研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


日本航空協会所有の三式戦闘機「飛燕」の修理について

飛燕全景。右主翼上面の国籍マーク(日の丸)は投射された赤色光で再現されています。
胴体右側の国籍マーク(日の丸)はプロジェクションマッピングで2分間隔で再現されています。
胴体左側の国籍マーク(日の丸)の痕跡。戦後にオーバーサイズの日の丸が塗られたため、二重になっています。
スーパーチャージャーの空気取り入れ口の下にある機体番号「6117」の痕跡。

 (一財)日本航空協会(以下、航空協会)が所有する三式戦闘機「飛燕」二型は、1944年に川崎航空機(株)岐阜工場で製造され、1945年の終戦時には東京の福生飛行場の陸軍航空審査部に配備されていました。終戦後、我が国の航空機がほぼ全て廃棄処分される中で、理由は不明ですが処分を免れ、1953年まで米軍横田基地に展示されていました。現在、飛燕としては博物館に展示されている世界で唯一の機体です(ニューギニアから回収された残骸などから飛燕の復元を企画している例は複数あります)。本機は1953年に米軍から航空協会に無償譲渡され、1986年に知覧特攻平和会館(南九州市)に展示されるまで日本各地で展示されましたが、その間、部品の紛失や機体の損傷などが起こり、その応急的処置が逐次なされる一方、1965年からはオリジナルとは全く異なる塗装・マーキングが施されました。
 近年、航空協会は保存科学研究センターとの共同研究を通して飛燕を文化財として新たに認識するようになっていたところ、2016年が川崎重工業(株)(以下、KHI)の創立120周年に当たったことから、同社の記念事業として飛燕の修理に全面的協力が得られることになり、2015年から同社岐阜工場で約1年を掛けて修理が行われました。
 修理に先立って、航空協会とKHIの協議により飛燕を文化財として修理することが決定され、個々の修理箇所についてはKHIから修理の仕方について提案し、航空協会がそれを確認・了承するという手順で進められました。KHIによる修理は、機体表面の塗装の剥離から始まり、戦後に付け加えられた異品の取外し、機首のエンジン上部のパネル、操縦席の計器板など新規のレプリカ部品の作成など、広範囲なものとなりました。
 機体表面の塗装を剥離した結果、製造時にドリル工具の刃が滑った痕や、国籍マークおよび注意書などの痕跡が各部にあることが確認され、機体番号(製造番号)が「6117」であることも新たに確認されました。国籍マークの再塗装についてはKHIから提案がありましたが、新たな塗装は機体表面に影響を与える可能性があること、そして発見された痕跡そのものを見せることに価値があることを考慮して、新たな塗装は行わないことになりました。2016年秋に、神戸ポートターミナルホール(神戸市)で約1カ月展示された際には、KHIの要望によりラッピングフィルムで国籍マークなどが再現されましたが、「かかみがはら航空宇宙科学博物館」(各務原市)に搬入後に剥がされました。同館は2016年9月からリニューアルのため閉館していましたが、同年11月から2017年11月まで収蔵庫で分解された状態で展示されました。
 KHIによる修理作業の終了後、航空協会は保存科学研究センターの監修のもとに飛燕の調査を行い、劣化が進んでいたゴム部品を除去する一方、操縦翼面(方向舵、昇降舵、補助翼)の羽布の張り替えを実施しました。操縦翼面は、同時期の多くの航空機と同様に、金属骨格に羽布が張られていますが、1986年に張り替えられた際には、羽布をリブ(小骨)に縫い付ける作業を省略したものとなっており、外観も違ったものになっていました。そのため、保存科学研究センターでは当時の羽布の材質調査などを実施し、2017年秋から本年2月に掛けて行われた羽布の張り替えに根拠となるデータを提供しました。また、機体の再組立前後で記録撮影も行いました。
 本年3月24日、同館が「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館」としてリニューアルオープンすると飛燕は目玉展示の一つになりました。同館によれば、国籍マークが塗装されていないことは見学者の多くから好意的に受け止められており、航空機を文化財として扱うことが社会に浸透しつつあることが感じられます。

アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査III

出土したテラス状構造物
測量調査の様子

 東京文化財研究所は、カンボジアにおいてアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ遺跡保存整備計画策定に技術協力しています。平成30(2018)年3月8日~22日の間、同遺跡において今年度3回目となる考古学調査および周辺の測量調査を実施しました。
 今回の発掘調査は、平成29(2017)年12月の第二次調査において出土した、東バライ貯水池土手上のテラス状構造物のさらなる解明を主目的として、APSARA機構のスタッフと共同で行いました。
 調査の結果、この構造物は全体が十字形を呈するようにラテライトの切り石が敷かれており、東西13.8m、南北11.9mの規模を持つことが明らかとなりました。さらに、付近からは多くの瓦が出土し、石敷き上には柱穴と思われる多くの穴や窪みが確認されたことから、このテラス状構造物上にはかつて木造建造物が存在したと推測されます。テラス状構造物は寺院の東西軸上に位置していることから、今後は両者の関係を明らかにするべく調査を続けていく予定です。
 同時に、遺跡周辺において、トータルステーションを用いた測量調査も行いました。今回収集したデータを基に、詳細な地形図を目下作成中で、本遺跡の保存整備への有効な活用が期待されます。また、この測量調査に際しては、APSARA機構スタッフへの指導・技術移転も同時に行いました。学術的な調査とともに、このような技術的な支援も継続していきます。

