研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


セインズベリー日本藝術研究所とのオンライン協議

オンライン協議の様子

 東京文化財研究所では平成25年(2013)よりイギリスのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)との共同研究を推進しています。SISJACは欧州における日本の芸術文化研究の拠点の一つとして活動し、海外で発表された英文による日本の芸術に関する文献や展覧会などの情報を収集し、東京文化財研究所の「総合検索」http://www.tobunken.go.jp/archives/にデータを提供していただいています。SISJACとの連携により「総合検索」から日本国内だけでなく、海外における日本の芸術に関する研究や動向も知ることができます。令和元(2019)年度までは毎年一回、当研究所の職員がノリッジのSISJACを訪問し、データベースについて協議し、講演をおこなってきましたが、今年は新型コロナ感染症感染拡大の影響により、渡航を取り止め、インターネット通信を用いた協議を令和2(2020)年11月26日におこないました。世界的に新型コロナ感染症感染拡大の影響が長期化するなか、いつでもどこでも利用が可能な公開データベースやオープンアクセス資料が、これまで以上に重要性を増しており、より広範な利用者層に提供するための取り組みについて協議しました。東京は午後5時、イギリスは午前8時と、9時間の時差があるなかでのオンライン協議でしたが、参加者が互いに顔を見ながら話し合い、情報共有ができたことは、今後の共同事業を進める上でも有意義な機会になりました。令和3(2021)年度以降の次期中期計画でも、SISJACとの共同研究を継続していく予定です。

美術工芸品の保存修理に用いられる用具・原材料の調査

楮の生産状況調査(茨城・大子町)
稲藁で編んだ表皮台(楮の皮剝ぎに用いる台)
楮の皮を剝ぐ小包丁

 美術工芸品の修理は、伝統的な材料や用具によって支えられています。近年、それらの用具・材料の確保が困難になってきています。天然材料であるため、気候変動や環境の変化により以前と同じようには資源が確保できないこと、また、材料が確保できても高齢化や社会の変化により後継者が途絶えてしまうことなど様々な問題が起きています。例えば手漉き和紙のネリ剤(分散剤・増粘剤)のノリウツギ・トロロアオイ、漉き簀を編む絹糸、木工品などに用いられる砥の粉・地の粉、在来技法で作製した絹などが確保の難しいものとして挙げられます。
 このような状況を危惧して、文化庁では令和2(2020)年度から「美術工芸品保存修理用具・原材料管理等支援事業」を開始しています。美術工芸品の保存修理に必要な用具・原材料を製作・生産する方への経済的な支援事業です。その一方で、その用具・材料がなぜ必要不可欠であるのかを科学的に明らかにすることや、製作工程に関する映像記録、文化財修理における使用記録などが求められます。東京文化財研究所では、平成30(2018)年度から文化庁の依頼により、このような観点から、今後の生産が危惧される用具・材料について調査と協力を行ってきました。令和2年度は茨城のトロロアオイと楮(9月)、長野の在来技法絹(9月)、高知の楮と和紙製作用具(10月)、京都の砥の粉(11月)、をそれぞれ生産されている方々のもとで調査しています。調査の過程で科学的な裏付けが必要とされる場合には適宜、分析などを行い、伝統的な用具・材料の合理性と貴重性を明らかにして、今後の文化財に関する施策に協力しています。

展覧会「日本美術の記録と評価―調査ノートにみる美術史研究のあゆみ―」の開催

東京国立博物館本館14室での展示
展覧会の特設サイト

 東京文化財研究所が所蔵する今泉雄作(1850∼1931)、平子鐸嶺(1877∼1911)および田中一松(1895∼1983)による調査ノートと、 京都工芸繊維大学が所蔵する土居次義(1906〜1991)による調査ノートを中心とした展覧会を、令和2(2020)年7月14日から8月23日まで、東京国立博物館にて開催しました。 田中一松資料・土居次義資料については、平成30(2018年)に開催した「記録された日本美術史―相見香雨・田中一松・土居次義の調査ノート展」(実践女子大学香雪記念美術館・京都工芸繊維大学美術工芸資料館)でも公開しましたが、今回は東京国立博物館に所蔵される実際の絵画作品2点とともに、調査ノートを展示しました。写真を気軽に撮ることができなかった時代、調査の基本は自分の目で作品を見て、情報を手で書き写すことでした。 これらの調査ノートを見ると、研究者がどのように作品に向き合い、記録し、評価に至っているのか、その過程をたどることができます。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、事前予約制での開館でしたが、特別展「きもの」が同時に開催されており、多くの方々にご覧いただきました。展覧会に合わせて特設サイトも制作しました。https://www.tobunken.go.jp/exhibition/202007/
 このウェブサイトは会期終了後も、引き続き公開しています。展示していた箇所の次のページや、調書の書き下し文も見ることができますので、ぜひご覧ください。

