研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


企画情報部研究会の開催―廉泉の大村西崖宛書簡について

廉泉のポートレート(東京芸術大学美術学部教育資料編纂室蔵)

 企画情報部の近・現代視覚芸術研究室では、日本を含む東アジア諸地域の近現代美術を対象にプロジェクト研究「近現代美術に関する交流史的研究」を進めています。その一環として4月25日の企画情報部研究会では、東京工業大学准教授の戦暁梅(せんぎょうばい)氏に「廉泉(れんせん)の大村西崖(おおむらせいがい)宛書簡について」の題でご発表いただきました。廉泉(1863‐1932)は書画蒐集家、詩人として活躍した近代中国の文人で、数回にわたり来日し、コレクションの展覧や図録の出版を行っています。東洋美術史の泰斗として知られる大村西崖(1868‐1927)に廉泉が宛てた書簡34通が、東京芸術大学美術学部教育資料編纂室に近年寄贈された西崖関連資料の中に含まれており、今回の発表はその調査研究に基づいたものです。廉泉は唐寅(とういん)、文徴明(ぶんちょうめい)、王建章(おうけんしょう)といった明清書画家の扇面1000点余を所持していましたが、書簡にはとくにその扇面コレクションの売却をめぐる内容が多くみられ、文面からは西崖への信頼関係の深さがうかがえます。西崖も大正10(1921)年から翌年にかけての中国旅行の折に、呉昌碩(ごしょうせき)や王一亭(おういってい)といった書画界の著名人への紹介等、廉泉の世話になったことが書簡からわかり、当時の日中文化人の交流をヴィヴィッドに伝える貴重な資料といえるでしょう。研究会には著述家・中国版画研究家の瀧本弘之氏や東京芸術大学美術学部教育資料編纂室の吉田千鶴子氏も参加され、議論を深めていただきました。この廉泉の書簡については、当部編集の研究誌『美術研究』で戦暁梅氏によりあらためて翻刻・紹介する予定です。

南相馬市山田神社の祭礼調査

山田神社祭礼

 東日本大震災の被災地における無形文化遺産に関する状況調査の一環として、2014年4月23日に、福島県南相馬市の山田神社例祭を訪れました。海岸部にある同神社は、震災時の津波によって流失し、氏子地区にも多大な犠牲が出ています。宮司の森幸彦氏は福島県立博物館の学芸員をも勤められ、無形文化遺産部で開催した無形文化遺産情報ネットワークでも様々なご意見を頂戴しています。
 山田神社は、震災後に熊本県からのボランティア活動によって仮社殿が建てられ、また広く報道も為されたために、当日は氏子以外にも多くの参列者がありました。しかし、周辺では氏子組織が崩壊の危機に瀕している地域も多く、神社の維持・再建にはなお大きな課題が残されています。神社や寺院といった宗教施設は、政教分離の観点から文化財行政とは切り離して考えられる傾向にありました。しかしその一方で、そうした存在が無形文化遺産の継承と深く結びついていることも事実です。そのためには、今後も情報や課題を共有してゆく必要があると考えています。

東京藝術大学大学院との協力-新学年を迎えて

水浸した紙の取り扱い実習風景

 平成7年4月から東京藝術大学大学院に協力して、文化財保存学専攻にシステム保存学連携講座を開設し、当所研究員6名が保存環境や修復材料に関する授業を行い、大学院教育に従事しています。新学年を迎えて、文化財保存学専攻に修士1年21名、博士1年9名が入学しました。システム保存学講座も新たに修復材料学教室に修士1年生(指導教員:早川典子連携准教授)を1名受け入れ、保存環境学教室に在籍する修士2年生(指導教員:佐野千絵連携教授)1名と合わせて、2名の学生の論文指導を行っています。当所研究員の研究範囲は多岐にわたるため、大学院の既存講座ではカバーできない保存科学の広範囲の研究者を育てることができる点がこの連携大学院の魅力で、他の講座の学生も質問にやってきます。また教員にあたる所員にとっても、学生の疑問や興味を通して未解決な課題を見つける機会となり、更なる研究の発展が期待できます。新しい分野に飛び込んできた学生たちと、充実した1年がまた始まります。

