「日本美術の記録と評価―美術史家の調査ノート」ウェブ・コンテンツの公開

田中一松資料
日露戦争戯画「筆のまにまに」(田中一松)
土居次義資料

 東京文化財研究所では図書や写真だけでなく、旧職員などの研究者の調査ノートや会議書類なども研究資料として保存活用しています。平成31年度から3年間、実施した基盤研究B「日本美術の記録と評価についての研究―美術作品調書の保存活用」(JSPS科研費JP19H01217)の成果の一部として、東京文化財研究所が所蔵する田中一松(1895–1983)資料と、京都工芸繊維大学附属図書館が所蔵する土居次義(1906–1991)資料のなかから代表的なノート類をウェブサイトで公開しました。
 田中一松資料は、大正12(1923)年から昭和5(1930)年の東京帝国大学の受講ノートや作品調査ノートと、明治38(1905)年から大正3(1914)年にかけての小・中学生時代のスケッチブックなどについて紹介しています。田中一松は幼い頃から絵を描くことを好み、眼で見たものを即時に描き表す修練を積み重ね、その経験はのちの美術史家としての仕事にも活かされていたことがわかります。田中一松は半世紀以上にわたり文化財行政の中枢で活躍し、まさに浴びるように作品を見て、作品の評価を通じて日本絵画史研究を推進しました。
 土居次義資料は、昭和3(1928)年から昭和47(1972)年の間の代表的な調査ノートと、京都帝国大学での受講ノートや昭和22(1947)年の俳句と写生による旅の記録などを紹介しています。土居次義は文献調査に加え、現地調査による作品細部の徹底した観察に基づき画家を判別し、寺伝などで伝承される画家の再検討を行い、近世絵画史研究に画期的な業績を残しました。
 田中と土居の戦前の調査ノートからは、写真が気軽に撮れなかった時代に、いかにして自分が見たものの形や表現を記録するか、その記録の集積から作品の評価につなげていたかがうかがわれ、両者の営みは大正・昭和の美術にまつわる近代資料とも言えます。研究資料としてご利用いただければ幸いです。ただ眺めるだけでも眼を楽しませてくれるようなスケッチもあります。ぜひご覧ください。
https://www.tobunken.go.jp/researchnote/202203/

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