研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


平成20年度自己点検評価の結果

 4月15日に独立行政法人国立文化財機構外部評価委員会の研究所調査研究等部会が、5月11日に同総会が開催されました。前者は、東京と奈良の文化財研究所が平成20年度に実施した事業の実績をまとめ、それらを自ら点検、評価したものに対し、外部評価委員から意見等をいただく会です。また、後者は、調査研究等をふくめ、機構の事業全体と財務について意見をいただく会です。自己点検評価では、東京文化財研究所は、すべての事業について、当該の年度計画を100%達成し、充分に成果をあげたと判断しました。また中期計画の実施状況に関しては、ほぼすべての事業において、計画通り順調に達成しつつあると判定しました。東京文化財研究所の自己点検評価に対する外部評価委員の意見、評価は以下の通りです。
 調査、研究に関しては、高精細デジタル画像撮影を使った調査研究や無形文化遺産の研究をはじめとして、多方面で多大な成果をあげていると認められました。しかし、一方で、東京と奈良の文化財研究所が共同して取り組んだ高松塚古墳やキトラ古墳の保存活用のための研究、保存修復科学センターが企画、実施した研究会「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」のように、機構の各施設が共同して取り組む研究を一層拡大させて欲しいと要望されました。国際協力の推進に関しては、アジア諸国を中心に、文化財の保存修復や専門家の養成の場面で大きな成果をあげたと認められました。また、文化財保護法の英語による試訳、諸外国の文化財関連法令の刊行などが高く評価されました。調査研究成果の積極的な発信に関しては、子供向けのパンフレットの作成、研究成果物のウェブへの掲載などが高く評価されましたが、今後は、成果を一般に向けてさらにわかりやすい形で発信して欲しいと要望されました。国、地方公共団体等に対する助言、協力、教育等への寄与に関しては、幅広い成果を挙げていると認められました。 他にもたくさんの意見をいただきました。自己点検評価の結果や外部評価委員のご意見は、今後の事業計画の策定や法人運営の改善に役立てます。


国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名来訪

東京文化財研究所・所長室にて
質疑応答
奈良文化財研究所都城発掘調査部
(飛鳥・藤原地区)にて

 国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名
 平成21年5月13日(水)から20日(水)までの一週間、国立文化財研究所(大韓民国、韓文研)の金奉建所長、李奎植保存科学研究室長、研究企画課・李鍾勳学芸研究官の三名が東京文化財研究所の招へいにより来日、当研究所の事業などを視察されました。
 13日は4階文化遺産国際協力センター、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室について見学し、当研究所と同様に文化財保護研究を幅広く実施している韓文研の事例を交えながら、それぞれの担当者から説明および質疑応答を行いました。14日は奈良へ移動し、文化庁・奈良文化財研究所で行われている平城宮跡大極殿復元事業の視察、翌日は特別史跡・高松塚古墳の発掘現場や世界遺産・法隆寺の視察を行いました。
 翌週18日には大分県へ移動し、当研究所と韓文研の国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」の日本側サイトである国宝・臼杵磨崖仏を訪問し、共同で実施している現地観測や実験について踏み込んだ議論を行いました。その後、19日は九州国立博物館のバックヤード等の視察を行い、20日午前、福岡空港発の大韓航空機にて無事帰国の途につかれました。
 短期間で数多くの視察地を訪れる非常にハードなスケジュールとなりましたが、金奉建所長は全ての視察地で強い興味を持ち、満足してお帰りになられました。
 また、国際共同研究についてもより緊密に行い、もっと発展させるべきだとの強いメッセージも頂きました。今後、両研究所の研究者による交流をさらに活発にし、良い研究成果を報告できるよう努力してまいりたいと考えています。


大徳寺蔵「五百羅漢図」の光学的調査

奈良国立博物館での調査の様子(様々な波長の光を発生させる光源装置を用いて、銘文の有無を確認しています)

 企画情報部では、奈良国立博物館と「仏教美術等の光学的調査および高精細デジタルコンテンツ作成に関する協定」を結び、共同研究を進めています。その一環として、平成21年5月11日から17日までの日程で、大徳寺蔵「五百羅漢図」の調査・撮影を奈良国立博物館において行いました。
 大徳寺蔵「五百羅漢図」は、南宋の寧波において、淳煕5年(1178)からほぼ十年をかけ、林庭珪・周季常という絵師により全100幅が制作された美術史上大変重要な作品です。現存する94幅(江戸期の補作を除く)のうち、計37幅に銘文の存在が確認されていましたが、経年劣化等により肉眼では判読困難な状況でした。
 今回の調査は、これらの銘文を蛍光撮影等の光学的手法を用いて明らかにすることを目的として開始されましたが、新たに11幅、計48幅に銘文を確認することができました。美術史のみならず、当時の歴史や宗教史を考える上でも非常に大きな発見と言えます。
 今回撮影した画像をもとに、6月中旬には両機関の関係者を交えての協議会を開き、秋に行う第二次調査のための検討材料としていきます。また、今回の調査の成果の一端は、今年7月より奈良国立博物館にて開催される「聖地寧波 日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~」(http://www.narahaku.go.jp/
exhibition/2009toku/ningbo/ningbo_index.html
) において提示するほか、さらなる調査・検討を加えつつ、来年度以降、報告書としてまとめていく予定です。


滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像の光学調査

 企画情報部の津田徹英・皿井舞は、出光文化福祉財団よりの調査・研究助成を得て、二カ年計画で開始した「秘仏等非公開作例を中心とする近江古代・中世の彫像の調査研究」の一環として、保存科学修復技術センターの犬塚将英、早川泰弘の協力を得て、5月12日(火)に滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像のX線透過撮影ならび蛍光X線非破壊分析を東京文化財研究所にて行いました。当日、像は13時に共同研究を行っているMIHO MUSEUMの学芸員二名と百済寺住職によって研究所に到着し、調査がはじまりました。今回の調査は胸部で再接合が認められる頭と体部が同時期の造像かどうかを確認すべく、X線透過撮影によって構造を把握し、蛍光X線非破壊分析で両か所における銅の成分を確認することを目的に実施しました。その調査を踏まえて、本像はこの夏にMIHO MUSEUMで公開される予定です。


キッズページの新設

 2009年5月、小・中学生を対象としたキッズページを新設しました。とくに「とうぶんけんのしごとぜんぶ」では、東京文化財研究所のさまざまな活動をカード形式でご覧いただけます。  昨年7月に刊行しました子供向けパンフレット『東京文化財研究所ってどんなところ?』(http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/publication
/kids/2008.pdf)とともに、キッズページを夏休みの自由研究などにご利用いただければ幸いです。ぜひ一度、キッズページhttp://www.tobunken.go.jp/kids/index.htmlまでアクセスしてみてください。


韓国国立文化財研究所での研修

韓国国立国楽院、伝統芸術アーカイブについての聞き取り

 昨年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、5月25日から6月8日まで、韓国において二週間の研修を行いました。昨年度の研修では、主に韓国文化財研究所が製作する重要無形文化財記録のアーカイブ化と活用について調査しましたが、今回は、韓国のその他の機関における無形文化遺産関連の記録のアーカイブ化について調査を行いました。とくに国立国楽院の伝統芸術アーカイブと、国立民俗博物館の民俗アーカイブの現状について詳しく聞き取りを行いましたが、両機関とも、記録資料の整理のための分類やメタデータを、将来の各アーカイブの連携も見越して綿密に構築しており、日本の同種の事業にも参考になる点が多いと思われました。また、研修期間中には、江陵の端午祭と、ソウル近郊での霊山斎という、二つの無形文化遺産を見学する機会にも恵まれました。


キトラ古墳壁画の漆喰取外し

ワイヤソーによる漆喰取外しの様子
現在のキトラ古墳天井(紫は石材露出部分)

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。現在、石室内は微生物による汚染の増大が懸念されており、より早期に漆喰を取外すことが求められています。そこでこれまで月に1回、3日間程度実施していた取外し作業を、今年度からは1ヶ月間連続して行うことにしました。第1回目は5月11日からスタートし、主に天井南側の漆喰を取り外しました。1ヶ月間集中的に作業を行うことで効率を上げて取り外すことが可能となりました。また、図像のある漆喰は全て取外されていることから、紫外線照射による微生物の制御を行い、良好な結果が得られています。今回の作業の成功を踏まえ、今秋にも集中的な取外しが実施される予定です。


シルクロード人材育成プログラム・古建築コース実施

現場実習の様子

 中国文化遺産研究院と共同の「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」の一環として、古建築保護修復コース(後期)を4月初旬から青海省のチベット仏教僧院、塔爾(タール)寺で実施しています。修復理論や実測調査を学んだ昨年に続く今回は、保存管理計画策定から修理の基本設計、実施設計へと至る流れを実習する課程としました。同時に、調査・設計・監理を一貫して行う日本独自の修理システムを紹介することで、ともすればマニュアルに頼りがちな保存のあり方を考える契機になればとの意図も込めました。
 5名の講師を交替で派遣した日本側の講習は5月末で終了し、以後は中国側による講習が7月末まで続きます。12名の研修生は熱心に学んでいますが、課題点も浮き彫りになりました。まず、同じ木造と漢字の文化でありながら、日中の建築には意外に大きな相違があり、用語や修復観をめぐって意思疎通に手間取る場面にしばしば遭遇しました。また、境内各所では修復工事が進行中で、その一角を借りての現場実習でしたが、迅速な施工を求める寺側と調整がつかず、途中で実習対象建物の変更を余儀なくされることもありました。カリキュラムと実施行程のいずれにおいても、研修計画段階での綿密な検討の必要性を痛感させられました。


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