ロビー展示「海外の文化財を守る日本の伝統技術」

ロビー展示風景
展示部分画像「絵を描く」群青が絵絹にのる様子

 当研究所1階エントランスロビーでは、定期的に研究成果や事業紹介を行っています。今回の展示では書画を作り、鑑賞し、修復し、保存していくために必要不可欠な材料と技術についてご紹介します。企画は文化遺産国際協力センターが担当し、全ての画像を企画情報部画像情報室の城野誠治が撮影しました。そして文化財が様々な材料と技術が複合的に用いられて形作られていることを実感して頂くため、表紙と軸木も取り付けた、縦1.15m、横14mの長大な絵巻仕立てで構成しました。紙の繊維が重なって一枚の紙ができていくところ、岩が砕かれて鮮やかな絵具として精製されるところ、糊が入念に練られてしなやかにのびていくところなど、それぞれの材料や技術の特性が表れる一瞬を、大きな画像で示しています。併せて和紙・絵絹・絵具・唐紙・装潢の道具などの実物も展示ケースにて展示しています。今日では、この展示で紹介する材料や道具を作る技術、文化財を修復する技術自体も守っていく必要があり、国の重要無形文化財、選定保存技術に指定、認定されています。一方で、これらの日本で培われてきた技術や材料は広く海外でその有効性が認知され、海外の文化財修復に応用されてきています。当研究所では日本の修復技術や材料に関する正しい知識の普及のため、海外向けの研修事業も行っております。日本の優れた伝統技術によって、世界の文化財が守られ、後世に伝えられていくことにご理解いただければ幸いです。

東京国立博物館蔵普賢菩薩像の共同調査

普賢菩薩像の画像撮影

 企画情報部では、東京国立博物館に所蔵される平安仏画の共同調査を継続して行っています。これを精度の高い画像で撮影し、絵としての作りを実物の目視で観察できる以上の細部にわたって探ろうとする試みです。これまで虚空蔵菩薩像(国宝)、千手観音像(国宝)の調査を行ってきましたが、3月26日、本年度分として平安仏画の中でも殊に評価の高い普賢菩薩像(国宝)について撮影を行いました。得られた画像は東京国立博物館の研究員と共有して検討し、今後その美術史的意義について検討してまいります。

企画情報部研究会「ウェブ版『みづゑ』の研究と開発―美術史料のデジタル公開と美術アーカイブへの展望―」

Web版『みづゑ』トップページ

 企画情報部では毎月一回、研究情報の共有化のために研究会を行っています。3月は25日(火曜日)2時より、標記のテーマで、文化形成研究室長・津田徹英、アソシエイトフェロー・橘川英規、国立民族学博物館・丸川雄三、国立情報学研究所・中村佳史、同・吉崎真弓が報告を行いました。報告の対象となった『みづゑ』は、1905(明治38)年に創刊され、その後、1992(平成4)年に一時休刊し、2001(平成13)年の復刊を経て、2007(平成19)年に再び休刊した美術雑誌です。約1世紀にわたって刊行され続けた美術雑誌であっただけに、近代日本の美術界に与えた影響は多大であり、資料的価値が高いことはいうまでもありません。しかも明治期刊行分90号までは、入手が困難なうえに、これをまとめて所蔵するところが少なく、東京文化財研究所でも貴重書に準じる扱いとなっています。しかしその一方で公開が強く望まれていた資料でもありました。そこで明治期に刊行された分について、記事等、既に著作権が消滅しているものが多いことをかんがみてWebでの公開を行うことを目指し、企画情報部と国立情報学研究所連想情報学研究開発センターが、それぞれが蓄積するノウハウを持ち寄って2011年から3か年にわたって共同研究・開発を行いました。あわせて、この共同研究・開発は、『みづゑ』をモデルケースとし、文字情報が主となる文化財情報の発信に関して、ひとつの可能性を示すことを念頭に置いて取り組んだものでもあります。もとより、企画情報部研究プロジエクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環です。そのWeb上での成果公開にあたり、企画情報部内で情報を共有するために開催したのがこの研究会です。なお、共同研究・開発による『みづゑ』のWeb版は、「東京文化財研究所所蔵資料アーカイブズ みづゑ」として公開しております。是非、ご覧ください(http://mizue.bookarchive.jp/

