美術工芸品の保存修理に用いられる用具・原材料の調査

楮の生産状況調査(茨城・大子町)
稲藁で編んだ表皮台(楮の皮剝ぎに用いる台)
楮の皮を剝ぐ小包丁

 美術工芸品の修理は、伝統的な材料や用具によって支えられています。近年、それらの用具・材料の確保が困難になってきています。天然材料であるため、気候変動や環境の変化により以前と同じようには資源が確保できないこと、また、材料が確保できても高齢化や社会の変化により後継者が途絶えてしまうことなど様々な問題が起きています。例えば手漉き和紙のネリ剤(分散剤・増粘剤)のノリウツギ・トロロアオイ、漉き簀を編む絹糸、木工品などに用いられる砥の粉・地の粉、在来技法で作製した絹などが確保の難しいものとして挙げられます。
 このような状況を危惧して、文化庁では令和2(2020)年度から「美術工芸品保存修理用具・原材料管理等支援事業」を開始しています。美術工芸品の保存修理に必要な用具・原材料を製作・生産する方への経済的な支援事業です。その一方で、その用具・材料がなぜ必要不可欠であるのかを科学的に明らかにすることや、製作工程に関する映像記録、文化財修理における使用記録などが求められます。東京文化財研究所では、平成30(2018)年度から文化庁の依頼により、このような観点から、今後の生産が危惧される用具・材料について調査と協力を行ってきました。令和2年度は茨城のトロロアオイと楮(9月)、長野の在来技法絹(9月)、高知の楮と和紙製作用具(10月)、京都の砥の粉(11月)、をそれぞれ生産されている方々のもとで調査しています。調査の過程で科学的な裏付けが必要とされる場合には適宜、分析などを行い、伝統的な用具・材料の合理性と貴重性を明らかにして、今後の文化財に関する施策に協力しています。

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