研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


4月施設訪問

 文部科学省独立行政法人評価委員会委員2名ほか来訪
 4月9日に、文部科学省独立行政法人評価委員会委員が、視察のため訪問されました。東文研で行なわれている調査・研究について、地階無形文化遺産部実演記録室、3階保存修復科学センター第1修復実験室、4階保存修復科学センター生物科学研究室、文化遺産国際協力センター国際資料室および黒田記念館を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。


稗田一穂氏へのインタビュー

インタビューに応じる稗田一穂氏
山形県酒田市に疎開した文部省美術研究所にて右端が稗田氏、左端が所員であった梅津次郎

 文化功労者であり、東京芸術大学名誉教授、創画会の創立会員である日本画家稗田一穂氏(1920年生まれ)は、1943(昭和18)年に東京美術学校を卒業し、翌年から当研究所の前身である美術研究所に一年間、嘱託として勤務されていました。
 現在、当研究所では、『東京文化財研究所75年史 本文編』を年内に刊行すべく編集をすすめています。そのため、これまでにも多数の関係者の方々にインタビューをして、記録として残すようにし、当研究所の歴史を語っていただいてきました。
 今回は、4月14日に都内の稗田氏のご自宅をお訪ねし、当時の研究所のお話をうかがうことができました。1944(昭和19)年という時期は、空襲などで戦禍がひろがるなか、研究所も資料等の疎開を余儀なくされたときで、稗田氏はその疎開作業にあたられました。同氏は、疎開先である山形県酒田市に資料を守るべく半年間滞在され、1945年8月に召集礼状を受けとり、入隊すべく奈良まで帰郷することになったそうです。まさにその車中で、終戦を知ったと語られていました。ご高齢ながら90分を超えるインタビューの応じてくださり、当時の貴重な証言を残すことができました。


連想検索サイト「想―IMAGINE」と美術関係文献検索データベース

想―IMAGINE

 企画情報部では、昨年10月から、268,000件からなる「美術関係文献検索データベース(試験運用中)」を公開しています。このデータベースは、1966年から2004年までの美術関係文献を「編著者」、「キーワード」「雑誌名等」の三つの窓口から検索できるもので、データ数からいっても圧倒的なものです。情報の蓄積と公開、発信を研究業務の大きな柱のひとつとしてとらえている当部では、今以上に発信できるように、他のサイトとの連携を現在すすめてようとしています。そのひとつが、国立情報学研究所によって立ち上げられたユニークな連想検索サイト「想―IMAGINE」との連携です。今年度より、当部の客員研究員となった中村佳史氏(国立情報学研究所研究員)が、4月21日にそのデモンストレーションを行い、今後の進め方等について研究協議会を開催しました。このデモンストレーションによって、「美術」というひとつの分野だけではなく、さまざまな分野からの情報が同時にあらわれ、思いがけない広がりと可能性があるのではないかと期待されます。


『昭和期美術展覧会の研究 戦前篇』の刊行

「武人雅心あり。…」(『支那事変画報』第10輯)河田明久「描く兵士―日中戦争と「美術」の分際」より。日中戦争期の戦場には多くの「描く兵士」がおり、彼らの作品は真に迫る戦争画として喧伝されました。

 企画情報部では、国内の研究者26名による論文集『昭和期美術展覧会の研究 戦前篇』を刊行しました。本書はプロジェクト研究「近現代美術に関する総合的研究」の成果であり、2006年に刊行した基礎資料集成『昭和期美術展覧会出品目録 戦前篇』の研究篇として、昭和戦前期の美術について各研究者の視点から多角的に論じたものです。展覧会や美術団体の動向を軸に、絵画や彫刻、版画、写真、工芸等の諸ジャンルを対象とし、プロレタリア美術や戦争美術といった昭和戦前期ならではのテーマも盛り込まれています。昭和期の美術をめぐるさまざまな論点を通覧していただきながら、さらに新たな発見や問題意識の端緒となれば幸いです。
 各論文のタイトルと執筆者については、企画情報部刊行物のページをご覧ください。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/
publication/book/showaki.html

