研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


虫糞から文化材害虫を特定する分子生物学的解析

DNAを識別子として文化財害虫の同定を行う方法
建造物から虫糞を採取する様子

 文化財に顕著な物質的損失を引き起こし、その価値を著しく減ずる文化財害虫による被害は文化財保存における普遍性を持った深刻な問題のひとつです。文化財が害虫に蝕まれたときに、少しでも早く発見し対策を講じることはとても重要なことです。しかし、実際の現場では厄介なことに生体は見つからず虫糞だけしか残されていないことが多々あり、これでは専門家であっても加害種の特定が難しいという状況がありました。そこで生物科学研究室では、虫糞から抽出したDNAを識別子として文化財害虫の同定を行う研究を進めています。
 令和3年度の成果として、文化財に多く用いられている竹を加害する主要な害虫について虫糞から種を特定する手法の確立に成功しました。成果の概要は、まず竹材害虫を採集してDNAを抽出して、種固有の塩基配列を決定します。この情報を生物種の外部形態とDNA情報を統合してデータベース化している国際データベースへ登録を行います。そして、実際に竹材害虫の飼育容器や屋外の建造物から採取した虫糞からDNAを抽出して、塩基配列を決定します。この情報を国際データベースと照合して、種の特定を行うという方法です。これまでは虫糞に含まれる僅かなDNAの抽出やそこに含まれる他の生物のDNAの干渉など、塩基配列を決定するまでのプロセスで多くの課題がありました。しかし、「特異的プライマーによるPCR法」によって、ようやく実際の建造物から採取した未知の虫糞を使って、加害種を特定することに成功しました。詳しくは保存科学誌の第61号に掲載されます。
 今後は、多岐にわたる系統の文化財害虫の虫糞から種を特定できるように、特異的プライマーの開発を進めていくとともに、手法の標準化や簡略化など検出システムの基盤を整備して、現場で使いやすい検査方法となることを目指して研究を進めていきたいと考えています。

バガン遺跡(ミャンマー)における技術支援に係る経過状況の把握

良好な状態を保つ保存修復箇所(中・上段部)と、未修復箇所に育った草木

 東京文化財研究所では、ミャンマーのバガン遺跡において同国宗教文化省 考古国立博物館局バガン支局の職員を対象にした煉瓦造寺院の壁画と外壁の保存修復方法に関する技術支援および人材育成事業に取り組んできました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大及びミャンマー情勢の悪化に伴い、現地における活動ができない状況が続いています。そこで、本事業の対象として保存修復を進めてきたMe-taw-ya寺院及びLokahteikpan寺院の状態を把握するため2ヶ月おきにオンライン会議を開催し、現地職員によって撮影された写真を参考に維持管理に係る助言を続けています。
 令和3(2021)年12月19日の会議では、Me-taw-ya寺院の現状について報告があり、活動休止後約2年間が経過した現在も保存修復箇所が良好な状態を保持していることが伝えられました。バガン遺跡では、目地漆喰の補修や寺院の雨漏り対策が繰り返し行われてきましたが、その多くは1年も経たずに修復材料が傷んでしまうという問題に悩まされ続けてきました。2021年は特に雨量が多く、例年にはない甚大な被害が出たとの報告も受けています。
 本事業では、こうした現地専門家が抱える悩みに寄り添い、その対策を講じるべく研究を続けてきました。新しく導入した修復材料は、最も古い施工箇所では5年が経過しています。文化財の保存修復では作業そのものも重要ですが、その後の経過状況を見守ることも重要です。現地での活動ができない今の状況は非常にもどかしいですが、複数年にわたる保存修復の効果を確認できたことは大きな成果といえます。
 1日も早く、現地での活動が再開できることを願いつつ、引き続きできる限りの協力を続けていきたいと思います。

