研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


九重の土砂災害記念碑レプリカ墨入れ式

新宮市役所での墨入れ風景
展示されたレプリカ

 令和2(2020)年12月5日に、九重の土砂災害記念碑レプリカ墨入れ式が新宮市役所で開催されました。新宮市九重地区は、平成23(2011)年に起きた紀伊半島豪雨で被害を受けた地域ですが、この地には江戸時代に起きた同じような土砂災害を記念した石碑が残されています。文政4(1821)年に建てられたこの九重土砂災害記念碑は、かつては藪に覆われていて、碑の表面には様々な汚れが沈着して銘文が読みにくい状態でしたが、東京文化財研究所では、この記念碑を詳細に計測して三次元印刷することで、実際の碑では確認しにくかった文字を読み出すことに貢献していました。今回この三次元印刷された記念碑のレプリカを使って、新宮市役所で住民への防災意識の啓蒙を目的としたイベントが開催されました。イベントでは、色情報のない凹凸情報だけで打ち出されていたレプリカの文字に、九重区の区長、新宮市教育長、碑文の読み出しに関係した研究者、そして一般市民らが順番に墨入れを行っていき、最終的には記念碑の内容が素人目にもわかりやすい状態でレプリカが展示されることになりました。このイベントを通じて、江戸時代に起きていた土砂災害に対して市民が思いを馳せることに貢献し、地域の防災意識を高めることに寄与することができました。

『美術研究』pdf版総目次のインターネット公開

東京文化財研究所刊行物リポジトリの画面

 文化財情報資料部では、研究誌『美術研究』を通じて日ごろの調査研究の成果を公表しています。本誌は昭和7(1932)年に創刊され、現在に至るまで431号が刊行されてきましたが、令和2(2020)年11月から、東京文化財研究所ホームページ内(http://www.tobunken.go.jp/~joho/index.html)および「東京文化財研究所刊行物リポジトリ」(http://id.nii.ac.jp/1440/00008980/)でpdf版「『美術研究』総目次」を公開しました。
 この総目次は、昭和40年(1965)に発行された『美術研究総目録』(230号まで掲載)の続編として作成され、これまで『美術研究』に掲載された論説・図版解説等の2400件以上にのぼる文献を一覧することができます。また日本語版とあわせて英語版を作成したほか、文書内での検索にも対応しており、文献の探索にも幅広くお使いいただけます。
 なお、総目次は今後も新しい号が発刊される都度、随時更新していく予定です。

初期洋風画と幕末洋風画、形を変えた継承-第5回文化財情報資料部研究会の開催

研究会発表の様子

 令和2(2020)年11月24日に開催された第5回文化財情報資料部研究会では、東洋美術学校非常勤講師の武田恵理氏が「初期洋風画と幕末洋風画、形を変えた継承―日本における油彩技術の変遷と歴史的評価の検証―」という題目で発表されました。
 武田氏は長年、日本における油絵の歴史研究と修復に携わっておいでですが、本報告はこれまで行なってこられた作品調査と再現実験による多くの実際的経験をもとに、日本の油彩画を技術的な観点で総括したうえ、近年発見された江戸時代中期の油彩画に注目して歴史的な評価を試みたものです。
 洋画ともよばれる油彩画の存在は、明治初期前後に始まった西洋画研究によって初めて認識されたため、それ以前の油彩画に対するこれまでの歴史的位置付けや評価は適切なものだとは言い難い側面があります。こうした現状を鑑み、武田氏は日本の油彩画史を、飛鳥時代の漆工技法、桃山時代の初期洋風画、オランダの影響による幕末洋風画の3期に分類したうえで、近年確認された漆地に乾性油絵具で描く日光東照宮陽明門の江戸時代中期油彩壁画がキリスト教フランシスコ会の絵師に由来し、技術的に初期洋風画と幕末洋風画とをつなぐものではないかという説を提示されました。
 この研究会では、美術史家として初期洋風画を中心とした研究を長年行ってこられた坂本満氏、また日光の江戸時代社寺における漆装飾修復事業を進められてきた日光社寺文化財保存会の佐藤則武氏にコメンテータとして御参席いただいたほか、この日光東照宮陽明門油彩壁画の実態や日本油彩画史への位置付けをめぐって、参加者からもさまざまな意見が提出され活発な議論が行われました。

