研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


アルメニア歴史博物館所蔵考古金属資料の保存修復ワークショップ開催

国際セミナーにおける日本人専門家の発表

 文化遺産国際協力センターでは、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、アルメニア歴史博物館にて、1月15日~21日に第3回国際ワークショップを、1月24日~25日に第5回国内ワークショップを開催しました。
 国際ワークショップでは、15日と16日の2日間、国際セミナーを開催し、アルメニア国内専門家のほか、日本、グルジア、イラク、カザフスタン、キルギズスタン、ロシアの6カ国から7名の金属資料保存に関する専門家をアルメニアに招聘し、さらに、アルメニアの考古金属資料の調査研究を行っているアルメニア人考古学者らを招き、「予防保存」をテーマに議論しました。アルメニアの金属文化財に関する研究や、自国の博物館や予防保存の状況を発表しあうことで、情報交換と広域ネットワーク構築に貢献しました。引き続き21日までの3日間、アルメニア国内専門家7名、グルジア、イラク、カザフスタン、キルギズスタン、ロシアの5カ国からの6名の専門家を対象に、日本人専門家が講義と実習を実施し、博物館における環境制御、IPM(総合的有害生物管理)、展示収蔵のための材料試験法について学びました。
 また、アルメニア国内専門家を対象とした国内ワークショップには7名が参加し、これまでのワークショップにおいて保存修復処置を終えた金属資料について、展示計画を策定し、展示の準備を開始しました。
 次回は博物館における展示をテーマとしたワークショップを開催し、実際に展示を行うことで、これまでの成果を発表する予定です。

アルメニア国立美術館所蔵「名区小景」の調査

「名区小景」(アルメニア国立美術館)
『名区小景』部分(名古屋市博物館)

 東京文化財研究所では、海外に渡った日本美術作品の調査を継続的に行っていますが、黒海とカスピ海の間にひろがるコーカサス地方に日本美術作品が所蔵されていることは、最近までほとんど知られていませんでした。文化遺産国際協力センターでは2012年11月にアルメニアとグルジアにおいて調査を実施し、日本美術作品の所在を確認しました。さらに詳細な調査が必要であると判断されたため、文化財保護・芸術研究助成財団の助成を得て、2014年1月15日から3日間の日程で名古屋市博物館学芸員の津田卓子氏に浮世絵についての協力を仰ぎ、調査を行いました。アルメニア国立美術館の「名区小景」(以下アルメニア本)は、各縦8.1㎝、横11.8㎝の画面で、29枚が所蔵されています。津田卓子氏のご教示により、アルメニア本は弘化4年(1847)に刊行された版本『名区小景』初編の挿図が元になっていることが明らかになっています。『名区小景』は尾張藩士で絵をよくした小田切春江(おだぎりしゅんこう)によるもので、企画から作画、出版まで手がけたものです。内容は名古屋近郊の景勝地にまつわる漢詩・和歌・俳諧を各地から募って自らの絵とともに編集されたもので、巻末には掲載された歌の作者の人名録を載せています。名古屋市博物館所蔵の『名区小景』と比較すると、アルメニア本は画面の上部に各名所の解説を加えて版を改めた改刻版と考えられます。アルメニア本は、1937年に個人の所有者から国立美術館が購入したと伝えられていますが、その作品名・作者・年代など作品に関する情報がわからないままに所蔵されていました。どのような経緯でこうした名所絵版画がアルメニアの地に渡ったのか、日本美術作品の海外における受容という点でも興味深い問題と言えます。この調査の内容は報告書にまとめ、今後の研究の進展に寄与したいと思います。

カンボジア・タネイ遺跡での第4回建築測量研修

写真測量標定点のTS計測
ソフトウェアを用いた3Dモデルの作成

 1月17日から24日までのおよそ1週間にわたり、カンボジア・アンコール遺跡群内のタネイ遺跡を対象とした第4回の建築測量研修を実施しました。昨年度から始めた本研修は、今回で最終回となり、アプサラ機構、プレア・ヴィヒア機構、及びJASA(日本国政府アンコール遺跡救済チームJSAとアプサラ機構との合同チーム)から、建築学・考古学を専門とする若手スタッフが計9名、研修生として参加しました。
 今回のテーマは、境内の主要樹木の計測、及び写真測量であり、第1回からの研修を通して作成してきた遺跡平面図の完成と同時に、今後のリスクマップ作成や保存管理計画策定に向けた準備として、遺跡を構成する様々な要素の記録と管理のための新たな手法を学びました。トータルステーションと写真測量専用のソフトウェアを用いて、彫刻を伴う壁面や散乱石材の3次元記録を行うとともに、これらを今後、どのように遺跡管理に応用していくかという課題を全員で議論しました。最終日には各人がそれぞれの成果を発表し、2年間にわたる研修の修了証が手渡され、研修生たちに笑顔が溢れました。
 数あるアンコールの遺跡群内の中で、タネイ遺跡は、これまでほぼ手つかずの状態で残されてきた貴重な場所であると同時に、その保存管理のためには、多くの課題が未だ残されています。本研修は、カンボジア人遺跡管理スタッフに基本的な測量技術を移転すると同時に、彼ら自身の手で、遺跡を後世に護り伝えていくことを支援するための、最初のステップと位置付けています。建築測量研修はこれで終了となりますが、さらに今後も技術的支援・研究交流を継続していく予定です。