資料閲覧室の開室再開

飛沫防止フィルムを設置したカウンターでの資料の受け渡し

 当研究所資料閲覧室は新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)拡大防止のため、令和2(2020)年2月28日から臨時閉室しておりましたが、6月10日より閲覧業務を再開いたしました。感染症対策のため、通常よりも時間を短縮、開室日数を減らしています。事前予約制で、利用者の皆様にはマスクとニトリル手袋を着用の上で、ご利用頂いております。利用者の皆様にはご不便をお掛け致しますが、いまだ感染状況も沈静化していない中、それでも利用者の皆様と職員の安全を確保しつつ、必要なサービスを提供するよう、職員一同、日々努力を重ねております。ご理解・ご協力のほど、よろしくお願い致します。
利用予約については下記をご覧下さい。
https://www.tobunken.go.jp/info/info200605/index.html
また遠隔複写サービスもおこなっております。通常よりも少ない職員で対応しているため、多少時間がかかる場合もありますが、ご自宅からでも必要な資料を取り寄せられます。ぜひご利用下さい。

資料閲覧室の臨時閉室とオープンアクセス資料拡充の推進

東文研OPACの画面
PDFでダウンロードできる明治期の美術展覧会図録

 新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)拡大防止のため、同じ独立行政法人国立文化財機構の他施設と同様に、資料閲覧室は令和2(2020)年2月28日から臨時閉室させて頂いており、ご利用の皆様には多大なご迷惑・ご不便をお掛けしております。政府の緊急事態宣言発令後は、当研究所の多くの職員も自宅待機となっておりますが、学校や職場で研究ができなくなってしまっている方が世界中におられます。
 こうした状況下で、有効に活用できるのが、インターネット公開のデータベースやオープンアクセス資料です。これまでも当研究所では、所蔵資料のデジタル化と広範な利用促進に向けた取り組みを進めて参りましたが、ゲッティ研究所との共同事業により、昨年10月には明治〜昭和初期の美術展覧会カタログ900冊余りをインターネット公開しており、現在は当研究所所蔵の江戸時代の版本およそ730タイトル(1,700冊)のデジタル化、オープンアクセス化を鋭意進めております。江戸時代の版本は今年中にゲッティ・リサーチ・ポータルから検索・閲覧できるようになる予定です。
 ゲッティ研究所との共同事業でデジタル化した資料は、こちらからご覧になれます。
https://opac.tobunken.go.jp/gate?module=top&path=corner/corner.do&method=open&no=1
また『美術研究』、『保存科学』、『無形文化遺産研究報告』、『日本美術年鑑』などは機関リポジトリからご覧頂けます。
https://tobunken.repo.nii.ac.jp
さらに当研究所の多種多様の研究資料は、「東文研総合検索」から検索できます。
http://www.tobunken.go.jp/archives/
より多くの皆様に、いつでもどこからでも無料でご利用頂ける研究資料の提供をこれから推進して参りますので、どうぞご利用下さい。

永青文庫所蔵 重要文化財「洋人奏楽図屏風」デジタルコンテンツの公開

資料閲覧室の専用端末
右隻部分の拡大画像と蛍光エックス線分析結果

 文化財情報資料部では、当研究所で行った美術作品の調査研究について、デジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開しています。このたび永青文庫所蔵の重要文化財「洋人奏楽図屏風」のデジタルコンテンツの公開を開始致しました。永青文庫所蔵「洋人奏楽図屏風」は初期洋風画と呼ばれる日本絵画の一作例で、西洋の人物・風俗・景色などが西洋風の表現技法によって描かれています。この作品は屏風という日本絵画の典型的な画面形式に、通常の日本絵画とは異なる、独特な表現技法が用いられています。このデジタルコンテンツは、平成27(2015)年に東京文化財研究所が刊行した報告書に基づいて作成しました。専用端末で高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光エックス線分析による彩色材料調査の結果などがご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。ご利用に際しては下記をご参照下さい。http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演