ネパールの被災文化遺産の復旧支援に向けた事前調査

調査開始前のシヴァ寺基壇南東隅部
解体調査によって露出した基壇内部の当初と思われる構造

 平成27(2015)年4月25日にネパールを襲ったマグニチュード7.8の地震により、首都カトマンズを含む広範な地域が被災し、世界遺産を含む多くの文化財も被害を受けました。東京文化財研究所は、文化庁委託事業などを通して同年11月から被災文化遺産の保護に関する調査・支援を続けてきました。今回は、国際協力機構(JICA)からの要請を受けて筆者が派遣され、令和3(2021)年12月5日~17日の間、カトマンズ・ハヌマンドカ王宮内シヴァ寺の基壇の部分的解体調査を行いました。
 シヴァ寺は17世紀建立と伝えられる平面規模5メートル四方程度の重層建物で、上記震災によって上部構造が完全に倒壊しました。当研究所は平成29(2017)年6月にも同寺院の基礎構造を確認するための発掘調査を行いましたが、今回は本格的な復旧に必要となる構造補強検討のための基礎的資料を得るため、残存する煉瓦造の基壇内部の構成および状況確認を目的とした調査を実施しました。
 調査の結果、基壇の上層部や外周部には各種の煉瓦が雑に積まれていて後代の補修時のものと思われるのに対し、下層部および内部には規格の揃った煉瓦が整然と積まれていることがわかりました。これら創建当初と推測される部分は比較的安定した状態を保っており、以前の発掘調査結果とも一致します。
 このほか、上部構造の石材同士の接合部に用いられていた接着剤や、基壇を構成する煉瓦の目地に充填されていたモルタルの成分分析も予定しています。これらの成果が、ネパールの震災復旧支援の一助となり、ひいては現地における歴史的建造物への理解増進に資することを期待しています。

第55回オープンレクチャーの開催

講演風景(小林)
講演風景(安永)

 文化財情報資料部では、毎年秋に広く一般の聴衆を募って、研究者の研究成果を講演する「オープンレクチャー」を開催しています。令和3(2021)年は新たに「かたちを見る、かたちを読む」のテーマのもと行われました。例年2日間にわたって外部講師を交えて開催してきましたが、昨年同様、新型コロナ感染防止の情勢から、内部講師2名による1日のみのプログラムとし、令和3 (2021)年11月5日に、抽選制による30名限定の定員にて、検温、マスク、手指の消毒に配慮して開催いたしました。
 本年は、文化財情報資料部日本東洋美術史研究室長・小林達朗による「皆金色阿弥陀絵像の出現とその意味―転換期の時代思潮の表象」、および主任研究員・安永拓世による「香川・妙法寺の与謝蕪村筆「寒山拾得図襖」―画像資料を活用した復原的研究―」の2講演が行われました。
 小林からは、鎌倉時代の阿弥陀絵像にほどこされた金泥・金箔による皆金色という表現について、時代的思潮の転換、とくに天台本覚思想の出現にともなう阿弥陀への認識とのかかわりを中心とした講演がされました。また、安永からは、香川県丸亀市の妙法寺に伝わる「寒山拾得図襖」(重要文化財)の経年による破損部分について、当研究所がかつて撮影したモノクロ写真および新たに撮影した高精細画像をもちいた復原の試みが紹介されました。
 聴衆へのアンケートの結果、参加者の85パーセントから「満足した」「おおむね満足した」との回答を得ることができました。

世界遺産条約の履行に関する最近の国内外の動向―第6回文化財情報資料部研究会の開催

研究会のまとめ

 世界遺産条約を日本が批准して30年近くが経ちました。令和3(2021)年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」「北海道・北東北の縄文遺跡群」が加わり、日本の世界遺産は現在25件を数えます。令和3(2021)年11月30日の第6回文化財情報資料部研究会では、二神葉子(文化財情報資料部文化財情報研究室長)が、世界遺産の推薦や決定、保護といった、世界遺産条約に基づく最近の国内外での活動について報告しました。
 令和3(2021)年7月に中国・福州及びオンラインで開催された拡大第44回世界遺産委員会では、諮問機関に世界遺産一覧表への記載を勧告されなかった推薦資産の多くが、世界遺産委員会で記載を決議されました。例えば、ハンガリーなどが推薦した「ローマ帝国の国境線:ドナウリメス(西側部分)」は、ハンガリーの脱退で世界遺産委員会直前に資産範囲が大きく変わり、文化遺産の諮問機関であるICOMOSが評価不能としたものの記載が決議されています。ただ、この推薦に関しては、ICOMOSが過去に実施したテーマ別研究の結果と、推薦を受けてICOMOSが行った現地調査に基づく勧告の内容とに齟齬があり、勧告への対応について関係締約国間の調整がつかなかったことがハンガリーから指摘されており、ICOMOSに対する委員国の反発を生んだ可能性もあります。拡大第44回世界遺産委員会に関して、このような世界遺産一覧表への記載推薦に関する問題とともに、推薦書の予備的審査などの改善策も導入されたことを報告しました。
 世界遺産委員会の動きとは別に、国内では令和2(2020)年から、文化審議会世界文化遺産部会による日本の世界遺産の推薦や保護の在り方に関する検討が行われています。この検討内容についても、ウェブ公開されている資料に基づき報告を行いました。
 研究会では、国内における世界遺産推薦や保護に関する活動の課題を中心に議論が行われ、広範な関連情報発信の必要性も感じられる機会となりました。