第35回観世寿夫記念法政大学能楽賞の受賞について

 2013年12月7日、無形文化遺産部高桑いづみ無形文化財研究室長の観世寿夫記念法政大学能楽賞受賞が決定しました。
 今回の受賞は、多年にわたり能楽の音楽的研究を重ね、あらゆる分野で能楽の音楽的研究を牽引する活動や、研究成果が実演の場と深くつながり、研究成果が社会への還元に大きな成果を挙げている点が評価されたことによるものです。
 観世寿夫記念法政大学能楽賞は、法政大学が観世流の能役者、観世寿夫氏の能界劇界における業績を記念して、顕著な業績や舞台成果を示した研究者・評論家・能役者、能楽の普及に貢献した個人・団体に贈呈するものです。

寄附金の受入

東京美術商協同組合中村理事長(左)と亀井所長(右)
(株)東京美術倶楽部三谷社長(左)と亀井所長(右)

 東京美術商協同組合(中村純理事長)より東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を、また、株式会社東京美術倶楽部(三谷忠彦代表取締役社長)より東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附のお申し出があり、12月24日に東京美術商協同組合において、ありがたく拝受いたしました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変ありがたいことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

月ヶ瀬奈良晒保存会における調査

経糸を機にかけるところ
緯糸となるへそ糸を巻く道具

 無形文化遺産部では伝統的工芸技術について情報収集及び調査研究を行っています。今回、月ヶ瀬奈良晒保存会の活動について無形文化遺産部の菊池が調査を行いました。
 晒とは本来「漂白する」ことを表し、漂白した麻布や綿布も「晒」と呼ばれています。。
 奈良晒は麻を原材料とした織物で『和漢三才図会』(正徳2(1712)年)や『萬金産業袋』(享保17(1732)年)にも記された奈良の「名物」です。これらの記述には「麻の最上というは南都なり」と記され、当代全国的名声を博していた様子が窺えます。それと同時に他地域より原材料である麻を仕入れていると判断できる記述も見られ、当時の分業体制の一端を垣間見ることができます。
 その時代より脈々と受け継がれてきた技術は現在でも月ヶ瀬奈良晒保存会の会員により伝承されています。現在、奈良晒の原材料は群馬県岩島地域の大麻を使用して製作されています。他地域に原材料を求める構造は同じ麻織物である越後上布にも見られるものです。染織技術が一部の地域の技術で完結するのでなく、多くの人々に支えられていることは技術伝承と引き離して考えることはできません。技の伝承に不可欠な材料や道具の背景にも我々はもっと眼をむけるべきでしょう。
 本調査を通じて、伝統的な技術を存続していくためのコミュニティの重要性について改めて考えるきっかけとなりました。

無形文化遺産の保護に関する第8回政府間委員会への参加

開催地バクーの風景
政府間委員会での審議の様子

 無形文化遺産の保護に関する第8回政府間委員会は、2013年12月2日から7日にアゼルバイジャンのバクーで開催されました。東京文化財研究所からは3名が参加してユネスコの無形文化遺産の保護に関する条約(無形文化遺産条約)に関する動向の調査を行いました。
 政府間委員会で特に各国の関心が高いのは、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」への記載に関する審議です。今回、委員会での審議を経て一覧表に記載された案件は25件で、うち「和食:日本人の伝統的な食文化―正月を例として」など5件が食文化に関するものでした。「和食」の記載は日本でも話題になりましたが、一覧表に記載されるのは食に関連したさまざまな文化的な行為や伝統で、料理ではないことはあまり知られていないかもしれません。
 また、政府間委員会で審議対象となる無形文化遺産の件数の上限は、これまで年60件でしたが、2年で100件に削減することが決まりました。日本は古くから無形文化財が法的保護の対象となっており、多くの記載候補があります。今年提案される「和紙」のように類似したものを一括して提案する工夫もされていますが、多くの案件を記載している国にはしばしば推薦の自粛が求められており、今後は日本の案件の記載数が大幅に増えることはないかもしれません。しかし、無形文化遺産条約の目的は、さまざまな案件の一覧表への記載を通じて、無形文化遺産の多様性を認識し、保護することです。そのためには、どこにどのような無形文化遺産があるのか、またその性質を正確に認識・記録することが必要ですが、そのような作業が進んでいる国ばかりではありません。そのため、日本の専門家が世界各国への支援を通じて無形文化遺産条約の理念の実現に貢献する余地は大きいといえるでしょう。

