研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


勤労者美術展東京都知事賞受賞

受賞を喜ぶ石丸さんを囲んで
右から永井管理部長、鈴木所長、石丸さん、後藤

 管理部管理室会計係の石丸真弥さんが、平成19年12月2日に東京都知事から勤労美術展東京都知事賞(書の部)を受賞し、鈴木所長にその報告を行いました。
 鈴木所長からは、今回の受賞に対して、お祝いの言葉が述べられた後、作品についての説明や創作活動の状況などについて懇談しました。
 この美術展は、東京都が都内勤労者の日頃の創作活動の成果を発表する場として「勤美展」の愛称で親しまれ、今年が60回目という大きな節目を迎えた歴史ある展覧会である。
 今回は、日本画、洋画、立体造形・工芸、書、写真の幅広い分野にわたる合計880点が出品され、「書」部門においては47点の出品のうち東京都知事賞は最も栄誉ある賞であります。審査員からは「力強い線条で、若さが作品全体にあふれている。作品構成は、「序破急」と三つの部分で構成し、中央で大きく盛りあげている。行間の白も美しく、冬行との響きあいも見事」と選評されています。
 石丸さんは、子供のころから書道に強い魅力を感じ、大学では書道科に進学し、その後大学院で文学研究科書道学を専攻し、研究面でも業績をあげています。現在は、読売書法会や藍筍会の書道団体に所属し、本研究所に勤務する傍らの限られた時間の中で創作活動を行っています。文化財研究の拠点である本研究所での勤務は良い刺激であり、今後より良い作品を創作し、芸術文化の発展に寄与したいと頑張っています。
 (※石丸さんの主な作品や活動等については自身のホームページでもご覧いただけます。
http://www.h2.dion.ne.jp/~shinya-i/top.htm


寄付金の受入れ

下條理事長、浅木社長から寄付を受ける鈴木所長
左から吉田副理事長、下條理事長、浅木社長、鈴木所長、永井管理部長
浅木社長に感謝状を贈呈する鈴木所長
左から浅木社長、鈴木所長
下條理事長に感謝状を贈呈する鈴木所長
左から下條理事長、鈴木所長

 東京美術商協同組合から、東京文化財研究所における文化財に関する調査・研究等の成果の公表にかかる出版事業の助成を目的として、また㈱東京美術倶楽部から東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄付金のお申し出がありました。
 東京美術商協同組合からは、2001年秋から毎年春と秋に各100万円のご寄付をいただいており、今回で13回目となり、(株)東京美術倶楽部からは、昨年秋と今年春に各100万円のご寄付をいただいており今回で3回目となります。
 12月17日、港区新橋の東京美術商協同組合において、鈴木所長が東京美術商協同組合下條啓一理事長並びに(株)東京美術倶楽部浅木正勝代表取締役社長から寄付を受領いたしました。
 また、今回までにご寄付いただいたことに対して、東京美術商協同組合下條啓一理事長並びに(株)東京美術倶楽部浅木正勝代表取締役社長にそれぞれ鈴木所長から感謝状を贈呈しました。
 その後、文化財保存・修復並びに美術品等の展覧会に関する文化事業について懇談しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄付をいただいたことは、当研究所にとって大変有難いことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。


“オリジナル”研究通信(3) ―文化財修理の基本理念

 企画情報部では、来年度に行われる「文化財の保存に関する国際研究集会」の準備のため、“オリジナル”をテーマに部内研究会を開いています。12月は、長年にわたって文化財修理の第一線に臨まれてきた、所長・鈴木規夫と議論を交わしました。
 現在、「現状維持を原則とし、学術的・資料的・美的価値を損なわないように、必要最低限の処置をほどこす」ことが、日本の文化財修理の基本理念となっています。ただ、文化財の素材(材料)あるいは形態などどの部分に力点を置くのか、あるいはどの時点の姿を残すのかという問題は、文化財の本質的な価値がどこにあるのかという根本的な問題と密接に関わるもので、決して一律に判断を下せることではなく、現場においてさまざまにむずかしい判断が要求されるようです。
 特に興味深く感じたのは、日本には文化財が長年の時を経て身にまとう経年変化―よく古色・古びという言葉で言い表したりしますが―に美を見出し、それをうまく残しつつ伝えるという、日本独自の感性・価値観があるということでした。文化財が造られた当初の姿だけではなく、それが伝来してきた歴史の重みをも重視するこの考え方は、我々が新しく提示しようとしている“オリジナル”の考え方とも通じており、議論が活発に行われました。


