研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第53回オープンレクチャーの開催

講演会の様子

 文化財情報資料部では、令和元(2019)年11月1日、2日の2日間にかけて、オープンレクチャーを東京文化財研究所セミナー室において開催しました。毎年秋に、ひろく一般の聴講を公募して、当所研究員の日頃の研究成果を、外部講師を交えて講演するものです。なお、この行事は台東区が主催する「上野の山文化ゾーンフェスティバル」における「講演会シリーズ」の一環でもあり、さらに11月1日の「古典の日」にちなんだ行事でもあります。
 本年は、1日に「大徳寺伝来五百羅漢図と『禅苑清規』―描かれた僧院生活―」(文化財情報資料部研究員・米沢玲)、「広隆寺講堂阿弥陀如来坐像のかたちと込められた願い―願主「永原御息所」の人物像を起点として―」(慶應義塾志木高等学校教諭・原浩史氏)、2日に「日本唯一の伝世洋剣、水口レイピアの調査と研究」(文化財情報資料部広領域研究室長・小林公治)、「SPring-8による刀剣研究最前線:制作技術の解明に向けて」(昭和女子大学歴史文化学科・田中眞奈子氏)という4題の講演が行われました。両日合わせて151名に参加いただき、アンケートの結果、回答者のほぼ9割から「大変満足した」「おおむね満足だった」との回答を得ることができました。当所研究員の研究動向や新知見を公開することで、一般のみなさまに文化財について楽しく学んでいただくよい機会となりました。


甲賀市水口町郷土史会記念事業における「十字形洋剣」についての講演

水口郷土史会での講演

 これまで足かけ6年にわたり、文化財情報資料部を中心に調査と研究を行ってきた甲賀市水口の藤栄神社所蔵「十字形洋剣(水口レイピア)」については、令和元(2019)年度、調査にひと区切りをつける形で、主に国外専門家を対象としたICOM京都大会での発表(https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/818986.html)、また当研究所第53回オープンレクチャーにおいての一般の方々を対象とする講演により成果の公開をはかってきたところです(https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/819076.html)。これらに引き続き11月9日、この洋剣が現在まで伝世されてきた甲賀市水口でも水口町郷土史会創立60周年記念事業での講演という絶好の機会をいただき、共に調査を行ってきた甲賀市教育委員会の永井晃子さんと「藤栄神社所蔵「十字形洋剣」の謎に挑む」と題した報告を行い、この剣に対する調査結果やその歴史的意味などについて地元の方々にお伝えしました。当日は藤栄神社の向かいというまさしく地元の会場におよそ100名ものみなさまがご参集くださり、この調査についての報告に熱心に耳を傾けていただきました。
 この講演の実施でようやく本調査に関わる責務の一端が果たせた気がしますが、今後は共同して調査にあたった研究者と共に調査報告書の作成へと軸足を移し、この洋剣研究に対する一応のまとまりをつける予定です。


セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演

協議の様子
講演会の様子Photo by Sainsbury Institute / Andi Sapey

 イギリス・ノーフォークの州都であるノリッチ(Norwich)にあるセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は、欧州における日本の芸術文化研究の拠点のひとつです。このSISJACと東京文化財研究所は、平成25(2013)年より「日本藝術研究の基盤形成事業」として、日本国外で発表された英文による日本芸術関係文献のデータをSISJACから提供いただき、当研究所のウェブサイトで公開するという事業を共同で進めています。そうした事業の一環として、毎年、文化財情報資料部の研究員がノリッチを訪れて、協議と講演をおこなっており、令和元(2019)年度は江村知子、米沢玲の2名が11月20日から23日にかけて滞在し、その任に当たりました。
 協議では、SISJACから提供いただいたデータへのアクセス件数の問題や、全般的なデータ採録における表記やウェブリンクの問題などを協議し、よりよいデータ構築と活用に向けて共同事業を継続していくことを確認しました。
 また、11月21日には、江村がノリッチ大聖堂のウェストン・ルームにおいて「日本絵画にみる四季の表現 The Expression of the Four Seasons in Japanese Paintings」と題した講演をおこない、同研究所のサイモン・ケイナー(Simon Kaner)所長に通訳の労をとっていただきました。この講演は、SISJACが毎月第三木曜日に開催する一般の方向けの月例講演会の一環でもありましたが、今回は150名ほどの参加者があり、講演終了後も活発な質疑応答がおこなわれました。同地における日本美術に対する関心の高さがうかがえました。今後もセインズベリー日本藝術研究所との連携を効果的に進めながら、日本美術の国際発信をおこなっていきたいと思います。


博物館の環境管理に関するイラン人専門家研修III

東京文化財研究所における講義
国立民族学博物館における講義

 東京文化財研究所は、平成29(2017)年3月にイラン文化遺産手工芸観光庁およびイラン文化遺産観光研究所と趣意書を取りかわし、5年間にわたって、同国の文化遺産を保護するためさまざまな学術分野において協力することを約束しました。
 平成28(2016)年10月に実施した相手国調査の際、イラン人専門家から、首都テヘラン市では大気汚染が深刻な問題となっており、その被害が文化財にもおよび、イラン国立博物館に展示・収蔵されている金属製品の腐食が進行していると相談されました。そこで、イランにおける博物館の展示・収蔵環境の改善を目指し、平成29(2017)年度より研修事業を実施してきました。
 令和元(2019)年度も、イラン文化遺産観光研究所から2名、イラン国立博物館から2名、計4名のイラン人専門家を日本に招聘し、11月25日から29日にかけて、研修事業を行いました。 
 まず、東京文化財研究所において、佐野保存科学研究センター長と呂俊民先生が中心となり、博物館環境に関する講義を行ったほか、昨年度、イラン国立博物館で実施した大気汚染調査の成果に関して報告を行いました。また、佐藤生物科学研究室長と小峰アソシエイトフェローが中心となり、文化財の生物被害防止に関して講義を実施しました。
 その後、京都国立博物館と国立民族学博物館などを訪問しました。京都国立博物館では降幡順子先生に防災対策について講義していただき、同館の防災システムを見学しました。国立民族学博物館では、日髙真吾、和髙智美、河村友佳子、橋本沙知の各先生方に、同館における環境管理や空調管理、生物被害対策などについて講義していただいたほか、展示室や収蔵庫を見学しました。ご協力いただいた各位および各機関に改めて御礼申し上げます。
 東京文化財研究所は、今後もイランの文化遺産を保護するための協力活動を行っていく予定です。


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