協議の様子
講演会の様子Photo by Sainsbury Institute / Andi Sapey

 イギリス・ノーフォークの州都であるノリッチ(Norwich)にあるセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は、欧州における日本の芸術文化研究の拠点のひとつです。このSISJACと東京文化財研究所は、平成25(2013)年より「日本藝術研究の基盤形成事業」として、日本国外で発表された英文による日本芸術関係文献のデータをSISJACから提供いただき、当研究所のウェブサイトで公開するという事業を共同で進めています。そうした事業の一環として、毎年、文化財情報資料部の研究員がノリッチを訪れて、協議と講演をおこなっており、令和元(2019)年度は江村知子、米沢玲の2名が11月20日から23日にかけて滞在し、その任に当たりました。
 協議では、SISJACから提供いただいたデータへのアクセス件数の問題や、全般的なデータ採録における表記やウェブリンクの問題などを協議し、よりよいデータ構築と活用に向けて共同事業を継続していくことを確認しました。
 また、11月21日には、江村がノリッチ大聖堂のウェストン・ルームにおいて「日本絵画にみる四季の表現 The Expression of the Four Seasons in Japanese Paintings」と題した講演をおこない、同研究所のサイモン・ケイナー(Simon Kaner)所長に通訳の労をとっていただきました。この講演は、SISJACが毎月第三木曜日に開催する一般の方向けの月例講演会の一環でもありましたが、今回は150名ほどの参加者があり、講演終了後も活発な質疑応答がおこなわれました。同地における日本美術に対する関心の高さがうかがえました。今後もセインズベリー日本藝術研究所との連携を効果的に進めながら、日本美術の国際発信をおこなっていきたいと思います。

薬師寺所蔵 国宝「吉祥天像」デジタルコンテンツの公開

「吉祥天像」デジタルコンテンツ画面

 文化財情報資料部では、当研究所で行った美術作品の調査研究について、デジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開しています。このたび奈良・薬師寺所蔵の国宝「吉祥天像」のデジタルコンテンツの公開を開始致しました。吉祥天像は、薬師寺において吉祥悔過の本尊として制作されたと考えられる現存最古の画像で、奈良時代の稀少な着色画として知られています。このデジタルコンテンツは、奈良国立博物館と当研究所との共同研究として調査を実施し、平成20(2008)年に刊行した報告書に基づいて作成しました。専用端末で高精細カラー画像、蛍光画像、近赤外線画像、エックス線透過画像、蛍光エックス線分析による彩色材料調査の結果などがご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。ご利用に際しては下記をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

伊藤若冲筆「菜蟲譜」のデジタルコンテンツ作成と公開

「菜蟲譜」デジタルコンテンツ画面
カラー画像と近赤外線画像の比較閲覧画面
部分拡大図

 文化財情報資料部では、当研究所で行った美術作品の調査研究について、デジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開しています。このたび栃木県佐野市立吉澤記念美術館(https://www.city.sano.lg.jp/museum/)所蔵の伊藤若冲筆「菜蟲譜」(重要文化財)のデジタルコンテンツが完成しました。専用端末にて、高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光エックス線分析による彩色材料調査の結果などをご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。「菜蟲譜」は伊藤若冲による、現存唯一の絹本着色の画巻で、約100種の蔬菜・果実と50種余りの昆虫や両生類などが表され、繊細で情趣豊かな表現がよく知られています。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。ご利用に際しては下記をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