『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』研究会の開催

プロレタリア美術研究所のポスター
 1930(昭和5)年頃

 企画情報部ではプロジェクト研究「近現代美術に関する総合的研究」の一環として、昭和戦前期の美術に関する論文集『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』の2008年度刊行をめざしています。その刊行にむけての研究会を、12月27日に当部の研究会室で開きました。発表者とタイトルは次の通りです。
 ◆喜夛孝臣氏(早稲田大学會津八一記念博物館)「矢部友衛とプロレタリア美術運動―プロレタリア美術研究所を中心にして」
 ◆足立元氏(東京藝術大学大学院)「「悪女」と戦争―小野佐世男の漫画をめぐって」
 ◆敷田弘子氏(東京藝術大学大学美術館)「昭和前期の日本における最小限住宅とその室内設備についての一考察―型而工房とその関係者のデザイン活動から」
 若手研究者ということもあって、プロレタリア美術・漫画・デザインの未開拓分野に挑んだ発表内容は、いずれも真摯で刺激的なものでした。発表者・出席者ともに『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』の執筆陣が中心の研究会でしたが、30名近くの研究者が参加し、発表を受けてホットな議論が交わされました。本研究会が、同論集刊行にむけてのよい弾みとなったことは間違いないでしょう。


研究会の開催

 企画情報部では毎月、研究会を開催し、研究プロジェクトの進捗状況や成果の一端について研究発表を行っています。12月は26日(水曜日)3時から企画情報部研究会室において津田徹英が研究プロジェクト「美術の技法・材料に関する広領域的研究」の成果の一環として「平安末期の在地造像をめぐる小考」のタイトルで発表を行いました。これは、平安末期における「定朝様式」の地方受容に関して、その表現や技法に関して都鄙間で大差が認められないことの解釈をめぐって、これまで造像する側の仏師の技術論に収束しがちな問題を受容者サイドの問題として捉え直し、都鄙双方に活動基盤を持ち、双方を往還して活動を行った「地下官人」の存在に着目しつつ、かれらが在地造像の主体者となることで地方における文化レベルを引きあげ、中央作に準じた「みやび」な作風を示す在地造像がなし得たのではないかという仮説に基づき、その一端を造像当初の天蓋・光背・台座をよく残す滋賀県下の浄厳院阿弥陀如来像とその周辺作品に及びながら明らかにしようとした試論です。発表後、出席者から問題点の指摘など活発な意見交換がおこなわれました。


第2回無形文化遺産部公開学術講座「上方寄席囃子 林家トミの記録」

講演の様子

 無形文化遺産部主催の公開学術講座が、2007年12月12日、大阪の国立文楽劇場小ホールで開催されました。 開催地の大阪に相応しい題材をということで、昭和37年(1962)に記録作成等の措置を講ずべき無形文化財「上方寄席下座音楽」の関係技芸者に指名された林家トミ師(1883-1970)を取り上げました。当日のプログラムの詳細は、東京文化財研究所ホームページ
http://www.tobunken.go.jp/ich/public/lectures)をご覧下さい。
 公開学術講座は旧芸能部時代から通算すると38回目となりますが、会場が東京以外となったのは今回が初めてです。今後も各地での開催を積極的に計画して行きたいと考えています。


第2回無形民俗文化財研究協議会

会議の様子

 東京文化財研究所芸能部では昨年度より、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第2回を、「市町村合併と無形民俗文化財の保護」をテーマとして、2007年12月7日に当研究所セミナー室において開催しました。様々な文化財の中でも、地域のなかで伝承され、保護が図られる民俗文化財は、合併の影響をとくに大きく受ける分野です。当日は、近年合併を経験した市町村、およびこれまでに合併を経験しながらそれを無形民俗文化財の保護に活かしてきた市町村から、保存会活動の組織化や学校教育との連携などについて報告があり、それをもとに総合討議がなされました。この協議会の内容は、2008年3月に報告書として刊行される予定です。


