。
8月21~22日にかけて、富山県高岡市福岡町に伝承される菅笠製作技術(2009年国指定無形民俗文化財)の調査を行いました。
菅笠はもともと日常生活で日よけや雨具として利用されてきた民具のひとつですが、現在では民俗芸能や時代劇で用いる小道具として、また民芸調の装飾品などとして重宝されています。越中福岡の菅笠は藩政時代から加賀笠と呼ばれ、上質な笠として広く流通してきましたが、現在でもその生産高は全国シェアの9割を占めており、屈指の産地となっています。
菅笠製作は原料となるスゲの栽培、笠骨作り、スゲを笠骨に縫い付ける笠縫いなどの工程に分かれ、これまでは農閑期の副業として笠骨を男性が、笠縫いを女性が担ってきました。このうち、特に深刻な後継者不足に悩まされているのがスゲ栽培と笠骨作りです。例えばすべて手作業で行われるスゲ田の耕作者は年々減少し、越中福岡の菅笠製作技術保存会の調べによれば、市内の耕作面積は100アールを切るところまで縮小しています。また、最盛期に200人ほどいたという笠骨作りの職人も、現役では80代後半の木村昭二さんただひとりとなっており、後継者も十分に育っていないことから、せっかく注文があっても供給が追いつかないのが現状です。
こうした状況を受け、保存会や高岡市福岡総合行政センターが中心となり、菅笠製作技術を伝承していくための総合的な対策に乗り出しています。これまでも、スゲ田の栽培面積の把握、スゲ田栽培関する記録(マニュアル)の作成、伝承者などとの意見交換や実演販売、技術講習会の実施、スゲを縫いつける縫い針の製作者発掘など、菅笠に関わる文化を伝承していくための多面的な活動が行われてきました。平成24年8月には「菅笠保全庁内連絡会議」、25年8月には「越中福岡スゲ生産組合」を設立し、地域振興課や経済振興課、福岡教育行政センター、文化財課、またスゲ栽培に深く関わる農業水産課などとの、垣根を越えた連携も行われています。
平成17年から文化財指定がはじまった民俗技術の保護・活用については、これまで議論が尽くされてきたとは言えず、どのような課題や対応策、可能性があるのかについても十分な情報共有がなされてきませんでした。越中福岡の菅笠製作技術をめぐる様々な動きは、民俗技術の保護・活用を模索するひとつのモデルケースとして、今後も注視していく必要があると言えます。
7月22日から8月2日までの2週間にわたり、カンボジア・アンコール遺跡群内のタネイ遺跡において第3回の建築測量研修を実施しました。本研修は、カンボジア国内で遺跡管理を担うアプサラ機構、プレア・ヴィヒア機構、及びJASA(日本国政府アンコール遺跡救済チームJSAとアプサラ機構との合同チーム)の建築・考古を専門とする若手スタッフを対象として、昨年度より全4回のコースで実施しているものであり、今回は新規1名を含む9名の研修生が参加しました。
前回までの研修で第1及び第2周壁内の伽藍配置を計測し終えており、今回は第3周壁内の遺構及び地形を実測するためのトラバース測量から始めて、これらの基準点を用いて第3楼門及び周壁と第2周壁を囲む環濠を含む地形測量を行いました。研修生たちは2班に分かれて実測作業を行い、最終的に全員がこのデータを用いて第3周壁内の等高線図及び3次元モデル図を作成できるようになりました。第1回から参加している研修生たちは既に遺構実測と図化作業の基本的な手順をほぼ習得しており、分からないことがあっても研修生たちの間で互いに教え合い、学び合いながら、意欲的に取り組む姿が印象的でした。また最終日には、遺構測量と図面作成の技術をテーマに、全員が自らの遺跡保存業務と今後の展望等について発表し、意見交換を行いました。
本研修を通して、遺跡測量に関する日本からカンボジアへの技術移転だけでなく、カンボジア人研修生同士の人的交流も着実に前進しているように思います。同国の遺跡の将来を担う若い人材がこのような活動によって育成されることを願い、さらに協力事業を続けていく所存です。