田中一松資料と土居次義資料についての研究発表

研究会の様子

 平成31(2019)年1月29日に第8回文化財情報資料部研究会を開催し、以下の2題の発表を行いました。
・江村知子「田中一松の眼と手—田中一松資料、鶴岡在住期の資料および絵画作品調書を中心に」
・多田羅多起子氏(京都造形芸術大学非常勤講師)「近代京都画壇における世代交代のきざし—土居次義氏旧蔵資料を起点に—」
 今回の研究会は、平成30(2018)年5〜8月に実践女子大学香雪記念資料館と京都工芸繊維大学美術工芸資料館で開催された「記録された日本美術史—相見香雨・田中一松・土居次義の調査ノート展」(2018年5月の活動報告参照)に関連するもので、展覧会終了後に見出された資料などについても紹介しました。研究会には所内外から多くの研究者が参加し、様々な角度から活発な議論が行われました。田中一松と土居次義はともに日本美術史の研究基盤を形成した研究者で、多くの著作や業績を残していますが、その研究を支えた調査の記録や集められた資料については、今後さらに研究アーカイブとして整備していく必要があります。種類豊富で膨大な数量のアナログ資料を、デジタルの特性を活かして整理し、より広範な研究に資する文化財アーカイブの構築を目指していきたいと思います。

第8回国際美術図書館会議での発表

発表の様子
アムステルダム国立美術館の美術図書館

 日本および世界中に数多くの図書館がありますが、欧米諸国には、美術に関する図書や資料を専門とする美術図書館があり、2年に一度、国際美術図書館会議が開催されています。平成30(2018)年10月4,5日にオランダのアムステルダム国立美術館で開催された第8回国際美術図書館会議において、「東京文化財研究所の情報発信: OCLCセントラル・インデックスへの日本美術文献の情報提供」The Contribution of the Tokyo National Research Institute for Cultural Properties: Art Bibliography in Japan for OCLC Central Indexと題した口頭発表を行いました。当研究所では、日本国内で行われた美術展覧会の情報や展覧会図録の文献情報を収集しています。昭和5年(1930)以降、平成25(2013)年までの展覧会図録所載文献、約5万件についてOCLCセントラル・インデックスに情報提供を行いました。日本の美術展覧会カタログは、専門性が高いものの、一般的な雑誌論文などに較べてその情報発見の機会が限られていましたが、今回の取り組みにより、世界中のOCLC利用者に、新たな資料発見の機会を提供することができました。この会議は欧米諸国が主体となっていますが、発表後にはアジア地域からのこうした取り組みは、美術図書館の国際連携を強化するために重要であるとの反響が寄せられました。この情報提供は継続的に進めており、最近平成26(2014)年の文献情報、約2800件を追加提供し、さらに今年中に平成27(2015)年の文献についても情報提供を行う予定です。

ゲッティ・リサーチ・ポータルへの東京文化財研究所刊行物の情報提供

ゲッティ・リサーチ・ポータルの検索結果表示画面

 東京文化財研究所ではアメリカのゲッティ研究所と共同研究事業を推進しています。平成29(2017)年5月に、当研究所所蔵の明治期の展覧会目録や美術雑誌のデジタル版をゲッティ・リサーチ・ポータル(GRP)から検索・閲覧できるようになり、アジア諸国からは初めての情報提供元となりました。そしてこのたび当研究所刊行の『美術年鑑』昭和11 (1936) 年版〜平成25(2013)年版の 70冊、『美術研究』1〜419号、『保存科学』1〜57号のデジタル版についても、GRPから検索・閲覧できるようになり、当研究所からの提供タイトル件数は636件を超えました。これらの刊行物は、これまでも当研究所のウェブ・サイト(東文研総合検索 http://www.tobunken.go.jp/archives/、PDF版『保存科学』 http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/cosery_s/consery_s.html)や機関リポジトリ(https://tobunken.repo.nii.ac.jp/)で公開して参りましたが、バーチャル美術図書館として世界中に多くのユーザーを有するGRPから検索・閲覧が可能になったことで、当研究所による文化財研究の成果への海外からのアクセスの可能性を飛躍的に増やしました。さらにこの共同事業の一環として、現在、当研究所所蔵の貴重書である、明治・大正・昭和期の博覧会・展覧会資料のデジタル化を進めており、これらについても2019年6月末までに、GRPに情報を追加する予定です。

