ミャンマーにおける文化遺産保護協力活動(1)

煉瓦造遺跡の壁画保存に関する研修および調査 6月14日から6月23日の日程で、昨年より継続している壁画の保存修復に関する研修とバガン遺跡群内No.1205寺院の堂内環境調査、屋根損傷状態調査、壁画の崩落個所応急処置を行いました。研修は、ミャンマー文化省考古・国立博物館局(DoA)のバガン支局およびマンダレー支局の壁画修復の専門職員3名を対象に行いました。過去にバガン遺跡群内の寺院壁画に対して行われた修復事例を視察しながら、壁画の損傷の原因やその対処方法について討論を行った後、No.1205寺院において実際に壁画修復時の調査記録方法、修復材料の調整方法等についての実習を行いました。また、平成26年度の調査時に指摘されていた鳥獣や虫による汚損や破壊に対する対策として、シロアリの忌避剤や寺院入口の扉について指導し、DoA職員らと共に設置を行いました。研修生からは、今回の研修内容を他の修復事業にも役立てていきたいとの意見も聞かれ、今後の活用が期待されます。
ミャンマーにおける文化遺産保護協力活動(2)

第4回木造建造物保存研修の実施
6月30日から7月11日まで、インワ・バガヤ僧院およびミャンマー考古・国立博物館局(DoA)マンダレー支局にて、第4回の木造建造物保存研修を実施しました。DoA職員10名と技術大学マンダレー校卒業生1名(オブザーバー)が参加した今回研修では、本堂の床組及び外壁周りの破損部位と取替材に関する調査に続いて、内陣周囲の高欄を対象として彫刻も含む総合的観察記録の演習などを行いました。従来と同様に数名ごとのグループで行う調査から、個人単位で行う作業の比重を徐々に高めていき、最終の発表も一人ずつに行ってもらいましたが、かなり高い水準の調査報告がなされるようになり、研修成果が着実に彼らの身についてきたことを実感させられました。
ワークショップ「日本の紙本・絹本文化財の保存修復」の開催


本ワークショップは、海外にある日本の書画等の有形文化財と装こう修理技術といった無形文化財と、そしてそれらを修復・保存する文化への理解を広げる事業の一環として毎年開催しています。本年度は7月8~10日の期間で基礎編「Japanese Paper and Silk Cultural Properties」を、13~17日の期間で応用編「Restoration of Japanese Folding Screen」をベルリン博物館群アジア美術館で行いました。
基礎編では、文化財の制作から活用・保存に関する講義・実習を行い、20名が受講しました。講義では原材料として紙・糊や膠等の接着剤・日本画の絵の具、また日本の文化財保護や表具文化について取り上げ、それらを踏まえた上で、書画の制作や表具、掛け軸の取り扱い等の実習を行いました。
応用編には10名が受講し、装こう修理技術に基づく屏風の修復を念頭に、屏風作製実習と講義、応急修理の実演を行いました。実習では、受講生各自が下張りから本紙の貼り付けまでを行って屏風を作製し、その構造と各部位の機能や、その為の道具と装こう技術について理解を深めました。
基礎・応用編ともに、ヨーロッパ各地及びアジア・オセアニアの修理技術者、学芸員、学生が受講し、様々な質疑応答が交わされ、改めて日本の紙本・絹本文化財の保存修復が注目されていることを感じました。今後とも、一人でも多くの技術者にその知識・技術の深さを体感していただき、在外の日本文化財の保存に貢献できるよう、本ワークショップを企画していきたいと考えます。
選定保存技術の調査-邦楽器原糸・檜皮葺・昭和村からむし