グラッシ博物館・民俗学館(ドイツ)における日本絵画調査と協議

作品の保存修復処置に関する協議
作品調査

 海外の博物館施設に所蔵の日本美術作品は、日本文化を紹介する大切な役割を担っています。ところが、海外における日本美術作品の保存修復専門家の不足から、それらの作品に対する適切な保存修復処置を施せずに、展示活用が困難な作品が少なくありません。こうした海外に所在の日本美術作品の保存と活用を目的として、東京文化財研究所では在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。
 平成30年(2018)年3月26日にドイツのライプツィヒにあるグラッシ博物館・民俗学館を訪問し、修復候補作品の決定と具体的な保存修復計画の策定を目的として、絵画作品の調査を実施しました。過去に同館で行ったコレクションの概要調査の結果を基に、事前に選出した掛軸と屏風の計3件(4点)を対象として、日本から同行した装こう修理技術分野の保存修復専門家と共に、作品の構造やその損傷状態について詳細に記録しました。調査後は、同館の学芸員や保存修復専門家等を含めて現在の作品の状態について概括し、本協力事業の説明を交えながら、作品の今後の保存修復処置について協議を行いました。また、両国の絵画の保存修復技術に関して活発な議論がなされ、それら技術の民俗学的な活用を目指して、同館における展示等の協力の可能性について検討、意見を交わしました。

ブータンにおける「伝統民家保存に関するワークショップ」開催

ワークショップの様子
保存対象として提案された古民家(ハー県所在)

 ブータン西部地域の民家は、型枠の中で土を突き固めた版築造という工法で建てられ、緑豊かな同国の美しい文化的景観の重要な要素にもなっています。しかし、寺院や城郭といった宗教や行政関係の建造物のように文化遺産として保護されることもなく、自然災害や近代化など様々な要因から貴重な古民家が失われていく状況が加速しつつあります。
 東京文化財研究所では、2012(平成24)年よりブータン内務文化省文化局遺産保存課と共同で版築造建造物を対象とする建築学的な研究調査を継続してきました。その中で、文化省側もブータン古民家が有する文化遺産的価値とともに、保存の緊急性についても改めて認識を強めるに至りました。そこで、2018(平成30)年3月13日に両国専門家、建設省や地方行政の担当者、古民家所有者等も交えたワークショップをティンプー市内の文化局庁舎にて開催しました。民家建築の編年や変遷過程といった調査成果や、ブータンにおける文化遺産保護の法的枠組み、日本における伝統民家保存の状況等に関して情報共有するとともに、保存対象とすべき民家建築の具体的物件や今後の課題等について意見を交換しました。開催後まもなく重要物件の保存活用に向けた動きが聞かれるなどの効果が現れ始めており、停滞している文化遺産法制度の整備にも寄与することが大いに期待されます。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ヨシダ・ヨシエ文庫の視察

Conservation Centerで保全処置を済ませたヨシダ・ヨシエ文庫(左)とその請求ラベル
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Charleds E. Young Research Library

 2月20日、アメリカ、カリフォルニア州にあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて、同大学図書館が収受したヨシダ・ヨシエ文庫の開設記念シンポジウムが開催され、これにあわせて当研究所文化財情報資料部の橘川が同大学図書館群における特別資料(アーカイブズ)関連部署の視察を行いました。視察は日本研究司書であるTomoko Bialock氏にご同行いただき、East Asian Library (Charleds E. Young Research Library 2階)、Special Collections (同 Library 地下)、Conservation Center(Powell Library)、Southern Regional Library Facilityを巡り、資料保全処置、ファインディングエイド作成、個別アイテムのデジタル化、長期保存の各担当者から特別資料の選定・収受・利用者への提供及び保存について、ヨシダ・ヨシエ文庫を例としてご説明いただき、またそれぞれの担当者と日本における美術分野における特別資料の状況について情報交換・協議を行いました。アメリカを代表する大規模な総合大学で、政治家・歴史家・文学者など様々なジャンル、そして膨大な数の特別資料収受を持つ同校において、その高度化された収受方法、また分業体制のなかで発揮されるスタッフの専門性などを実見しました。日本における特別資料をめぐる予算規模・人員配置などを含めた構造的な違いを再認識する機会となりました。この視察については、5月開催の文化財情報資料部研究会にて報告し関係者と共有する予定です。

