研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


研究所で総合消防訓練実施

消防本部(右から本部長:鈴木所長、副本部長:中野副所長、北出管理部長)
救護者の搬送
消化器による放水体験と訓練参加者の様子
AEDの説明に真剣に聞き入る参加者

 1月26日午前10時30分から当研究所で総合消防訓練が実施されました。
  この日は研究所3階の給湯室からの出火を想定。初期消火、通報、避難誘導、救護などを研究所の職員で構成する自衛消防隊を中心に訓練を行い、当日研究所に勤務する職員が多数参加しました。
  午前10時30分、所内に設置された火災警報機が鳴り、「火災が発生したので非難してください」の放送。自衛消防隊及び火災発見者が消火器による初期消火(模擬)を行い、119番通報(模擬)。職員を誘導し屋外に避難させました。
  その間、消防本部、救護所を設置するとともに、自衛消防隊が、煙を吸って具合が悪くなり、逃げ遅れた職員1人を担架で避難させ、文化財(模擬)を搬出しました。
  訓練終了後、鈴木所長から、訓練における対応等への謝辞及び感想の後、文化財防火デーは、今回、区切りの55回目であり、文化財保護法の契機となった、法隆寺金堂壁画の焼失原因も不明のままであり、いつ、どこから出火するかわからないので、常日頃から気を引き締めてほしいとの講評があり、参加者は防災意識を高めていました。
  また、消火器の種類、取扱い方法の説明を受けた後、訓練用消火器を使用した訓練も行われ、「火事だ!」との発声とともに放水訓練を行いました。
 なお、今回は、研究所に設置されているAED(自動体外式除細動器)の取扱説明が実施され、説明が始まると、参加者は真剣な表情で聞き入り、救命措置の重要性に対する関心の高さが感じられました。
 研究所では、1月26日の「文化財防火デー」に合わせ、関連行事として毎年、消防訓練を行っています。


『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録―カラー画像編―』の刊行

『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―カラー画像編―』

 当研究所では、平成16年から17年にかけて、京都府宇治市の平等院と共同で、鳳凰堂の仏後壁の調査を行って参りました。本調査は、平成15年から五ヶ年にわたって行われた鳳凰堂の国宝阿弥陀如来坐像及び天蓋の修理に併せて実施されたものです。「平成の大修理」と名付けられた本事業では、ご本尊を始め光背や台座が堂外に運び出され、通常、詳細に見ることの出来ない仏後壁が全貌を現しました。調査では、この仏後壁のカラー・蛍光・近赤外線による撮影及び顔料調査を行いました。仏後壁全体の撮影は創建以来初めてであり、1月23日には、平等院において記者会見が行われ、新聞各紙及びNHKのニュース番組において取りあげられています。
 なお、調査資料目録は、今後、平成21年度に近赤外線画像編を、さらに22年度に蛍光画像・蛍光X線分析データ編の刊行を予定しております。仏後壁の画題や制作年代については諸説提唱されており、一連の報告書が、今後美術史研究に有益な情報を提供出来るよう願っております。


ヒューストン美術館 展示協力と記念シンポジウムでの講演

「日吉山王祭礼図屏風」展示風景
The Museum of Fine Arts, Houston
記念シンポジウム講演の様子(江村)
展示会場のインタラクティブ・ディスプレイ

 2007年度に在外日本古美術品保存修復協力事業にて修理を行った「日吉山王祭礼図屏風」の所蔵館であるヒューストン美術館では、修理の竣工を記念して「よみがえる近世日本の美:日吉山王祭礼図屏風」展(Art Unfolded: Japan’s Gift of Conservation)が1月17日~2月22日の日程で開催されています。修理開始以前より同館からは、無事修理が完了した作品とともに実際の修理に使う材料・道具と工程についても展示して、日本の文化と伝統技術を総合的に理解できる企画にしたい、という要望があり、当所としても準備協力してきました。会場では唐紙・補彩用絵具・刷毛・丸包丁などがタッチパネルセンサー搭載の展示ケースに入れられ、観覧者はケースに触れるとそれらの解説や修理の工程をビデオで見ることができるインタラクティブ・ディスプレイとなっています。海外ではほとんど知られていない日本の文化財の保存修復について理解を深められるとたいへん好評でした。また一方では大津市歴史博物館のご協力により実際の山王祭の様子と、九州国立博物館のご協力により「金襴を織る-書画を飾る表装裂」がビデオ上映され、より深く日本の伝統文化を紹介されていました。
 1月19日には本展を記念してシンポジウムが開催され(助成:日米芸術交流プログラム、国際交流基金)、在ヒューストン日本国総領事・大澤勉氏のご挨拶に引き続き、実際の修理を担当した国宝修理装こう師連盟九州支部技師中村隆博氏による「日本の技-日吉山王祭礼図屏風の修復」と題した講演があり、江村は「神々の渡御-日吉山王祭礼図屏風の図様について」と題して作品の美術史的特徴について講演しました。当日の会場となった同館講堂には150人を超える参加者が集まり、研究成果発表、国際文化交流において貴重な機会となりました。


