研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


8月施設訪問

 (財)日本原子力文化振興財団施設見学
 8月19日に、学校教育関係者を対象とする「エネルギーと環境」講座を地階セミナー室にて開催。そののち、文化財の修復に取り入れられている放射線を用いた分析を中心に、地階X線室、保存修復科学センター分析科学研究室、修復アトリエ、1階企画展示について見学。それぞれの担当者から説明を受け、質疑応答を行いました。


韓国文化財庁企画調整官の来訪

韓国文化財庁企画調整官崔泰龍氏(左)と鈴木所長
城野誠治専門職員(左)が韓国文化財庁企画調整官崔泰龍氏(中)、情報化チーム長趙顕重氏(右)に対し、最新の特殊撮影について説明しました。

 8月22日、韓国文化財庁の企画調整官崔泰龍氏、情報化チーム長趙顕重氏、駐日大韓民国大使館韓国文化院の崔炳美氏の三氏が来訪されました。今回の来訪は、文化財アーカイブズの運営と文化遺産のデジタル化を推進するための海外の事例調査と担当者との協議が目的でした。鈴木所長との懇談の後、企画情報部の資料閲覧室やデータ入力の作業を見学し、画像情報室も見学されました。画像情報室では、城野誠治専門職員から、日本、韓国、中国産の絹の蛍光撮影による画像の違いなど最新の特殊撮影についての説明を受け、その高い技術による研究の成果を熱心に聞き入り、また意見交換をしました。現在、大韓民国では、国をあげて文化財アーカイブズの構築とデータのデジタル化をすすめており、たいへんに参考になったということでした。


平成20年度在外日本古美術品保存修復協力事業 中間視察

工房にて修理方針を協議する様子

 今年度修理を行っているカナダ・ヴィクトリア美術館所蔵「松に孔雀図屏風」は、17世紀前半の制作と見られる大型の作品ですが、画面の随所に損傷があり、合成塗料や接着剤、西洋紙による補強など、本来古美術品の修理には不適切な修復材料が多数用いられていました。可能な限り画面を良好な状態に回復させるべく、8月4日(月)に修理工房・墨仁堂(静岡市)において、当所保存修復科学センター副センター長・川野邊渉、同伝統技術研究室研究員・加藤雅人、企画情報部部長・田中淳、同研究員・江村の4名で、詳細な修理方針についての協議を工房担当者と行いました。今年度末の完了を目指し、修理は順調に進行しています。


第23回国際服飾学術会議への参加

第23回国際服飾学術会議の様子

 8月20・21日、飛騨・世界生活文化センター(高山市)において、第23回国際服飾学術会議が開催されました。日本をはじめ、韓国、台湾、モンゴルの研究者、染織家、デザイナーら約200人が参加し、意見交換を行ないました。無形文化遺産部からは菊池が参加し、研究発表を行いました。
 今回の学術会議では、「服飾文化の東西交流」を共通テーマとして、講演、研究発表、ポスターセッション、創作衣装展などが行われました。
 各国からの参加者は染織技術についての研究に触れ、国による技術保存の考え方の違いや、復元という試みに対しての認識を深めていました。
 また、この出張に際して、美濃和紙の里会館(美濃市)と春慶会館(高山市)を視察し、伝統工芸技術に関する情報収集を行いました。無形文化遺産部においては、工芸技術に関する情報収集がはじまったばかりです。今後も、地域や対象を拡大させつつ、積極的に情報収集を行なってまいります。


石見銀山現地調査について

銀山坑道内部

 保存修復科学センターでは、8月11日(火)から13日(日)まで、世界遺産登録された石見銀山について現地調査を実施しました。世界遺産に登録されたことと夏休み中ということもあり、非常に多くの人が訪れており、世界遺産登録の効果を実感しました。石見銀山そのものは、石見銀山資料館にもなっている大森代官所跡から町並み保存地区となっている通りを抜けて、同じく重要文化財の熊谷家住宅や旧河島家住宅などを見学しながら銀山の坑道口へ至り、坑道内見学と続きます。現在さらに馬に乗ったまま入れた大きな坑道などいくつかの坑道について見学可能なように計画中だとか・・・、今後、世界遺産としてより多くの人々に往時をしのばせるものとなっていくことと思います。


タジキスタンにおける壁画片の保存修復

保存修復の方法論および技術を移転することにより、現地での人材育成を目指します
可搬型の蛍光X線分析器を利用して、壁画の彩色層に含まれる元素を分析している様子

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の委託事業である「文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として行っている「タジキスタン国立古物博物館が所蔵する壁画片の保存修復」の一次ミッションを7月23日から8月5日にかけて派遣しました。保存修復の対象となる壁画片は、長年にわたり、ロシア人専門家によりタジキスタン内の考古遺跡から剥ぎ取られたものです(参照:http://www.tobunken.go.jp/japanese/katudo/200708.html)。
 タジキスタンでは保存修復の専門家が不足しており、これらの壁画片は、剥ぎ取られた後に適切な処置がなされないまま、古物博物館の収蔵庫に置かれています。そのため、壁画片は多くの問題点を抱えており、長期の保存や展示のために保存修復の処置が施されることが望まれています。本事業では、これらの壁画片の保存修復を通じ、当センターがこれまで行ってきた壁画の保存修復事業において培ってきた保存修復の技術をタジキスタンに移転し、保存修復のタジク人専門家を育成することを目指しています。
 保存修復が求められる壁画片が抱える問題点の一つとして、剥ぎ取りの際に壁画片に含浸された合成樹脂があります。この合成樹脂は、当時、壁画片の保護を目的として使用されましたが、樹脂の黄色化や壁画表面に付着した土を一緒に固めてしまったことにより、現在では、壁画を見えにくくしています。今回の活動では、変色した合成樹脂や固着した土を壁画片から除去するクリーニングのテストを行いました。
 また、壁画を描く際に使用された彩色材料を調査することは、当時の絵画技術や材料の入手経路などを知る上でたいへん重要です。今回、可搬型の蛍光X線分析器を持ち込み、元素分析を行い、いくつかの顔料を特定しました。その結果、現在は黒色である箇所がかつては緑色であったことや、さまざまな種類の赤色絵具を使用して、異なる色味を塗り分けていたことなどがわかりました。


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