研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


研究滞在の報告―セインズベリー研究所とイギリス国内の視察―令和6年度第1回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子
ウィット・ライブラリー(コートールド美術研究所)

 文化財情報資料部文化財アーカイブズ研究室長・米沢玲は、イギリス東部のノリッチに所在するセインズベリー日本藝術研究所に令和5(2023)年10月から令和6 (2024)年2月にかけて客員研究員として滞在しました。
セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演会、ロンドンにおける関連施設の視察 :: 東文研アーカイブデータベース (tobunken.go.jp))
 滞在中にはイーストアングリア大学に付属するセインズベリーセンターやロンドン大学東洋アフリカ学院で講演会やギャラリートークを行ったほか、大英博物館での日本美術作品の調査やイギリス国内各地の美術館・博物館、図書館やアーカイブ関連施設の視察を行いました。
 令和6(2024)年4月30日に開催された文化財情報資料部研究会では、米沢が現地で行った調査・視察について報告しました。コートールド美術研究所のウィット・ライブラリーで進行中の画像デジタル化のプロジェクトを紹介したほか、オックスフォード大学ボドリアン・ライブラリーの修復工房での視察の様子を、写真を交えて報告しました。ウィット・ライブラリーは矢代幸雄(1890~1975)が美術研究所(東京文化財研究所の前身)の設立にあたって参考とした施設でもあり、約220万点の絵画や素描、彫刻作品の写真と複製、切り抜きが所蔵されています。膨大な資料のデジタル化の作業には200名から成るボランティア・チームが取り組んでおり、同じく様々な資料を所蔵している東文研でも今後の運営の手がかりになる事例と言えます。また、ナショナル・リヴァプール・ミュージアムやダリッジ・ピクチャー・ギャラリーで行われている高齢者を対象としたプロジェクトを取り上げて、イギリスの社会におけるミュージアムの在り方について考察しました。今回の滞在ではイギリス国内の28か所の美術館・博物館と10か所の図書館・アーカイブ施設を訪問しました。所蔵資料のデジタル化やアクセシビリティの担保、高齢化社会における文化施設の役割など、参照すべき課題も数多く、報告の後に行われた質疑応答では活発な意見交換がなされました。


東京国立博物館所蔵品画絹データベースの公開

画絹データベースの画面
顕微鏡撮影画像

 東洋・日本の絵画作品の伝統的な基底材に絹があります。古いものでは中国の唐時代、あるいは日本の平安時代の仏教絵画として、絹地に描かれた作例が現存しており、東洋絵画では古代から現代に至るまで、絹が用いられています。東アジアでは、伝統的に絹織物が作られてきましたが、衣服などは着用によって摩耗・劣化し、明確に時代のわかる古い作品はごく限られています。一方、絵画に用いられている絹(画絹)は、消耗が少なく、また大半が平織で作品同士を比較しやすいため、絹本の制作年代を考える上での基準となり得ます。その画絹の織組成や糸の形状を調べることは美術史的な研究のみならず、材料や技術の歴史や変遷を考える上でも大きな研究課題と言えます。こうした問題意識から、東京文化財研究所では平成31(2019)年に、東京国立博物館と「美術工芸品に用いられた画絹及び染織品の組成にかかる共同研究に関する覚書」を締結し、東京国立博物館の研究員とともに同館所蔵作品を中心に、デジタルマイクロスコープ(HiRox製RH-2000)を用いて絹本絵画の撮影と調査を行い、研究を進めています。このたび東京国立博物館博物館情報課のご協力のもと、東京国立博物館ウェブサイトの「東京国立博物館研究情報アーカイブズ」にて、本研究の成果をデータベースとして公開開始しました。まだ掲載作品は成果のごく一部ですが、国宝の「普賢菩薩像」、「一遍聖絵」、李迪筆「紅白芙蓉図」などの重要作品の顕微鏡撮影画像と織組織・糸形状の計測値を公表しています。今後さらに収録作品を追加していく予定です。このデータベースを活用して、作品研究や材料技法の研究を推進してまいります。

東京国立博物館のウェブサイト
東博所蔵品画絹データベース簡易検索 (tnm.jp)


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