文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行い、日本の文化財を守り支える伝統的技術として海外に情報発信する取り組みを行っています。2015年7月には邦楽器原糸・檜皮葺・昭和村からむしの調査を行いました。
三味線、箏などは伝統的な邦楽器であるとともに、文楽や歌舞伎の上演に必要不可欠な楽器です。これらの楽器の絃は、現在ではナイロンなどの合成繊維なども用いられていますが、絹糸製のものが最良とされ、その演奏と音色を支えていると言っても過言ではありません。滋賀県木之本町邦楽器原糸製造保存会にご協力頂き、座繰り(繭から糸を取る作業)の工程について聞き取り調査と写真撮影を行いました。近年では国内の養蚕業の衰退が進行しており、伝統的な技術の継承が課題となっています。
檜の立木から採取した樹皮を整えて屋根の材料として葺いていく檜皮葺は、伝統的な寺社建築などに用いられており、定期的に造替する必要があるため、良質な材料の確保と技術の伝承が重要です。昨年10月の檜皮採取の調査に引き続き、今回は公益社団法人・全国社寺等屋根工事技術保存会所属の株式会社友井社寺にご協力を頂き、奈良県生駒市の寳山寺聖天堂において屋根葺替工事の調査撮影をさせて頂きました。
重要無形文化財に指定されている越後上布・小千谷縮は、福島県大沼郡昭和村で栽培・加工される苧麻(からむし)を原料として作られます。昭和村からむし生産技術保存協会および会員の方々のご協力のもと、2メートル以上に成長したからむしの収穫、皮剝、苧引きの各工程について調査させて頂きた。他の伝統工芸産業と同様に、従事者の高齢化が進んでおり、後継者育成と技術の伝承が喫緊の課題となっています。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作する予定です。
カンボジア、タネイ遺跡における三次元写真測量


国際的な支援により様々な手法での修復活動が進むアンコール遺跡群の中で、タネイ遺跡は、過去に一度も本格的な修復の手を加えられることなく、鬱蒼とした森の中で静かに往時の姿をとどめています。東京文化財研究所は、この遺跡の価値を損なわず、かつ観光を含む活用面にも配慮した適切な保護を図るため、アプサラ機構による保存整備事業計画策定への技術的支援を継続しています。
昨年より着手した同遺跡でのSfMを用いた三次元写真測量は、できるだけ安価かつ簡便に現地スタッフが実行可能な遺跡の現状記録手法の確立を目指して試行してきたものです。5月27日から6月2日までの日程で実施した今次ミッションでは、同機構スタッフとともに、内回廊内の全ての遺構の写真撮影と標定点のトータルステーション測量を行い、これらをオープンソースのソフトウェア(Visual_SfM、SfM georef、Meshlab)を用いて処理することで、内回廊内をカバーする遺跡の三次元モデルを作成しました。現在、モデルの精度を検証中ですが、この手法が確立されれば、特別の機材や予算を必要としない記録方法として、アンコール遺跡群だけでなく、他の途上国においても応用可能なものとなることが期待されます。
なお、同作業の概要と進捗状況については、6月4、5両日にアプサラ機構本部にて開催されたアンコール遺跡救済国際調整委員会(ICC)第24回技術会合において報告を行いました。遺跡全域のモデル作成を含む基礎データ収集は、本年度中に完了する予定です。
大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト―「保存修復材料としての和紙研修」の実施―

国際協力機構(JICA)が行う大エジプト博物館保存修復センター(GEM-CC)プロジェクトの一環として、GEM-CCでパピルス等の有機遺物の保存修復を担当している2名を対象に、6月8日~17日まで「保存修復材料としての和紙研修(第4期)」を実施しました。
本研修は、日本の伝統的な修復技術である装こう技術をパピルス等の保存修復へ応用するため、4回シリーズで開催してきた研修の最終回です。研修員はこれまでに当研究所および京都の修復工房で8週間、日本の文化財保存修復の概要や、裏打ち等の基礎的な装こう技術を学んできました。そして今回はパピルスサンプルを用いて「引張り試験」や「こわさ試験」といった様々な物性試験方法を学び、データ整理や分析方法についても理解を深めました。また、研修員より要望の高かった、天然染料を用いた和紙の染色方法についても講義・実習を行いました。彼らは非常に高い関心を持って研修に臨んでおり、講師に積極的に質問し意見交換を行うなど、多くのことを吸収していました。
GEM-CCプロジェクトでは、研修内容をGEM-CC内により広く浸透させ、全体の底上げを図るためにも、研修員が学んだ知識や経験を自らが指導者となって同僚に教え伝えていくことで、スタッフ間の協力体制を構築、強化していくことを目指しています。こうした水平展開の後には、将来的に実際の日常業務に活用・応用していくためのアクションプランを作成する予定です。
ユネスコ日本信託基金事業「バガン建築遺産保存のための技術支援」に係る保存状態調査