セインズベリー日本藝術研究所とのオンライン協議

オンライン協議の様子

 東京文化財研究所では平成25年(2013)よりイギリスのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)との共同研究を推進しています。SISJACは欧州における日本の芸術文化研究の拠点の一つとして活動し、海外で発表された英文による日本の芸術に関する文献や展覧会などの情報を収集し、東京文化財研究所の「総合検索」http://www.tobunken.go.jp/archives/にデータを提供していただいています。SISJACとの連携により「総合検索」から日本国内だけでなく、海外における日本の芸術に関する研究や動向も知ることができます。令和元(2019)年度までは毎年一回、当研究所の職員がノリッジのSISJACを訪問し、データベースについて協議し、講演をおこなってきましたが、今年は新型コロナ感染症感染拡大の影響により、渡航を取り止め、インターネット通信を用いた協議を令和2(2020)年11月26日におこないました。世界的に新型コロナ感染症感染拡大の影響が長期化するなか、いつでもどこでも利用が可能な公開データベースやオープンアクセス資料が、これまで以上に重要性を増しており、より広範な利用者層に提供するための取り組みについて協議しました。東京は午後5時、イギリスは午前8時と、9時間の時差があるなかでのオンライン協議でしたが、参加者が互いに顔を見ながら話し合い、情報共有ができたことは、今後の共同事業を進める上でも有意義な機会になりました。令和3(2021)年度以降の次期中期計画でも、SISJACとの共同研究を継続していく予定です。

アート・ドキュメンテーション学会第13回秋季研究集会での発表

オンライン会議システムでの発表
発表スライドの一部「発展性:GRPへの日本のコンテンツ拡充」

 アート・ドキュメンテーション学会第13回秋季研究集会が令和2(2020)年11月28日に開催され、橘川英規・田村彩子・阿部朋絵・江村知子(以上、文化財情報資料部)・山梨絵美子(副所長)の連名で「葛飾北斎絵入り版本群・織田一磨文庫のオープンアクセス事業-ゲッティ研究所との協同による書誌情報国際発信の実践(古典籍書誌整備と資料保全)」と題して発表を行いました。当日は、研究所庁舎から5名がオンライン会議システムで参加、そのうち橘川・田村の2名が口頭で、この事業で実施した書誌整備とデジタル化に際しての資料保全について報告し、さらにその発展性を提示しました。発展性としては、この事業で構築したゲッティ・リサーチ・ポータル(GRP、http://portal.getty.edu/)への日本美術資料デジタルコンテンツの提供ルートを関連機関にも利用してもらうことで、GRP内に日本美術に関するコンテンツを増やし、その国際的なプレゼンスを高められる可能性について言及しました。同学会は、博物館・美術館資料担当の方が多く所属しており、具体的な資料保全、書誌整備の実践に焦点をあてたこの発表は、資料を取り扱う実務において参考になるということでも好評を得ました。
 新型コロナウイルス感染症拡大防止のために行動制限が設けられるなか、インターネット上における研究環境整備は急務だと認識しております。今後は各機関との連携を拡充していきつつ、日本美術の国際情報発信と、広範な文化財研究に有益な資料提供と環境整備に努めてまいります。
 なお、この発表の要旨はこちら(同研究集会予稿集、http://www.jads.org/news/2020/jads_autumn2020.pdf#page=9)からご覧いただけます。

美術工芸品の保存修理に用いられる用具・原材料の調査

楮の生産状況調査(茨城・大子町)
稲藁で編んだ表皮台(楮の皮剝ぎに用いる台)
楮の皮を剝ぐ小包丁

 美術工芸品の修理は、伝統的な材料や用具によって支えられています。近年、それらの用具・材料の確保が困難になってきています。天然材料であるため、気候変動や環境の変化により以前と同じようには資源が確保できないこと、また、材料が確保できても高齢化や社会の変化により後継者が途絶えてしまうことなど様々な問題が起きています。例えば手漉き和紙のネリ剤(分散剤・増粘剤)のノリウツギ・トロロアオイ、漉き簀を編む絹糸、木工品などに用いられる砥の粉・地の粉、在来技法で作製した絹などが確保の難しいものとして挙げられます。
 このような状況を危惧して、文化庁では令和2(2020)年度から「美術工芸品保存修理用具・原材料管理等支援事業」を開始しています。美術工芸品の保存修理に必要な用具・原材料を製作・生産する方への経済的な支援事業です。その一方で、その用具・材料がなぜ必要不可欠であるのかを科学的に明らかにすることや、製作工程に関する映像記録、文化財修理における使用記録などが求められます。東京文化財研究所では、平成30(2018)年度から文化庁の依頼により、このような観点から、今後の生産が危惧される用具・材料について調査と協力を行ってきました。令和2年度は茨城のトロロアオイと楮(9月)、長野の在来技法絹(9月)、高知の楮と和紙製作用具(10月)、京都の砥の粉(11月)、をそれぞれ生産されている方々のもとで調査しています。調査の過程で科学的な裏付けが必要とされる場合には適宜、分析などを行い、伝統的な用具・材料の合理性と貴重性を明らかにして、今後の文化財に関する施策に協力しています。