英国、セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演

セインズベリー日本藝術研究所主催の講演会の様子

 英国、ノリッチにあるセインズベリー日本藝術研究所は、欧州における日本の芸術文化研究の拠点のひとつです。同研究所と東京文化財研究所は2013年より「日本藝術研究の基盤形成事業」を共同で進めており、その一環として毎年、文化財情報資料部の研究員がノリッチを訪れ、事業に関する協議および講演を行なっています。2017年度は塩谷純、安永拓世、小山田智寛の3名が2月13日から16日にかけてノリッチに滞在し、その任に当たりました。
 協議では、考古・文化遺産学センター長のサイモン・ケイナー博士をはじめ、スタッフの平野明氏、西岡恵子氏、林美和子氏と上記事業の発展に向け、今後の施策について話し合いました。具体的には当研究所で毎年刊行している『日本美術年鑑』の英訳や、データベース上での日本人作家名に関する基本的な情報提供の改善などが議題となりました。
 2月15日には塩谷を講師として、ノリッチ大聖堂のウェストン・ルームにて講演会が催されました。これはセインズベリー日本藝術研究所が毎月第三木曜日に開催する、一般の方向けの月例講演会として行なわれたもので、2014年からは東京文化財研究所のスタッフもその講師を年一回務めています。今回の塩谷の講演は「崇敬と好奇、そして禁忌のまなざし―明治天皇の視覚表現をめぐって Respect, Curiosity and Taboo-Differing Visual Expressions of the Meiji Emperor」の題で、上記のケイナー博士に通訳の労をとっていただきました。同講演では、塩谷が執筆代表者を務めた『天皇の美術史』第6巻(吉川弘文館)をふまえ、同書掲載の増野恵子氏による明治天皇の肖像論を紹介しながら、ジャーナリスト宮武外骨が犯したとされる不敬罪や、欧州での明治天皇のカリカチュアを例に、近代日本における天皇の視覚表現の展開と限界について論じました。今回は80名ほどの方が聴講され、現地の常連の参加者の他にロンドン芸術大学名誉教授でイースト・アングリア大学教授の渡辺俊夫氏や、ケンブリッジ大学准教授のバラク・クシュナー氏といった研究者の方々もお見えになりました。講演の後の質疑応答では参加者から多くの質問が寄せられ、日本文化に対する現地での関心の高さがうかがえました。

バガン(ミャンマー)における煉瓦造寺院外壁の保存修復と壁画調査

被災した尖塔部分の解体修復
美術史および図像に関する調査風景

 平成30年(2018)1月23日~2月13日までの期間、ミャンマーのバガン遺跡群内Me-taw-ya寺院(No.1205)において、壁画保護のための雨漏り対策を主な目的とする煉瓦造寺院外壁の保存修復を行いました。今回は平成28年(2016)8月24日の地震で被災した尖塔部分の修復処置と、塔頂部に残されたストゥッコ装飾の保存修復を中心に行いました。期間中には、ミャンマー宗教文化省 考古国立博物館局バガン支局からの依頼を受け、若手保存修復士を対象にしたワークショップを開催しました。今回のワークショップでは実際の作業に参加しながら、使用する修復材料の特性やその効果について理解を深めてもらうことを目的とし、その正しい使い方について技術指導を行いました。
 また、ミャンマーにおける壁画技法の変遷や美術史、図像に関する調査を実施しました。最盛期である11~13世紀の壁画調査が前回までに一段落したこともあり、今回は復興期ともいえる17~18世紀の壁画を対象として、バガンのみならずモンユワ近郊のキンムン村やポーウィン山洞窟にも足を運び、多くの情報を得ることができました。
 2月9日にはヤンゴンにあるユネスコミャンマー事務所を訪問し、東京文化財研究所のMe-taw-ya寺院におけるこれまでの研究成果や保存修復活動について報告を行いました。壁画の保存を念頭に置いた一貫性のあるプロジェクトと、地震による被災箇所への早急な対応プロセスを高く評価していただき、今後は情報を共有しながら協力関係を築いていくことで合意しました。
 今回で深刻なダメージが認められた被災箇所に対する処置が終了しました。来年度からは、被災箇所の修復から従来の目的である雨漏り対策を念頭に置いた外壁の保存修復へと徐々に移行していく予定です。今後も現地専門家と意見交換を重ねながら、バガン遺跡群に適した保存修復方針を組み立てていきます。