本事業は、ミャンマー・バガン遺跡群を構成する歴史的建造物の保存管理体制強化に資することを目的として、遺跡インベントリーの更新および構造物保存状態評価手法の確立に向けた支援を行うとともに、保存管理を担当する同国文化省考古・国立博物館局(DoA)の人材育成にも貢献しようとするもので、昨年からの2ヶ年事業として実施中です。
東京文化財研究所では、ユネスコの委託により、主に構造物保存状態評価に関する事業項目に参加しています。ここまでは、遺跡内にあるバガン時代建立の建造物全てを対象として保存状態の概要を短期間で効率的に把握するための簡易状態評価シートの作成に注力してきましたが、次の作業段階として、この簡易評価を通じて構造的問題が認められた建造物を対象に行う詳細状態評価の方法論の検討に入ったところです。同じバガン遺跡といっても、個々の歴史的建造物は規模や構造形式だけでなく、立地環境や破損状態にも相当のバリエーションがあります。このため、詳細状態評価のプロセスは簡易状態評価のように標準化することは困難ですが、基本的な問題点や作業フローはある程度のパターン化が可能と考えられるため、なるべく一般的な規模と形式を持ち、本格的な修理の手が未だ加わっていない建造物として、Phya-sa-shwe-gu寺院(No.1249)を選定し、詳細状態評価のパイロット・ケーススタディを行うこととしました。
6月11日~19日にかけての現地調査では、イタリア人構造専門家、ミャンマー人技術者およびDoAスタッフとともに、クラック分布の詳細記録、シュミットハンマーや超音波測定器による非破壊強度試験、微小削孔と内視鏡による壁体内部調査、基礎構造確認のための発掘調査等を実施しました。また最終日には、ヤンゴンの研究施設にて、上記寺院から採取した煉瓦試料の室内強度試験について協議しました。
同寺院の建物は、構造的劣化がかなり進行しており、回廊側背面の外壁は特に危険な状態にあります。今回得られた情報やデータの分析を通じて、破損要因およびメカニズムを解明するとともに、適切な診断フローの提示に向けた検討を引き続き行っていく予定です。
選定保存技術の調査—鬼瓦・宮古苧麻績み・琉球藍・宇陀紙




文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行い、日本の文化財を守り支える伝統的技術として海外に情報発信する取り組みを行っています。2015年6月には鬼瓦・宮古苧麻績み・琉球藍・吉野宇陀紙の調査を行いました。
寺院建築などの本瓦葺きの屋根には数十種類の瓦が用いられており、伝統的かつ用途に応じた高度な技術・技法の継承が必要不可欠です。奈良県生駒郡の山本瓦工業株式会社にご協力頂き、鬼瓦などの製作工程を調査しました。
宮古苧麻績みは、苧麻の茎の表皮から繊維を取り、手績みして糸を製作する技術です。重要無形文化財・宮古上布等の沖縄の染織技術の保存・伝承に重要なものですが、技術者の高齢化、後継者の育成が急務の課題となっています。
宮古上布にも用いられる琉球藍は、本州の藍とは別種の藍による染料で、現在その主要な生産地は沖縄本島の本部町伊豆味に限られており、貴重な存在となっています。
また奈良県吉野郡の福西和紙本舗にて、自家栽培の楮を用いた伝統的な手漉き和紙の製作工程についての聞き取り調査・撮影を行いました。この吉野宇陀紙は、主に掛軸の裏打紙として用いられ、書画などの文化財の保存修復で世界的に評価され、使用されています。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作する予定です。
英国文化財保存修復学会(ICON, The Institute of Conservation)での発表