オンライン国際研修「3次元写真測量による文化遺産の記録」の実施

オンライン国際研修の様子

 文化遺産国際協力センターでは、ポストコロナ社会における文化遺産国際協力の一手法として、デジタルデータの活用を積極的に取り入れることを念頭におき、令和2(2020)年11月12日および25日に、NPO法人南アジア文化遺産センター(以下、JCSACH)との共催でオンライン国際研修「3次元写真測量による文化遺産の記録」を実施しました。3次元写真測量とは、対象物をデジタルカメラ等で様々な角度から撮影した写真から、対象物の正確な形状の3次元モデルをコンピューター上で作成する技術です。コンパクトデジタルカメラやスマートフォンなど、身近な機材で3次元モデルを作成できるため、文化遺産の現場で実用性の高い記録手法として普及し始めています。今回の研修では、当研究所が協力事業を行っているカンボジア、ネパール、イランの3か国に、JCSACHの協力国であるパキスタンを加えた計4か国を対象として、各国で文化遺産の保護を担う研究者や実務者を研修生に迎えました。
 考古学分野における3次元写真測量の第一人者であるJCSACHの野口淳事務局長が講師を務め、研修生は、第1回目の講義で、3次元写真測量の原理や撮影の方法、ソフトウェアの基礎的な操作を学び、その後、約1週間の自主練習期間中に各自で3次元モデルの作成に取り組みました。第2回目の講義では、研修生がそれぞれ作成したモデルを発表し、さらに、モデルから断面図を作成する方法など、より発展的な内容を学びました。
 ZOOM接続の問題によりイランからの研修生はオンライン参加が叶わず教材提供のみとなりましたが、カンボジア、ネパール、パキスタンの3か国から計24名の研修生が参加しました。3次元写真測量を初めて経験する研修生がほとんどでしたが、講師に熱心に質問する姿が見られ、終了後のアンケートでは、修復現場における遺構の記録あるいは博物館の展示に利用したいといった、それぞれの立場から3次元写真測量データの活用へのアイデアが寄せられました。
3次元写真測量が各国共通の記録手法として定着し、遠隔でも文化遺産の3次元情報を共有することが可能になれば、今後の国際協力事業にも新たな展開が見えてくるのではないかと考えています。

研究会「東南アジアにおける木造建築遺産の保存修理」の開催

研究会「東南アジアにおける木造建築遺産の保存修理」プログラム

 令和2(2020)年11月21日、東南アジア諸国で行われている木造建築の保存修理の方法や理念をテーマとした研究会をオンラインで開催しました。この研究会は、文化遺産国際協力センターが東南アジアの木造建築をテーマに連続で開催してきたもので、今年はその4回目となります。これまでの3回は、歴史学や建築史学、考古学といった学術的な側面から東南アジアにおける木造建築の実像に迫ってきましたが、今回はこのテーマの研究会の締めくくりとして、当研究所が日々の業務で取り組んでいる文化財保護の実務的な側面に焦点をあてました。
 研究会には東南アジアにおける木造建築の保存修理を担う技術者として、タイ王国文化省芸術局建造物課主任建築家のポントーン・ヒエンケオ氏とラオス・ルアンパバーン世界遺産事務所副所長のセントン・ルーヤン氏、また東南アジア地域の文化遺産保護に精通した専門家としてユネスコ ・バンコク事務所文化ユニットのモンティーラー・ウナクーン氏の参加を得ることができました。ポントーン氏からはタイ国内の文化財に指定された寺院建築、セントン氏からはルアンパバーンの町並みを構成する住居建築を事例にして、文化遺産としての木造建築修理の方針や具体的な方法についてそれぞれ報告があり、モンティーラー氏からはインドネシアやタイで近年行われた木造建築の保存修理やこれに関する人材育成の先駆的取組みが紹介されました。
 研究会の後半には、友田正彦文化遺産国際協力センター長の司会のもと、前半の報告者3名に国宝・重要文化財建造物保存修理主任技術者である文化財建造物保存技術協会の中内康雄氏を加えた計5名によるパネルディスカッションが行われました。その中での議論を通じて、木造建築の保存の考え方や修理の仕方には図らずも多くの共通点があることが改めて確認されるとともに、生産者や職人など伝統的な材料や技術を支える人材の不足が、現代社会の中で伝統木造建築が抱える普遍的な課題であることが認識されました。
 今回の研究会は、もともと当研究所セミナー室で開催する予定で準備を進めていましたが、コロナウィルスの感染拡大の収束が見通せない状況に鑑み、ウェビナー形式に切り替えて開催したものです。従来、実地で開催してきた研究会をオンラインで開催することができたのは一つの収穫といえますが、当方の不慣れに加えて想定外のトラブルもあり反省点が数多く残されたことも確かです。これを機にポストコロナ社会に適したあたらしい研究会等イベントのあり方を模索していきたいと思います。