国際セミナー「無形文化遺産の共有」 メキシコ合衆国オアハカ市

国際セミナー「無形文化遺産の共有」

 この国際セミナーは、国際社会科学会議、メキシコ国立大学等の主催、メキシコ政府及びオアハカ市の全面協力で開催されたもので、アジアから唯一の参加者として無形文化遺産部の宮田が招聘され、“The Creation of Future Intangible Cultural Heritage in Japan”というテーマでの講演を行いました。メキシコは無形文化遺産保護条約の政府間委員会委員国であり、また現在各国から提出されている代表リスト登録候補を検討する補助組織の構成国でもあり、無形文化遺産に関する活動を積極的に展開している国の一つです。このセミナーにも、ユネスコ事務局をはじめ、無形文化遺産保護条約締約国総会議長のカズダナール氏やなど、無形文化遺産保護に関する重要人物も招聘され、地元関係者との間で活発な議論が展開されました。無形文化遺産部では、今後もこうした機会には積極的に参加し、日本の経験を広く発信したいと考えています。


東大寺戒壇堂安置の国宝・塑造四天王立像に関する調査

X線撮影調査風景
三次元計測調査風景

 保存修復科学センターでは、「文化財の防災計画荷関する調査研究」の一環として、塑像の耐震対策に関する研究を行っております。今回、国宝・塑造四天王立像(東大寺戒壇堂安置)を対象に、現状把握および耐震対策の立案を進めました。
 この国宝・塑造四天王立像は、奈良国立博物館により、平成14(2002)年に開催された特別展「東大寺のすべて」に出品する際に調査が行われました。今回は三次元計測および、以前の調査で撮影不可能な部分を補完するためのX線透過撮影を実施し、今後行う予定の耐震診断に必要な情報収集を行いました。
 三次元計測に関しては、凸版印刷株式会社と共同で調査を行いました。複雑に配置された塑像に対して移動させることなく計測可能なシステムとして、凸版印刷株式会社で開発中のステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システムを採用した結果、レーザー三次元計測では撮影が難しいとされる入り組んだ部分についても情報を得ることができました。今後はこれらの計測結果をまとめたうえで、塑像の耐震診断を行う予定です。


アジア文化遺産国際会議の開催

参加者記念撮影

 2009年1月14~16日に、タイ王国において、アジア文化遺産国際会議「被災後の遺跡の修復と保存」を開催しました。これは、東京文化財研究所とタイ王国文化省芸術総局とが共催し、東南アジア文部大臣機構考古芸術事業(SPAFA)と在タイ日本国大使館とが後援したものです。前半の二日間は、バンコク市のサイアムシティホテルにおいて、円卓会議を行い、最終日はアユタヤで、実際に災害対策や災害後の修復が行われている遺跡を視察するエクスカーションが行われました。円卓会議では、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムの東南アジア5カ国からそれぞれ一人ずつの代表者に、開催国のタイと主催者の日本を加えた各国からの発表が行われたほか、地元の大学関係者などのオブザーバーからも積極的に意見や質問が出され、活発な議論が行われました。また、エクスカーションでは、修復材料などに関して様々な情報が参加者の間で共有されました。


コンソーシアム諸国国際協力体制調査(オーストラリア)

オーストラリア連邦政府とのインタビュー
ニューサウスウェールズ州政府とのインタビュー

 文化遺産国際協力コンソーシアムの情報収集活動の一環として、今年度は先進国での国際協力体制調査を企画しており、その一つとして1月20日~30日にかけてオーストラリアでの調査を行いました。調査では、文化遺産国際協力に携わる行政組織から研究機関、民間コンサルタントまで、合計14の機関/個人に対してインタビューを行い、同国がどのような体制で文化遺産国際協力の案件生成や事業展開しているのかを調査しました。その結果、経済開発協力との連携や国内の若手育成など、日本と共通する課題をもつ一方で、関係者間の柔軟な情報連携ネットワークや明確な役割分担の存在など、日本との違いも明らかになりました。今後の日本の国際協力体制を考える上で大いに参考となる有益な情報を収集することができました。


国際シンポジウム『私の文化遺産再発見』の開催

ポスター展示の様子
パネリスト

 去る1月18日に、文化庁、朝日新聞社と文化遺産国際協力コンソーシアムの共催で、国際シンポジウム『私の文化遺産再発見』が開催されました。今回は、初の試みとして一般の方々を対象としたシンポジウムを企画し、文化遺産を身近に感じてもらうこと、そしてそのような身近な文化遺産を護るための国際協力活動の存在について知ってもらうことをねらいとしました。招待講演に作家の浅田次郎氏、新しいタイプの遺産の紹介としてドイツの産業遺産活用を手がけるIBA社プロジェクト代表のブリギッテ・ショルツ氏をお招きしたほか、日本が行っている様々な文化遺産国際協力の事例として、トヨタ財団の権修珍氏、東京文化財研究所文化遺産国際協力センター長清水真一より報告を行いました。また、日本の文化遺産国際協力活動を紹介するパネルの展示や、パンフレットの配布も行いました。当日は、400名近くの参加があり、多くの人々へメッセージを伝えることができました。


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