Art news articlesの公開について

本文末尾の「(Japanese)」にて日本語の記事にリンクしている

 東京文化財研究所では、昭和11(1936)年より日本の美術界の活動を一年ごとにまとめた『日本美術年鑑』を刊行しております。同年鑑は「東京文化財研究所刊行物リポジトリ – 『日本美術年鑑』(リンク1)」から一冊ずつPDFファイルでダウンロードできますが、当研究所のウェブデータベースで掲載された情報を直接検索いただくこともできます。
 さて、同年鑑をもとに構築されたデータベースの一つである「美術界年史(彙報)データベース(リンク2)」は、昭和11(1936)年から現在に至るまでの美術界の動向を主要な展覧会や美術賞、美術館や文化財に関係する出来事から追うことのできる資料の一つです。この度、平成25(2013)年より共同研究を行っているイギリスのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)のご協力を得て、同研究所スタッフの林美和子氏に同データベースの平成25(2013)年、平成26(2014)年、平成27(2015)年分の記事を英語に翻訳いただき「Art news articles(リンク3)」として公開することができました。今後、翻訳の進捗に合わせて随時、データを追加して参ります。
 同データベースの英語訳は、これまでの日本の美術界の歩みを海外に伝える上で大きな助けとなるものです。しかしそれだけではなく新たな情報発信のためのボキャブラリーとしても大いに役立つと考えております。日本語と英語の記事の双方を容易に利用できるよう記事単位でリンクを作成しましたが、訳語の単位でも双方を連携できるような改修を検討しておりますので、継続的にご利用いただければ幸いです。

古典芸能に関わる文化財保存技術の調査―能装束製作―

機にかける経糸を継ぎ調整する(経継ぎ)
様々な緯糸を使い製織する
裁断し仕立てる

 無形文化遺産部では文化財の保存技術について、調査研究を行っています。文化財保存技術のうち、能楽に関するものとして、「能装束製作」について調査を行いました。能楽は舞台で上演されますが、上演に際しては能面や能装束等が必要不可欠です。芸能そのものに加え、それを支える技術も無形の文化財の継承に欠かすことができません。
 「能装束製作」の技術については、令和2年度に佐々木洋次氏(京都府)が国の選定保存技術の保持者に認定されています。佐々木氏は明治30(1897)年に創業した「佐々木能衣装」の4代目として、京都・西陣の伝統的なジャガードと手織り機を用いてオーダーメイドで能装束を製作しています。能装束には様々な形があり、上演される作品に合わせて選ばれる紋様なども多様です。舞台上で映えるよう、煌びやかな意匠が凝らされているものも多く、製作には能楽師からの繊細な要求に応える高い製織技術が求められます。
 今回の調査では、佐々木洋次氏に聞き取り調査を行い、能装束製作の各工程について写真や動画で記録を行いました。その成果の一部を『日本の芸能を支える技』パンフレットの一冊として、今年度刊行することを予定しています。

和泉市久保惣記念美術館での講演とリートベルク美術館のシンポジウムでの発表

2つの展覧会図録
和泉市久保惣記念美術館での講演会
リートベルク美術館でのシンポジウム(YouTubeでの配信画面)

 すぐれた日本東洋の古美術コレクションで知られる和泉市久保惣記念美術館で「土佐派と住吉派 其の二―やまと絵の展開と流派の個性―」展(令和3(2021)年9月12日〜11月7日)が開催されました。この展覧会では桃山時代の土佐光吉から近代に至るまでの、土佐派・住吉派の作品が一堂に会され、それぞれの絵師が守り継いだものと、革新していったものが、浮かび上がる企画となっていました。本展にあわせて10月16日に行われた講演会にて、同館の館長河田昌之氏とともに、文化財情報資料部・江村知子が「海を渡った住吉派絵画—ライプツィヒ民族学博物館蔵「酒呑童子絵巻」を中心に」と題して発表しました。当研究所ですすめている在外日本古美術品保存修復協力事業や、海外に所蔵される日本美術作品について紹介し、天明6(1786)年に制作されたと考えられる住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」について解説しました。この展覧会には住吉廣行の長男の弘尚が、父の作品に倣って制作したと考えられる「酒呑童子絵巻」(根津美術館蔵)が出陳されており、その対照性についても明らかにしました。
 またスイスのリートベルク美術館ではヨーロッパの美術館に所蔵される物語絵画を集めた《Love, Fight, Feast – the World of Japanese Narrative Art》展(令和3(2021)年9月10日〜12月5日)にあわせて10月23日に国際シンポジウムが開催され、江村は《A Great Tale of Exterminating Ogres: Shuten-dōji Handscrolls of GRASSI Museum für Völkerkunde zu Leipzig》と題して基調講演を行いました。この展覧会で住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」が初公開されたこともあり、絵巻全体の内容と作品の特色について明らかにしました。シンポジウムはチューリッヒの会場と、東京、ダブリン(アイルランド)、ニューヨーク(米国)をつないで、オンライン形式で行われ、インターネットで配信されました。
https://www.youtube.com/watch?v=36FC6IOS_o0&t=1160s
 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、参加者全員が同じ場所に集まることはできませんでしたが、多くの研究者と意見交換する貴重な機会となりました。発表で取り上げた住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」については、研究資料として『美術研究』435号に掲載する予定です。