美術雑誌『みづゑ』をめぐる知の発信と活用――第4回文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 現在、文化財情報資料部では所蔵資料のデジタル化、オープンアクセス化を積極的に進めています。https://www.tobunken.go.jp/materials/
katudo/822941.html

 なかでも他の資料に先駆けて2012(平成24)年にウェブ公開を行なったのが、1905(明治38)年創刊の美術雑誌『みづゑ』です。これは当研究所と国立情報学研究所が共同で開発したもので、明治期に刊行された同誌の創刊号から90号までの誌面がウェブ上で見られるようになっています。http://mizue.bookarchive.jp/
 2020(令和2)年10月8日に開催された文化財情報資料部研究会では、『みづゑ』ウェブサイト開発メンバーの一人である丸川雄三氏(国立民族学博物館准教授、当研究所文化財情報資料部客員研究員)に「近代美術研究における関係資料の発信と活用」の題でご発表いただきました。同サイトではすでに記事の執筆者ごとのインデックスが整備されていますが、丸川氏はさらに検索機能を拡張し、インデックスの充実を進めています。インデックスを充実させることで専門化と普遍化の両立を図り、専門の垣根を越えた情報の共有が可能となると丸川氏は指摘し、国内外のさまざまな地域の情報をもたらす『みづゑ』所載の画や文章を例に、美術史の専門家ではなかなか気づきにくいフィールドノートとしての魅力を提示されました。そうした無限の可能性を秘めた知の発信と活用は、おりしも丸川氏が国立民族学博物館で担当の展覧会「知的生産のフロンティア」(2020年9月3日~12月1日)で取り上げた民族学者・梅棹忠夫氏の提唱した“知的生産の技術”にも、時代を超えて通ずるものがある、というコメントも印象的でした。

大分県立埋蔵文化財センター企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」オープニング記念講演会での講演

大分市平和市民公園能楽堂における講演の様子

 豊後国(大分県中南部地域)は安土桃山時代にキリシタン大名として著名な大友宗麟が統治し、フランシスコ・ザビエルを始めとする多くのヨーロッパ人宣教師らが布教を行ったという歴史を持つ土地です。令和2年(2020)年10月10日(土)から12月13日(日)まで、大分県立埋蔵文化財センターにおいて、この地における南蛮文化やキリスト教とのかかわり、また近年大きな成果を上げつつあるさまざまな南蛮遺物の理化学的分析研究結果を紹介する令和2年度企画展「BVNGO NAMBAN―宗麟の愛した南蛮文化―」が開催されました。
 この展覧会では大友氏の拠点都市であった豊後府内遺跡から出土した陶磁器類などの南蛮遺物、そして津久見市が長い年月をかけて収集してきた南蛮漆器や絵画などを中心に、国内各地に所蔵される関連作品によって展示が構成されましたが、文化財情報資料部広領域研究室長の小林公治は同センターからの依頼を受け、10月10日開催のオープニング記念講演会において「キリスト教の布教と南蛮漆器―理化学的分析の検討、メダイ研究との対比から―」と題して、この展覧会の展示内容と相関するキリスト教器物南蛮漆器への最新研究成果に焦点を当てた講演を行いました。
 新型コロナウイルスへの感染リスクを減らすため、当日は着席間隔を大きく空けての会場設営となりましたが、およそ200名もの参加者があり、南蛮文化とキリスト教布教史に対するこの地の深い関心をうかがい知ることができました。

第54回オープンレクチャーの開催

オープンレクチャー講演風景

 文化財情報資料部では、毎年秋に広く一般の聴衆を募って、研究者からその研究の成果を講演する「オープンレクチャー」を開催しています。今年は「かたちからの道、かたちへの道」のテーマのもとでの講演の5年目となります。例年2日間にわたって外部講師を交えて開催してきたところですが、本年の新型コロナ感染防止の情勢から、内部講師2名、1日のみとし、2020(令和2)年10月30日、聴衆の定員も抽選制による30名に限定したうえ、検温、マスク、手指の消毒を徹底して開催しました。
 本年は、文化財情報資料部長兼近・現代視覚芸術研究室長・塩谷純による「近代日本画の”新古典主義“-小林古径の作品を中心に-」、および文化財情報研究室長・二神葉子による「タイに輸出された日本の漆工品-王室第一級寺院ワット・ラーチャプラディットの漆扉を中心に-」の2講演が行われました。
 塩谷からは、昭和戦前期に小林古径に代表される日本画において、洗練された静謐な画風が興ったこと、これらが、日本あるいは中国の古い絵画作品からの影響を受け入れた側面があることを多数のスライドや資料とともに紹介されました。二神からは、1864年、タイ・バンコクにラーマ4世王の命により建立された、ワット・ラーチャプラディットに日本の漆製の扉絵が使用されていることを紹介し、その他日本から輸入された漆製品に関するものも交え、これらについて行われた光学調査の所見を交えつつ講演が行われました。
 聴衆へのアンケートの結果、参加者の9割以上から「満足した」、「おおむね満足した」との回答を得ることができました。

