研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


調査録音「あずまりゅうげんきん」第2回の実施

収録準備の様子
収録時の様子(左から九代目藤舎蘆船氏、藤舎蘆高氏)

 令和6(2024)年2月16日、無形文化遺産部は東京文化財研究所の実演記録室(録音スタジオ)で、あずまりゅうげんきんの調査録音(第2回)を行いました。
 東流二絃琴は、細長い板に張った二本の絃を弾じつつ唄う楽器・二絃琴の流派の一つです。明治の初めごろに初代とうしゃせん(1830-1889)によって創始され、東京を中心に伝承されてきました。しかし今日では伝承者が極めて少なく、一般に参照できる視聴覚資料の曲目も限られていることから、調査録音を実施しています。
 第1回録音では初代蘆船作の6曲をとりあげましたが、伝承曲には、後の世代の作品も含まれます。第2回では、『岸の藤波』『つの花』『菊の寿』『花の雨』『松風の曲』『船遊び』の6曲を収録しました。1曲目は四代目蘆船(1869-1941)、2曲目は三代目蘆船(?-1931)作と伝わっています。また4曲目は初代蘆船作の歌詞へ、後の演奏家が旋律を補い、再び弾き継がれるようになったとのことです。前回よりも成立年代に幅のある収録曲からは、レパートリーにおける演奏技法や曲想の多様さが窺われました。いずれも東流二絃琴「あずまかい」の九代目藤舎蘆船氏、藤舎こう氏による演奏です。
 無形文化遺産部では、今後も演奏機会の少ない芸能や、貴重な全曲演奏の記録作成を継続していく予定です。

令和5(2023)年度保存科学研究センター新規導入機器

 保存科学研究センターでは令和5(2023)年度に「ミクロトーム」「生物顕微鏡(偏光・位相差・微分干渉観察付)」「赤外線顕微鏡」を導入しました(図1)。これら新規導入機器についてご紹介します。
ミクロトーム
 試料を正確に切断する装置です。例えば、紙や布がどのような素材でできているか分析する時、試料を切断して断面を顕微鏡観察することがあります。従来は、剃刀など鋭い刃物で切断したり、樹脂に埋め込んで研磨したりしていました。しかしこれらの方法では、試料が変形する・樹脂に埋もれてしまい試料が観察しづらい・操作に熟練を要する、などの問題がありました。ミクロトームによりこれらの問題が解消し、紙や布の素材判別が容易になりました。実際の断面観察結果例を図2に示します。木材や漆器など有機物からなる文化財全般に適用できます。
生物顕微鏡
 偏光観察は結晶構造の観察に、位相差顕微鏡は微小構造の観察に、微分干渉顕微鏡は細胞や生体組織の観察に、それぞれ有効な観察法で、普通の顕微鏡観察では見えなかったものが見えるようになります。例えば、文化財に付着したカビや細菌の観察、紙や織物の繊維観察、文化財に用いているでんぷん糊や膠などの観察などに威力を発揮します。
赤外線顕微鏡
 赤外線カメラは文化財観察によく用いられますが、その顕微鏡版です。書画等で用いられる墨線やある種の染料がはっきり視認できるようになるため、素材の判別や、絵画の下地の観察などに利用することができます。
 これらの装置を用いて文化財分析を今後も進めていきます。

【図1】新規導入機器の写真

ミクロトーム
生物顕微鏡
赤外線顕微鏡

【図2】名塩雁皮紙の断面

メスで断面出し
ミクロトームで断面出し

メスで断面を出すと、大量に含まれる粘土鉱物が刃物で押されて雁皮繊維を覆い隠し、本来の姿が失われてしまう。ミクロトームで断面を出すと繊維間の隙間が確認され、繊維の中空構造なども損なわれていない。

カンボジア人専門家招聘「カンボジア・アンコール・タネイ寺院遺跡東門修復竣工記念 技術交流事業」の実施

史跡整備事例(鴻臚館跡)の視察

 東京文化財研究所文化遺産国際協力センターでは、カンボジア王国の世界遺産アンコール遺跡群・タネイ寺院遺跡において、カンボジア政府アンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(アプサラ機構)と約20年間にわたって協力事業を継続しており、令和4(2022)年11月には、両者が協働で進めてきた同寺院遺跡東門の全解体修復工事が竣工したところです。
 これを記念し、令和4(2022)年2月13日~19日にかけて、アンコール遺跡群の保存整備を担うアプサラ機構等の職員を日本へ招聘する技術交流事業を実施しました。今回、来日したのは副総裁のキム・ソティン氏と遺跡保全考古局長のソム・ソパラット氏、および昨年までアプサラ機構と当研究所との協力事業担当を務めたセア・ソピアルン氏(現サンボー・プレイクック機構所属)の3名です。
 14日に「カンボジア・アンコール・タネイ寺院遺跡東門修復竣工記念 研究会 」を当研究所で開催した後、15日~18日にかけて、九州地方、関西地方を巡り、国指定重要文化財建造物保存修理工事現場(旧オルト住宅・旧長崎英国領事館本館ほか9棟・聖福寺大雄宝殿ほか3棟)や史跡整備の事例(国指定史跡鴻臚館跡)等のスタディツアーを行いました。
 研究会やスタディツアーを通じ、遺産保護の研究や現場に関わる両国の専門家が顔を合わせて熱心な議論が交わせたことで、お互いの国の文化遺産の特徴や修理手法、整備方法等の相互理解がさらに深められた有意義な機会となりました。
※本事業は、文化財保護・芸術研究助成財団の助成を受けて実施しました。