被災文化財(工芸技術)に関する現地調査-珠洲焼―

地震で破損した作品(珠洲市提供)
2022年6月19日石川県能登地方の地震における震度と各工房での被害状況(珠洲焼map及びJ-RISQ地震速報より作成)

 珠洲焼は、12世紀中頃から15世紀末にかけて珠洲市および能都町東部(旧内浦町)で生産されていた陶器です。釉薬を用いずに還元炎焼成されることで灰黒色に発色する特徴があります。昭和51(1976)年に珠洲市や商工会議所の努力で再興事業が始まり、平成元(1989)年には石川県伝統的工芸品に指定されました。現在、珠洲市内では、工房や個人の陶工を合わせて約50名が活動しています。
 令和4(2022)年6月19日に発生した能登半島の地震では、珠洲焼の工房への被害が確認されました。そこで、被害状況とその後の対応について把握するため、無形文化遺産部と文化財防災センターが共同して、現地調査(令和4(2022)年9月6日、10月24~25日)を行いました。現地調査は、珠洲市産業振興課、珠洲市立珠洲焼資料館、珠洲市陶芸センター、珠洲焼の陶工の団体である「創炎会」のご協力のもとで実施しました。
 今回の地震による揺れが特に大きかったのは、正院、直、飯田地区でした。当該地に立地する工房では、作品の破損だけでなく、制作に欠かせない薪窯が毀損する被害が報告されています。地震の翌日、珠洲市産業振興課は全工房と陶工へ電話をかけて被害状況を確認し、被害の様子を写真で記録するように指示しています。その後、「創炎会」篠原敬会長が中心となり、より詳細な被害状況把握のためのアンケートを実施しました。アンケート結果をもとに、珠洲市担当職員は、被害があった工房を訪問し、復旧に必要な情報の把握を行いました。現在、そうした情報を総合し、一部の窯の復旧には石川県の「被災事業者再建支援事業費補助金」への申請が検討されています。
 今回の事例では、陶工同士の横のつながりである「創炎会」というコミュニティの大切さと、有事における迅速な被害状況の把握と記録の重要性を感じました。
 今後も、無形文化遺産部と文化財防災センターでは様々な現地調査を通して工芸技術の防災について考えていきます。

国宝・特別史跡臼杵磨崖仏の保存修復に向けた基礎研究

曝露試験用の接着サンプルの設置
岩壁の水分量を計測するための含水率計の設置

 国宝・特別史跡臼杵磨崖仏は平安時代後期から鎌倉時代にかけて、熔結凝灰岩を掘りくぼめた龕(がん)内に彫刻された磨崖仏群であり、ホキ石仏第1群、ホキ石仏第2群、山王山石仏、古園石仏の四群から構成されています。
 これらの磨崖仏は、龕によって風雨の直接の影響を受けづらい環境ではあるものの、冬期における磨崖仏表面での地下水や雨水の凍結融解を繰り返すことで生じる凍結破砕や、乾燥期の水分の蒸発に伴い析出する塩類による磨崖仏表面の剥離・粒状化によって、一部で磨崖仏の風化が進行していました。風化を防ぐ取り組みとして、覆屋の設置と磨崖仏背面に流れる伏流水の制御のための工事や、風化により生じた剥落片も元の位置に貼り戻す作業が過去に行われ、東京文化財研究所も長らく関わってきた経緯があります。
 このような保存修復を経た臼杵磨崖仏ですが、現在、ホキ石仏第2群の阿弥陀如来坐像の膝付近における表面剥落が再び発生していることから、臼杵市と磨崖仏の保存修復を目的とした共同研究を行うこととなりました。具体的には、新設された覆屋内の温湿度変化および岩壁の含水率を継続して確認する環境調査と、剥落片の強化処置と再接着するための材料の検討を行う予定であり、令和3(2021)年10月18日~19日には計測器と曝露試験用の接着サンプルを設置しました。
 今後は、定期的に計測データの確認と接着サンプルの対候性を観察し、臼杵磨崖仏の適切な保存修復に向けて文化庁、大分県、臼杵市と協議していきます。