2015年4月8日から10日に、The Institute of Conservation(英国保存修復学会。通称ICON)のBook and Paper Groupにより学会「Adapt & Evolve: East Asian Materials and Techniques in Western Conservation(適合と発展: 西洋の文化財修復における東アジアの材料と技術)」が、ロンドン大学ブルネイギャラリーを主会場として開催されました。
学会は、ロンドン市内にある関係諸機関の視察、会議(発表およびパネル質疑)、各種ワークショップからなる充実したものでした。増田勝彦名誉研究員(現、昭和女子大学教授)、早川典子主任研究員、加藤雅人国際情報研究室長が、国際研修「紙の保存と修復」(JPC)、在外日本古美術品保存修復協力事業、文化財修復材料の適用に関する調査研究などのプロジェクト成果に関連して報告を行いました。また、翌日に行われたポストワークショップでは、早川典子主任研究員と楠京子アソシエイトフェローが、日本の修復分野における伝統的な接着材について解説し、特にデンプン糊に関しては製法の実演と実技指導を行いました。
主催者によれば世界各国から300名ほどの参加者があったとのことですが、質疑応答中の座長から会場への質問で30名以上がJPC修了者であることが判明し、さらにその他にも当研究所主催のワークショップ修了者も確認できたことから、当該分野における当研究所が担ってきた役割の大きさが伺えました。また、今後も日本から情報発信を続けるよう、多くの参加者から要望がありました。
選定保存技術の調査—錺金具・金襴・杼



文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行っています。選定保存技術保持者の方々から実際の作業工程やお仕事を取り巻く状況や社会的環境などについてお話を伺い、作業風景や作業に用いる道具などについて、企画情報部専門職員・城野誠治による撮影を行っています。2015年4月には京都で錺(かざり)金具、金襴、杼(ひ)製作の調査を行いました。
森本錺金具製作所では四代目森本安之助氏より社寺建造物の錺金具や荘厳具などの製作についてのお話を伺い、銅板を型取りし、文様を彫り、鍍金(金メッキ)し、仕上げていくという錺金具の一連の製作工程を調査させて頂きました。
表具用古代裂(金欄等)を製作している廣信織物では、廣瀬賢治氏より西陣織の現状についてお話を伺い、金糸を緯糸に織り込んでいく金襴の製作を取材させて頂きました。またこうした製織に必要不可欠な杼(織物の経糸の間に緯糸を通す木製の道具)を製作されている長谷川淳一氏より、さまざまな種類・用途の杼についてご説明頂き、実際の作業工程について調査させて頂きました。
文化財はそのものを守るだけではなく、文化財を形作っている材料や技術も保存していく必要があります。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作し、日本の文化財のありかた、文化財をつくり、守る材料、技術として発信していく予定です。
タジキスタン共和国遺跡出土壁画断片の調査