バハレーンにおける歴史的なイスラーム墓碑の3次元計測(第2次)

アブ・アンバラ墓地での調査
再利用されるアブ・アンバラ墓地の墓碑

 東京文化財研究所は長年にわたり、バハレーンの古墳群の発掘調査や史跡整備に協力してきました。令和4(2022)年7月に現地を訪問してバハレーン国立博物館のサルマン・アル・マハリ館長と面談を行った際に、モスクや墓地に残されている歴史的なイスラーム墓碑の保護に協力してほしいとの要請がありました。現在、同国内には約150基の歴史的なイスラーム墓碑が残されていますが、塩害などにより劣化が進行しています。
 この要請に応えた協力活動として、令和5(2023)年には写真から3Dモデルを作成する技術であるSfM-MVS(Structure-from-Motion/Multi-View-Stereo)を用いた写真測量を行い、バハレーン国立博物館所蔵の20基、アル・ハミース・モスク所蔵の27基の3次元計測を完了しました。作成したモデルは、広く国内外からアクセスできるプラットフォームである「Sketchfab」に公開し、墓碑のデータベースとして活用されています。
 令和6(2024)年2月9日から15日にかけて、バハレーン国内の他の墓地にも対象を広げた3次元計測調査を再び行いました。同様に写真測量を行い、アブ・アンバラ墓地の47基、アル・マクシャ墓地の2基、ジェベラット・ハブシ墓地の11基、ジドハフ・アル・イマーム墓地の3基の計測を完了しました。これらの墓碑は、過年度と異なりイスラーム教徒の墓地内に位置しており、一部の墓碑は現代の墓に再利用されていました。
 墓碑の寸法、形状、碑文に関する情報が合わさった3Dモデルによる100基以上のデータベースはこれまで例がなく、墓碑の記録保存に加えて、本調査の成果がイスラーム墓碑研究にも役立つことが期待されます。

公開研究会「航空資料の保存と活用」の開催

講演の様子
パネルディスカッションの様子
展示の様子

 保存科学研究センターでは、令和6(2024)年1月23日に日本航空協会との共催で公開研究会「航空資料の保存と活用」を東京文化財研究所地下セミナー室にて開催致しました。
 航空機そのものに加え、図面や写真等も含めた航空資料は、我が国の近現代史におけるかけがえのない文化財ですが、従来の文化財とは資料の材質や規模などにおいて異なる点も多く、文化財としての保存と活用には新たな手法が求められる場面が多々あります。この度の公開研究会は、文化財、文化遺産としての航空資料の現状と課題について改めて考えることを目的として開催致しました。
 初めに、当研究所長・齊藤孝正および日本航空協会副会長・清水信三氏の開会挨拶と保存科学研究センター特任研究員・中山俊介の趣旨説明がありました。講演では、日本航空協会・苅田重賀氏、中山、保存科学研究センターアソシエイトフェロー・中村舞が「航空史資料の保存と課題」と題し、日本航空協会と当研究所が平成16(2004)年度より実施している共同研究「航空資料保存の研究」の成果や課題を報告致しました。元日本航空協会・長島宏行氏からは「三式戦闘機「飛燕」の羽布の修復」のタイトルで、長島氏が携わった三式戦闘機「飛燕」(日本航空協会所蔵、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にて展示)の羽布の修理について、詳細な事例のご報告を頂きました。南九州市の知覧特攻平和会館・八巻聡氏からは「四式戦闘機「疾風(1446号機)」の来歴と保存の取り組み」と題し、四式戦闘機「疾風(1446号機)」(同館所蔵)について、ご所蔵に至るまでの経緯と、取組まれている調査活動についてご報告を頂きました。併せまして、保存科学研究センター研究員・千葉毅、同研究員芳賀文絵より「南九州市近代文化遺産に関する東京文化財研究所の取り組み」として、日本における航空機の文化財としての指定状況と、南九州市と当研究所が共同で実施している調査研究の紹介を致しました。その後、これらの講演を受け、保存科学研究センター長・建石徹をファシリテーターとして、苅田氏、長島氏、八巻氏、中山を交えて行ったパネルディスカッションでは、文化財、文化遺産としての航空資料を取り巻く現状や課題について活発な意見交換がなされました。最後に建石が閉会挨拶を行い、盛会のうちに終了しました。
 また、当日は会場のホワイエにて、日本航空協会と当研究所との共同研究に関連する資料として、同協会所有の山崎式第一型グライダー「わかもと号」の水平尾翼、伊藤式A2型グライダーの垂直尾翼、山路真護作「朝風」号油絵、ジーメンス・シュッケルト D.IV 胴体パネル等を展示致しました。
 総勢77名の方にご参加頂き、終了後のアンケートにおいても、航空機を含めた近代文化遺産の保存と活用に関する調査研究が期待されていることが実感されました。本研究会の内容は、来年度報告書として刊行予定です。