令和2年度保存担当学芸員研修の開催

生物被害対策に関する講義 
文化財の科学調査に関する講義

 令和2(2020)年10月5日から15日の日程で保存担当学芸員研修を開催しました。多くのご応募をいただきましたが、感染症対策のため例年の半数に絞って17名の学芸員等のみなさまに受講いただきました。 昨年度から引き続き独立行政法人国立文化財機構文化財活用センター(以下、ぶんかつ)との共催での研修となり、第一週をぶんかつが担当し、第二週を当所が担当しました。感染症対策として、検温、消毒、「3密」の回避を徹底し、実習は手袋や消毒の利用、受講生それぞれに教材を配布する等の工夫をした上で実施しました。
 ぶんかつが担当した第一週は保存環境の基礎知識について座学形式で講義を行い、文化庁、ぶんかつ、当所の3者が共同で対応している「博物館等でのウイルス除去・消毒作業」に関する指導・助言についての報告も行われました。第二週は保存科学研究センターの各研究室が半日単位で受け持ち、座学や実習を行いました。文化財を保存、修復するための理念や自然科学の基礎知識を応用して現場の課題へ取り組む方法等の幅広い内容についての講義を行い、受講者の方々からは有益であったとの意見をいただきました。最終日には今年10月に発足した文化財防災センターの高妻センター長をお招きして「博物館の防災」についてご講義いただき、ミュージアムが文化財防災に果たす役割について考える貴重な機会となりました。
 令和3(2021)年度も時代のニーズに合ったよりよい研修を提供できるよう努めてまいります。

【シリーズ】無形文化遺産と新型コロナウイルス フォーラム1「伝統芸能と新型コロナウィルス」の開催

観世流シテ方・大槻文藏氏による事例報告(事前収録)
筝曲家・奥田雅楽之一氏による事例報告
シンポジウム

 無形文化遺産部では、新型コロナウイルスが無形文化遺産に与えている影響を調査したり、支援情報や新しい試み、海外の動向などの関連情報を収集したりしています。これらの活動の一環として、このたび令和2(2020)年9月25日にフォーラム1「伝統芸能と新型コロナウィルス」を東京文化財研究所セミナー室で開催しました。
 このフォーラムは、新型コロナウイルスが感染拡大直後より大きな影響を与えている、古典芸能を中心とした伝統芸能に焦点を当てました。フォーラムの前半では、コロナ禍にある伝統芸能への「官」の役割についての講演、当研究所での情報収集・調査にあたる立場からの話題提供を行いました。後半では、「能楽」と「邦楽(三味線音楽、箏曲)」という異なるジャンルから、それぞれ実演家の立場、実演の場を企画制作する立場、実演を支える保存技術の立場での事例紹介があり、これまでなかなか共有されることのなかったコロナ禍の現状を知る機会となりました。続く座談会では、ジャンルや立場を超えて今まさに伝統芸能に必要なものとして「社会化」が話題の中心になり、現状を正確に伝えて支援等に結びつけるにも、根本的な需要拡大を見据えて教育などの普及を推進するにも、伝統芸能の「社会化」への意識が欠かせないとの共通認識に至りました。
 なお、このフォーラムの記録映像は11月3日まで期間限定で無料公開されました。また、年度末には補筆した報告書を刊行し、ウェブ公開する予定です。

大岩山毘沙門天での金剛力士立像の構造調査

エックス線透過撮影による金剛力士立像の調査風景

 栃木県足利市にある大岩山毘沙門天は、京都の鞍馬山・奈良の信貴山とともに日本三大毘沙門天のひとつと言われています。山門には足利市指定文化財「木造 金剛力士立像」が安置されていますが、最近の調査から、経年劣化が進んでいることが懸念されています。特に阿形像に関しては、頭部が前傾している可能性も指摘されてきました。このような事情から、所有者による修復事業の実施が予定されています。
 この修復事業において、まずは金剛力士立像の部材やそれらの接続方法を明らかにする必要がありました。しかし、像高が約2.8mにも及ぶ阿形像と吽形像を山門から移動せずに、その場で調査を実施する必要がありました。このような非破壊調査の依頼を足利市教育委員会を通じて受けて、令和2(2020)年9月9日、10日に、保存科学研究センター・犬塚将英がエックス線透過撮影による内部構造の調査を実施しました。
 調査風景の写真にありますように、金剛力士立像の手前に組まれた足場に、可搬型エックス線発生装置を設置してエックス線の照射を行いました。エックス線透過画像を得るために、イメージングプレート(IP)を使用しましたが、金剛力士立像の背後の限られたスペースにIPを設置する方法については、事前に調査メンバーで検討を重ねました。そして、今回の調査では、現地にIPの現像装置を持ち込んで実施し、エックス線透過画像をその場で確認しながら調査を進めました。
調査で得られたエックス線透過画像から、金剛力士立像の内部構造、及び過去の修復時に用いられた釘等の位置や数等を明らかにすることができました。これらの調査結果は、今後の修復作業の際の参考資料として活用される予定です。