展覧会「記録された日本美術史―相見香雨、田中一松、土居次義の調査ノート展―」の開催

展覧会のパンフレット表紙
実践女子大学香雪記念資料館での展示風景

 東京文化財研究所ではかつて当研究所に在籍していた研究職員の資料の収集し、研究アーカイブとして活用しています。このたび実践女子大学香雪記念資料館と京都工芸繊維大学美術工芸資料館の共同主催による展覧会「記録された日本美術史―相見香雨、田中一松、土居次義の調査ノート展―」において、当研究所所蔵の田中一松(1895〜1983)のノート、調書、写真など約70点の資料を初公開致しました。この展覧会では、相見香雨(1874〜1970)・田中一松・土居次義(1906〜91)という、明治から昭和にかけて日本美術史研究をリードした3人の研究者の調査ノート類を一堂に出陳しています。展示を通じて、先人の研究者がどのように作品を見て、記録していくかを追体験するという企画です。田中は幼少期から絵が巧みで、生涯にわたる作品のスケッチの見事さは筆舌に尽くし難く、現在のデジタル全盛の時代でも、手で記録を取ることの重要さを教えてくれます。東京の実践女子大学での展示は平成30(2018)年5月12日から6月16日の32日間に計953人の来場者にご高覧頂き、好評のうちに閉幕致しました。京都工芸繊維大学での展示は平成30年(2018)年6月25日から8月11日の日程で開催されます。

虚空蔵菩薩像・千手観音像(東京国立博物館)の共同研究調査

蛍光X線分析による彩色材料分析

 東京文化財研究所は東京国立博物館と共同で、同館所蔵の仏教絵画作品に関する光学的調査研究を行っています。この共同研究の一環として、平成30(2018)年5月22、23日に、虚空蔵菩薩像及び千手観音像を対象に、高精細カラー画像の分割撮影と蛍光X線分析による彩色材料調査を行いました。平安時代後期の代表的な仏画作品は、特に洗練された美意識と高度に発達した表現技法によって描かれており、その繊細優美な描写は重要な特徴と言えます。これまでの調査研究で、平安仏画の高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光画像などを取得しましたが、さらに今回の蛍光X線分析では、尊像の顔、身体、着衣、装飾品、持物、光背、天蓋、背景など主要な部分の彩色材料を網羅的に調査しました。今回得られた分析結果は、それぞれの作品を理解するために有益であるばかりか、日本美術史研究全体においても重要な指標となります。今後、さらなる調査の実施とその結果の検討を行い、平安仏画の研究資料として公開する準備を進める予定です。

日本絵画作品のデジタルコンテンツ所内公開

デジタルコンテンツ閲覧

 東京文化財研究所では、さまざまな手法で文化財の調査研究を行い、研究成果の公開を行っています。このたび徳川美術館所蔵「源氏物語絵巻」、サントリー美術館所蔵「四季花鳥図屏風」および「泰西王侯騎馬図屏風」のデジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開を開始致しました。専用端末にて、高精細カラー画像、X線画像、近赤外線画像などの各種画像や、蛍光X線分析による彩色材料調査の結果などをご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。現在、上記の3作品のほか、「十一面観音像」(奈良国立博物館)、「彦根屏風」(彦根城博物館)、「本多平八郎姿絵屏風」「歌舞伎図巻」「相応寺屏風」(徳川美術館)、尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(MOA美術館)の全8作品のデジタルコンテンツを公開しています。今後もこうしたデジタルコンテンツを増やし、専門性の高い研究資料を提供していく予定です。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。閲覧室については、利用案内をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