現代美術の保存・修復をめぐって――文化財情報資料部研究会の開催

研究会、小川絢子氏による発表の様子

 ひところは難解なイメージで敬遠されがちだった現代美術ですが、近年では日本でも親しみやすい現代“アート”として身近な存在となってきているようです。美術館でも現代美術の作品を展示し、収蔵するのが常となっていますが、その素材や技法が多種多様であるために、従来の保存修復のノウハウでは対処しきれない問題も生じているのが現状です。1月30日の文化財情報資料研究会では、そうした現代美術の保存・修復をめぐる状況について、小川絢子氏(国立国際美術館特定研究員)と平諭一郎氏(東京藝術大学Arts & Science LAB.特任准教授)よりご発表いただきました。
 「美術館における現代美術の保存と修復」と題した小川氏の発表は、美術館という現場で直面する課題に即した報告でした。小川氏の勤める国立国際美術館では、映像やインスタレーション、パフォーマンスなど、美術館の枠に収めるのが難しいとされるタイム・ベースド・メディア作品(表現形式に時間軸を伴う作品)を積極的に収集・展示しています。この研究会の直前に同館で始まった「トラベラー まだ見ぬ地を踏むために」展(2018年1月21日~5月6日)に出品の、ロバート・ラウシェンバーグの作品やアローラ&カルサディーラのパフォーマンス作品等を例に、それらの受け入れや展示に至るまでの取り組みが紹介されました。
 平氏の発表は「保存・修復の歴史において現代はそんなに特別か」と題した、日本古来の文化財と欧米由来の美術の保存修復のあり方に一石を投じるものでした。1960~80年代に制作された、ナムジュン・パイクに代表されるヴィデオ・アートの作品は、液晶ディスプレイが主流の今日ではほぼ代替不能なブラウン管テレビが使用されています。今日、その修復にあたり液晶ディスプレイを用いることで物質的な同一性が損なわれたとしても、作品の遺伝子ともいうべき核心的同一性は確かに伝えられるのではないか――伊勢神宮の式年遷宮等に見られる日本古来の文化財の伝承法をも見据えた、広い視野に立つ提言は、現代美術のみならず、修復対象によって補彩・補作や想定復元をめぐる考え方が異なる文化財修復のあり方にも再考を促すものとなりました。
 いつもは美術史的な発表内容の多い文化財情報資料部の研究会ですが、今回は保存・修復がテーマということもあり部外からの参加者も多く、発表後のディスカッションではさまざまな専門の立場から意見が交わされました。

「東京文化財研究所美術文献目録」のOCLCへの提供

WorldCatで検索された展覧会カタログ所載文献の表示画面の例

 東京文化財研究所では美術に関する文献・資料の収集と活用に努めています。世界最大の図書館サービスであるOCLCを通じて国際的に情報発信を行うため、日本での代理店を務める株式会社紀伊國屋書店OCLCセンターと協議を重ねながら事業を推進し、このたび平成30(2018)年1月に世界最大の共同書誌目録データベースであるOCLCのセントラル・インデックスに「東京文化財研究所美術文献目録 (Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, Art Bibliography in Japan)」として、展覧会カタログに掲載されている記事・論文等のデータ約5万件を提供しました。これによって、WorldCat.org(https://www.worldcat.org/)やArt Discovery Group Catalogue (https://artdiscovery.net/)などの検索サービスなどにおいて、美術に関する作家・作品など各種キーワードを入力すると、「東京文化財研究所美術文献目録」も検索対象となり、展覧会カタログ掲載論文に関する書誌データが検索結果として表示されるようになりました。
 書籍や雑誌として刊行されているものは、一般的な検索エンジンや図書館等のデータベースでも検索することができますが、展覧会カタログに収録されている記事・論文は、専門性が極めて高いものの、その存在が広く知られる機会は限られていました。今回提供した情報は、当研究所がその草創期から継続してきた『日本美術年鑑』編さん事業を通して、全国の美術館・博物館から寄贈された展覧会カタログ所載記事・論文のデータを再利用したものです。検索結果からそのままオンラインで全文にアクセスできるような機能はなく、今後の課題はありますが、世界中のインターネット・ユーザーに対して、資料発見の可能性を新たに提供した意義は大きいと考えられます。今回提供した情報は昭和5(1930)年から平成25(2013)年までのものですが、今後も継続的に新たな情報を追加するなど、さらなる情報発信強化を行ってまいりたいと思います。
なお、この成果は、平成28(2016)年より国立西洋美術館と実施している共同事業「美術工芸品を中心とする文化財情報の国内外への発信にかかる基盤形成事業」によるものです。

