研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


7月施設見学

資料閲覧室での説明(7月24日)

 独立行政法人国立文化財機構新任職員 計31名
7月23日及び24日、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会の一環として各日15名及び16名が来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


セインズベリー日本藝術研究所との共同事業のスタート

セインズベリー日本藝術研究所
調印式の様子
© Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures. Photo by Andi Sapey.

 イギリス・ノーフォーク県の県庁所在地ノリッジ(Norwich)にあるセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は1999年に設立され、日本芸術文化研究の一拠点として、国際的研究協力ネットワークを積極的に活用した事業を展開しています。またかつて東京文化財研究所の旧職員・柳澤孝の旧蔵書を同研究所と東京文化財研究所ほかで分割受贈したという縁があり、2010年2月にはSISJACリサ・セインズベリー図書館司書の平野明氏をお招きして研究会を開催するなど、かねてより交流してきましたし、より継続的に連携することを双方で模索してまいりました。
 そしてこのたび「日本芸術研究の基盤形成事業」という共同事業を立ち上げることとなり、2013年7月24日(水)、渡英した亀井伸雄東文研所長と水鳥真美SISJAC統括役所長の間で協定書を取り交わしました。この事業は、これまで東文研が日本国内で発表された日本語文献の情報を収録して公開してきた「美術関係文献データベース」を補完するものとして、SISJACが日本国外で発表された英語文献の情報を収録したデータベースを構築及び公開することにより、日本国内外における日本芸術研究の共通基盤を形成することを目指しています。協定書の有効期間は5年間ですが、基礎的で継続的な本事業の性格から、中長期的な協力関係を築くことが必要であるという認識を共有しています。
 翌25日(木)には亀井所長に同行した企画情報部の田中淳と綿田稔がSISJACのスタッフと事業の具体的な進め方について協議しました。今年度はまず、東文研の手法を参考としながらSISJAC側で情報収集とデータ入力を始め、情報収集の範囲を設定するために、SISJACがルーチンワークとして実行可能な作業とデータの分量を見積もることにしました。次年度以降は、SISJAC側にある程度まで情報がそろったところでデータベースを公開して相互にリンクをはり、次に両方のデータベースに対するより有効な横断検索法を検討して、一般向けのサービスとして公開する予定です。
 なお協定書を取り交わす前日の23日(火)には、イーストアングリア大学(University of East Anglia)のセインズベリー視覚芸術センター(Sainsbury Centre for Visual Arts)所蔵の日本絵画の調査を行いました。本事業では必要に応じて当センターのようなSISJACと連携しているイギリス国内諸機関への協力も順次行っていく予定です。


粗苧製造技術の調査

剥いだ表皮を干しているところ(大分県日田市)

 無形文化遺産部では伝統的工芸技術を支える選定保存技術について情報収集及び調査研究を行っています。今回、重要無形文化財久留米絣を支える粗苧製造技術について無形文化遺産部の菊池が調査を行いました。
 久留米絣は大麻の茎の表皮である「粗苧(あらそう)」を用いて糸に防染を行います。現在、粗苧の材料である大麻は大分県日田市矢幡家で栽培されています。7月は粗苧製造の要である身丈より高くなった大麻を刈り取り、蒸す作業、皮を剥き干す作業行います。人手の必要なこれらの作業を一家族で担うのは簡単なことではありません。そのような中、一昨年度より久留米絣技術保持者会のメンバーも刈り取り等の作業を手伝う体制をとっているそうです。大麻取締法により入手が難しくなった粗苧は以前のように容易に手に入る材料ではなくなってしまいました。今後、このようなケースをどのように保護していくかを様々な立場から考えていく必要があるでしょう。


「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

害虫の脱酸素処理実習の様子

 表題の研修を7月8日より2週間の日程で開催し、全国から30名の学芸員や行政担当者が参加しました。本研修は、講義と実習を通して資料保存に必要な基本知識と方法論を学ぶことを主眼とし、(1)自然科学的基礎に立脚した資料管理と保存環境に関する項目、(2)文化財の種類ごとの劣化要因とその防止対策に関する項目の2つの柱から成るカリキュラム構成で実施しました。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は新宿区立新宿歴史博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した展示室、収蔵庫の温湿度分布、外光の影響、また生物被害管理などの実地調査と評価を行い、後日その結果を発表しました。
 また今回は、東京国立博物館保存修復課の協力を得て、文化財施設における省エネ問題をテーマにしたグループディスカッションを行いました。
 昭和59年度に開始した本研修は今回で30回目となり、通算の受講者は700名を超えました。初期に受講され、資料保存の第一線で尽力された方々からの世代交代が進みつつあります。これから次世代に保存の任務が継承されていく中で、東文研が負うべき役割とはということを意識しながら、これからの研修のあり方も見定めていきたいと考えています。


ブータン王国の伝統的建造物保存に関する拠点交流事業

版築試験体からのコア抜き作業
ユタ・ゴンパ寺院での職人への聞き取り調査

 文化庁の委託による本事業では、ブータンの伝統的建造物、なかでも版築造の民家及び寺院を対象に、伝統的な工法の理解と耐震性・安全性の評価、向上という課題について、同国の内務文化省文化局遺産保存課をカウンターパートとして昨年度より取り組んでいます。建築技術や構造、材料に関する調査、実験を現地側スタッフと共同で行うことにより、研究交流と人材育成に寄与しようとするものです。
 本年度第1回目の現地調査を6月21日から7月3日までの日程で実施し、合計9名の専門家を派遣しました。ティンプー、ウォンデュ・ポダン、パロの各県において、伝統的工法による版築試験体の作製とそれを用いた材料強度試験、寺院・民家及びその廃墟を対象とした実測調査や工法調査、常時微動計測等を行ったほか、一昨年の地震で被災した版築造寺院の修復現場や、版築造住宅の新築現場を訪れ、職人への聞き取りと併せて、文化財保存修復や建築技術の現状に関する情報を収集しました。
 近年、特に首都ティンプーでは、このような伝統的建造物が急速に失われつつありますが、その一方で、祖先から受け継いできた技術を何とか後世に残し伝えたいと願う人々の思いも、今回の調査を通して感じられました。それらを文化遺産として位置付け、適切に保存継承していくために、これからも技術的支援と人的交流を継続していきたいと思います。


ワークショップ「日本の紙本・絹本文化財の保存修復」の開催

基礎編における書の実習
応用編における屏風作製

 本ワークショップは在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として毎年開催しています。本年度は7月3~5日の期間で基礎編「Japanese Paper and Silk Cultural Properties」を、8~12日の期間で応用編「Restoration of Japanese Folding Screen」をベルリン博物館群アジア美術館で行いました。
 基礎編では、制作-表具-展示-鑑賞という、文化財が制作されてから私たちの目に触れるまでの過程に倣い、原材料としての紙・糊・膠・絵具、日本の書画の制作技法、表具文化、取扱いまでの講義、デモンストレーション、実習を行いました。
 応用編では装潢修理技術による屏風の修復に関して、実習を中心にワークショップを行いました。受講者は、何層もの紙から成る屏風の下地や和紙の蝶番を実際に作製し、それらの構造と役割を理解し、屏風修復に要する知識・技術の深さを体感しました。
 本ワークショップを通して、一人でも多くの海外の修復技術者に本場の材料と技術を理解する機会を提供することで、海外にある日本の有形文化財、絵画、書跡と和紙作りや装潢修理技術といった無形文化財の理解を広めていきたいと考えています。


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