「東京文化財研究所美術文献目録」のOCLCへの提供

WorldCatで検索された展覧会カタログ所載文献の表示画面の例

 東京文化財研究所では美術に関する文献・資料の収集と活用に努めています。世界最大の図書館サービスであるOCLCを通じて国際的に情報発信を行うため、日本での代理店を務める株式会社紀伊國屋書店OCLCセンターと協議を重ねながら事業を推進し、このたび平成30(2018)年1月に世界最大の共同書誌目録データベースであるOCLCのセントラル・インデックスに「東京文化財研究所美術文献目録 (Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, Art Bibliography in Japan)」として、展覧会カタログに掲載されている記事・論文等のデータ約5万件を提供しました。これによって、WorldCat.org(https://www.worldcat.org/)やArt Discovery Group Catalogue (https://artdiscovery.net/)などの検索サービスなどにおいて、美術に関する作家・作品など各種キーワードを入力すると、「東京文化財研究所美術文献目録」も検索対象となり、展覧会カタログ掲載論文に関する書誌データが検索結果として表示されるようになりました。
 書籍や雑誌として刊行されているものは、一般的な検索エンジンや図書館等のデータベースでも検索することができますが、展覧会カタログに収録されている記事・論文は、専門性が極めて高いものの、その存在が広く知られる機会は限られていました。今回提供した情報は、当研究所がその草創期から継続してきた『日本美術年鑑』編さん事業を通して、全国の美術館・博物館から寄贈された展覧会カタログ所載記事・論文のデータを再利用したものです。検索結果からそのままオンラインで全文にアクセスできるような機能はなく、今後の課題はありますが、世界中のインターネット・ユーザーに対して、資料発見の可能性を新たに提供した意義は大きいと考えられます。今回提供した情報は昭和5(1930)年から平成25(2013)年までのものですが、今後も継続的に新たな情報を追加するなど、さらなる情報発信強化を行ってまいりたいと思います。
なお、この成果は、平成28(2016)年より国立西洋美術館と実施している共同事業「美術工芸品を中心とする文化財情報の国内外への発信にかかる基盤形成事業」によるものです。

研究会「キャスリーン・サロモン氏(ゲッティ研究所副所長)講演―日本美術資料の国際情報発信に向けて」の開催

講演風景

 東京文化財研究所は、2016年2月にゲッティ研究所と日本美術の共同研究推進に関する協定書を締結し、両機関における研究者の交流、日本美術に関するデジタル情報のゲッティ・リサーチ・ポータルへの公開などを協働して行なっています。文化財情報資料部では文化庁の受託研究「著名外国人招へいによる日本美術の発信をテーマとした調査研究事業」によってゲッティ研究所副所長のキャスリーン・サロモン氏を招へいし、ご講演頂いたほか、東京文化財研究所、東京国立博物館、東京国立近代美術館、国立西洋美術館、国立新美術館、京都の国際日本文化研究センターなどの美術アーカイブを視察し、協議を行いました。
 12月6日に東京国立博物館黒田記念館で開催した研究会では、サロモン氏にゲッティ研究所と同図書館のこれまでの歩みと現在の世界的な取り組みについてご紹介頂き、美術研究資料の情報発信における最新の国際動向についてご講演頂きました。そして川口雅子氏(国立西洋美術館)に講演についてのコメントを頂き、当研究所副所長の山梨絵美子の司会によって、日本における美術資料の国際情報発信に向けての課題と展望を考える場としてディスカッションを行いました。当日は美術館・博物館のアーカイブ担当者、大学や研究機関の図書館関係者、美術史研究者など、41名の方々にご参加頂きました。この研究会の報告書は、いずれ当研究所ホームページで公開する予定です。

IFLAヴロツワフ大会への参加

IFLA世界大会メイン会場となった百周年ホール
キャスリーン・サロモン氏による発表

 国際図書館連盟(IFLA:The International Federation of Library Associations and Institutions)第83回世界大会がポーランド西部の都市・ヴロツワフにおいて、8月19日~25日の日程で開催されました。IFLAは1927年にスコットランドのエディンバラで設立された図書館の国際組織で、ブルーシールド国際委員会の一部でもあります。本部はオランダのデン・ハーグに置かれ、約140か国・1400団体が加盟しており、毎年1回世界大会が開催されています。国立図書館、大学図書館、公共図書館など様々な種類の図書館やテーマによって、248件のセッション(会合・会議・研究会)が行われました。今回は初めて文化財情報資料部から江村知子が参加し、美術図書館など当所のアーカイブに関連の深い研究会や会議などに出席して、各国の参加者との情報交換、研究交流を行いました。
 8月22日にヴロツワフ建築博物館で開催された美術図書館分科会「美術・建築の探索:美術史研究のオープン・アクセス・ツール」では、オランダ、イタリア、アメリカ、ハンガリーから4人の発表が行われ、美術に関する文献・研究資料をより広く情報共有し、発展的な研究に広げていくための様々な取り組みが報告されました。ゲッティ研究所のキャスリーン・サロモン氏の「美術史のバーチャル図書館:ゲッティ・リサーチ・ポータル」では、今年5月から当研究所がゲッティ・リサーチ・ポータルの情報提供元となり、当研究所所蔵の明治期の雑誌や展覧会目録が搭載されたこと、英語以外の稀観書も広く利用できる仕組みとなっていることが紹介されました。今回の美術図書館分科会や常任委員会には日本やアジアからの参加者は他におられず、美術資料の国際的活動は欧米の関係者によって推進されている印象を受けましたが、世界各国で日本の美術作品や図書資料なども多く所蔵されている現状も知ることができました。あわせて当研究所のアーカイブ機能と国際的な情報発信を強化することによって、より広く研究支援や日本文化の理解促進に貢献できる可能性を認識致しました。専門性を十分に確保しながら、国際的な連携を推進することを今後の課題としたいと思います。