台湾中央研究院における国際シンポジウム「東アジアにおける文化遺産と宗教」への参加

会場となった台湾中央研究院民族學研究所
国際シンポジウムの様子

 平成30(2018)年1月8日から9日にかけて、台湾の中央研究院(Academia Sinica)とオーストラリア国立大学が共同で主催する国際シンポジウム「東アジアにおける文化遺産と宗教(Cultural Heritage and Religion in East Asia)」が中央研究院民族學研究所において開催されました。本シンポジウムには、台湾をはじめ、香港、韓国、オーストラリア、アメリカ、イギリスなどの多くの国から文化遺産を研究する専門家が参加し、本研究所からは無形文化遺産部音声映像記録研究室長の石村智が招待を受け、研究発表をおこないました。発表タイトルは「日本における宗教に関連した無形文化遺産と保護制度(Intangible cultural heritage and the protection system related to religion in Japan)」で、東大寺の修二会と祇園祭の山鉾巡行を題材に、宗教に関連した無形文化遺産については文化財保護法の範疇で含めることのできる要素とできない要素とがあることを論じました。本発表に対しては、韓国の研究者がコメンテーターとして、戦後日本の政教分離の政策にも言及しつつ、様々な観点からレビューをおこないました。
 本シンポジウムに参加した感想としては、東アジアの多くの国や地域では宗教は無形文化遺産の重要な要素のひとつと認識されており、そのことが保護政策や観光政策に反映されている事例が多いということがわかりました。そのことにより、遺産の宗教的要素が守られるという肯定的な側面がある一方で、宗教的要素が観光や開発のもとで本来の形を失ってしまうこともあるという否定的な側面もあるということがわかりました。
 ひるがえって我が国の文化財保護法においては、基本的に宗教的要素をその範疇に含めないという方針がとられています。しかし現実には、宗教団体が主体となっておこなう祭礼は文化財として指定することは難しいが、地域住民などのコミュニティが主体となっておこなう祭礼は文化財として指定することが可能であるという判断がなされています。しかし実際の祭礼においては、宗教的要素とそうでない要素を分けることは難しい場合が多いのも事実です。
 海外の事例と比較することで、日本では何を「文化遺産」として捉えているのか、つまり「文化遺産」とは何なのか、そうしたことを考えさせられる有意義なひと時でした。

フィリピンにおける無形文化遺産の防災に関する調査

棚田の様子(イフガオ州ハパオ村)
地機による機織りの様子(イフガオ州オオン村)

 大阪府堺市にあるユネスコのカテゴリー2センターであるアジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)は、平成28(2016)年度よりアジア太平洋地域における無形文化遺産の防災に関する調査研究を実施しており、本研究所の無形文化遺産部もその事業に継続的に協力してきました。このたびIRCIが実施するフィリピンでの現地調査に、IRCIの連携研究員である石村智・無形文化遺産部音声映像記録研究室長が参加しました。
 フィリピンは自然災害に見舞われることの多い国です。例えば1991年のルソン島のピナトゥボ火山の噴火では、近くに暮らす先住民のアエタ族が大きな被害を受けました。また近年では2013年10月にボホール島周辺で地震が発生し、セブ島にある同国最古の教会であるサント・ニーニョ教会などの歴史的建造物が被害を受け、さらに同年11月の台風「ヨランダ」はレイテ島をはじめとする各地に大きな被害をもたらしました。こうした災害から、有形の文化遺産とともに無形の文化遺産をいかに守っていくか、というのは大きな課題です。
 今回はルソン島北部のコルディリェーラ地域のイフガオ州とアブラ州を対象として現地調査をおこないました。コルディリェーラ地域は山岳地帯で、多くの先住民が暮らす地域であるため、多様な無形の文化遺産が所在する地域ですが、開発が立ち遅れている場所も多く、災害に対して脆弱性をはらんでいる地域であるともいえます。調査にはIRCIの野嶋洋子アソシエイトフェローと石村室長に加え、フィリピン側からは文化芸術国内委員会(National Commission for Culture and the Arts)のスタッフ2名とフィリピン大学教授で染織の専門家であるノーマ・レスピシオ博士(Prof. Norma Respicio)の計5名が参加しました。調査期間は平成30(2018)年1月24日から2月1日でした。
 このうちイフガオ州は、ユネスコ世界文化遺産「コルディリェーラの棚田群」で有名ですが、この遺産はかつて人口流出や耕作放棄により「危機遺産」に指定されたこともありました。その後、コミュニティ主体の文化復興の運動が進み、また「イフガオ族のフドフド詠歌」とイフガオ州ハパオ村の伝統綱引きの行事(ベトナム・カンボジア・韓国・フィリピンによる共同提案「綱引き」の構成要素の一つとして)がユネスコ無形文化遺産に登録されました。イフガオ州は険しい山岳地形が多いため、台風や地震などによって引き起こされる地滑りが深刻な問題で、棚田をはじめ、家屋や道路が危険にさらされることも多いとのことでした。しかし近年ではコミュニティが主導する観光をはじめとした開発が活発で、伝統的な織物や木彫などの手工芸も盛り上がってきている様子をうかがうことができました。このようにイフガオ州では、ユネスコの世界遺産や無形文化遺産といったブランド力をうまく活用しながら、伝統文化を現代的な形で適応させるのに成功しているようでした。
 アブラ州は、コルディリェーラ地域の中では比較的低地で、河川沿いの盆地を中心とした地域ですが、山岳部での森林伐採や鉱山開発により、河川の氾濫と洪水という災害の危険性にさらされているとのことでした。それに対し、先住民が伝統的におこなってきた資源利用の慣習を、現代の法制度の中に組み込んだ「ラパット・システム(Lapat system)」が施行され、持続可能な開発がおこなわれている様子をうかがうことができました。またこの地域では、伝統的文化も色濃く残されており、とりわけピナイン(pinaing)と呼ばれる聖なる石を祀った儀礼や、バグラン(baglan)と呼ばれる霊能者がおこなう儀礼などが、キリスト教の思想や現代の科学的知識と共存し、地域のアイデンティティを支えている様子をうかがうことができました。
 今回の調査地は、いずれも災害に対して脆弱な地域であるにも関わらず、持続可能な開発に沿った形で伝統的文化を活用し、レジリエンスをうまく発揮している様子をうかがうことができました。こうした事例は、無形文化遺産の防災を国際的に検討するにあたって、重要な示唆を与えてくれるものと考えます。