3月3日から3月8日までタジキスタン国立博物館、フルブック博物館、及び国立古代博物館において、遺跡出土壁画断片の調査・整理・撮影を実施しました。
タジキスタン国立博物館には、ソグディアナの都城址ペンジケント遺跡から出土した壁画4点(7~8世紀製作)が所蔵・展示されています。類例が限られている貴重な学術資料であるこれら壁画の美術史的価値と保存状態を詳細に理解する目的で、描画技法・修復状態の調査、そして、細部に亘る写真撮影を実施しました。
また、フルブック博物館においては、1980年代前半の発掘以降、ほぼ未整理のまま保管されていたフルブック遺跡出土の壁画断片(10~11世紀頃製作)の整理・写真撮影を実施しました。壁画断片は1つの木箱の中に積み重ねて収蔵されていたため、まずは一層ずつプラスティック・コンテナに移し換え、それぞれに整理番号を付して記録していきました。そして、コンテナ毎に写真撮影を行うと同時に、各断片の保存状態を記録し、保存修復作業に活用できる基礎的な情報を得ることができました。
さらに、タジキスタン国立古代博物館に収蔵・展示されているカライ・カフカハI遺跡出土の壁画断片(8世紀頃製作)の現状を記録すべく、肉眼で詳細に観察しました。
今回の調査成果は、今後タジキスタン共和国において関連する壁画断片の保存修復作業が実施される際に有効に活用されることが期待されます。
壁画の保存修復に関するミャンマー人専門家の招へい研修

文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、ミャンマー文化省考古・国立博物館局の職員である壁画修復専門家2名を、2015年3月9日から3月13日の期間で日本に招へいしました。研修では壁画の保存修復に関する講義・実習、修復工房の見学、寺院壁画の視察を行い、日本で行われている壁画修復について理解を深めていただきました。
研修の前半では、日本の壁画(装飾古墳、古墳壁画、寺院の漆喰壁画、板絵など)の歴史、材質・技法的な特徴や修復事例に関する講義、古墳壁画修復に使用される材料・技術についての講義、および模擬壁画片を用いた修復実習を行いました。研修生は新たに知る材料や技術に対して強い関心を抱き、活発に質問を行っていました。また、絵画や書籍等日本の美術作品の修復を行っている修復工房を訪問して実際の修復作業を見学するとともに、修復における基本方針についてもお話を伺いました。研修の後半では京都・奈良を訪問し、法界寺、法隆寺、薬師寺に残る壁画の視察を行い、講義で紹介した壁画を間近に観察しながら壁画修復に関する意見交換を行いました。今後、本研修内容をミャンマーでの壁画修復事業に役立てていただけるよう、協力を続けていきたいと考えています。
オーストラリアにおける日本絵画調査

海外で所蔵されている日本美術作品は、日本文化を紹介する上で大切な役割を担っています。ところが、海外には日本の作品の保存修復専門家が少ないことから適切な処置がなされず展示が困難となっている作品も少なくありません。こうした日本美術作品の保存と活用を目的として、当研究所では在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。本事業では在外作品の修復協力やワークショップを実施して作品の保存と修復に努めています。今回はこうした修復協力事業における候補作品を選出するための調査として、オーストラリアで所蔵されている日本絵画作品の調査を行いました。
3月16日から19日にかけて、ヴィクトリア国立美術館とオーストラリア国立美術館を訪れました。メルボルンのヴィクトリア国立美術館はオーストラリア最古の美術館であり、一方キャンベラのオーストラリア国立美術館は国内最大規模を誇る美術館です。今回の調査では、計8件(14点)の掛軸、巻子、屏風作品の詳細な状態調査を行うとともに、美術史的観点からの調査も行いました。この調査結果をもとに作品の美術史的評価や修復の緊急性などを考慮し、本事業で扱う修復候補作品を選定していきます。また、今回の調査で得られた情報は所蔵館に提供し、今後の作品の展示計画、保存修復計画の策定に役立てていただきたいと考えています。
「カレンダー:文化財を守る日本の伝統技術」の作成