第27回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「コロナ禍における文化遺産国際協力のあり方」の開催

第27回研究会「コロナ禍における文化遺産国際協力のあり方」

 新型コロナウイルスの感染拡大により、文化遺産国際協力の現場も大きな困難に直面しています。コロナ禍において、各プロジェクトがいかに対応しているのかという具体的な情報を共有するとともに、文化遺産国際協力の今後とその可能性について議論するため、文化遺産国際協力コンソーシアムは、令和2(2020)年9月5日にウェビナー「コロナ禍における文化遺産国際協力のあり方」を開催しました。
 「コロナ禍におけるアンコール遺跡の保存事業」と題した一つ目の報告では、現地カンボジアから参加した長岡正哲氏(UNESCOプノンペン事務所)が、コロナ禍で観光客が減少したことでアンコール遺跡周辺の観光業が深刻な打撃を受けている一方、カンボジア政府組織APSARAは、そうした状況を逆手に取り、これまで着手できなかった遺跡周辺の大規模な整備事業や、新たな調査を行っていることを紹介しました。
 二つ目の報告「デジタルツールを利用したリモート国際協力事業の例」の中では、渡部展也氏(中部大学)が、紛争下にあるシリアにおいて破壊の危機に瀕する文化遺産の3Dドキュメンテーション作業を、日本からインターネットを介して、リモートで支援する取り組みを紹介しました。
 關雄二氏(国立民族学博物館)の司会のもと、友田正彦氏(東京文化財研究所)、山内和也氏(帝京大学文化財研究所)が加わったパネルディスカッションでは、オンラインを通じた研修や、デジタルツールを活用したリモートでの調査・保護活動の可能性と限界について議論され、研究会は終了しました。
 コロナ禍でも文化遺産国際協力を前進させようとする各プロジェクトの新たな試みや挑戦、そこで培われた知識や経験を、コロナ後の文化遺産国際協力に生かしていけるよう、コンソーシアムでは、関連する情報の収集・発信に努めていきたいと思います。
 本研究会の詳細については、下記コンソーシアムのURLをご覧ください。
 http://www.jcic-heritage.jp/jcicheritageinformation20201110/

文化財の記録作成とデータベース化に関するハンズオン・セミナー「文化財写真入門―文化財の記録としての写真撮影実践講座」の開催

カメラの持ち方を示す城野専門職員
撮影の手法に関する講義
絵画作品の撮影実習

 文化財を調査し、その記録を作成することは対象への理解を深める手段であり、記録した情報の公開は、多くの方にその文化財を知る機会を提供します。また、その文化財が損傷を受けた際には修理の根拠となるなど、記録作成は文化財の保存や活用に不可欠といえます。このような文化財の記録作成手法の一つである写真撮影に関して、東京文化財研究所は令和2(2020)年8月24日、標記のセミナーを静岡県下田市の上原美術館で開催しました。セミナーには静岡県博物館協会の後援、上原美術館の協力を得て、静岡県内の博物館・美術館、自治体の文化財担当の職員など、11名の方にご参加いただきました。開催にあたり上原美術館では、会場の座席の間隔や換気の確保、関係者への検温など、新型コロナウイルス感染拡大防止に十分な配慮を行っています。
 セミナーは午前・午後の二部構成で、午前は、上原美術館主任学芸員の田島整氏による、寺院の調査での写真撮影の経験についての報告に続き、参加者全員に、日常業務で感じる撮影の課題をお話しいただきました。当研究所からは、文化財情報資料部専門職員の城野誠治が、参加者の質問にお答えしつつ、対象の記録すべき特徴を意識した撮影が重要であることなど、実例を交えて紹介しました。
 午後は、上原美術館所蔵の3点の作品を、各参加者が持参のカメラで撮影しました。その際に城野は、作品の性質を引き出すためのライトの位置や、ホワイトバランスの手動設定による適切な色の記録など、撮影方法について機器を操作しながら説明し、田島氏をはじめとした上原美術館の学芸員の皆様も、作品調査の手法に関する解説を行うなど、実践的な実習となりました。
 このセミナーに対しては、有意義であったとの感想を参加者の皆様からいただきましたが、当研究所にとっても、写真撮影に関する課題を直接伺う貴重な機会となりました。また、上原美術館の皆様には、企画・運営に関して多大なご支援を賜りました。関係の皆様に深く感謝するとともに、今回の経験を踏まえ、ハンズオン・セミナーをよりよいものにしていきたいと思います。

