研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


12月施設見学

修復アトリエでの説明(12月6日)

 金沢美術工芸大学日本画専攻学生ほか5名
 12月6日に、文化財保存・修復現場の見学のために来訪。4階文化遺産国際協力センター、保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター修復アトリエ及び2階資料閲覧室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。


2010度第7回企画情報部研究会開催

2010年12月17日に、今年度第7回目の企画情報部研究会を行いました。発表者と題目は以下の通りです。
 ・皿井舞(企画情報部研究員)
  「平安初期神仏習合彫刻史試論
   京都・神光院薬師如来立像をめぐって」
 ・佐々木守俊氏(町田市立国際版画美術館学芸員)
  「“北宋風作善”の受容と印仏・摺仏の像内納入」
 皿井は、10月初旬に京都・神光院でおこなった調査をふまえ、これまであまり知られてこなかった、本院の薬師如来立像について紹介をしました。またあわせて、本像が、平安時代初期の神仏習合を考えるうえでも、重要な作例である可能性を指摘しました。本像の紹介は、当研究所が刊行している『美術研究』誌上でおこなう予定です。
 佐々木氏は、平安時代後期よりさかんになる、仏像の像内に版画(印仏・摺仏)を納入する信仰について、中国・北宋時代の信仰の受容という観点から、読み解かれました。すなわち、印仏・摺仏の像内納入が北宋期の『地蔵菩薩応験記』所収の説話にもとづいたものであること、またそれが「奇瑞を期待する営為」という意味であったことなど、貴重な指摘がなされました。大陸文物の受容のあり方を考える上でも、重要な報告をしていただきました。
 本研究会では、水野敬三郎先生(東京芸術大学名誉教授)や浅井和春先生(青山大学教授)をはじめ、彫刻史を専門とする先生方にもお越しいただき、活発な討議をおこないました。
 討議で出された意見は、今後、研究をすすめていく上での重要な論点ばかりでした。こうした問題意識の共有化は、研究を活性化させる原動力となります。本研究会が、原動力を生み出す場として機能し続けるよう、今後も研究会開催のあり方を模索していきたいと思います。


第5回公開学術講座「和泉流狂言の伝承」in 金沢

 無形文化遺産部恒例の公開学術講座を、今年度は金沢大連携融合事業・日中無形文化遺産プロジェクトとの共催で、12月12日、石川県立能楽堂で開催しました。金沢市は江戸時代から能楽が盛んな土地柄で、宝生流の謡曲と和泉流の狂言が行われています。今回は和泉流の狂言にスポットを当てました。同じ和泉流でも金沢と名古屋では伝承が大きく異なっています。その歴史的な背景や実技の違いについて講演をおこない、それぞれの伝承に基づく狂言を演じていただきました。東京都は異なり聴衆はそう多くはありませんでしたが、熱心な聴講者が多く、好評でした。


「資料保存地域研修」開催

研修会の様子

 表題の研修会は、我々が地方に出向き、文化財保存担当者を対象にその基礎知識を習得していただくことを目的に講義を行うものです。15回目となる今回は12月13日、高知県立歴史民俗資料館において実施しました(主催:高知県教育委員会および東文研)。この研修では例年、温湿度や空気環境などを各論的に取り上げるのですが、今回は主に生物対策に焦点を絞って講義を行いました。これは、高知では気候的な要因などから、虫やカビの問題と対策が文化財保存担当者にとって懸案になっていることが大きな理由です。朝賀浩・文化庁美術学芸課文化財管理指導官、岡本桂典・高知県立歴史民俗資料館学芸課長、三浦定俊氏・文化財虫害研究所理事長(東文研名誉研究員)、佐野千絵・東文研保存修復科学センター保存科学研究室長の4名が講義を行い、それぞれの専門、立場から話をしていただきました。
 研修会には、広い高知県内から非常に多くの方にご参加いただき、質疑応答でも、活発な質問や議論が交わされ、関心の高さを実感しました。この研修は、地域の方の要望にお応えして実施しておりますので、ご希望がありましたら遠慮なくお知らせください。


カンボジア、タイでの共同研究

砂岩上に繁茂する地衣類に関する調査
(カンボジア タ・ネイ遺跡)

 11月下旬から12月初旬にかけて、カンボジアとタイでそれぞれ現地の文化財に関する調査研究を実施しました。カンボジアでは、アンコール遺跡群のタ・ネイ遺跡で、遺跡の石材の上に繁茂する様々な生物、特に地衣類やコケ類と環境との関連について、イタリアのローマ第3大学のジュリア・カネーヴァ教授にも参加していただき調査を行いました。タイでは、遺跡保存に対する覆屋の効果について、東部のプラチンブリにあるラテライトに彫られた仏足石やレリーフ、スコータイのスリチュム寺院大仏などで観察を行うとともに、アユタヤやバンコクで仏像などに用いられている漆に関する調査を行いました。さらに、共同研究の相手先である文化省芸術局で、局長を交えて今後の共同研究の進め方について協議を行いました。


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