韓国近代美術のなかの女性―—令和5年度第8回文化財情報資料部研究会の開催

金素延氏発表風景
金素延氏ディスカッションの様子

 美術の世界では、今日でこそ女性の活躍は目覚ましいものがありますが、かつては男性優位の社会のなかで、女性の美術家はほんのひと握りの存在だったことは周知のとおりです。一方近年では、そうした日本近代の女性美術家の営みが研究によって徐々に明らかにされています。では近代の韓国美術界において、女性はどのような位置を占めていたのか――令和6(2024)年1月17日の文化財情報資料部研究会での金素延氏(梨花女子大学校)による発表「韓国近代の女性美術 「韓国近代になぜ女性美術家はいなかったのか」」は、韓国近代美術史における女性作家研究の最新の成果がうかがえる内容でした。
 金氏によれば、20世紀前半の韓国では女子美術教育の最初の享受者として、妓生(芸妓)の存在が大きかったといいます。ただその制作は、書芸や四君子画(竹、梅、菊、蘭を高潔な君子に例えて描いた画)といった伝統の範疇に留まるものでした。その一方で鄭燦英のような近代日本画の流れを汲む女性画家が登場、また植民地朝鮮で美術教師を務め、あるいは画塾を運営して弟子を育てた在朝日本人女性画家の存在にも金氏は注目し、日韓の研究協力の必要性を示されました。
 金氏による発表の後、コメンテーターとして田所泰氏(実践女子大学香雪記念資料館)から日本の近代女性美術家、とくに日本画家をめぐる研究の現状について報告があり、これを受けてフロアも交え、ディスカッションが行われました。今回の研究会は日韓双方による研究が望まれる領域であり、ささやかながら歴史的な検証に向けての貴重な交流の場となったのではないかと思います。
 なおこの研究会では日本語と韓国語を使用、通訳を文化財情報資料部研究員・田代裕一朗が務めました。

ポルトガルで「発見」された2基のキリスト教書見台について―桃山・江戸初期の日葡関係と禁教実相を映す新出資料―令和5年度第9回文化財情報資料部研究会の開催

当研究所での書見台調査風景
研究会発表の様子
研究会後の書見台実見観察の様子

 令和6(2024)年1月23日に開催した文化財情報資料部研究会では、リスボン新大学のウルリケ・ケルバー氏と文化財情報資料部特任研究員・小林公治が、「ポルトガルで「発見」された2基のキリスト教書見台について―桃山・江戸初期の日葡関係と禁教実相を映す新出資料―」というテーマで発表しました。
 ここで報告した2基の書見台はキリスト教で聖書(ミサ典書)を置くためのもので、近年ポルトガルで確認された新出の資料です。ひとつは琉球、あるいはポルトガルの中国拠点であったマカオとの関係が指摘されてきたポルトガル・アジア様式のものですが、漆塗下の木胎面に墨書漢字が多数書かれています。もうひとつは1630年代に京都で造られヨーロッパに輸出された南蛮漆器ですが、通常イエズス会のシンボルマークIHSが表される中央部にはなぜか黒い漆が厚く塗られ松の木が描かれています。これまでにない特徴を持つこれらの書見台は歴史的な重要資料だと考えられたため、このたび日本まで持ち運び奈良文化財研究所と東京文化財研究所などで学術調査と研究報告を行うことになりました。
 発表者2名の研究と今回国内で実施した調査により、ポルトガル・アジア様式の書見台は1600年頃の製作で、七言律詩で書かれた漢字文には「マカオから離れ難い」という一文があるため、この漆塗螺鈿装飾がマカオでなされたこと、またこの頃の日本での書見台製作がマカオと密接に関係していたことを示しています。もう一方の南蛮漆器書見台は奈良国立博物館でX線CT調査を実施した結果、松の木の下からIHS紋の螺鈿痕跡が見つかったことから、迫り来る禁教圧力の中キリスト教器物であることを隠すため、中央部からキリスト教文様だけをはぎ取り松文様に塗り変えたことが判明しました。
 この研究会ではこうした事実を速報的に報告すると同時に、参加者にこれらの書見台を直接観察していただく機会にもなりました。今後は、両書見台に対するさらなる調査と研究を進め、その成果をできるだけ早く報告していきたいと考えています。

(NHK報道ウェブリンク: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240218/k10014362331000.html

第2回韓国美術史コロキアムの開催

コロキアム当日の様子

 文化財アーカイブズ研究室では現在、韓国絵画調査資料(戦前期のガラス乾板・台紙貼写真)の整理を進めています(※)。資料整理にあたって、日本国内の研究者だけでなく、韓国の研究者とも意見交換をおこなっており、令和6(2024)年1月には韓国の代表的な近代美術史研究者である睦秀炫氏(モク・スヒョン、韓国近現代美術史学会附設近現代美術史研究所所長)を研究所に招へいしました。資料に関する検討会議と合わせて、1月26日には来日を記念した「第2回 韓国美術史コロキアム」(※第1回は、張辰城氏を招いて前年11月18日に実施)を東京文化財研究所地下セミナー室にて開催しました。これは日本国内の研究者・学生が、韓国美術史研究の動向と現状に触れる機会として企画したものです。今回は「韓国における「博物館」の設立」という題で博物館制度史に関するお話をしていただき、司会通訳を企画者の文化財情報資料部研究員・田代裕一朗が務めました。コロキアムには、大谷大学教授・喜多恵美子氏、東京藝術大学准教授・李美那氏をはじめ、関連分野の研究者・大学院生が参加し、小規模な集まりならではの忌憚のない学術的議論が行われました。今後も当研究所が蓄積してきた資料の整理を進めつつ、同時に海外と日本の研究者を繋ぐ架け橋としての役割を果たしていければ幸いです。