大洋州島嶼国の文化遺産の現状調査

キリバスの伝統的集会所での調査
ツバルの伝統的集会所における舞踊

 文化庁委託文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)の一環として、文化遺産国際協力センターが受託した「気候変動により影響を被る可能性の高い文化遺産の現状調査」が2月18から3月5日までの日程で実施されました。調査地は、気候変動による海水面上昇等で被害が進行しつつある大洋州(オセアニア)のキリバス・ツバル・フィジー3ヶ国。
 キリバス・ツバルでは首都および離島を訪れ、伝統舞踊や民俗技術、伝統的建築、聖地など文化遺産の現状を調査し、海面上昇による被害を確認しました。また政府関係者や離島での首長との面談を行いました。両国とも海水面上昇によって文化遺産の破壊消失のみならず、国土自体の消滅を現実問題として抱えています。たとえ海外移住を迫られても、維持可能な無形文化遺産は、人々のアイデンティティ維持に役立つということが、両国の関係者でも意識されていました。例えば、両国とも集落ごとに大きな集会所があり、そこで社会的な集会から宗教儀礼や舞踊など様々な行事を行います。こうした集会所をめぐる文化は、無形のみならず建築やその技術、素材としての自然など様々な要素と密接に関わっており、そうした文化の存続が叫ばれています。フィジーの南太平洋大学では、こうした関連する分野の研究者との意見交換を行い、今後大洋州島嶼国の文化遺産を考えてゆく上で意義のある調査となりました。

無形文化遺産情報ネットワーク第2回協議会

第2回協議会

 無形文化遺産部で複数の協働団体とともに運営する「311復興支援・無形文化遺産情報ネットワーク」では、平成26年3月5日(水)に第2回協議会を地下会議室で開催しました。ネットワークの創設となった昨年3月の第1回協議会に続き、東日本大震災で被災した無形文化遺産の復興に関わる情報の共有と、意見交換とを行いました。
 参加者(37名)は研究者や行政関係者に加え、被災地で活動されている方々、支援団体、宗教関係者、メディア関係者といった幅広い層に及びました。後半はゲストスピーカーの田仲桂氏(TSUMUGUプロジェクト)、阿部武司氏(東北文化財映像研究所)からの報告を受け、被災地の無形文化遺産の記録に関わる問題点を中心に話が進みました。
 一口に記録と言っても、様々な側面があります。今回の協議では、①再開の契機としての記録②断絶せざるを得ない伝承の記録としての記録③子どもや若者に継承を促す記録④広く存在をアピールするための記録、といった目的が挙がりました。また記録作成を行うことで新たなネットワークを生むといった効果も期待できます。いずれにしても状況は被災地域毎に異なっており、それぞれのニーズをよく捉えた上で進めていくべきという方向性も確認されました。

福島県旧警戒区域から救出された文化財の保管環境調査と放射線対策の実施

放射線汚染物質の除塵清掃実験
放射線量計測方法の講習

 福島第一原子力発電所事故により、周辺環境が放射性物質で汚染された双葉郡双葉町・大熊町・富岡町の資料館から救出された文化財は、最終的には福島県文化財センター白河館「まほろん」の仮保管庫内で保管されています。
 保存修復科学センターでは「まほろん」学芸員に協力して、これらの保管環境の整備を目指す調査を継続しています。3月25-26日には温湿度調査に加え、一部の救出文化財について表面汚染密度計測を行い、ほとんどの資料は放射線物質による汚染がないことを確認しました。わずかに高い数値を示す資料については、包装袋の取り換えやミュージアムクリーナーを使用した除塵清掃を実施し、前・後の放射線量の計測結果から、その効果を検証しました。さらに救出文化財の管理にあたる学芸員には表面汚染の計測方法の講習を実施して手順を習得してもらいました。「まほろん」ではこれから順次、すべての救出文化財についての計測記録を行っていく予定です。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成25年度総会および第14回研究会「文化遺産保護の国際動向」の開催

講演風景

 2014年3月7日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成25年度事業報告と平成26年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、国際交流基金理事長の安藤裕康氏による「文化を通じる国際協力と交流―双方向性に向けて」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年開催された各分野の国際会議での議論を中心に、4名の方にご報告いただきました。
 まず、文化庁主任文化財調査官の本中眞氏より、富士山の世界遺産登録を事例に、登録に至るまでの審議の過程や世界遺産登録後の課題についてお話しいただきました。続いて企画情報部情報システム研究室長の二神葉子より、ユネスコ無形文化遺産保護条約第8回政府間委員会での審議内容についての報告とともに、委員会で議論となった事項や最近の同条約をめぐる問題についての発表がありました。 さらに、国立文化財機構本部の栗原祐司事務局長にご登壇いただき、ICOM大会招致に向けて、ICOM日本委員会が行っている活動や今後の見通しなどについてご発表いただきました。 最後に、コンソーシアムの前田耕作副会長より昨年イタリアのオルビエトで開催された第12回バーミヤン専門家会議での議論に関するご発表がありました。
 今回は約100名のかたの参加がありました。コンソーシアムでは例年同様のテーマの研究会を開催しておりますが、参加者のみなさまには文化遺産保護をめぐる最新の国際動向について情報共有し、意見交換していただく場として活用していただいております。今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。