実演記録「平家」第一回の実施

リハーサル(手前はアドバイザーをお願いした薦田治子氏)
本番撮影の様子(左:日吉章吾氏、中央:田中奈央一氏、右:菊央雄司氏)

 「平家」(「平家琵琶」とも)は、盲人の琵琶法師が『平家物語』を琵琶伴奏で語る日本の伝統芸能の一つですが、室町時代に全盛期を迎えて以後徐々に衰退し、今では正統な継承者が一人になってしまいました。そこで無形文化遺産部では、「平家」の語りの技術を次世代に継承、普及すべく2015年より研究と演奏を行っている「平家語り研究会」(主宰:薦田治子武蔵野音楽大学教授)の協力を得て、1月15日に東京文化財研究所の実演記録室で記録撮影を行いました。
 撮影記録を行ったのは、伝承曲《紅葉》、復元曲《小督》(三重から下リ冒頭まで)、復元曲《敦盛》(冒頭口説)、復元曲《祇園精舎》です。「平家語り研究会」は、気鋭の地歌箏曲演奏家・菊央雄司氏、田中奈央一氏、日吉章吾氏が、平家研究の第一人者・薦田治子氏とともに客観的な裏づけに基づく「平家」の復元を行っていることも大きな特徴なので、今後とも、伝承曲だけでなく復元曲の記録もアーカイブしていく予定です。

国宝高松塚古墳壁画修理作業室の一般公開

国宝高松塚古墳壁画修理作業室一般公開受付の様子

 国宝高松塚古墳壁画修理作業室の一般公開において、解説員として参加しました。修理作業室の一般公開は、平成19(2007)年の高松塚古墳の石室取り出し以降年2回のペースで行っていましたが、平成29年度より、キトラ古墳壁画体験館四神の館における壁画公開とあわせて年4回開催に増えたものであり、第1回より東京文化財研究所も主催者として取り組んでおります。
 通算20回目となる今回は、西壁(女子群像、白虎、男子群像)および北壁(玄武)を見学通路近くに配置し、取り出しから10年経過した現時点での壁画修理の進捗状況を確認いただき、同時期に公開されているキトラ古墳壁画(玄武)と比較できるようにしました。明日香村観光で訪れる人が少なくなる冬期に、当日受付も含めて約1000人の来場者がありました。来場者の多くが壁画クリーニングの進み具合に驚いており、今後の修理や展示について興味を持ってお帰りになられました。

世界遺産研究協議会「世界遺産推薦書の評価のプロセスと諮問機関の役割」の開催

研究会の様子

 平成30(2018)年1月18日に、東京文化財研究所のセミナー室において、世界遺産研究協議会「世界遺産推薦書の評価のプロセスと諮問機関の役割」を開催しました。
 本研究協議会は、世界遺産関連の業務に携わる自治体関係者を対象に、世界遺産の制度と最新の動向に関する情報とともに、意見交換の場を提供することを目的としたもので、今回初めて開催しました。今年度は、諮問機関による推薦書の評価のプロセスに焦点を当て、特にICOMOSの活動の実態を様々な視点からご報告いただきました。
 まず、当研究所の境野より2017年7月にポーランドのクラクフで開催された第41回世界遺産委員会に関する報告を行った後、同じく二神より本研究協議会の趣旨説明と併せ、世界遺産の評価のプロセスと、現状の問題点について報告を行いました。また、今年度の世界遺産委員会で審議された「「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」の推薦書作成作業の中核を担い、諮問機関の評価に臨んだ福岡県の岡寺未幾技術主査より、同資産の世界遺産登録までの道のりについてご報告いただきました。また、2006年に諮問機関の専門家の一人として現地調査を担当した筑波大学の黒田乃生教授より専門家の目から見た現地調査の実態を、さらに2017年12月にICOMOSの会長に就任された九州大学の河野俊行教授より組織としての諮問機関の役割をご報告いただきました。
 本研究協議会には、29の都道府県及び市町村の世界遺産業務の担当者の他、内閣官房、文化庁、文化審議会世界文化遺産部会等の関係者合わせて74名の皆様にご参加いただきました。
 今後もこうした研究協議会の開催を通じて、世界遺産についての調査成果を発信するとともに、関係者の情報共有の場を提供したいと考えています。