(※) 国外所在文化財財団助成「韓国絵画調査写真(東京文化財研究所所蔵)の研究」(令和5<2023>年9月~令和6<2024>年8月、研究代表者:田代裕一朗)

SOAS(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)での講演会

レクチャーの様子

 文化財情報資料部主任研究員・米沢玲は、昨年10月からイギリス・ノリッチのセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)に客員研究員として滞在し、現地での作品調査や研究活動に取り組んでいます(参考:https://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/2056681.html)。令和6(2024)年1月25日には、そのような活動の一環としてSOAS(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)のCenter for the Study of Japanese Religionsで“The Arhat Painting at Kōmyōji Temple: Iconography, Style, and the Worship of Buddha in East Asia”(邦訳:光明寺の羅漢図―その図像と様式、東アジアにおける釈迦信仰に関してー)と題した講演会を英語で行いました。SOASはアフリカとアジア、そして中近東の地域研究の学術機関として世界的に知られており、ヨーロッパにおける日本研究を牽引してきた場所でもあります。
 今回の講演会では東京・光明寺が所蔵する羅漢図についてその絵画様式と図像を詳しく紹介した上で、本羅漢図の宗教的な制作背景を論じました。当日はSOAS教授Lucia Dolce氏が司会を務め、日本宗教学を専攻する学生のほか、SOASの卒業生や現地の研究者など約70名の聴衆が参加しました。講演会の終了後には質疑応答の時間が設けられ、中国美術や韓国美術の専門家からも意見が寄せられ、有意義な意見交換の場となりました。当日の会場はほぼ満席で、イギリス国内における仏教絵画研究に対する関心の高さが窺えました。

郭店楚簡の用字避複調査に関する中間報告―令和5年度第7回文化財情報資料部研究会の開催

質疑応答の様子

 文化財を調査するためには、文化財に関係する過去の資料を読み解くことが欠かせません。しかし資料が劣化している場合や、文字や単語の意味が現代とは異なる場合も多く、資料を読むことそのものにも十分な注意が必要です。
 令和5(2003)年12月11日の研究会では、片倉峻平氏(東北大学史料館)に「郭店楚簡の用字避複調査に関する中間報告」と題して上古中国の文字資料に見られる「用字避複」についてご発表いただきました。用字避複とは、一定範囲内に同じ漢字が重複した場合に異体字が用いられる現象で、ある種の修辞法と見なされてきましたが、その発生理由は判然としていません。片倉氏からは、この問題に対して、客観的に議論できるよう資料に記載された文字を一文字ずつ表に整理し、用字避複が発生している間隔や割合を明らかにする、という手法を糸口に調査していることをご報告いただきました。
 結論のまだ出ていない中間段階でのご発表でしたが、資料に記述された表現や文字の使い方をどのように解釈すれば良いのか、コメンテーターの宮島和也氏(成蹊大学)を中心に活発な議論が行われ、示唆に富む研究会となりました。
 なお、片倉氏はこれまでの調査の過程で作成された中国出土資料の文字データをデータ論文という形で公開されています(https://doi.org/10.24576/jadh.3.1_27)。東京文化財研究所でもこれまでに様々な資料を読み解く過程で得られた文字や単語に関するデータに注目したデータベースが構築できないか、検討して参ります。

ユネスコ無形文化遺産の保護に関する政府間委員会の傍聴

会場の外にはイボイノシシ親子
会場で放映されたバングラデシュのリキシャの映像
サイドイベントの一環として振舞われたサウジアラビアの伝統食
サイドイベント(マレーシアの伝統的な劇場メク・ムルンの歌舞劇)