研究会「アート・アーカイヴの諸相」の開催

 研究プロジェクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環として、2月25日に加治屋健司氏(広島市立大学)、上崎千氏(慶応 義塾大学アートセンター)を招へいし、企画情報部アソシエートフェロー橘川英規を加えて、日本及びアメリカの現代美術のアーカイヴに関する研究会 を当研究所セミナー室で開催しました。
 第1部の個別発表では、加治屋氏がアメリカにあるアーカイヴ機関(スミソニアン美術アーカイヴ、ゲッティ研究所、MoMAなど)を美術史家という 利用者の視点からその利用について、クレメント・グリンバーグの書簡を挙げて紹介、上崎氏は草月アートセンターのエフェメラ資料群データベースを 用いてアーキヴィストの思考性について発表、橘川は画家中村宏氏作成ノートを例に「ライブラリアンによるアーカイヴ資料紹介」を試みました。第2 部では、個別発表を踏まえ、ディスカッションを行い、その中で、それぞれの立場でのアーカイヴの考え方の共通性と差異性が明確に提示されまし た。本研究会には外部聴講者を含めて95名の方に参加していただき、会場の専門家らからも活発に意見が交わされ、改めて「美術研究にとって有益な アーカイヴの在り方」を考え直す良い機会となりました。

馬場南遺跡出土鼓胴の調査

馬場南遺跡から出土した鼓胴(写真・京都府立埋蔵文化財センター蔵)

 2008年に京都府木津川市の馬場南遺跡で出土した須恵器製の鼓胴について、京都府埋蔵文化財調査研究センターにおいて発掘状況および、復元の過程について調査員と検討をおこなった。陶製の鼓胴は、日本ではこれまで正倉院の三彩鼓胴しかなく、馬場南遺跡での発掘は楽器史上、大きな意義を持つ。2010年の報告書と研究センター紀要の松尾氏論では、復元した結果が異なっていた。その経緯について松尾氏から話をうかがい、実際に計測等をおこなって、報告書や松尾氏論とも異なる復元法も可能であるとの知見を得た。さらに調査を進めて、古代陶製鼓胴についての論をまとめる予定である。

文化財の放射線対策に関する研究会

研究会の様子①
研究会の様子②

 平成23年3月東日本大震災に伴って起こった東京電力福島第一原子力発電所事故により多量の放射性物質が排出され、文化財の被災が懸念される事態となりました。文化財保護の観点から、福島県の文化財施設や文化財の放射線被害の現状把握、計測手法の確立、文化財の移動の基準、除染方法等を検討するため、東京文化財研究所は、独立行政法人文化財機構、独立行政法人国立美術館、全国美術館会議、福島県教育庁、福島県内文化施設とともに、平成24~25年度の2か年をかけて「文化財の放射線対策に関する調査研究」を進めました。その総括報告会として2014年2月12日に標記の研究会を開催しました。
 当日は、まず研究リーダーである石崎武志副所長が主旨説明を行い、桧垣正吾先生(東京大学)から放射線に関する講義がありました。続けて伊藤匡氏(福島県立美術館)からは経緯について貴重なお話をうかがうことができました。その後、ワーキンググループの活動報告を当センターの佐野千絵・北野信彦が行いました(外部からの参加者 36名)。
 研究会の配布資料の一部、『博物館美術館等のリスクマネージメント-放射性物質に汚染された塵埃への対応を中心に-(20140210案)』、『文化財の除染に対する基本的考え方(20140210案)』については、ホームページで公開しております。ぜひご覧ください。

ミャンマー壁画修復専門家の日本招聘研修

研修風景(日本の古墳壁画修復事例の紹介)