第18回資料保存地域研修の実施

研修風景1
研修風景2
山梨県立博物館の保存環境管理体制に関する館内見学

 山梨県内の博物館・資料館等において資料保存に携わる方々を対象に、保存の基礎的な知識を伝えることを目的として、山梨県立博物館を会場に研修を実施しました。今回は、12月11、12日の2日間、「ミュージアム甲斐・ネットワーク」との共催による研修会であり、同県内から41名の参加を得ました。
 まず総論として “保存環境概論・佐野千絵・保存科学研究室長”が資料保存の基本理念、最近の動向などを取り上げました。引き続き、各論として “温湿度”、“光と照明”(吉田直人・主任研究員)、“空気環境”(佐野室長)、“生物被害管理”(佐藤嘉則・生物科学研究室研究員)を、さらに “民俗、考古資料の取り扱いに関する実践的な対応方法”(北野信彦・伝統技術研究室長)と題する講義を行いました。これは、今回の研修では、民俗や考古資料を主に所蔵し、決して管理のための設備や体制が十分とは言えない小規模施設からの参加者が多いことを勘案してのものでした。
 すべての講義が終了した後、山梨県立博物館のご厚意により、展示室やバックヤードの見学を行い、同博物館での管理体制等について、沓名貴彦学芸員より詳しく説明頂きました。沓名氏には、本研修の実現にも多大な尽力を頂きました。
 研修後のアンケートでは、有意義だったという回答とともに、施設の実情に沿った対応方法を知りたいというコメントが多く寄せられました。このような声に応えるために、私達は研修後の参加者とのコミュニケーションを大事にしたいと考えております。

『シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:ウズベキスタン共和国における人材育成ワークショップと最終会議』

写真測量をもとに3Dイメージを作成する研修生

 2014年度のシルクロード関連遺跡の世界遺産登録を目指し、中央アジア5カ国と中国は、様々な活動を行なってきました。この活動を支援するため、文化遺産国際協力センターは、2011年度より3年間にわたりユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に参加し、中央アジア各国でさまざまな人材育成ワークショップを実施してきました。
 今回、最後の人材育成ワークショップをウズベキスタン共和国タシケントのユネスコ・タシケント事務所で12月1日から12月3日にかけて行ってきました。今回は、「文化遺産の写真測量」をテーマに研修を行いました。研修には、14名の若手専門家が参加しました。
 また、人材育成ワークショップ終了後に、12月4日、5日と同じくタシケントで開催された「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業の最終会議」に参加しました。この会議では、東京文化財研究所やロンドン大学が中央アジア各国で実施してきた人材育成事業のレビューが行われました。各国からは、今後も継続した研修を行ってほしいとの声があがり、とくに「歴史的建造物の測量」、「遺跡の保存」、「文化遺産のマネージメント」に関する研修を行ってほしいとの要望が寄せられました。

11月施設見学

化学実験室での説明

 韓国伝統文化大学校 5名
 11月18日、当研究所の保存修復現場の視察及び国際協力活動の事例を学ぶため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室及び文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

新海竹太郎関連ガラス乾板の受贈

新海竹太郎《決心》(1907年作、現存せず)のガラス乾板画像

 新海竹太郎(1868~1927年)はヨーロッパで彫刻を学び、《ゆあみ》(1907年作 重要文化財)をはじめとする作品を発表、日本彫刻の近代化に大きく貢献した彫刻家として知られています。このたび竹太郎の孫にあたられる新海堯氏より、田中修二氏(大分大学教育福祉科学部准教授)を介して、竹太郎の作品および竹太郎が郷里の山形で師事した細谷風翁・米山父子の南画を撮影したガラス乾板一式をご寄贈いただくことになりました。それらの写真は竹太郎本人がカメラマンに依頼して撮影させたもので、明治40(1907)年開催の東京勧業博覧会で一等賞を受賞した《決心》等、現存しない作品の画像も含まれ、竹太郎の制作活動は勿論、日本近代彫刻史を語る上でも貴重な資料といえます。当研究所は、戦前に竹太郎の甥の新海竹蔵氏が作製した遺作写真集を所蔵していますが(資料閲覧室で閲覧可能)、その作製の折にも今回ご寄贈いただいた乾板が用いられたものと思われます。このたびの受贈を機に乾板の全画像をデジタル化し、当研究所ホームページのデジタルアーカイブで公開する予定です。