本書は中央公論美術出版より市販されています。
http:/www.chukobi.co.jp/kikan/index.html


平安時代の丈六木造仏像の調査

 今年度より企画情報部の津田徹英・皿井舞は出光文化福祉財団よりの調査・研究助成を得て、二カ年計画で「秘仏等非公開作例を中心とする近江古代・中世の彫像の調査研究」(研究代表者:津田徹英)をテーマに掲げ、MIHO MUSEUMに中心に構成された滋賀県ゆかりの研究スタッフとともに滋賀県内の重要彫刻作例の調査・研究を行います。その第1回目として4月26日(日)の早朝より夕刻に及んで甲賀市岩根山中の天台宗寺院善水寺観音堂の観音菩薩坐像(像高245.3㎝)の調査を行いました。本像はこれまで存在は一般に知られておらず、移坐に及んでの学術調査も今回がはじめてとのことでした。作風から平安後期の造像が推定されましたが、保存状況も比較的良好でした。このような本格的な大作がまだ人知れず存在しているところに滋賀県の文化財の懐の深さの一端を垣間見たように思いました。


第3回無形民俗文化財研究協議会報告書『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

第3回無形民俗文化財研究協議会報告書
『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

 無形文化遺産部では、毎年テーマを定め、保存会関係者・行政担当者・研究者などが一堂に会して無形の民俗文化財の保護と継承について研究協議する会を開催しています。昨年度は11月20日(木)に、「無形民俗文化財に関わるモノの保護」をテーマとして、当研究所セミナー室にて開催いたしましが、この協議会の内容をまとめた報告書を、平成21年3月に刊行し、関係者・機関に配布いたしました。なおこの報告書は、無形文化遺産部のウェブサイトからPDFファイルでダウンロードすることも可能です。
http://www.tobunken.go.jp/ich/public/kyogikai/mukeikyogikai_03


各務原、豊田市での近代文化遺産の保存と修復に関する現地調査

百々貯木場(矢作川左岸)
足助地区の郡界橋

 保存修復科学センターでは、かかみがはら航空宇宙科学博物館において航空機等、屋外保存されている鉄製文化財の保存環境及び劣化の状況を調査しています。今回は、豊田市において、保存されている百々貯木場、ダルマ窯、明治用水旧頭首工と船通し閘門、伊世賀美隧道、旧郡界橋など、石造から土窯、鉄筋コンクリート造まで多彩な近代化遺産について、その保存状況や保存上の問題点など、現地の担当者を交えて議論してきました。豊田市もトヨタ自動車のお膝元というだけでなく、明治の時代から続く養蚕や、矢作川を利用した材木輸送など、幾つかの近代文化遺産を活用すべく頑張っています。私たちも少しでもお役に立つよう頑張っていく所存です。


世界遺産の管理と保全ワークショップ2009

世界遺産の運営の課題についての視察(平和記念公園)
グループワーク、「世界遺産(模擬)申請書」準備の様子

 国際研修の運営実施についての研究の一環として、2009年4月19日-25日までUNITAR(国連訓練調査研究所)広島オフィス主催の国際研修ワークショップ「平和のための保全 世界遺産の管理と保全に関するシリーズ ―世界遺産インパクトアセスメント―」に参加しました。今年が第6回目の研修には、広島県が資金援助を行い、UNESCO世界遺産センター、ゲティ保存研究所、ICOMOS、IUCN(国際自然保護連合)などが講師を派遣しました。アジア太平洋地域の世界遺産(自然遺産、文化遺産)のマネージメント、行政、研究機関などの関係者を中心に23ケ国から42名が参加しました。
 研修は座学・現地視察・グループワークの3部から構成されています。まず世界遺産(自然遺産・文化遺産)の価値を重視したマネージメントとインパクトアセスメントについての講義を受けた後、広島県所在の世界遺産(原爆ドームと平和記念公園、厳島神社と宮島)の視察を通して、現場の課題を評価しアジア各国の事例に応用・比較する機会を得ました。5つのグループに別れて行ったグループワークは、遺産の価値に対するインパクトアセスメントを重視した世界遺産登録申請書の略式版の作成で、参加者が関係している世界遺産未登録の物件を対象としました。最終日の一般公開ラウンドテーブルでは、ディスカッションを通して参加者と市民が広島の世界遺産の課題について意見を交換しました。
 短い研修期間で最大限の効果をあげるための事前準備の方法、インターラクティヴな講義の進め方、”After Action Review(事後検討会)”という評価方法を盛り込むことの効果など、研修実施運営の方法をはじめ、アジアの世界遺産がもつ課題についても、具体的な情報を得ることができました。


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