創造美育協会の活動とアーカイブ―第5回文化財情報資料部研究会の開催

教室内の島﨑清海 1950年代撮影
創造美育協会を支えた島﨑は、自ら小学校の教師として図画等を教えていました。
研究会発表の様子

 “創造美育協会”という団体をご存知でしょうか。昭和27(1952)年、児童の個性を伸ばす新しい美術教育を目標にかかげて創設された民間団体で、北川民次や瑛九といった美術家、評論家の久保貞次郎がその設立に深く関わりました。その運動は全国に支部を構えるほどに発展し、戦後の日本美術教育の歴史に大きな影響を及ぼしています。
 令和3(2021)年9月24日に開催された文化財情報資料部研究会では、この創造美育協会の本部事務局長を長年務めた美術教育者の島﨑清海(1923–2015)が遺した資料をめぐって、中村茉貴氏(神奈川県立歴史博物館非常勤(会計年度職員)・東京経済大学図書館史料室臨時職員)に「「創造美育協会」の活動記録にみる戦後日本の美術教育-島﨑清海資料を手掛かりに」の題でご発表いただきました。生前の島﨑より聞き取りを行なっていた中村氏は、その没後も遺された膨大な資料の整理と調査に当たってこられました。発表では創造美育協会の活動記録や刊行物、島﨑に宛てられた書簡などの紹介を通して、同協会が美術教育の他、美術家支援、版画の普及、コレクター育成といった面でも大きな役割を果たしたことが示されました。
 発表後のディスカッションでは、茨城大学名誉教授の金子一夫氏より戦後の美術教育における創造美育協会の位置づけについてコメントをいただきました。その後、島﨑清海資料の今後の保存活用をめぐって所内外の出席者の間で意見が交わされましたが、資料を恒久的に伝える受け入れ機関がなかなか見つからないなど、美術教育を対象とするアーカイブの厳しい現状が議論からうかがえました。研究会では実際の資料の数々を中村氏に持参いただき、出席者の方々にご覧いただく機会を設けましたが、この度の研究会がこうした資料群の重要性を再認識する場となったのであれば幸いです。

文化財の記録作成に関するセミナー「文化財保護と記録作成・画像圧縮の原理」の開催

中野慎之氏による講演
今泉祥子氏による講演

 文化財を扱う博物館・美術館や自治体にとって、文字や写真による文化財や収蔵品の記録作成(ドキュメンテーション)は、調査研究・保存活用のための基礎的なデータを取得する活動です。文化財情報資料部文化財情報研究室では、このような文化財の記録作成の手法や、記録を整理・活用するためのデータベース化に関する情報発信を行っています。その一環として令和3(2021)年9月21日、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じたうえで、標記のセミナーを東京文化財研究所セミナー室で開催しました。
 セミナーでは、「文化財保護と記録作成」と題して中野慎之氏(文化庁 文化財第一課 調査官(絵画部門))が、文化財保護にとっての記録の意味や、記録作成の際の留意点について、実例とともに豊富な資料に基づいて講演されました。また、シリーズ「ディジタル画像の圧縮~画像の基本から動画像まで~」の第2回として、今泉祥子氏(千葉大学大学院工学研究院准教授)が、ディジタル画像の圧縮とは何か、どのような処理を行うのか、さらに、JPEGやMPEGといった静止画や動画像の代表的な圧縮方式の基本的な技術について、「画像圧縮の概念と基本技術」のタイトルで講演を行いました。
 新型コロナウイルス感染拡大により文化財にアクセスしづらくなっている現在、文化財の調査研究や鑑賞の機会を確保するための記録作成の意義はますます大きくなっています。私たちは今後も講義形式やハンズオン形式のセミナーを通じて、文化財に関する記録の作成や記録の保存・発信に役立つ情報を発信していきます。

「文化財修復技術者のための科学知識基礎研修」の開催

実験器具の取り扱いに関する講義

 保存科学研究センターでは、文化財の修復に関して科学的な研究を継続してきています。令和3(2021)年度より、これらの研究で得た知見を含めて、文化財修復に必要な科学的な情報を提供する研修を開催することになりました。対象は文化財・博物館資料・図書館資料等の修復の経験のある専門家で、実際の現場経験の豊富な方を念頭に企画されました。
 令和3(2021)年9月29日より10月1日までの三日間で開催し、文化財修復に必須と考えられる基礎的な科学知識について、実習を含めて講義を行いました。文化財修復に必要な基礎化学、接着と接着剤、紙の化学、生物被害への対応などの内容であり、東京文化財研究所の研究員がそれぞれの専門性を活かして講義を担当しました。
定員15名のところ、全国より44名のご応募を頂きましたが、新型コロナ感染拡大の状況を考慮し、対象を東京都内に在住・通勤の方のみと限定し、その中から専門性などを考慮して15名の方にご参加頂きました。
 開催後のアンケートでは、参加者の方達から、非常に有益であったとの評価をいただきました。今後さらに発展的な修復現場に関する科学的情報のご要望もいただき、これらのご意見を踏まえながら今後も同様の研修を継続する予定です。

