吉良文男旧蔵図書の受贈

受贈図書の一部

 資料閲覧室では、このたび陶磁史研究家であった吉良文男氏(1941~2022)の旧蔵図書を受贈しました。
 美術専門出版社であった座右宝刊行会に入社し、斎藤菊太郎氏のもと「編集者」として活動を始めた吉良氏は、『世界陶磁全集』(1975年~全22巻)、そして『世界美術大全集』東洋編(1997年~ 全18巻)などの編集に携わりながら、世界各地を取材し、編集と研究(陶磁史)を両輪で展開させていきました。昭和59(1984)年には後に東南アジア陶磁史上重要な発見となるタイ北西部のターク県メーソート出土の陶磁器をいちはやく現地から日本に報告したことでも知られています。多岐に渡る業績のなかでも特に東南アジア陶磁史、韓国陶磁史の研究にとりわけ大きな足跡を残し、東洋陶磁学会常任委員を長く務め、また平成11(1999)年には第20回小山冨士夫記念賞を受賞されました。
 文化財情報資料部では、このたびご遺族のご協力をいただきながら、プロジェクト「日本東洋美術史の資料学的研究〔シ02〕」の一環として、令和7(2025)年1月に田代裕一朗研究員が、香川の自宅に遺された旧蔵図書の調査をおこない、東南アジア陶磁、韓国陶磁に関する外国書を中心にその一部を受贈しました。これらのなかには、日本国内の図書館に所蔵がなく、研究所が唯一の所蔵機関となる図書も含まれています。一連の資料は、巨視的に見た時、単に陶磁史の領域に留まらず、アジア文化の理解にも役立つ日本唯一の手がかりにもなると思われます。日本における中核的な文化財研究機関として、目先の意義や成果だけを追い求めるのではなく、長期的な視座に立って、先学が積み上げた遺産を大切に継承し、日本の「知」に資することができれば幸いです。
 学術的に非常に貴重な資料をご寄贈くださったご遺族様にこの場をお借りして篤く御礼申し上げます。

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