高校生の所内見学

 当研究所には、国内外から様々な方が施設見学に訪れます。最近は、中学校や高校からの見学も増えています。12月には品川女子学院高等部と島根県立益田高校からそれぞれ約20人の高校生がやってきました。保存修復センターの旧保存科学部門では、犬塚研究員が高松塚古墳墳丘の冷却方法を検討するために行った石材や土の物性測定や温度変化のシミュレーションなどの話をしました。また、吉田は文化財の彩色に使われる色材の種類を触らずに分析する方法である蛍光X線法と、実際にこれを用いて行った絵画の色材分析についてパネルを使って説明しました。応用科学的な内容ですので、高校生にはやや難しかったかも知れませんが、若い人の「理科離れ」が問題となっているなかで、彼らが今習っている物理や化学、また生物などがこのような分野で活かされているということが分かっていただければ幸いです。


江袋教会の焼損調査と修復指導

長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損前
長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損後
焼損したステンドグラス

 長崎県教育委員会の要請により、新上五島町にあり、昨年2月に焼損した江袋教会の現地調査及び修復方針及び方法に関して指導を実施しました。江袋教会は明治15年(1882年)に建立された、木造瓦葺き平家建てで、長崎県内では最古と思われる木造教会であり、海を見下ろす急傾斜の山腹に建てられていました。屋根は単層構成、変形寄棟作りで構造的にも貴重なものとされていました。それが昨年(2007年)2月に漏電が原因で焼損しました。焼損したものの、立て替えてしまうよりは、使える部材は少しでも救いたいという地元の信者の皆様の願いにより、東京文化財研究所保存修復科学センターでは、現地の調査を実施し、比較的焼損の程度が軽い部材に関して、樹脂含浸を施し、利用できるようにするなどの修復指導を実施しました。


シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース終了

侯菊坤人事労働司長が研修生の成果物を視察
修了式記念撮影

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラム「紙の文化財」研修コースは、3カ月間の日程を無事に終了しました。この間、日本からは計12名の専門家が196時間にわたって講師を担当しましたが、とくに最後の4週間は国宝修理装こう師連盟の技術者2人が中国側の専門家とともに授業を行い、研修生たちは短期間ながら冊子、軸装物の修復技術を習得しました。12月27日には中国国家文物局の侯菊坤人事労働司長が出席して修了式が行われ、シルクロード沿線6省から参加した12名の研修生に東京文化財研究所と中国文物研究所連名の修了証が授与されました。同プログラムは、来年度5年計画の3年目を迎え、春に古建築コース、秋には土遺跡コースを実施する予定です。


石造文化財の保護に関する中国人専門家の来日研修

樹脂処理の実験

 東京文化財研究所が参加している陝西唐代陵墓石刻保護修復事業とユネスコ/日本信託基金龍門石窟保護修復事業は、いずれも2008年に最終年を迎えようとしています。ともに石灰岩という共通した材料の文化財を対象とするものであるため、これまでも研究会の開催や現地調査、日本での研修に両事業のメンバーを積極的に合流させてきました。今回は11月19日から12月16日の日程で、西安文物保護修復センターと龍門石窟研究院の保存修復部門の専門家各2名を日本に招へいし、石質文化財の修理技術、撥水材料を塗布した後の効果の評価方法、修理作業終了後の環境のモニタリングなどについて研修を行いました。最終年度の修復作業実施に向けて、研修の成果が期待されます。


第21回国際文化財保存修復研究会の開催

会議風景

 2007年12月6日に、93名の参加を得て、第21回国際文化財保存修復研究会「保存処置後のモニタリング」を開催しました。国士舘大学の西浦忠輝教授による「遺跡保存におけるモニタリングの重要性とその問題点」、インドネシア・ボロブドゥール遺産保存研究所のナハール・チャヤンダル氏による「ボロブドゥール遺跡の修復後のモニタリング」、韓国国立文化財研究所の金思悳氏による「石窟庵の長期的保存方案」の3件の発表と、総合討議が行われました。それぞれの遺跡における様々なモニタリング方法が紹介され、参加者の間で情報が共有されましたが、それを他の遺跡にも導入するためには、さらに広くモニタリングの重要性を訴えていく必要があることが認識されました。


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