 標記の委員会が令和5(2023)年12月5日~8日、ボツワナ共和国のカサネで開催され、東京文化財研究所から無形文化遺産部無形文化財研究室長・前原恵美と文化財情報資料部文化財情報研究室長・二神葉子が傍聴しました。ボツワナ共和国は南アフリカ共和国の北に位置していて、カサネはチョベ国立公園の北部の玄関口として知られ、野生動物が多く暮らす自然豊かな小さな町です。
 会場は、この会議のために設営されたパビリオンで、外でイボイノシシ親子が草を食むのどかさでした。この長閑さとリンクしたわけではないでしょうが、たびたびジョークで会場の雰囲気を和ませた議長H.E. Mr Mustaq Moorad 氏(ユネスコ代表部大使/ボツワナ共和国)のもとで、議事は穏やかに進行しました。今回の委員会では、緊急に保護する必要がある無形文化遺産一覧表に6件、人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)に45件の記載が決まり、4つのプログラムをグッドプラクティスに選定しました。これらの案件には、委員会に対して決議内容の勧告を行う評価機関も全て記載・選定を勧告しており、このことも会場の和やかな雰囲気作りに大いに貢献しました。詳細は令和6(2024)年3月
刊行予定の『無形文化遺産研究報告』18号で二神より報告予定ですが、ここでは委員会を通して感じたことを三つ挙げておきたいと思います。
 まず、複数国による共同提案の多さです。日本にはまだ、他国と共同で一覧表への記載を提案した経験がありませんが、今回代表一覧表への記載が決まった45件のうち、12件が複数国による共同提案でした。この傾向はここ数年顕著で、今後も続きそうです。
 二番目には、会場で流される映像に共通した傾向です。委員会で記載が決まると、多くの場合、会場前方スクリーンに当該無形文化遺産の短い映像が流れるのですが、それらの映像の多くに持続可能な開発目標(SDGs)が巧みに盛り込まれていたのが印象的でした。特に「ジェンダー」、「教育」、「海洋資源」または「陸上資源」は、多くの映像でストーリーとして繋がって映し出され、その無形文化がSDGsの取り組みの上に成り立っている、あるいはその無形文化の継承がSDGsの取り組みに直結しているということが強調されていると感じました。
 三つ目に、サイドイベントの醍醐味を肌で感じました。会場に隣接していくつもの小さなパビリオンが仮設され、そこでは「ここぞ」とばかりに自国の文化発信や関連する文化保護の活動報告・ディスカッションが繰り広げられます。舞踊や音楽の公演、工芸技術の実演やワークショップ、関連NGO団体の活動成果発信も活発です。政府間委員会には、委員国だけでなく無形文化遺産に関心の高い文化財行政や研究機関、NGOの関係者が世界中から参加するのですから、こうした場を通じて自国の文化を発信し、彼らのアンテナに訴えるには、サイドイベントは非常に効果的です。
 この政府間委員会は、無形文化遺産の国際的な協力・援助体制を確立するための重要な会議ですが、無形の文化遺産を各国がどのように捉えているのかを多角的に知る、恰好の情報収集の場でもあると感じました。

第18回無形民俗文化財研究協議会「民具を継承する―安易な廃棄を防ぐために」

 令和5(2023)年12月8日、東京文化財研究所にて第18回無形民俗文化財研究協議会「民具を継承する―安易な廃棄を防ぐために」が開催されました。
 近年、日本全国で民具の再整理を迫られるケースが増え、問題となっています。本来、収集した資料は、その現物を適切に保管・継承していくことが最善であることは言うまでもありません。しかし、特に地域博物館・地方公共団体においては、収蔵スペースや人員、予算の削減などに伴って、廃棄を含む再整理を検討せざるを得ない切実な課題を抱えている場合も少なくありません。
 今回は予想を大きく超える200名以上の方に参加いただき、関心の高さがうかがわれました。事後アンケートなどを見ても、民具の整理が全国でいかに喫緊の課題・困りごとになっているのか、現場の方々がいかに孤軍奮闘しているかが痛感されました。今回の協議会ではこうした課題を共有・協議するため、4名の報告者が民具の収集や整理、除籍、活用等について事例報告を行い、その後、2名のコメンテーターを加えて登壇者全員で総合討議を行いました。
 今回の協議会ではどうしたらひとつでも多くの民具を守り、後世へ伝えていけるのかに力点を置いて討議が進められました。様々な視点、意見が提示されましたが、重要な前提として、そもそも文化財としての民具資料が、その他の文化財とは、その意味付けや特性の点で大きく異なることが示されました。
 例えば、民具は比較研究のため同型・同種の資料を複数収集する必要があること、資料の価値はコト情報(どの地域、いつの年代に、誰が使ったかなどの民俗誌的情報)と組み合わせることで、はじめて判断できることなどは、民具研究者にとっては当たり前の視点です。しかし、それが行政機関内部や一般社会では十分に理解・周知されていないことによって、昨今の民具をめぐる諸問題に繋がっていることが指摘されました。コメンテーターやフロアからは、一見ありふれたものに思える民具の中に重要な意味を持つものがあり、比較のためにできるだけ多くの資料を残すことが重要であるなど、「捨てない」ことの意義も改めて指摘されました。
 民具は先人たちが暮らしのなかで育んできた知恵や技の結晶であり、それらは、それぞれの地域の民衆の暮らしの在り方、歴史、文化、およびその変遷を知るために、きわめて重要で雄弁な資料になります。その貴重な資料が消失の瀬戸際にある危機感をあらためて共有し、民具を守るための新たな手立てが必要であることを認識・共有できたことは大きな成果でした。民具資料を守っていくため、無形文化遺産部では来年度検討会を立ち上げ、関係するみなさまと議論を継続していく予定です。
 なお協議会の全内容は、年度内に報告書にまとめ、PDF版を無形文化遺産部のホームページでも公開する予定です。ぜひご参照ください。