展覧会「日本美術の記録と評価―調査ノートにみる美術史研究のあゆみ―」の開催

東京国立博物館本館14室での展示
展覧会の特設サイト

 東京文化財研究所が所蔵する今泉雄作(1850∼1931)、平子鐸嶺(1877∼1911)および田中一松(1895∼1983)による調査ノートと、 京都工芸繊維大学が所蔵する土居次義(1906〜1991)による調査ノートを中心とした展覧会を、令和2(2020)年7月14日から8月23日まで、東京国立博物館にて開催しました。 田中一松資料・土居次義資料については、平成30(2018年)に開催した「記録された日本美術史―相見香雨・田中一松・土居次義の調査ノート展」(実践女子大学香雪記念美術館・京都工芸繊維大学美術工芸資料館)でも公開しましたが、今回は東京国立博物館に所蔵される実際の絵画作品2点とともに、調査ノートを展示しました。写真を気軽に撮ることができなかった時代、調査の基本は自分の目で作品を見て、情報を手で書き写すことでした。 これらの調査ノートを見ると、研究者がどのように作品に向き合い、記録し、評価に至っているのか、その過程をたどることができます。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、事前予約制での開館でしたが、特別展「きもの」が同時に開催されており、多くの方々にご覧いただきました。展覧会に合わせて特設サイトも制作しました。https://www.tobunken.go.jp/exhibition/202007/
 このウェブサイトは会期終了後も、引き続き公開しています。展示していた箇所の次のページや、調書の書き下し文も見ることができますので、ぜひご覧ください。

第3回文化財情報資料部研究会の開催

研究会風景
矢代幸雄著『サンドロ・ボッティチェリ』中のデュヴィーン所蔵「男性肖像」図版ページ

 文化財情報資料部の令和2年度第3回目の研究会が令和2(2020)年8月25日に行われ、「ゲッティ研究所が所蔵する矢代幸雄と画商ジョセフ・デュヴィーンの往復書簡」と題して、山梨絵美子が発表しました。
 東京文化財研究所の前身である帝国美術院付属美術研究所の設立に深くかかわった矢代幸雄(1890-1975)は、1921年から25年までヨーロッパに留学し、ルネサンス美術研究者バーナード・ベレンソン(1865-1959)に師事して英文の大著『Sandro Botticelli』(メディチ・ソサエティー 1925年)を刊行しました。ベレンソンはルネサンス絵画研究の大家としてフィレンツェ郊外にある広い庭園付きのヴィラ・イタッティに住んでいましたが、その経済的成功は画商ジョセフ・デュヴィーン(英国籍 1869-1939)との契約によるものであったとされています。デュヴィーンはニューヨーク、パリ、ロンドンに店舗を持って、ヘンリー・クレイ・フリック(1849-1919)、ジョン・ロックフェラー(1839-1937)など、アメリカの富豪のヨーロッパの古典絵画コレクション形成に寄与したほか、英国ではテート・ギャラリーにデュヴィーン・ウィングを設立しています。
 本発表では、ゲッティ研究所が所蔵するデュヴィーンと矢代の往復書簡を読み解き、ベレンソンの弟子としてボッティチェリに関する著作を為すに当たり、矢代がデュヴィーン画廊を訪れて作品を調査し、それらについての意見を書き送っていることや、デュヴィーンが1920年代半ばにヨーロッパの古典絵画市場として日本に興味を持ち、矢代に仲介を期待したことなどを明らかにしました。美術史家矢代に関する新資料紹介の場となっただけでなく、日本における西洋絵画蒐集の歴史についても考える機会となりました。

