南九州市における近代文化遺産の調査

「疾風」調査の様子
空気質調査の様子
旧知覧飛行場給水塔撮影の様子
旧青戸飛行場トーチカ調査の様子

 令和4(2022)年7月、東京文化財研究所は南九州市と「南九州市指定文化財等の保存修復に関する覚書」を締結し、共同研究に着手していたところですが(https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/995996.html)、令和5(2023)年2月に南九州市にて以下の調査、記録を行いました。

旧日本陸軍四式戦闘機「疾風(はやて)」の保存、修復に関する調査・助言
 知覧特攻平和会館にて保管、展示されている「疾風」(南九州市指定文化財)は、戦時中にフィリピンにて米軍に鹵獲(ろかく)された機体で、現存する唯一の機体と考えられています。米軍によるテスト飛行の後、払い下げとなり、複数の所有者の手を経たのち、昭和48(1973)年に日本へ帰国、日本国内で複数の所有者を経て、平成7(1995)年に知覧町(現・南九州市)の所有となり平成9(1997)年から知覧特攻平和会館にて展示公開されています。
 平成29(2017)年から南九州市による保存状態調査が行われ、平成30(2018)年からは当研究所も調査に加わっています。全体として機体の保存状態は良好ですが、戦後の試験飛行、展示飛行等に伴うと考えられるパーツの消耗や交換も認められることから、オリジナル部材の残存状況の確認、修復方針の検討等を継続して行っています。今回の調査では、主にエンジンを対象とし、オリジナル部材の確認、エンジン内部やオイルタンク内の状況確認等を実施しました。機体から取り外した部材の一部は当研究所でお預かりし、クリーニングや成分分析等を行っています。
 なお、調査は展示室内で行っていますが、調査期間中も当該展示室は閉鎖せず、来館者にも調査風景を見学いただけるようになっています。また、令和4(2022)年3月には保存状態調査の報告書も刊行されています(知覧特攻平和会館編2022『陸軍四式戦闘機「疾風(1446号機)」保存状態調査報告書Ⅰ』 https://www.chiran-tokkou.jp/informations/2022/04/4.html)。

知覧特攻平和会館展示室、収蔵庫の空気質調査
 今回、「疾風」の調査にあわせて、展示室および収蔵庫の空気質調査(有機酸、アルデヒド、揮発性有機化合物[VOC]の調査)を行いました。今後、調査結果をもとに、より安定した展示・収蔵環境を検討する予定です。

南九州市内所在のアジア・太平洋戦争期コンクリート構造物の現状記録
 南九州市内には旧知覧飛行場に関する文化財をはじめ、アジア・太平洋戦争期に作られた多くの遺構〈戦争遺跡〉が残っています。それらの多くはコンクリート製の構造物ですが、終戦から80年近くが経過した現在、劣化が進み、破片の剥落が認められるものも少なくありません。今回、市内の当該期コンクリート構造物として旧知覧飛行場給水塔(市指定文化財)、旧青戸飛行場のトーチカ(防御陣地)2基について、実測、フォトグラメトリ(複数の写真から三次元モデルを作成する技法)による現状記録を行いました。今後、定期的な記録により劣化の進行を分析するとともに、コンクリート強度の測定等も検討いたします。

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