伊藤延男氏関係資料の受贈

文化財保護委員会時代の伊藤氏(左から3人目、周りは建造物課職員及び修理技術者の各氏とその家族:右端は伊藤氏の前に建造物課長(1966-1971)を務めた日名子元雄氏、その左隣は当研究所の修復技術部長(1988-1990)を務めた伊原恵司氏)

 去る令和3(2021)年9月13日、昭和53(1978)年4月から同62(1987)年3月までの9年間にわたって東京国立文化財研究所の所長を務めた故伊藤延男氏が所蔵されていた文化財保護行政業務等に関する資料一式が、ご子息である伊藤晶男氏から当研究所に寄贈されました。伊藤延男氏は、戦後の文化財保護の発展を牽引した行政技官・建築史研究者で、特に昭和50(1975)年の文化財保護法の改正で新設された伝統的建造物群保存地区の制度設計では文化庁の建造物課長(1971-1977)として中心的な役割を果たしました。また、我が国の文化財建造物の保存理念と修理方法を積極的に海外に向けて発信し、西欧由来の保存概念であるオーセンティシティが国際的に展開するきっかけとなった平成6(1994)年11月の「オーセンティシティに関する奈良会議」を主導するなど文化財保護の国際分野にも大きな足跡を残しています(詳しくは末尾に掲載した記事をご参照ください)。
 今回、受贈した資料は、伊藤氏が業務として携わった文化財保護の行政実務及び国際協力の一次資料を中心に、建築史及び文化財に関する研究活動や民間活動の諸資料、執筆原稿など多岐にわたります。これらは生涯を通じて旺盛であった同氏の活動を通じて蓄積されてきたもので、体系的に収集、整理されたものではないため、現段階では詳細な情報が明らかではないものが多く含まれていることも確かです。しかし、できるだけ早く資料そのものを必要とする研究者等の閲覧に供することが重要との考えから、資料全体を活動内容で大きく分類し、個々の資料の機械的な整理を終えた段階で公開していく予定です。
 受贈資料の中から、若かりし日の伊藤氏が文化財保護委員会事務局建造物課の同僚らとともに写った写真を紹介します。左から3人目が伊藤氏で、同氏の風貌や同封されていた他の写真との関係から、同氏が文化財調査官として現場で活躍していた昭和40(1965)年頃の撮影と思われます。年報や報告書に載るようなかしこまった写真からはなかなか感じ取ることができない、この写真に写る面々の生き生きとした屈託のない笑顔からは、文化財保護行政もまた高度経済成長の右肩上りの時代の空気とともにあったことが伝わってくるようです。

・斎藤英俊:伊藤延男先生のご逝去を悼む,建築史学 66巻,pp.148-159, 2016:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsahj/66/0/66_148/_article/-char/ja/
・伊藤延男,日本美術年鑑 平成28年版,pp.557-558, 2018:https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/809181.html

「国際研修におけるIT技術導入のための実証実験」の実施

実習の様子
サテライト会場の様子

 東京文化財研究所では、日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることを通じて各国における文化財の保護に貢献することを目的として、平成4(1992)年よりICCROM(文化財保存修復研究国際センター)との共催で国際研修「紙の保存と修復」(JPC)を実施してきました。この研修では例年、海外より10名の文化財保存修復専門家を招聘してきましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大の影響により昨年度に続いて本年度も開催中止を余儀なくされました。このような状況を受け、大半が実技実習で構成されるJPCのような研修について、オンライン開催の可能性を探るとともにその実現に向けての課題を明らかにするため、令和3(2021)年9月8日から15日にかけて、「国際研修におけるIT技術導入のための実証実験」を実施しました。
 実験に先立ち9月1日に、紙本文化財の主要な修復材料である「糊」と「紙」の基礎的な知識についての講義を、ライブ配信とオンデマンド配信を併用してオンラインで行いました。実習は、当研究所職員5名を模擬研修生として、対面会場とサテライト会場の2会場で行いました。対面会場に国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師として迎え、サテライト会場とライブ中継しながら紙本文化財を巻子に仕立てるまでの修理作業を実習しました。最終日の意見交換会では、ICT機器を活用する利点が認識された一方、受講生が事前に一定の基礎知識や経験を得ていることの必要性、画面越しでの技術指導の限界、ネットワーク環境や機材に起因するトラブルへの対応の難しさ等、オンラインでの実技実習をめぐる様々な課題点も浮き彫りとなりました。

スタッコ装飾及び塑像に関する研究調査(その2)

平成29(2017)年に修復を終えたミケランジェロ作の塑像 『河の神』 “Dio Fluviale”
17世紀のスタッコ装飾例(サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂)

