20世紀初頭の航空機保存修復のための調査

マイクロスコープによる表面の確認
塗装汚れ除去状況の確認
SfM-MVSによる3D形状記録

 近代の文化遺産は、伝統的な素材や技法によって制作された古来の文化遺産と異なり、それを構成する素材・部材やその製作技法自体が明治以降に日本へもたらされた比較的新しい技術により製作されているものも少なくありません。また、大量生産、大量消費を前提に生み出された近代の工業製品には、そもそも長期的な保存が難しいものも多くあります。保存科学研究センター修復技術研究室では、そのような比較的新しい時代の文化遺産を将来にわたってどう保存していくのかといったことを研究テーマの一つとしています。
 令和5(2023)年3月、当研究室では松井屋酒造資料館(岐阜県富加町)で保管、展示されている1910年代の航空機部材の調査を実施しました。この調査は、令和4(2022)年5月に富加町教育委員会や松井屋酒造資料館等と資料を実見し、協議したことを受け、その保存方法や活用の方向性を検討するために実施したものです。
 この部材は、フランス・サルムソン社モデル2複座偵察機(サルムソン2A2)の水平尾翼で、同社の生産ライセンスを得てフランス国内他社が製造したものと考えられています(横川裕一「松井屋酒造場に遺るサルムソン2A2の機体部品について」『航空ファン』2021年12月号)。大正7(1918)年、日本陸軍は第1次世界大戦の終戦間際に同機を30機購入していますが、松井屋酒造資料館にて保管されている部材は、そのうちの1機に由来するものと推定されています。本部材には表裏全体に塗装が認められますが、どうやらこの塗装は1910年代のオリジナル塗装である可能性が高く、そうだとすれば当時の塗装が残っている世界で唯一の部材である可能性も指摘されています(横川、前掲)。
 この度の調査では、保存修復の可能性やその方法を検討するため、部分的に埃を払い、水等を用いて汚れの除去状況を確認しました。修理技術者のご協力もいただき、当初の塗装が広く残っている可能性が高いことを確認するとともに、具体的なクリーニング方法等を検討しました。
 今回の調査により、クリーニング方法の方向性は確認できましたが、実施にあたっては検討しなければならない点も多く残っています。今後も引き続き、松井屋酒造資料館や富加町教育委員会、関係する皆様とも協力し、当該資料の保存について検討を進めていく予定です。

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