第8回無形民俗文化財研究協議会の開催

総合討議の様子

 11月15日、第8回無形民俗文化財研究協議会が開催されました。今回の協議会では「わざを伝える―伝統とその活用―」として、2005年度から指定制度のはじまった民俗技術を中心的なテーマに据えました。
 1975年から指定制度が運用されている民俗芸能や風俗慣習の保護についてはこれまでにも議論の蓄積があるのに対し、民俗技術については、その概念や制度について認知すら十分になされていないのが現状です。加えて、芸能や祭礼が本質的に非日常に属するのに対し、民俗技術は基本的に日常に属するものが多く、それによって生活している人が少なくないことから、社会や環境の変化による影響をより受けやすいという特徴があります。
 こうした現状を踏まえ、民俗技術の保護の現場でいま何が課題とされているのか、またどのような保護が可能なのかといった点について報告・討議が行われました。会では国指定の民俗技術保護の現場から2名、また民俗技術の指定制度に先行して職人技術の保護に取り組んできた東京都内の現場から3名の方をお招きし、発表いただいた後、2名のコメンテーターを交えて討議を行いました。
 報告・討議では、技術(製品)の需要の低下、分業体制の崩壊、原材料の不足、後継者不足など様々な問題が提示されました。技術の継承に向けた特効薬はありませんが、様々な立場の関係者の間で課題や情報を共有すること、産地や縦割り行政を越えて連携することの重要性が確認されました。無形文化遺産部では、今後も各地の取り組みについて事例を収集していくことで、情報共有・発信の役割を担っていきたいと考えています。
 なお、協議会の内容は2014年3月に報告書として刊行する予定です。

日光東照宮陽明門の外壁側板絵画の保存に関する調査

陽明門壁板絵画の現地調査
X線透過写真撮影装置の設置

 保存修復科学センターでは、「文化財における伝統技術及び材料に関する調査研究」プロジェクトの一環として、現在、東照宮陽明門の塗装彩色修理に伴う調査を行っています。陽明門の東西側壁板には、現在、寛政8年(1796)に作成された「大羽目板牡丹浮彫」が取り付けられていますが、文献史料によると、元禄元年(1688)や宝暦3年(1753)など、それより古い年代に「唐油蒔絵」と呼ばれる技法で描かれた絵画が存在していました。昭和46年の塗装彩色修理では、このうちの東側壁が取り外され、宝暦3年(1753)作成と思われる「岩笹梅の立木 錦花鳥三羽」の絵画が見つかり、当時の保存科学部が調査を行いました。また西側壁板の下にも「大和松岩笹 巣籠鶴」の絵画が描かれていたことが当時のX線透過写真撮影でわかりましたが、上の壁板を取り外さなかったため、実物を見ることはできませんでした。今回、上の西側壁板を塗装修理するために取り外したところ、218年ぶりにこの絵画の存在が確認されました。しかし、変色や剥落などの劣化が著しいため、当センターでは日光東照宮と日光社寺文化財保存会に協力して、これを防止するための材質や劣化の調査、さらには絵画史研究者も参加してこの絵の下にあるとされる古い年代の絵画痕跡を確認するためのX線透過写真撮影などを実施しています(写真1,2)。この成果を、寛永13年(1636)の造営以来、日光東照宮陽明門を荘厳してきた塗装彩色の実態の解明や、今後、これらを少しでも良い状態で保守管理するために役立てたいと考えています。

国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

和紙を用いた補修方法についてのデモンストレーション

 ICCROMのLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、当研究所、ICCROM、INAH(国立人類学歴史学研究所、メキシコ)の3者協同で国際研修を開催しました。研修はINAHを会場として11月6日から11月22日にかけて行われ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、スペイン、ブラジル、プエルトリコ、ペルー、メキシコの8カ国から、文化財修復の専門家9名の参加がありました。
 本研修では、日本の伝統的な紙、接着剤、道具についての基本的な知識を得るとともに、実際にそれらを使用して補強や補修、裏打ちの実習を行うことで、日本の装潢修理技術への理解を深めることを目的としています。研修の前半は、装潢修理技術に用いる材料、道具、技術をテーマに、日本人講師が講義、実習を行いました。研修後半では、装潢修理技術の研修経験のあるメキシコ、スペイン、アルゼンチンの講師によって、日本の材料、道具、技術が欧米の文化財修復に実際にどのように活用されているかが紹介され、実習を行いました。日本の装潢修理技術が、各国の文化遺産の保存修復に応用されることを期待して、今後も同様の研修を継続してゆく予定です。

