研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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普賢菩薩像の画像撮影
企画情報部では、東京国立博物館に所蔵される平安仏画の共同調査を継続して行っています。これを精度の高い画像で撮影し、絵としての作りを実物の目視で観察できる以上の細部にわたって探ろうとする試みです。これまで虚空蔵菩薩像(国宝)、千手観音像(国宝)の調査を行ってきましたが、3月26日、本年度分として平安仏画の中でも殊に評価の高い普賢菩薩像(国宝)について撮影を行いました。得られた画像は東京国立博物館の研究員と共有して検討し、今後その美術史的意義について検討してまいります。
Web版『みづゑ』トップページ
企画情報部では毎月一回、研究情報の共有化のために研究会を行っています。3月は25日(火曜日)2時より、標記のテーマで、文化形成研究室長・津田徹英、アソシエイトフェロー・橘川英規、国立民族学博物館・丸川雄三、国立情報学研究所・中村佳史、同・吉崎真弓が報告を行いました。報告の対象となった『みづゑ』は、1905(明治38)年に創刊され、その後、1992(平成4)年に一時休刊し、2001(平成13)年の復刊を経て、2007(平成19)年に再び休刊した美術雑誌です。約1世紀にわたって刊行され続けた美術雑誌であっただけに、近代日本の美術界に与えた影響は多大であり、資料的価値が高いことはいうまでもありません。しかも明治期刊行分90号までは、入手が困難なうえに、これをまとめて所蔵するところが少なく、東京文化財研究所でも貴重書に準じる扱いとなっています。しかしその一方で公開が強く望まれていた資料でもありました。そこで明治期に刊行された分について、記事等、既に著作権が消滅しているものが多いことをかんがみてWebでの公開を行うことを目指し、企画情報部と国立情報学研究所連想情報学研究開発センターが、それぞれが蓄積するノウハウを持ち寄って2011年から3か年にわたって共同研究・開発を行いました。あわせて、この共同研究・開発は、『みづゑ』をモデルケースとし、文字情報が主となる文化財情報の発信に関して、ひとつの可能性を示すことを念頭に置いて取り組んだものでもあります。もとより、企画情報部研究プロジエクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環です。そのWeb上での成果公開にあたり、企画情報部内で情報を共有するために開催したのがこの研究会です。なお、共同研究・開発による『みづゑ』のWeb版は、「東京文化財研究所所蔵資料アーカイブズ みづゑ」として公開しております。是非、ご覧ください(http://mizue.bookarchive.jp/)
キリバスの伝統的集会所での調査
ツバルの伝統的集会所における舞踊
文化庁委託文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)の一環として、文化遺産国際協力センターが受託した「気候変動により影響を被る可能性の高い文化遺産の現状調査」が2月18から3月5日までの日程で実施されました。調査地は、気候変動による海水面上昇等で被害が進行しつつある大洋州(オセアニア)のキリバス・ツバル・フィジー3ヶ国。
キリバス・ツバルでは首都および離島を訪れ、伝統舞踊や民俗技術、伝統的建築、聖地など文化遺産の現状を調査し、海面上昇による被害を確認しました。また政府関係者や離島での首長との面談を行いました。両国とも海水面上昇によって文化遺産の破壊消失のみならず、国土自体の消滅を現実問題として抱えています。たとえ海外移住を迫られても、維持可能な無形文化遺産は、人々のアイデンティティ維持に役立つということが、両国の関係者でも意識されていました。例えば、両国とも集落ごとに大きな集会所があり、そこで社会的な集会から宗教儀礼や舞踊など様々な行事を行います。こうした集会所をめぐる文化は、無形のみならず建築やその技術、素材としての自然など様々な要素と密接に関わっており、そうした文化の存続が叫ばれています。フィジーの南太平洋大学では、こうした関連する分野の研究者との意見交換を行い、今後大洋州島嶼国の文化遺産を考えてゆく上で意義のある調査となりました。
第2回協議会
無形文化遺産部で複数の協働団体とともに運営する「311復興支援・無形文化遺産情報ネットワーク」では、平成26年3月5日(水)に第2回協議会を地下会議室で開催しました。ネットワークの創設となった昨年3月の第1回協議会に続き、東日本大震災で被災した無形文化遺産の復興に関わる情報の共有と、意見交換とを行いました。
参加者(37名)は研究者や行政関係者に加え、被災地で活動されている方々、支援団体、宗教関係者、メディア関係者といった幅広い層に及びました。後半はゲストスピーカーの田仲桂氏(TSUMUGUプロジェクト)、阿部武司氏(東北文化財映像研究所)からの報告を受け、被災地の無形文化遺産の記録に関わる問題点を中心に話が進みました。
一口に記録と言っても、様々な側面があります。今回の協議では、①再開の契機としての記録②断絶せざるを得ない伝承の記録としての記録③子どもや若者に継承を促す記録④広く存在をアピールするための記録、といった目的が挙がりました。また記録作成を行うことで新たなネットワークを生むといった効果も期待できます。いずれにしても状況は被災地域毎に異なっており、それぞれのニーズをよく捉えた上で進めていくべきという方向性も確認されました。
放射線汚染物質の除塵清掃実験
放射線量計測方法の講習
福島第一原子力発電所事故により、周辺環境が放射性物質で汚染された双葉郡双葉町・大熊町・富岡町の資料館から救出された文化財は、最終的には福島県文化財センター白河館「まほろん」の仮保管庫内で保管されています。
保存修復科学センターでは「まほろん」学芸員に協力して、これらの保管環境の整備を目指す調査を継続しています。3月25-26日には温湿度調査に加え、一部の救出文化財について表面汚染密度計測を行い、ほとんどの資料は放射線物質による汚染がないことを確認しました。わずかに高い数値を示す資料については、包装袋の取り換えやミュージアムクリーナーを使用した除塵清掃を実施し、前・後の放射線量の計測結果から、その効果を検証しました。さらに救出文化財の管理にあたる学芸員には表面汚染の計測方法の講習を実施して手順を習得してもらいました。「まほろん」ではこれから順次、すべての救出文化財についての計測記録を行っていく予定です。
講演風景
2014年3月7日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成25年度事業報告と平成26年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、国際交流基金理事長の安藤裕康氏による「文化を通じる国際協力と交流―双方向性に向けて」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年開催された各分野の国際会議での議論を中心に、4名の方にご報告いただきました。
まず、文化庁主任文化財調査官の本中眞氏より、富士山の世界遺産登録を事例に、登録に至るまでの審議の過程や世界遺産登録後の課題についてお話しいただきました。続いて企画情報部情報システム研究室長の二神葉子より、ユネスコ無形文化遺産保護条約第8回政府間委員会での審議内容についての報告とともに、委員会で議論となった事項や最近の同条約をめぐる問題についての発表がありました。 さらに、国立文化財機構本部の栗原祐司事務局長にご登壇いただき、ICOM大会招致に向けて、ICOM日本委員会が行っている活動や今後の見通しなどについてご発表いただきました。 最後に、コンソーシアムの前田耕作副会長より昨年イタリアのオルビエトで開催された第12回バーミヤン専門家会議での議論に関するご発表がありました。
今回は約100名のかたの参加がありました。コンソーシアムでは例年同様のテーマの研究会を開催しておりますが、参加者のみなさまには文化遺産保護をめぐる最新の国際動向について情報共有し、意見交換していただく場として活用していただいております。今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。