シダ籠の製作技術の調査

採取したシダをその場で切り揃える
籠の底部分を編む

 令和5(2023)年12月25日、広島県廿日市市大野でコシダ(Dicranopteris linearis)を使った籠の製作技術を調査しました。
 大野のシダ籠細工は明治30年代に静岡の職人を通して、新たな副業として当地に伝わったとされています(四国から伝わったとされる説もあり)。地形や気候がコシダの生育に適していた大野では良質な材料が豊富に入手できたことから、シダ籠は大正から昭和にかけて重要な産業に発達しました。昭和40年代以降、シダ籠づくりはプラスチック製品の台頭によって急速に衰退しますが、伝統的な技を残そうと平成9(1997)年から技術伝承の講習会が開かれ、現在まで技が繋がってきました。
 籠編みにはコシダの葉柄(軸)部分を利用します。10月~翌3月ころ、1メートル程度まで伸びた葉柄を根本部分から刈り、釜で2時間ほど煮て、煮あがったものをよく揉んだら、そのまま籠編みに使える素材となります。タケ類や多くのツル性植物のように割ったり裂いたりする必要がなく、そのまま使えること、水に強く丈夫であることなど、きわめて優秀な素材と言えます。籠のなかでも最も一般的なのは「茶碗めご」と呼ばれる籠で、2時間ほどで編みあがります。
 シダを用いた籠はかつて西日本を中心に各地で生産されていましたが、現在でも技が伝承されているのは、管見の限り、ここ大野と沖縄県今帰仁村のみです。日本には各地に籠のような編組品を作る技術が残っていますが、その素材には、地域の自然環境に合わせた多様な植物が選択され、巧みに利用されてきました。無形文化遺産部ではこうした自然利用の知恵と技を記録し、後世に引き継ぐために、引き続き、多様な素材による編組品の調査を進めていきます。

持続可能な収蔵品のリスク管理 ワークショップ-HERIe Digital Preventive Conservation Platform の活用-の開催

プラットフォームのトップページ
Łukasz Bratasz 氏による講義の様子
Michal Lukomski 氏による講義の様子
ワークショップの様子

 令和5(2023)年12月17日、東京藝術大学美術学部を会場に東京藝術大学大学院文化財保存学専攻と文化財防災センターとの共同で、「持続可能な収蔵品のリスク管理」と題したワークショップを開催しました。
 HERIe Digital Preventive Conservation Platform(https://herie.pl/Home/Info)はコレクションの展示および保存条件の安全性を評価する際に、博物館・美術館等の学芸員と保存の専門家との連携を支援するために、収蔵品に対するリスクの定量的評価を提供する意思決定支援のためのプラットフォームです。現時点で、大気汚染物質、光、不適切な温度や相対湿度などの環境劣化要因に対応するモジュールと、火災の危険度の推定を可能にするモジュールが含まれています。このプラットフォームは、欧州委員会とゲッティ保存研究所からの財政的支援を受けて、いくつかの機関によって開発されています。
 このワークショップは作品保存管理者、保存修復者などがプラットフォーム上で自分自身の館のデータを使用しながら、どのように活用できるか実地に体験してもらうことを目的として行いました。海外よりこのプラットフォームの開発者の一員である先生方を招き、活用方法や有効性について直接お話を伺い、実地に試せる非常に良い機会となりました。導入として、Łukasz Bratasz氏 (ポーランド科学アカデミー教授)から持続可能なコレクションの保存計画立案のためのプラットフォームについて紹介があり、コンセプトおよび構成の説明、そして博物館・美術館等における空気汚染物質と化学的劣化について紹介がありました。続いて、Michal Lukomski氏 (ゲッティ保存研究所博士)から機械的損傷のモデル化と博物館環境の評価ツールの使用について、Boris Pretzel氏(東京藝術大学大学院文化財保存学専攻招聘教授)からは光劣化ツールについて紹介があり、最後にBratasz 氏により防火評価ツールの説明がありました。展示ケースツールなどの他のツールについても紹介とデモンストレーションが行われ、受講生はそれぞれのツールを実際に使って、どのようなことができるプラットフォームなのかを理解しました。
 受講生からは大変有用なツールを教えていただいたので館に戻って活用したい、修復する際に工房へ持ち込んだ時の光の損傷など検討するのに役立てたいなど、プラットフォームへの理解が深まったという意見が多く寄せられました。
 このプラットフォームは無料で提供されているものなので、研修に参加された方々だけでなく、参加されなかった方々にも広く活用してもらいたいと考えています。

令和5(2023)年地震で被災した博物館・文化遺産救援に向けたトルコ現地調査

被災、倒壊し仮囲いが設置された歴史的建造物(ハタイ)
倒壊した城壁等の修復工事が進められているガズィアンテプ城
専門家会議の様子

 東京文化財研究所では、令和5(2023)年度緊急的文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)「トルコにおける文化遺産防災体制構築を見据えた被災文化遺産復興支援事業」を文化庁から受託している文化財防災センターとともに、本事業に参加しています。本事業は、令和5(2023)年2月6日に発生したトルコ・シリア地震により被災した博物館や文化遺産の救援支援を第一の目的とするものです。それに加え、日本における被災文化財救援の経験や文化財防災の蓄積をトルコと共有することで、トルコにおける文化遺産防災体制の構築、充実化に向けた支援にもつなげてゆくことを見据えています。
 2023年11月28日〜12月7日、当研究所と文化財防災センターとの合同チームがトルコを訪問し、被災地視察、両国の文化財防災に関する情報交換(専門家会議の開催)、今後の連携に向けた意見交換を行いました。
 被災地視察では、ハタイ、ガズィアンテプ、シャンルウルファの博物館、文化遺産等を巡り、被災後の対応及び現状、課題について各博物館職員らからの聞き取り、今後の支援のニーズ調査を行いました。現在、被災した博物館では応急的な対応が進められており、今後、被災した収蔵品や建物の本格的な修理等が進められる見込みということです。なお、シャンルウルファでは地震翌月の3月上旬に大雨による洪水が発生しており、同地の博物館では地震被害は比較的軽微だったものの、浸水による大きな被害が生じています。
 専門家会議は、アンカラのトルコ共和国文化観光省において同省との共催にて実施しました。日本側からは、日本国内における文化財防災の概要を紹介した上で、東日本大地震をはじめとした被災文化財救援の取り組みや博物館における災害予防の取り組みを報告しました。トルコ側からは、この度の地震による文化財被害や対応の概要、博物館における災害予防の取り組み等をご報告いただきました。今後、両国間での協議を重ね、具体的な支援内容を検討していくとともに、文化財防災にかかる共同研究を進めていく予定です。