ライプツィヒ民族学博物館(ドイツ)での日本絵画作品調査

ライプツィヒ民族学博物館での調査風景

 日本の古美術品は欧米を中心に海外でも数多く所有されていますが、これらの保存修復の専門家は海外には少なく、適切な処置が行えないため公開に支障を来している作品も多くあります。そこで当研究所では作品の適切な保存・活用を目的として、在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。2017年2月28日から3日の日程で、文化遺産国際協力センターの加藤雅人、江村知子、元喜載の3名がライプツィヒ民族学博物館を訪問し、日本絵画作品9件11点の調査を行いました。
 同館にはヨーロッパ以外の世界中の美術工芸品、民俗資料葯20万点が所蔵されており、その中には日本の絵画作品も含まれていました。明治のお雇い外国人として来日していた医師・ショイベの旧蔵品や、1878年の第3回パリ万博に日本から出陳されたという履歴のある絵画作品など、歴史的価値の高い日本絵画作品と言えます。同館の日本絵画作品はその存在があまり知られていませんでしたが、美術史観点から重要な作品も含まれていました。今回の調査で得られた情報を同館の担当者に提供して、作品の保存管理に活用して頂く予定です。そしてこの調査結果をもとに作品の美術史的評価や修復の緊急性などを考慮し、修復の候補作品を選定、協議し、事業を進めていきます。

ロビー展示「選定保存技術-漆の文化財を守り伝えるために」

ロビー展示風景
漆鉋の製作工程

 当研究所1階エントランスロビーでは、定期的に研究成果や事業紹介を行っています。文化遺産国際協力センターでは平成26年度(2014)より選定保存技術に関する調査研究を進め、それぞれの技術や製作の工程、現状の課題などについて情報収集と写真撮影を行い、その成果公開の一環として、カレンダーや報告書を作成し、広く国内外に向けて情報発信を行ってきました。今回の展示では、漆に関する選定保存技術について取り上げました。かつて漆は日本全国で栽培・採取されていましたが、比較的安価な外国産の漆が増え、現在日本国内に流通している漆のうち、国産漆は数パーセントしかありません。また生活習慣の変化などにより漆の産業全体が低迷し、こうした状況は、漆の文化財の保存修復においても深刻な影響を与えつつあります。しかしながら漆の加飾技法である蒔絵は日本を代表する工芸品であり、国内はもちろん、諸外国の美術館等でも数多くの漆工品が現存しています。漆に関わる保存修復技術を継承していくことは、我が国の責務と言えます。現在、漆掻き用具を製作する技術、漆を採取する技術、漆を精製する技術、漆の使用の際に用いる漆濾紙を製作する技術、漆塗りに使う漆刷毛を製作する技術、そして蒔絵などの加飾や細部に漆を塗るために使われる蒔絵筆を製作する技術などが選定保存技術に選定され、それぞれ選定保存技術保存団体・選定保存技術保持者が認定されています。いずれの技術も高度に専門化された特殊技術で、適切な調査と記録を行って情報発信を行うとともに、技術の伝承など現状の課題についての認識を広める必要があります。この展示を通じて漆工品製作や修復に用いられる技術・材料・道具についての理解を深めて頂けたら幸いです。

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