 文化庁委託「平成25年度文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として、ミャンマー連邦共和国文科省に所属する壁画修復専門家2名を、2月3日から2月7日の間日本に招聘しました。招聘期間の前半には、壁画修復に関する研修として、日本の絵画書籍を修復する修復工房の見学、日本における壁画修復の事例についての講義や、日本の古墳壁画の修復に使用される材料や技術についての講義と実習を行い、招聘期間の後半には、京都・奈良にある寺院壁画等の視察を行いました。視察中は、講義で紹介した壁画を実際に間近で観察しながら、日本およびミャンマーにおける修復材料や技術について活発な意見交換が行われ、ミャンマー招聘者の壁画修復に対する意欲の高さがうかがわれました。今後も同国の壁画修復家らを招聘し同様の研修を行うことで、壁画修復に関する両国の協力体制をより強固なものにしてゆきたいと考えています。

ミャンマーにおける第1回木造建造物保存研修

文化財保護に関する基礎講義
インワ・バガヤ僧院での実測調査

 文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、2月4日から12日までの日程で、第1回の木造建造物保存研修をマンダレー及びインワにて実施しました。本研修は、ミャンマーの伝統的建造物の中でも未だ十分な保護の対象となっていないコンバウン王朝時代の木造僧院建築に焦点をあて、その適切な保存に向けた基礎調査、記録・図面作成、保存管理・修理計画策定等をテーマに実施するもので、主に同国文化省考古・国立博物館局の若手から中堅のスタッフを対象として、3年間で全5回の現地研修を予定しています。第1回研修には11名の研修生が参加し、建築史・修復史や文化財保護制度等に関する基礎講義の後、インワのバガヤ僧院において、建造物調査のもっとも基本となるスケッチと平面実測を行いました。
 歴史的な木造建造物の保存及び修理に関して我が国は豊富な専門知識と経験を蓄積していますが、ミャンマーの伝統的な建築技法や様式等に関しては調査研究が十分ではなく、未解明の点が多く残されています。往時の建造物がどのような寸法体系で、どのように設計され、建築されたのか、といった視点をもって、研修生とともに調査に臨むことを通じて、ミャンマーにおける木造建造物の史的再評価も目指しています。研修生たちは非常に意欲的に参加しており、今後の一連の研修の中で必要な技術と視点を身に付けていくことが期待されます。

アメリカ・ボストンにおける動産文化財の保護についての調査

ボストン美術館
イザベラ・ガードナー美術館

 文化遺産国際協力センターでは各国の文化財保護制度に関する調査・研究を行っています。そのプロジェクトの一環として、昨年度に引き続き、アメリカにおける動産文化財の保護についての調査を実施しました。世界有数の博物館・美術館が存在しているにも関わらず、アメリカには動産文化財の保護・管理に当たる省庁はなく、国として規制・監督していることは限られています。昨年度までの調査により、アメリカでは当該分野に関連する非営利団体と関係省庁が自発的に連携し、災害時や問題発生時には複数の組織が効率よく機能し、問題解決を実現している様子が確認されました。また、日々の動産文化財の管理については、各博物館・美術館の独自の倫理観に大きく依拠している現状も明らかになりました。
 そこで、今年度は、2014年2月10日~14日にかけて、江村知子と境野飛鳥の2名で、ハーバード大学美術館とボストン美術館を対象に、より具体的な聞き取り調査を行いました。また、イザベラ・ガードナー美術館では個人の遺言が所蔵品の管理方法に対して大きな効力を及ぼしている状況について調査しました。今回の調査を通じて、特にボストン美術館は、地元の有志によって公的組織として設立されたという経緯から、社会における同館の位置付けが重要視されており、それが同館の所蔵品管理における倫理観にも影響を及ぼしていることを窺い知ることができました。
 美術館・博物館の設立経緯やコレクションの形成過程が、今の文化財管理に反映されている可能性も視野に入れつつ、今後もアメリカ国内の博物館・美術館において、調査を継続したいと考えています。

キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

土器の修復、復元を行うキルギス人若手専門家

 文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的に、文化庁の受託を受け、2011年度より、中央アジア、キルギス共和国において「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2014年2月10日から2月15日までの6日間、キルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所と共同で、第6回目のワークショップ「出土遺物の保存修復に関する人材育成ワークショップ」を実施しました。
 今回の研修では、各研修生がキルギス国内で発掘した考古遺物を持ち寄り、専門家の指導のもと、それぞれが保存修復作業を実施しました。また、新規の内容として「考古遺物のレプリカ作り」に関する実習も行いました。
 今回の研修には、毎回、参加するキルギス人若手専門家8名のほかに、キルギスタン・トルコ・マナス大学のタバルディエフ教授が学生を引き連れ見学にこられ、研修は盛況のうちに終了しました。
 文化遺産国際協力センターは、今後もひき続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な人材育成ワークショップを実施していく予定です。