ユネスコ/日本信託基金プロジェクト「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」―タジキスタン共和国における人材育成―

文化遺産(フルブック遺跡)での測量実習の様子
CADを使ったドキュメンテーション講習の様子

 文化遺産国際協力センターは中央アジアのシルクロード沿い世界遺産登録に向けた支援を目的にUNESCOの受託を受け、2012年度より中央アジア・タジキスタン共和国において、文化遺産のドキュメンテーションをテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2012年度に引き続き、今年度も11月7日から11月14日までの8日間、タジキスタン共和国文化情報省と共同で第2回目の人材育成ワークショップを実施しました。今回の研修では世界遺産にノミネートしている中世の都城址「フルブック遺跡」を対象に実習を行いました。実習の内容として、講師として日本から専門家を招聘し、機材(トータルステーション)を使用した測量、CADを使ったドキュメンテーション、GPSとGISを用いた分析に関する研修を行っています。
 今回のワークショップには国立古代博物館から2名、歴史・考古・民族学研究所から2名、歴史文化遺産保護活用局から1名、現地フルブック博物館から3名、クローブ博物館から1名、計9名の若手専門家が研修生として参加しました。参加者は約1週間にわたる集中講義・実習を経て、ドキュメンテーションのための測量計画と実施、その分析に関わる専門的プロセスを学習し、また、本事業に伴って寄贈された測量機材やGPS機材などの使い方を習得することが出来ました。研修修了者はこの経験と提供機材を当該国における文化財の調査や保護、そのドキュメンテーションに役立てることになります。文化遺産国際協力センターは今後も引き続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な人材育成ワークショップを実施していく予定です。

第28回ICCROM総会

総会での審議の様子

 2013年11月27日から29日にかけてイタリア・ローマで開催されたICCROM(International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Properties)の第28回総会に本研究所より所長の亀井伸雄、川野邊渉、境野の3名が参加しました。ICCROMは、1956年のUNESCO第9回総会で創設が決議され、1959年以降ローマに本部を置いている政府間組織です。ICCROMは動産、不動産を問わず、広く文化遺産の保存に取り組んでいますが、本研究所では特に紙や漆の保存修復の研修を通じてその活動に貢献してきました。
 総会は2年に1度開催されており、今回の総会では、13名の理事が任期満了に伴い、改選されました。その結果、任期が継続する12カ国(アラブ首長国連邦、アルジェリア、カナダ、韓国、ギリシア、グアテマラ、スウェーデン、中国、チュニジア、日本、ブラジル、フランス)に加え、アメリカ、インド、エジプト、スイス、スーダン、スペイン、タンザニア、チリ、ドイツ、バーレーン、フィリピン、ベルギー、メキシコから新たな理事が選出されました。また、総会ではICCROMの財政状況を改善させる必要があるとの認識が加盟国間で改めて共有されました。日本はアメリカに次ぐ額の拠出金を負担しており、この問題を深刻に受け止めています。今後もICCROMの活動を継続できるよう、新しい理事会を中心に具体的な検討がなされることを期待しています。

10月施設見学(1)

化学実験室での説明(10月7日:タイ・チュラーローンコーン大学)

 タイ・チュラーローンコーン大学 14名
 10月7日、日本の伝統的建造物・建築物の保存の先端技術見学のため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室室及び文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

10月施設見学(2)

実演記録室での説明(10月7日:東京学芸大学)

 東京学芸大学教育学部文化財科学ゼミ 17名
 10月7日、文化財の保存・修復の現場を見学するため来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室及び保存修復科学センター分析科学研究室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

10月施設見学(3)

修復実験室での説明(10月11日:「市民と共に ミュージアムIPM」参加者)

 文化庁ミュージアム活性化支援事業「市民と共に ミュージアムIPM」参加者 36名
 10月11日、文化財の保存・修復の現場を見学するため来訪。保存修復科学センター生物実験室、修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

10月施設見学(4)

国際研修室での説明(10月18日:金沢大学)

 金沢大学 14名
 10月18日、文化遺産保護に関する国際協力や最新保存修復方法の現状を学ぶため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室、文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

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