世界遺産研究協議会「複雑化する世界遺産をみまもる目」の開催

案内チラシ(表)
研究協議会における討論の様子

 文化遺産国際協力センターでは、平成28(2016)年から世界遺産制度に関する国内向けの情報発信や意見交換を目的とした「世界遺産研究協議会」を開催しています。令和5(2023)年度は「複雑化する世界遺産をみまもる目 -作業指針、事前評価そして影響評価-」と題して、ユネスコ他が昨年とりまとめた遺産影響評価(HIA)の管理者向けガイダンスの話題を中心に、世界遺産の評価のあり方と制度運用に焦点をあてました。令和5(2023)年12月21日に東京文化財研究所で対面開催した今回は、全国から地方公共団体の担当者ら90名が参加しました。
 冒頭、文化遺産国際協力センター国際情報研究室長・金井健からの開催趣旨説明に続き、鈴木地平氏(文化庁)が「世界遺産の最新動向」と題して直近の世界遺産委員会における議論や決議等の報告を行いました。その後、文化財情報資料部文化財情報研究室長・二神葉子が「近年の作業指針の改定とその背景 -対話と信頼性の確保のために-」と題した講演、急務により欠席となった西和彦氏(文化庁)の代役として鈴木地平氏が「世界遺産の文脈における影響評価のためのガイダンス及びツールキット」の内容や留意点に関する講演を行い、最後に中澤寛将氏(青森県特別史跡三内丸山遺跡センター)が「『北海道・北東北の縄文遺跡群』の保全と遺産影響評価」と題して具体的な事例に基づくHIAの意義や課題に関する講演を行いました。さらにこれらを受けて、進化する世界遺産の価値づけやそれに対する影響評価、また今後の課題等について登壇者全員による討論を行いました。
 報告と講演、討論をつうじて、HIAガイダンスの運用にあたっては幅広い関係者(ステークホルダー)や関連制度を取り込む工夫が必要なことを再確認できました。また従来、緩衝地帯やその周辺は資産の「盾」として捉えられてきましたが、近年では、文化遺産的な価値に基づく一体的な発展を目指す地域として考える国も現れてきたようです。こうしたテーマも含め、当研究所では引き続き遺産保護に関する国際的制度研究に取り組んでいきたいと思います。

バーレーン王国における文化遺産の3Dデジタル・ドキュメンテーションとその活用に関するワークショップ開催

写真測量による3Dモデル作成に取り組む受講者
写真測量による3Dモデル作成に取り組む受講者

 文化遺産国際協力センターでは、令和5(2023)年12月24~27日の4日間にわたって、バーレーン王国の文化遺産担当の専門職員らを対象に、3Dデジタル・ドキュメンテーションの技術移転とその後の活用方法の事例紹介・意見交換を目的としたワークショップを開催しました。バーレーン王国では、文化遺産の記録や保護と活用に関する様々な課題を解決していくための一つの方法として、3Dデジタル・ドキュメンテーションの導入を進めようとしています。本ワークショップは、そのための技術移転の要請を受け、令和5年度文化遺産国際協力拠点交流事業(文化庁)として実施しました。
 受講者は総勢15名で、それぞれ博物館学、保存科学、保存修復、考古学、建築学など様々な専門分野をもち、うち2名は近隣のアラブ首長国連邦とクウェートからの参加でした。
 3Dデジタル・ドキュメンテーションの各手法について講義を受けた後、受講者はそれぞれ博物館の展示品から1つを選び、写真測量により自分自身で1から3Dモデルを作成する課題に取り組みました。トライ&エラーを自ら経験することで、受講者はモデルを作成し、その後の活用を考えるまでの技術と知識を習得しました。最終日の討論では博物館の展示解説の充実度の向上や、保存修復過程の記録としての利用、デジタル博物館の構想や国内外へのプロモーションへの活用など、作成した3Dモデルを活かしていくための各自のアイデアが積極的に話し合われました。バーレーン王国に限らず、湾岸諸国では豊富な文化遺産が育まれている一方で、文化遺産を保護・活用する人材の不足が懸念されていますが、こうした効率的な手法を学ぶことで、それらの課題の一部が解決されることが望まれます。