ミャンマー文化省職員の日本招聘及び研究会開催

研究会「ミャンマーの文化遺産保護に関する現状と課題」
今城塚古墳公園

 2月17日から22日までの日程で、ミャンマー文化省考古・国立博物館局職員3名を日本に招聘しました。18日には東京文化財研究所において、「ミャンマーにおける文化遺産保護の現状と課題」と題した研究会を昨年度に引き続き開催したほか、関東及び関西地域に所在する様々なカテゴリーの文化遺産(建造物、美術工芸品、史跡、重要伝統的建造物群保存地区等)を見学するとともに、各地の保存管理担当者よりお話をうかがい、意見交換を行いました。
 研究会では、ミャンマー側の3氏から、ご自身が携わる文化遺産保護に関する取り組みを中心にご発表いただきました。ピュー古代都市での発掘調査や遺跡保存の状況、ベイタノーでの保存管理計画や住民啓発活動、またインワのバガヤ僧院での修理・補修工事について、多数の写真を交えながらご報告いただきました。日本側からは、東京及び奈良の文化財研究所から3名の専門家が、ミャンマーとの間で実施している協力事業の進捗と今後の展望について報告し、会場との間でも活発な質疑応答が行われました。
 国内の文化遺産関連施設見学では、東京国立博物館、大塚・歳勝土遺跡公園、横浜市歴史博物館、仁和寺、法隆寺、奈良文化財研究所・平城宮跡、京都府南丹市美山町重要伝統的建造物群保存地区、今城塚古墳・古代歴史館・新池埴輪製作遺跡等を訪問し、わが国の文化遺産保護の現状について理解を深めていただきました。

郷土芸能プロジェクト検討会への参加 ―無形文化遺産情報ネットワークの活動―

仮設住宅をまわる獅子舞(宮城県女川町小乗地区)

 無形文化遺産部では複数の協働団体と共に「311復興支援・無形文化遺産情報ネットワーク」を運営し、東日本大震災の被災地における無形文化遺産の情報収集やそれに関わる復興支援に携わっています。そうした活動の一環として、文化庁をはじめ芸術団体や企業等で組織される「文化芸術による復興推進コンソーシアム」とも連携を図っています。
 2014年1月29日に、このコンソーシアムによる「郷土芸能プロジェクト検討会」が仙台市において開催され、無形文化遺産部から久保田裕道が参加しました。この検討会は、文化芸術が復興に果たす役割の中で郷土芸能(民俗芸能)の占める割合が大きいことから、郷土芸能に関わる今後の活動を検討すべく開催されたものです。全日本郷土芸能協会や企業メセナ協議会、大槌町教育委員会など関係機関からの参加があり、各々の企画案をもとに協議が進められました。
 震災から3年を迎えようとしているこの時期、郷土芸能の復興を取り巻く状況も変わりつつあり、そうした現状を踏まえつつ、新たな試みを展開させる方向性が確認されました。

「文化財の保存環境に関する研究会」の開催

保存環境研究会

 保存修復科学センターの研究プロジェクト「文化財の保存環境の研究」は3年目をむかえ、平成26年1月27日(月)にこれまでの研究成果をもとに研究会を開催しました。研究会では、「濃度予測と空気環境清浄化技術の評価」をテーマとした文化財収蔵空間で使用可能な材料を選択するための試験法の試案、内装材料における放散ガス試験データを元に実施した濃度予測による空気環境制御の事例、そして博物館の省エネ化で温度設定を上げた時の汚染ガス濃度の上昇と濃度低減のためのさまざまな低減化手法について解説しました。新築・改修・増築、展示台の新造、ディスプレイ材料の選択など、実際の課題や問題意識を持った参加者が多く、換気の方法、材料の選定、具体的な対処方法、汚染ガスの計測方法や汚染源の特定方法などについて、活発な質問が寄せられました。また製品を選定するための規格の設定や、空気清浄化マニュアルの制作に取り組んだらどうか、などの提案もありました(外部からの参加者 93名)。

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