研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


台湾における「近代化遺産の保存と推動計画に関する国際シンポジウム」への参加

シンポジウムの様子
現地調査の様子。台北機廠鉄道修理工場内の鍛治工場に残された台工141号スチームハンマー(東洋鐵工所製作、昭和9(1934)年購入)

 近代文化遺産研究室では、平成29(2017)年度から台湾の文化財担当者及び研究者と交流を行い、近代文化遺産の保存活用について、互いの経験と課題の共有を図りつつ、その解決に向けた研究を進めております。
 その一環として、台湾文化部文化資産局と台湾中原大学の主催で平成30(2018)年8月17日に台北市にて開催された「近代化遺産の保存と推動計画に関する国際シンポジウム」に参加しました。シンポジウムには、日本の産業遺産、鉄道、機械分野を代表する専門家が講演を行い、東京文化財研究所からは近代文化遺産研究室長の北河が近代化遺産に係る文化財行政について講演を行いました。シンポジウムには、台湾の行政担当者、文化財所有者、大学研究者、市民団体などが数多く参加し、近代化遺産の保存活用の理念から手法に至る幅広い議論が展開されました。
 シンポジウムに合わせて、台湾の研究者と共に、日本統治時代に建設された水利施設、工場、鉄道施設の保存活用の状況を確認し、その手法や課題について議論を行いました。中には、オートバイメーカーが電動アシスト機能を搭載したレールバイクを開発し、文化財として保護されている鉄道廃線跡の活用を図りながら施設運営も行う、という興味深い事例もありました。また、台中市にある台湾文化部文化資産局も訪問し、施局長らと日台の近代化遺産に係る文化財保護制度や保存活用の歴史、考え方について意見交換を行いました。

台湾における鉄構造物の保存修復に関する現地調査

意見交換の様子

 保存科学研究センター近代文化遺産研究室では、平成29年8月19日から27日の9日間で台湾に現存する日本統治時代(1895-1945)に建造された鉄構造物の保存修復状況に関する調査を実施しました。今回の調査では、大空間を有する工場建築や橋梁など大規模建造物の調査が中心となりました。
 統治時代の建造物の保護は、1987年の戒厳令解除以降に本格的に始まり、指定・登録文化財のおよそ半数が統治時代の建造物です。
 今回の調査では、製糖工場を中心に調査しましたが、煙草や酒の製造工場は1990年代まで国の専売品として管理・製造されていたため、建物や製造機械類が操業停止時の状態で残されていました。こうした工場は、立地環境に大きく左右されますが、台北市などの大都市部に現存する工場の多くは、商業・文化施設へと活用され、まちづくりの拠点として新たな役割を担っていました。
 22日には、文化部文化資産局を訪問し、施國隆局長らと台湾での文化財保存の取り組みについてディスカッションを行いました。台湾では、2000年以降から生産・流通・加工などを含めた産業システムの保存に取り組まれるようになり、日本国内で取り組まれている産業遺産の保存について関心を寄せられ、活発な意見交換が行われました。

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