 文化遺産国際協力センターでは、令和3(2021)年度より、運営費交付金事業「文化遺産の保存修復技術に係る国際的研究」の一環として、スタッコ装飾に関する研究調査を行なっています。令和3(2021)年9月11日には、スタッコ装飾の保存に携わる欧州の専門家に参加いただき、第2回目となる意見交換会を開催しました。
 意見交換では、粘度調整やひび割れ抑制のための工夫として、日本で漆喰壁の需要が高まった江戸時代から調合されるようになった海藻のりや紙スサの利用に注目が集まりました。スタッコ装飾の長い歴史をもつ欧州においても同様に、これまで様々な創意工夫が行われてきましたが、日本とは異なる材料が使われています。このことから、特定の時代において各国や地域で利用されていた添加剤を本研究調査における比較対照項目に追加し、データベース化していくことが決まりました。
 またこれに関連して、様々な添加剤に含まれる成分が、化学的にどのように作用することで効果をもたらすのかという点についても研究を進めていく予定です。制作に用いられた素材やその性質、さらには制作時の技法は、その後の経年劣化や破損の様相にも大いに影響してきます。適切な保存修復方法を導き出すためにも、こうした研究は大変重要だといえます。
 本研究調査はスタッコ装飾に焦点を当てる形でスタートしましたが、その歴史を紐解いていくと塑像とも密接に関係していることがみえてきました。今後は、素材や制作技法に共通性が多くみられるこれらの文化財も視野に入れながら、その適切な保存と継承の方法について考えていきたいと思います。

報告書『タイ所在日本製漆工品に関する調査研究―ワット・ラーチャプラディットの漆扉』の刊行

ワット・ラーチャプラディットの漆扉。上下に伏彩色螺鈿、中央に彩漆蒔絵で装飾されたスギ材が配置されている。
報告書の表紙

 東京文化財研究所は平成4(1992)年から、タイの文化財の保存修復に関する共同研究をタイ文化省芸術局と実施しています。その一環として、タイ・バンコクに所在する王室第一級寺院ワット・ラーチャプラディット(1864年建立)の漆扉について、当該寺院や芸術局などのタイの関係者による修理事業の実施に際して技術的な支援を行ってきました。
 文化財の修理にあたっては、個々の文化財の材料や技法、周辺環境や劣化状態を詳細に調査して方針を決め、進めなければならないことから、それらに関する科学的な調査が不可欠です。ところで、ワット・ラーチャプラディットの漆扉には、19世紀半ばを中心に日本からの輸出漆器に多く用いられた伏彩色螺鈿の技法による、花鳥や山水、和装の人物などの図柄が見られ、日本製であると考えられました。しかし、その確たる証拠はなく、生産地や同様の技法による作品の系譜への位置づけなども不明でした。そこで、科学的な調査や、伏彩色螺鈿及び彩漆蒔絵で表現された図柄に関する調査を、東京文化財研究所内外の様々な分野の専門家が行ったところ、材料の成分や製作技法だけでなく、図柄の表現からも、漆扉が日本で制作された可能性が極めて高いことがわかりました。
 令和3(2021)年3月に刊行した標記の報告書は、これらの研究成果とともに、多分野の専門家による文化財調査の全容をご理解いただける内容となっています。報告書は当研究所の資料閲覧室や公共図書館などでご覧になれますので、お手に取っていただけましたら大変幸いです。

丸亀・妙法寺における与謝蕪村作品の調査・撮影

損傷のある寒山図襖
調査の様子
撮影の様子

 香川県丸亀市にある妙法寺は、江戸時代の画家で俳諧師でもあった与謝蕪村(1716~83)が明和5(1768)年に訪れて、多くの絵画作品を残したことで知られる寺院です。その妙法寺で蕪村が描いた「寒山拾得図襖」(重要文化財)は、現状では寒山の顔の一部が損傷し、失われています。しかし、近年、東京文化財研究所が昭和34(1959)年に妙法寺で撮影したモノクロフィルムに、損傷前の状態が写されていたことがわかり、当初の図様が判明したのです。
 そこで、東京文化財研究所では、この古いモノクロフィルムと、新たに撮影する画像を用いて、損傷した襖絵をデジタル画像で復原するという調査研究を、妙法寺と共同でおこなうこととなりました。
 令和3(2021)年8月24日から28日にかけて、新型コロナウイルスへの十分な感染対策を講じたうえで、この共同研究の調査・撮影のため、城野誠治・江村知子・安永拓世・米沢玲(以上、文化財情報資料部)の4名で妙法寺を訪れました。調査の対象となったのは、「寒山拾得図襖」「蘇鉄図屛風」「山水図屛風」「竹図」「寿老人図」(いずれも蕪村筆)です。全作品ともカラー画像を撮影し、「寒山拾得図襖」「蘇鉄図屛風」「山水図屛風」については赤外線画像も撮影しました。また、「寒山拾得図襖」の復原画像は、最終的に襖に仕立てて本堂に奉安するため、建具制作や文化財修理の専門業者による採寸もおこなわれました。
 モノクロフィルムでしか図様がわからない部分を、いかにカラー変換するかなど課題もありますが、この復原を通して、東京文化財研究所が蓄積してきた画像資料の新たな活用法を探りたいと思います。