研究会「キャスリーン・サロモン氏(ゲッティ研究所副所長)講演―日本美術資料の国際情報発信に向けて」の開催

講演風景

 東京文化財研究所は、2016年2月にゲッティ研究所と日本美術の共同研究推進に関する協定書を締結し、両機関における研究者の交流、日本美術に関するデジタル情報のゲッティ・リサーチ・ポータルへの公開などを協働して行なっています。文化財情報資料部では文化庁の受託研究「著名外国人招へいによる日本美術の発信をテーマとした調査研究事業」によってゲッティ研究所副所長のキャスリーン・サロモン氏を招へいし、ご講演頂いたほか、東京文化財研究所、東京国立博物館、東京国立近代美術館、国立西洋美術館、国立新美術館、京都の国際日本文化研究センターなどの美術アーカイブを視察し、協議を行いました。
 12月6日に東京国立博物館黒田記念館で開催した研究会では、サロモン氏にゲッティ研究所と同図書館のこれまでの歩みと現在の世界的な取り組みについてご紹介頂き、美術研究資料の情報発信における最新の国際動向についてご講演頂きました。そして川口雅子氏(国立西洋美術館)に講演についてのコメントを頂き、当研究所副所長の山梨絵美子の司会によって、日本における美術資料の国際情報発信に向けての課題と展望を考える場としてディスカッションを行いました。当日は美術館・博物館のアーカイブ担当者、大学や研究機関の図書館関係者、美術史研究者など、41名の方々にご参加頂きました。この研究会の報告書は、いずれ当研究所ホームページで公開する予定です。

黒田清輝を支えた人々、岸田劉生を育んだ名画――文化財情報資料部研究会の開催

黒田清輝(後列右端)とその親族。前列左が実父清兼、右が養父清綱。
明治37(1904)年、平河町の黒田自邸にて撮影。

 12月26日に文化財情報資料部月例の研究会が、下記の発表者とタイトルにより開催されました。
・近松鴻二氏(当部客員研究員)「黒田清輝関係文書書翰類の解読」
・田中淳氏(当部客員研究員)「岸田劉生における1913年から16年の「クラシツク」受容について」
 近松氏の発表は、当研究所が所蔵する洋画家黒田清輝(1866~1924年)宛の書簡類に関する調査報告です。研究会では、これまでも度々黒田宛書簡の調査報告を行なってきましたが、今回近松氏が対象としたのは清輝の実父清兼(1837~1914年)、養父清綱(1830~1917年)をはじめ、養姉の嫁ぎ先である橋口家や同家から養子をとった樺山家など、主に親族縁戚から寄せられた書簡類です。2016年8月の田中潤氏による研究会で報告された養母貞子からの書簡もそうでしたが、とくに清輝がフランス留学中に法律家から画家へ転進したことをめぐっては、親族のあいだで議論があった様子が今回報告された書簡からもうかがえました。
 田中氏は洋画家岸田劉生(1891~1916年)の東京、代々木在住期(1913~16年)の画業に焦点をあてた発表を行ないました。劉生は『劉生画集及芸術観』(1920年刊)のなかでデューラーやマンテーニャ、ファン・エイク等、西洋の巨匠の名を挙げ、「これ等のクラシツクの感化をうけた事は本当によき事であつたし、又至当な事である」と述べています。田中氏は、なかでもイタリアルネサンス期の画家アンドレア・マンテーニャに注目、劉生が眼にしたであろう洋書の画集をたよりにその受容のあとを辿りながら、代表作《道路と土手と塀(切通之写生)》(1915年作)等をはじめとする写実表現の形成過程について考察を深めました。

「第1回 祭ネットワーク」の開催

グループディスカッション

 全国各地で無形文化遺産としての「祭」が危ぶまれるなか、無形文化遺産部では伝承者と支援者・愛好者を結ぶネットワークの形成をめざして「祭ネットワーク」を開催しました。その第1回目のミーティングとして、12月9日東京文化財研究所で(株)オマツリジャパンと共催で開催し、「祭」に関心を寄せる愛好者40名以上が参加しました。
 前半は「祭の課題」をテーマに、企業の立場で「祭」をコーディネートし地域活性化に取り組んできた山本陽平氏(オマツリジャパン)、全国の郷土芸能を支援してきた小岩秀太郎氏(公益社団法人全日本郷土芸能協会)、さらに久保田裕道・無形民俗文化財研究室長がプレゼンテーションを行いました。後半ではプレゼンテーションを受けて、参加者が7グループに分かれてディスカッションを行いました。最後にグループごとに「祭の課題」について報告し、次回へつなげました。
 本ネットワークは伝承者や支援者、愛好者、研究者など様々な形で「祭」に関与する方々の意見交流をはかる場として継続開催を予定しています。