文化遺産国際協力センターでは、文化財の保存のために必要不可欠な選定保存技術にかんする調査を進めています。選定保存技術保持者および選定保存技術保持団体の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。この調査の成果公開・情報発信の一環として、2015年度版の海外向けのカレンダーを2種類(壁掛け型・卓上型)作成しました。このカレンダーは「文化財を守る日本の伝統技術」と題し、2014年度の調査のなかから、和紙製造・漉き簀編み・左官・本藍染め・檜皮採取・たたら製鉄・蒔絵筆を取り上げました。全ての写真は当所企画情報部専門職員・城野誠治の撮影によるもので、それぞれの材料や技術の持つ特性を明確に示す一瞬をとらえる視覚的効果の高い画像で構成し、各図の解説は英語と日本語で掲載しています。このカレンダーは諸外国の文化財関係の省庁・組織などに配付し、広く海外の人々に日本の文化財を守り伝える技術や日本文化に対する理解の促進につなげていきたいと思います。
日本美術技術博物館Manggha所蔵の日本絵画作品調査


日本の古美術品は欧米を中心に海外でも数多く所有されていますが、これらの保存修復の専門家は海外には少なく、適切な処置が行えないため公開に支障を来している作品も多くあります。そこで当研究所では作品の適切な保存・活用を目的として、在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。修復協力への要望が強く、その意義が認められると考えられた日本美術技術博物館Manggha所蔵の作品調査を行いました。
同館は、クラクフ(ポーランド)に所在する東欧で有数の日本美術品を有する博物館で、アンジェイ・ワイダ監督らの発意による京都クラクフ基金や民間からの募金協力、日本・ポーランド両国政府の援助によって1994年に設立されました。同館のコレクションは美術品収集家のフェリクス・ヤシェンスキ(1861~1929)が収集した作品を中核とし、浮世絵をはじめとする日本絵画、陶磁器、漆芸品、染織品など多岐に渡っています。
調査は2015年1月13日~23日及び2月3日~6日の2期に分けて行いました。1期目の調査で84点の絵画を調査し、美術史的な作品価値、修復の必要性と緊急性の観点から7点の作品を選出しました。2期目の調査では、その7点の作品について、修復に要する期間や適切な修復方法を検討するための詳細な調査を行いました。
今後、調査した作品の修復計画を立案し、在外日本古美術品保存修復協力事業において修復を行う予定です。また、調査で得られた情報を同館の学芸員、保存修復担当者と共有し、作品の保存・展示に役立てていただきたいと考えています。
研究会「ミャンマーの木造建築文化」の開催

運営費交付金事業「東南アジア諸国等文化遺産保存修復協力」の一環として、2月13日に当研究所セミナー室で標記研究会を開催しました。
当研究所では、平成25年度よりミャンマーの文化遺産保護に関する文化遺産国際協力拠点交流事業を文化庁から受託するなど、同国の文化財保存に関する調査研究や人材育成等に協力しています。対象分野の一つである歴史的木造建造物の保存については、調査手法に関する研修等を実施していますが、ミャンマーの木造建造物自体に関する調査研究の蓄積が国内外ともに乏しく、未だ十分な理解が進んでいないのが現状です。
同分野における調査研究の先駆者である元ラングーン工科大学建築学部教授のレイモンド・ミョーミンセイン氏と、気鋭の若手研究者である技術大学マンダレー校建築学部准教授のザーチミン女史のお二方をお招きし、日本側からの発表とあわせて、同国の伝統的木造建造物に関するこれまでの研究成果を共有するとともに、ミャンマー人にとっての文化的意義や今後の研究課題等をめぐっても様々な意見が交わされました。
なお、本研究会については、各発表者による論考とパネルディスカッションの内容を掲載した報告書が刊行されます。
平成26年度協力相手国調査の実施―マレーシア・ネパール―


