研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
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国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」2022の開催

実習風景

 『国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」』は、平成24(2012)年度よりICCROM(文化財保存修復研究国際センター)とCNCPC-INAH(国立人類学歴史機構 国立文化遺産保存修復調整機関、メキシコシティ)との3者共催でCNCPCにて実施しています。令和4(2022)年度は11月9日から22日にかけて、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、スペイン、チリ、ブラジル、ペルー、メキシコの8カ国から計9名の文化財保存修復専門家を研修生として迎え、開催しました。
 東京文化財研究所が前半の5日間(9日から14日)を、後半の5日間(16日から22日)はCNCPCが担当しました。日本の紙保存技術の基礎をテーマとした前半では、技術の保護制度に関する解説から始まり、道具材料など材料学、国の選定保存技術「装潢修理技術」の基本的な情報までを講義形式でまず紹介しました。また、これに続く実習では、装潢修理技術のうち海外文化財にも適応性が高い技術や知識を、裏打ちなどの作業を通して伝えました。後半はラテンアメリカにおける和紙の応用をテーマとして、材料の選定方法から洋紙修復へのアプローチ手法までを、メキシコやスペインの専門家らが教授しました。
 新型コロナウイルス感染症の拡大以降初の対面開催でしたが、参加者の協力のもと基本的な感染対策を徹底し、無事に研修を終えることができました。本研修を通じて参加者が日本の伝統技術のエッセンスを掴み、自国の文化財保護へと役立てていくことを期待しています。

国際研修「紙の保存と修復」評価セミナー2022の開催

シンポジウムの様子

 東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)は、平成4(1992)年度より国際研修「紙の保存と修復」(JPC)を共催しています。各国の文化財保護への和紙のさらなる活用をめざし、海外より専門家を招いて、和紙の製造工程から修復技術までを体系的に学ぶ機会を提供してきました。
 本年度は、9月5、6、7、12日の全4日間にわたりオンラインで評価セミナーを開催しました。修了生から発表を募り、JPCで学んだ知識や技術の活用実態を把握しました。このような振り返りは、本事業としては2回目となります。
 発表では、裏打ち技術を使っての建築関係資料の修復や、和紙の手漉きから着想を得たイランやマレーシアでの紙漉きワークショップなど、JPCを端緒として各国の事情に合わせた研究や応用が進んでいることがうかがえました。また、講師の指導や日本の工房見学を通じて欧米とは異なる文化財修復へのアプローチに触れ、自身の修復作業に対する考え方や姿勢に影響があったとの報告もありました。研修内容のみならず、JPCのコンセプトや、実践に重きを置いた技術移転のカリキュラムや教授法なども高く評価されており、その後の学生指導や工房での後人育成に方法論の面でも貢献していることがわかりました。最終日のシンポジウムでは、発表内容を確認したほか、和紙や道具の流通をめぐる問題点を共有しました。
 修了生にとってJPCは文化財の保存修復に関わる者としての人生を変える経験だったと総括することができ、当研究所が今後も本研修を継続していくことの意義を再認識させられました。

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