文化財アーカイブに関するレクチャー実施―学習院大学の学生を迎えて

レクチャーの様子:会議室でのプレゼンテーション
レクチャーの様子:書庫での資料紹介

 令和5(2023)年10月16日、学習院大学の学生約40名(担当:学習院大学教授・京谷啓徳氏、皿井舞氏)が東京文化財研究所を来訪し、同大学の「博物館情報・メディア論」の授業の一環で、当研究所の文化財アーカイブズに関する活動を紹介しました。
 最初に、当研究所会議室で、文化財情報資料部文化財アーカイブズ研究室長・橘川英規が当研究所の概要・沿革を説明し、将来美術館博物館で学芸員として活動をおこなう上で役立つ資料、あるいは博物館活動の中で作り出された資料の収集・公開について紹介しました。また、当研究所の資料閲覧室を例に、専門図書館での研究活動の支援のあり方についても解説しました。その後、資料閲覧室と書庫に移動し、2つのグループに分かれて、橘川と文化財情報資料部研究員・田代裕一朗が、それぞれデジタルアーカイブや文化財調査写真を実際に見せながら、その意義や活用方法について紹介しました。
 今回のレクチャーには、美術史専攻のみならず他学部の学生も数多く参加しており、当研究所の活動の一端を知ってもらうよい機会となりました。
 文化財アーカイブズ研究室は、研究プロジェクト「専門的アーカイブと総合的レファレンスの拡充」において、今後も学生や専門家を対象とした利用ガイダンスを、積極的に実施していきます。受講を希望する方は、「利用ガイダンス」(対象:大学・大学院生、博物館・美術館職員、https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/guidance.html)をご参照の上、お申込みください。

アート・ドキュメンテーション学会秋季研究集会での見学会開催(資料閲覧室)

見学会の様子:当研究所資料閲覧室の活動の説明(撮影/アート・ドキュメンテーション学会・寺師太郎氏)
見学会の様子:資料閲覧室での文化財写真についての解説(撮影/アート・ドキュメンテーション学会・寺師太郎氏)

 令和5(2023)年10月28日、アート・ドキュメンテーション学会第16回秋季研究集会が東京文化財研究所を会場として開催され、併せて資料閲覧室の見学会が行われました。
 同学会は、ひろく芸術一般に関する資料を記録・管理・情報化する方法論の研究と、その実践的運用の追究に携わっている団体で、図書館司書、学芸員、アーキヴィスト、情報科学研究者、美術史研究者など、約350名の会員が所属していて、今回の見学会には、13名の会員が参加しました。
 見学会では、まず当研究所2階の研究会室で、文化財情報資料部文化財アーカイブズ研究室長・橘川英規が当研究所の概要と資料閲覧室の活動や蔵書構成について紹介し、資料閲覧室と書庫に移動して、デジタルアーカイブや文化財調査写真などの意義や活用の実際を解説しました。文化財資料の専門家も参加しており、資料の収集・整理・公開・保存に関する実務者の視点からの質問や、ユーザーとしての視点からの要望などもあり、充実した意見交換の場ともなりました。
 文化財アーカイブズ研究室は、文化財に関する資料情報を専門家や学生に提供し、資料を有効に活用するための環境を整備することをひとつの任務としております。今後も、このような専門家に向けた見学や利用ガイダンスを行い、ひろく当研究所の所蔵資料を知っていただく機会をふやしていきたいと考えております。
 受講を希望する方は、「利用ガイダンス」(対象:大学・大学院生、博物館・美術館職員、https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/guidance.html)をご参照の上、お申込みください。

セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演会、ロンドンにおける関連施設の視察

ヴィクトリア&アルバート美術館National Art Libraryの視察
セインズベリー・センターでのギャラリートーク

 東京文化財研究所とイギリス・ノリッチ(Norwich)に所在するセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は平成25(2013)年に共同事業の覚書を交わしました。SISJACの職員から日本国外における日本美術の研究に関する文献や展覧会情報を定期的に提供してもらうほか、例年は文化財情報資料部の研究員が渡英し現地での研究協議や講演会を行ってきました。令和2(2020)年から昨年までは現地への訪問が叶わずオンラインでの協議を実施してきましたが、この度、文化財情報資料部文化財アーカイブズ研究室長・橘川英規と文化財情報資料部主任研究員・米沢玲の2名が3年ぶりに渡英し現地の視察や協議、講演会を行いました。
 11月14日、15日、17日にはロンドンで美術図書や資料の専門施設を視察しました。ナショナル・ギャラリー、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、ロンドン大学コート―ルド美術研究所、ヴィクトリア&アルバート美術館の各施設に付設する美術専門図書室や写真アーカイブ、さらに大英図書館、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)といった充実した日本資料のコレクションを所蔵する図書館を訪れ、担当者から施設の案内や資料を紹介してもらい、一部の機関とは共同プロジェクトの可能性について協議しました。この一連の視察は、SISJACの平野明氏にご調整いただき、同氏と林美和子氏にもご同行いただきました。
 11月16日にはSISJACにおいて研究協議を実施したのち、午後からは米沢がセインズベリー視覚芸術センター(Sainsbury Center for Visual Arts)においてギャラリー・トークと講演会を行いました。イーストアングリア大学に付属しているセインズベリー・センターには、SISJACの創設者であるロバート・セインズベリーとリサ・セインズベリー夫妻のコレクションが収蔵されており、日本の古美術作品も含まれています。展示室では仏像と神像に関するギャラリー・トークを行い、続いて地下の会議室で「東京文化財研究所の活動と羅漢図の調査研究」と題した講演会を行いました。現地の一般聴衆のほか、SISJACを来訪していた日本の関係者も参加し熱心に耳を傾けていました。米沢は10月から客員研究員としてSISJACに滞在しており、令和6(2024)年2月まで現地での調査研究に取り組む予定です。

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