ユネスコ無形文化遺産保護条約第12回政府間委員会への参加

第12回政府間委員会の会場の様子

 12月4日から9日にかけて、大韓民国済州島にてユネスコ無形文化遺産保護条約第12回政府間委員会が開催され、本研究所からは3名の研究員が参加しました。
 近年は政府間委員会での議題数も増えてきている傾向にあるため、昨年までより1日長い6日間の会期となりました。本年の委員会では、新たに6件の遺産が「緊急保護リスト」に、33件の遺産が「代表リスト」に記載されました。なお本年は日本から提案された遺産はありませんでした。
 また議題15「緊急事態下における無形文化遺産」の議論においては、日本代表団から、本研究所が取り組んでいる「無形文化遺産の防災」の事例と、アジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)が取り組んでいる「アジア太平洋地域の自然災害・武力紛争下における無形文化遺産の保護」の事例が紹介されました。また本研究所は、無形文化遺産部が2017年3月に作成した冊子『無形文化遺産の防災(Disaster Prevention for Intangible Cultural Heritage)』を会場内で配布しました。
 国際的にも、いかに自然災害などから無形文化遺産を保護するのかという課題が注目を集めています。そうした中で本研究所は、東日本大震災後の文化財レスキューや311復興支援・無形文化遺産アーカイブスの構築といった、災害に対する文化遺産の保護について多くの経験を蓄積してきました。こうした本研究所の成果を国際社会に還元し貢献することは、本研究所にとっても重要な役割であると考えています。

バガン漆芸技術大学との意見交換およびミャンマー漆器製作現場の視察

ミャンマー漆器製作現場の視察

 東京文化財研究所では、国内だけではなく国外の教育研究機関や民間団体等とも連携して文化財の保存修復や調査研究を行っています。そのうちの一つとして東京文化財研究所は 2014年にミャンマー協同組合省小規模産業局とミャンマーの漆工文化遺産保護に関する協定を締結し、2016年に漆器に関するワークショップをバガン漆芸技術大学で開催しています。協定の失効後も2017年2月に同大学でワークショップを開催し、漆工芸品の観察実習と、保存修復の事例と科学分析に関する講義を行い、協力関係を保持しています。
 今後の協力事業の方針を決定するため、2017年12月7日に同大学を訪問し、意見交換を実施しました。バガン一帯で販売している漆器の科学的観点に基づいた安全性や特性が主な議題となり、理解を深めていくべきであると双方で意見が一致しました。また、今後の円滑な連携のため12月7日~8日にはミャンマー漆器製作現場を視察しミャンマー漆器への理解を深めました。

「ミャンマーにおける考古・建築遺産の調査・保護に関する技術移転を目的とした拠点交流事業」(建築分野)による第四次現地派遣

考古局スタッフによる挙動測定
修復専門家への聞き取り調査

 標記の文化庁委託事業(奈良文化財研究所からの再委託)により、今年度第4回目の現地派遣を実施しました。本所員2名による構造挙動モニタリングおよび伝統建築技法・生産体制に関する調査(11月25日~12月3日)と外部専門家1名による煉瓦の材料試験(12月9日~12月12日)が行われました。
 バガンの煉瓦造歴史的建造物3棟を対象に試行している構造挙動モニタリングでは、4回目の測定となる今回も特に変形が進行している徴候はありませんでした。しかし、建造物の屋外面に設置した樹脂製クラックゲージの多くが鳥獣の加害により脱落していたため、金属製ディスクを用いた計測に切り替えました。これらの作業では、今後自主的な測定ができるように現地の考古局スタッフに対する研修も実施しました。
 文化遺産の修復に長年携わってきた現地専門家への聞き取り調査では、本事業で調査してきた伝統建築技法と生産技術の内容について意見交換するとともに、古い時代に用いられたとされるモルタルの製法や材料の詳細を確認しました。得られた情報をもとにこのモルタルの再現に必要な材料をすべて入手することができたので、既往調査でバガン時代の建造物から採取したモルタルとの比較分析を行っていく予定です。また、煉瓦積み職人には、現在の修復工事の実施体制や伝統建築技法・生産技術に対する意識等について聞き取りを行いました。
 ヤンゴン市内のYangon Technological University施設を借りて行った材料試験では、前回(9月)の派遣時に製作したプリズム(4段積の煉瓦試験体)とモルタル試験体に対する曲げ・せん断・圧縮強度試験を実施しました。
 今後もこのような調査を通じて、バガン地域の文化遺産建造物のより良い保存・修復のために有益なデータを蓄積していきたいと思います。

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