無形文化遺産部における新型コロナウイルス禍への対応

「新型コロナウイルスと無形文化遺産」のウェブサイト

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、国内外における無形文化遺産の保護に対しても深刻な影響を与え続けています。
 例えば古典芸能の分野においては、公演が中止・延期されたり、再開となっても客席数を減らしての公演となったりすることを余儀なくされています。また古典芸能を支える楽器や衣装などの道具の生産も、その需要の減少に伴って深刻な影響を被っています。工芸技術の分野でも、作品を発表する場である展覧会の開催に制限が課せられたり、販売の機会や場所が限られたりするという影響がみられます。さらにはこうした古典芸能や工芸技術は、対面による稽古や技術伝授によって次世代に伝えられることが多いのですが、その機会も大きく制限されています。
 また地域で伝承されている民俗芸能や風俗慣習、民俗技術に関しても深刻な影響が現れています。こうした無形の民俗文化財に関しては、すでにこれまで地方における高齢化や人口減少により存続が難しくなっているものが多くありましたが、今回の新型コロナウイルス禍がそれに拍車をかけ、少なくない数のものが廃絶してしまう可能性が危惧されています。
 さらには国際的には、医療体制や衛生環境において課題のある国や地域の民族によって伝承されている無形の文化遺産が存続の危機に瀕していることが懸念されています。
 新型コロナウイルス禍による影響は有形・無形の文化遺産に広くおよんでいますが、とりわけ無形の文化遺産をはじめとするリビング・ヘリテージ(生きている遺産)への影響が深刻であると私たちは考えています。なぜなら、これらの遺産は生きている人間の活動によって支えられていますが、新型コロナウイルス禍はその人間の活動を大きく制限するものだからです。
 当研究所無形文化遺産部では、国内外における、新型コロナウイルスによる無形文化遺産への影響について、令和2(2020)年4月より広く情報収集をおこなっています。その中には、公演・展示・祭礼などの中止・延期情報および再開情報、国・地方公共団体・民間団体などによる支援(給付金・助成金など)の情報、オンラインによる公演や展示の配信・公開などの新たな試みに関する情報、各国における状況やユネスコなどの国際機関による取り組みに関する情報、などが含まれます。
 また収集した情報のうちの一部に関しては、情報発信にも取り組んでいます。まず当研究所無形文化遺産部のウェブサイト上に「新型コロナウイルスと無形文化遺産」(https://www.tobunken.go.jp/ich/vscovid19)のページを立ち上げ、ここでは国・地方公共団体・民間団体などによる支援情報の提供をおこなうとともに、伝統芸能における新型コロナウイルス禍の影響について、関連事業の延期・中止/再開に関する統計情報の分析結果の公開をおこなっています。また当研究所Facebook内にグループ「新型コロナウイルスと無形文化遺産」(https://www.facebook.com/groups/3078551232201858)を立ち上げ、ここでも支援情報の提供をおこなうとともに、新たな試みに関する情報や、国際的な動向に関する情報についても紹介しています。Facebookのアカウントを持っている人は、グループのメンバーに参加すると定期的に情報を受け取れるようになります。またFacebookアカウントを持っていれば、メンバーにならなくても記事を閲覧することは可能です。
 さらにフォーラムの開催を通じた情報発信にも取り組んでいます。9月には「シリーズ 新型コロナウイルスと無形文化遺産 フォーラム1『伝統芸能と新型コロナウイルス』」を開催し、12月には「フォーラム2『新型コロナ禍の無形民俗文化財(仮)』」を開催する予定です。感染症防止の観点から、参加者を限定し、一部の発表者には録画やリモート収録で参加してもらうという形をとらざるを得ないのですが、フォーラムの動画は一定期間、オンラインで公開する予定です。これらのフォーラムの詳細については、改めて活動報告の場でお伝えしたいと思います。
 新型コロナウイルス禍の状況は刻一刻と変化し、現時点においてもすでに以前の情報を入手しにくくなってきています。そのため継続的に情報収集をおこない、またウェブサイトやフォーラムなどで公開していない情報なども含めてデータは総合的に分析し、無形文化遺産の保護に資するものとして活用できるようにしたいと考えています。

文化財害虫の検出に役立つ新しい技術開発に向けた基礎研究

現地調査の様子
DNA塩基配列解析の様子

 保存科学研究センター生物科学研究室では、文化財害虫の検出に役立つ新しい技術、DNA解析を応用した害虫同定手法に関する基礎研究を進めています。文化財害虫の種類の特定には、一般的に害虫の外部形態の特徴から図鑑や専門書に記載されている情報と比較検討を行い種の同定をします。しかし、外部形態が類似する害虫では、種類の特定が困難であり、解剖を行って体の細部の比較によって同定を行うなど専門知識が必要となることがあります。また、害虫の体の一部しか得ることが出来ないという状況も多々あります。そこで文化財害虫のDNAの特定領域を解析して、文化財害虫に特化した独自の塩基配列情報のデータベースを作り、未知試料のDNAから種類の特定を行う「DNAバーコーディング」手法の応用を試みています。
 令和2(2020)年8月6日から7日にかけて栃木県日光市にある二社一寺の歴史的木造建造物において、データベースに登録されていない数種のシバンムシを捕獲するため、現地調査を行いました。現地調査では、目的とするシバンムシを捕獲する有効なトラップが無いため、被害の認められる木造建物を隈なく探していくという地道な調査を行いました。その結果、複数種のシバンムシを捕獲することが出来ました。
 今回の現地調査で得られた個体を含め、現在までにおよそ40種の主要な文化財害虫のDNA塩基配列を決定しデータベース化を進めています。その中には公共のデータベースには登録されていない種も多数含まれており、文化財害虫に特化したデータベースの構築はとても重要であると言えます。
 今後は、害虫の脚や翅といった体の一部から種を同定する方法や被害部分に残された脱皮殻や虫糞からDNAを抽出して、文化財を加害した「犯人」を特定する方法について技術開発を進めたいと考えています。

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