キトラ古墳壁画の泥に覆われた部分の調査

蛍光X線分析による調査風景

 主に東京文化財研究所と奈良文化財研究所の研究員で構成される古墳壁画保存対策プロジェクトチームでは、高松塚古墳壁画・キトラ古墳壁画の保存や修復のための調査研究を行っています。高松塚古墳壁画と比べると、キトラ古墳壁画では四神や天文図等に加えて、各側壁に三体ずつ獣頭人身の十二支像が描かれている特徴があります。十二支のうち、子・丑・寅・午・戌・亥の六体の像は存在を確認することができますが、卯・未・酉に該当する箇所は漆喰ごと完全に失われています。そして、残りの辰・巳・申に関しては、該当する箇所の表面が泥に覆われており、これまでのところ、図像の有無は確認できていませんでした。これらの像が描かれている可能性のある3つの壁画片は再構成されておらず、現在は高松塚古墳壁画仮設修理施設にて保管されています。
 辰・巳・申の図像の存在を確認するために、プロジェクトチームの材料調査班と修復班の協働により、平成30(2018)年にX線透過撮影による調査を行ったところ、辰に関しては何らかの図像が描かれているようなX線透過画像が得られたものの、多くの課題が残されました。そこで、令和2(2020)年12月に、辰と申が残存している可能性のある壁画片に対して蛍光X線分析を実施したところ、水銀が検出されたことから、図像の存在の可能性を示すことができました。
 そして、令和3(2021)年8月11日に、巳が残存している可能性のある壁画片に対して蛍光X線分析を実施しました。この調査には、東京文化財研究所・保存科学研究センターの犬塚将英、早川典子、紀芝蓮の3名が参加しました。巳が描かれていると予め予測しておいた位置を中心に縦横2cmの間隔で蛍光X線分析を行いました。その結果、予測した箇所から水銀が検出されたため、巳についても図像の存在の可能性を示すことができました。
 この調査で得られた結果については、令和3(2021)年8月31日に文化庁によって開催された「古墳壁画の保存活用に関する検討会(第29回)」にて報告を行いました。

巳が描かれている可能性のある壁画片のX線透過画像(左)と
検出された水銀の信号強度の分布(右)

文化遺産国際協力コンソーシアムによる「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」の発表

「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」

 アフガニスタン国内における急激な情勢の変化を受け、本研究所が文化庁より事務局運営を受託している文化遺産国際協力コンソーシアムは、令和3(2021)年8月18日付で「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」を発表しました。全文は以下の通りです。コンソーシアムでは引き続き、関係機関との連携を図りながら現地の情報を収集するとともに、文化遺産保護のための協力に尽力していきます。

「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」
政情の急変というアフガニスタンの大きな変革期のなか,同国に所在する歴史的文化遺産,とりわけ遺跡や博物館を標的とする不法な略奪や破壊活動が強く懸念される状況となっています。私どもは,貴重な文化遺産が重大な危機にさらされる可能性に対し,深刻な憂慮の念を抱いています。
 文化遺産国際協力コンソーシアムは,我が国が文化遺産保護分野の国際協力において一層の役割を果たすため,関係機関や専門家の連携を推進することを目的として設立されました。2001年以来,アフガニスタンでの活動は,我が国が取り組んできた文化遺産国際協力の歴史の中でも主要な柱の一つとなっており,これまでアフガニスタンや国際機関などと協力して,同国の文化遺産保護に大きな成果をあげてきました。
 文化遺産は人類の歴史を語る共有の宝であるとともに,国民の統合とアイデンティティーの拠り所として,また地域や国家の発展のためにも重要な役割を果たすことが広く認識されています。文化遺産に対する略奪や破壊を未然に防ぐために,すべての勢力や個人に対し,節度を保った冷静な行動を強く求めます。また,世界の人々とこのような憂慮を共有したいと思います。
 ここに,アフガニスタンの文化遺産を保護するための協力への強い意志を表明するとともに,アフガニスタンのすべての人々の安全と一刻も早い状況の安定化を願ってやみません。

2021年8月18日
文化遺産国際協力コンソーシアム
会長 青柳 正規
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