文化遺産国際協力コンソーシアムは、2月にマレーシア及びネパールにおいて協力相手国調査を実施しました。本調査は、文化遺産保護に関し、現状や課題等の情報を収集し、ニーズを把握するとともに、国際協力の可能性を探ることを目的としています。
マレーシアでは、まず観光文化省国家遺産局局長らと面会し、国レベルでの文化遺産保護体制の概況情報を得ました。その後、世界遺産「マラッカとジョージタウンの歴史都市」、ケダ−州のルンバ•ブジャン考古遺跡群等を視察し、保護の実情を調査しました。また少数民族が今も伝統を守りつつ暮らすボルネオ島のクチンも訪問し、マレー半島と異なる有形・無形の文化遺産保護の体制や取り組みについて情報を収集しました。
ネパールでは、世界遺産である「ルンビニ遺跡」で実施中のユネスコ文化遺産保存日本信託基金事業、及び「カトマンズ盆地」の伝統建築の保存管理状況等を視察しました。無形遺産では、ヒンドゥー教祭礼のシバラトリーと、チベット正月の行事ギャルポ・ロサールを視察し、聞き取り調査を行いました。その他ユネスコ・カトマンズ事務所、文化省、考古局、NPOカトマンズ盆地保存トラストを訪問し、情報を収集しました。
報告書は関係機関に配布するとともに、コンソーシアムのウェブサイトでも公開予定です。
イランにおける文化遺産の保護に関する現地調査


文化遺産国際協力センターでは、1月7日から1月23日まで、イランにおける文化遺産保護の現況と、今後の国際協力の可能性を探るため、イラン国内の9か所の世界遺産を含む文化遺産の保護に関する現地調査を実施しました。
イランは2015年現在、17件の世界文化遺産を持つ文化大国です。ペルセポリスやイスファハーンのイマーム広場などの文化遺産の視察においては、ICHHTO(イラン文化遺産・工芸・観光庁)の協力の下、現場の保存・修復活動の経緯、現在の文化遺産保護に関する問題、現場でのニーズ等について遺跡管理者から直接話を伺う事ができました。
テヘランではICHHTOの副長官であるM.タレビアン氏と面談し、当研究所における事業の紹介、イラン各地の文化財視察を通じて見えてきた今後の文化遺産保護の在り方について意見交換を行いました。併せて、イランを代表する研究機関であるRICHT(イラン文化遺産・観光研究所)の訪問を行い、その研究所の視察と意見交換を行いました。
日本はこれまでユネスコ日本信託基金を通じて、イランの代表的文化遺産であるチョガ・ザンビール遺跡や2003年の地震で崩壊したアルゲ・バム遺跡の修復に対して支援を行ってきました。このように既に日本との文化的な交流があったイランは、今後日本との一層の協力関係をつくり、広く共同研究や保存修復を行いたいとの希望が寄せられました。
ミャンマーにおける文化遺産保護協力活動(1)

第3回木造建造物保存研修の実施
1月13日から1月23日まで、インワ・バガヤ僧院およびミャンマー考古・国立博物館局(DoA)マンダレー支局にて、建物が当初建立されて以後の形式変遷や各部仕様に関する調査手法を主なテーマに、DoA職員10名と技術大学マンダレー校教員1名、同卒業生1名(オブザーバー)が参加して、標記研修を実施しました。グループで行った調査結果の発表ではCADで作成した図を用いたプレゼンテーションを行うチームもあり、展開図等のスケッチ作成も研修開始の頃に比べると相当の上達が見られるなど、研修生の自発的取り組みとともに継続的研修の効果が表れてきているのは嬉しい限りです。
ミャンマーにおける文化遺産保護協力活動(2)

煉瓦造遺跡の壁画保存に関する調査および研修
1月19日から1月26日の日程で、昨年より継続しているバガン遺跡群内No.1205寺院の堂内環境調査、屋根損傷状態調査、壁画の崩落個所応急処置を行いました。特に屋根の調査では雨漏り被害とシロアリ営巣被害の関連性が裏付けられ、今後DoA職員と協力して有効な対策を検討していく予定です。また、バガン考古博物館ではDoAバガン支局及びマンダレー支局の壁画修復の専門職員5名を対象に、壁画修復の調査記録方法についての研修を行いました。ミャンマーでは修復時の調査記録がほとんど行われていないため、研修を通して基礎的な調査記録方法を学び、その重要性を認識してもらいたいと考えています。